二人の滅却師
◀︎目次
空座町・郊外の洋館
「…………くそっ……」
月島に斬りつけられた銀城が、放心したまま落下していく。庇われた一護が真っ青な顔で、落ちていく銀城の後を追った。
(どうなるんだ……!!)
落ちる銀城を追いながら、一護の胸には暗雲のような不安が押し寄せていた。
銀城も月島に斬られた他の者と同じく、月島を「味方」だと思ってしまうのか? ジリジリとした焦りに、一護の頬に薄らと嫌な汗が浮かんだ。
仄暗い想像へと落ちていく一護の思考を遮ったのは——聞き馴染みのある、何かが爆ぜる音。
「……え……?」
呆気に取られた表情で振り返った一護。視線の先には、自分に銃口を向けるカワキの姿。
撃ち放たれた弾丸が、真っ直ぐ一護へと飛翔して——
着弾の直前で弾けた弾丸は、弧を描いて一護を追い越し、落ちる銀城を貫いた。
「がぁ……ッ!」
「銀城!!」
血飛沫が一護の頬を濡らす。
生暖かい血の温度に我を取り戻した一護が、洋館の屋上に激突しかけた銀城の身体を寸前で受け止めた。
息を呑んだ一護が銀城を抱えて叫ぶ。
「銀城!! 大丈夫か、銀城!!」
「……う…………」
漏れるのは苦しげな呻き声ばかり。返事は無い。
ゆっくりと、しかし、止まることなく、貫かれた傷から流れる血が屋上に血溜まりを作る。血腥い臭いが一護の鼻をついた。
(どうする? どうすればいい……!?)
一護に傷を癒す力は無い。いつもなら傷を癒してくれる井上も、カワキも、今や敵の手に落ちた。
打つ手無く銀城を抱える事しかできない腕に、無意識のうちに力が入る。腕の中で冷えていく銀城の体温を感じて、心臓が早鐘を打った。
焦燥と不安に背筋を震わせ、浅い呼吸を繰り返す一護の背後——空から一人の少女が降り立った。
『まだ息があるのか。しぶといことだ』
「……カワキ…………」
『退くんだ、一護。その男は危険だ。早く始末しないと』
こちらを見下ろすカワキの目には、何の感情も乗っていない。それが当然のことであるかのように銀城を殺そうとしている。
本当にカワキは敵に回ってしまったのだと、否が応でも理解させられた。
目元が熱くなって、胸のうちから言語化できない感情が込み上げてくる。鼻の奥がツンとするのを堪えて、一護は叫んだ。
「そんな事言われて退くわけねえだろ! 正気に戻ってくれ……! カワキ……」
『私は正気だよ。ずっと言ってるだろう。私は何も変わっていない、と』
「……なんでだよ…………!!」
淡々と告げるカワキが一護の説得に耳を貸すことはなかった。
『“なんで”? 何度も言わせないで』
ゆっくりと持ち上がったカワキの手に、握られているのは見慣れた霊子兵装。
その銃口が、冷たい眼差しが——自分に向けられる日が来るなんて、一護は思いもしなかった。
ヒューヒューと、か細い呼吸を繰り返す銀城を抱えた一護に、カワキは言う。
『役目は果たす。それだけのことだ』
「意味がわかんねえよ!!」
カワキが一護に……正確には一護が腕に抱えた銀城に向けた銃の引き金を引く直前——屋上に、第三者の足音が響いた。
「——黒崎」
「…………!! ……石田…………!!」