消失

消失


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空座町・郊外の洋館


「——黒崎」

「…………!! ……石田…………!!」


 屋上に降り立ったもう一人の滅却師——石田の声にカワキが視線を動かした。その間も、一護が抱える銀城に合わせた照準は外さない。

 石田の姿を一瞥し、傷が癒えていることを確認すると、カワキは石田の反応を窺うように声をかけた。


『石田くん、君も来たのか。傷は良いようだね。良かった』

「……ああ」


 カワキが石田の身を案じるような言葉をかけたのを聞いて、一護は息を呑み、引き攣った表情で思考を巡らせる。


(——どっちだ…………!? 石田は月島に斬られてた筈だ。傷は誰が治した!? 井上か? カワキか?)


 重傷を負った石田を治せる人間で、一護が思い当たるのは、その二人。だが、二人はどちらも月島に斬られているはずだ。

 混乱した頭で、一護は必死に考える。


(石田を治した時は、まだ月島を仲間だとは思ってなかったのか? 月島を仲間だと思ってたとしたら石田を月島の戦力として治したって事になる)


 一縷の希望に縋って、一護は祈るような気持ちで歯を食いしばる。


(どっちなんだ!? 石田——……!)


 静かに佇んでいた石田が、おもむろに腕を持ち上げた。手元に形成された青白い弓が向けられた先は——


「……やっぱり……やっぱりお前もなのかよ、石田…………!!」

「黒崎。カワキさんの言う通りだ。こっちへ来い」


 獲物を見定める猫のような眼差しで石田を見ていたカワキが、まばたきと共にその視線を一護に戻した。

 石田はカワキの横に並ぶと、一護を落ち着かせるような調子で語りかける。


「……下の階の様子を見た。安心しろ、僕とカワキさんは味方だ」


 疑心暗鬼に陥って、悲しみと怒りをない混ぜにした表情で、一護が自分へと武器を向ける二人を睨む。

 石田も月島に斬られてしまったのだと、一護は確信した。


「……誰が……」


 腕の中の銀城は虫の息で、こうしている間にも瞳からは少しずつ光が失われているのがわかった。

 一護は焦る気持ちを堪えて、そっと慎重に銀城を屋上に下ろす。そして立ち上がると、銀城を庇うようにして、一歩前へ踏み出した。

 ——友と戦う覚悟は決めた。

 腕の震えを押し込めて、刀を構える。


『一護。もう一度言う、そこは危ないから退いて』

「どうした。早くしろ、黒崎…………」


 武器を構える二人の声には、どこか焦りが混じっているように思えた。

 もしかしたら、二人も自分と戦うことは本意ではないのではないか。

 覚悟を決めたはずの一護の胸には、淡い期待に縋りたい自分と、そんな都合の良いことがあるものかと止める自分がいた。


「カワキ……石田……!!」


 複雑な感情を押し殺して、友の名を呼ぶ一護に、石田が声を荒げて叫んだ。


「黒崎……!! 解らないのか!! 僕を斬ったのはお前の後ろに居る奴だ!!」

『避けて一護!』


 真に迫った石田の叫びに、一護は思わず背後を振り返ろうとして——一護の胸を、大剣が貫いた。


『一護!』

「黒崎!!」


 痛みと失血にぐらつき、息も絶え絶えに銀城が立ち上がる。起き上がるのもやっとの身体を動かすのは、ただ気力だけ。

 カワキの殺意を、銀城の執念が上回った瞬間だった。

 一護の胸に深々と大剣を突き立てた銀城は、忌々しげな目で上空を睨みつけて怒声を上げる。


「……は……はぁ……タイミングってもんが、ある、だろうが……! 月島ァ……!」

「ごめんごめん。でも結果オーライだろ」

『その傷で動けるなんてね……! 見立てが甘かったか……!』

「おっと。させないよ」


 一護が刺されてから間髪入れず、銀城に止めの攻撃を仕掛けようとしたカワキの前に、月島が立ち塞がる。

 目の前で負傷した一護に、カワキが動揺した隙を月島は見逃さなかった。カワキが撃ち放った神聖滅矢を弾き飛ばし、返す刀でカワキを斬りつける。

 防御が間に合わず、咄嗟に出した左腕に裂傷が走り、血がポタポタと床を汚した。


『……っ! その妙な刀……消えない傷もつけられるのか』

「まあね」


 銀城の文句に親しげな調子で答えながら屋上に降り立った月島。微笑みをたたえた月島が醸し出す雰囲気は、銀城と旧知の仲にある者のソレで——

 大剣を突き立てられたまま、一護は呆然と呟きをこぼす。


「……銀城……なんで……。やっぱり……月島の能力で……」

「こっちは……っ、致命傷、なんだ……。お前に……説明、する……うっ、余裕は、無え……!」


 突き立てられた大剣を通じて、一護の中の力が銀城へと流れ込んでいく。


「貰うぜ、お前の完現術……!」


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