二人の滅却師

二人の滅却師


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空座町・郊外の洋館


「…………くそっ……」


 月島に斬りつけられた銀城が、放心したまま落下していく。庇われた一護が真っ青な顔で、落ちていく銀城の後を追った。


(どうなるんだ……!!)


 落ちる銀城を追いながら、一護の胸には暗雲のような不安が押し寄せていた。

 銀城も月島に斬られた他の者と同じく、月島を「味方」だと思ってしまうのか? ジリジリとした焦りに、一護の頬に薄らと嫌な汗が浮かんだ。

 仄暗い想像へと落ちていく一護の思考を遮ったのは——聞き馴染みのある、何かが爆ぜる音。


「……え……?」


 呆気に取られた表情で振り返った一護。視線の先には、自分に銃口を向けるカワキの姿。

 撃ち放たれた弾丸が、真っ直ぐ一護へと飛翔して——

 着弾の直前で弾けた弾丸は、弧を描いて一護を追い越し、落ちる銀城を貫いた。


「がぁ……ッ!」

「銀城!!」


 血飛沫が一護の頬を濡らす。

 生暖かい血の温度に我を取り戻した一護が、洋館の屋上に激突しかけた銀城の身体を寸前で受け止めた。

 息を呑んだ一護が銀城を抱えて叫ぶ。


「銀城!! 大丈夫か、銀城!!」

「……う…………」


 漏れるのは苦しげな呻き声ばかり。返事は無い。

 ゆっくりと、しかし、止まることなく、貫かれた傷から流れる血が屋上に血溜まりを作る。血腥い臭いが一護の鼻をついた。


(どうする? どうすればいい……!?)


 一護に傷を癒す力は無い。いつもなら傷を癒してくれる井上も、カワキも、今や敵の手に落ちた。

 打つ手無く銀城を抱える事しかできない腕に、無意識のうちに力が入る。腕の中で冷えていく銀城の体温を感じて、心臓が早鐘を打った。

 焦燥と不安に背筋を震わせ、浅い呼吸を繰り返す一護の背後——空から一人の少女が降り立った。


『まだ息があるのか。しぶといことだ』

「……カワキ…………」

『退くんだ、一護。その男は危険だ。早く始末しないと』


 こちらを見下ろすカワキの目には、何の感情も乗っていない。それが当然のことであるかのように銀城を殺そうとしている。

 本当にカワキは敵に回ってしまったのだと、否が応でも理解させられた。

 目元が熱くなって、胸のうちから言語化できない感情が込み上げてくる。鼻の奥がツンとするのを堪えて、一護は叫んだ。


「そんな事言われて退くわけねえだろ! 正気に戻ってくれ……! カワキ……」

『私は正気だよ。ずっと言ってるだろう。私は何も変わっていない、と』

「……なんでだよ…………!!」


 淡々と告げるカワキが一護の説得に耳を貸すことはなかった。


『“なんで”? 何度も言わせないで』


 ゆっくりと持ち上がったカワキの手に、握られているのは見慣れた霊子兵装。

 その銃口が、冷たい眼差しが——自分に向けられる日が来るなんて、一護は思いもしなかった。

 ヒューヒューと、か細い呼吸を繰り返す銀城を抱えた一護に、カワキは言う。


『役目は果たす。それだけのことだ』

「意味がわかんねえよ!!」


 カワキが一護に……正確には一護が腕に抱えた銀城に向けた銃の引き金を引く直前——屋上に、第三者の足音が響いた。


「——黒崎」

「…………!! ……石田…………!!」


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