アーパダー=カラミティ 1
見えざる不穏の魔の手
と
人が気が付くはずのない騒動の発端
の続きの話になります。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「全く……。誰だい、勝手にレイシフトしたのは。ガーンダーリーの依頼を受けている状態なのに勝手に………勝手、に………。これは……まさか………?」
勝手にサーヴァント達がレイシフトされるのは良く有る事だが、ガーンダーリーの依頼がある状態でそれをされると情報収集に専念出来ないため、ダ・ヴィンチは怒りながら誰がどこにレイシフトしたのかを確認するため、機械を起動させる。
そこに映し出された情報を見て、暫くダ・ヴィンチは考え込む。
場所は分からないままだったが、そこから反応を感じられるサーヴァントは先程レイシフトした記録のある2人以外にもう1人、反応を観測することが出来た。
慌てて、それが誰なのかを解析する。最初は全然手応えが無かったが相手側の術式が切れかけているのか、徐々にそれが誰なのかが判明していった。
「ようし、見つけたぞ!………だけど、ここがなんなのかが分からないな……。勝手にレイシフトしたであろうメンバーとの通信も繋がらない、と………。」
「ダ・ヴィンチ!先程まで何も無かったのに急に特異点を観測したぞ!何が起こったんだ!?」
「この場を観測したことで、特異点と化しているのか……?それとも………?」
漸くガーンダーリーに報告が出来る情報を少しだけだが得られた事に喜びを感じるが、どういった場所なのかも判別しないままなのは不安を更に煽るだけだろうと考え、解析を行い続ける。
そんなダ・ヴィンチの後ろからムニエルが声を慌てたように声をかけてくるが、ダ・ヴィンチは返事をすることなく操作をし続け、触れている機械には次々と情報が更新されていく。
「………これは、西洋風の館か………?」
「ダ・ヴィンチ、少し宜しいでしょうか」
「すみません。至急報告したいことがあるのですが」
「アルジュナ・オルタにXX?どうしたんだい。」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ああ、良かった。自室から移動してなくて助かったよ」
「……ムニエル?どうしたの?」
「特異点が発生したから、呼びに来たんだ。レイシフト適正メンバーもこれから声をかけに行くけど、至急移動して欲しいみたいなんだ。」
「分かった。有難う、ムニエル。直ぐに行くよ」
自室でのんびり過ごそうと思っていたが、走って来たのかムニエルが少し息を切らしながら部屋に入ってくる。
慌てているように見えたため不思議に思って問いかけると、特異点が発生したことを教えてくれる。礼を言うと気にするなどでも言うようにムニエルは手を降って部屋から退出して行った。
「………あれ?急いで集合して欲しいなら、放送で呼び出せばいいのに、どうして直接声を掛けて来たんだろう。」
扉の向こうから走るような足音を聞き少し疑問に思ったが、遅れてはいけないと思い直し藤丸は自室から司令室へと足を進めた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「あれ?ガーンダーリーにドリタラーシュトラとアルジュナ・オルタにXX?4人もレイシフト適正メンバーなの?」
急いで向かった司令室にはダ・ヴィンチの他に難しい顔をして話し合っている、ガーンダーリーとドリタラーシュトラ、アルジュナ・オルタとXXが集まっていた。
「相変わらず集合するのが早いなぁ藤丸君。………いや、彼ら3人には報告をすることがあって呼んだから、XX以外はレイシフトメンバーでは無いんだ」
「マスター君の警護はこの私にお任せ下さい!」
「………そうなんだ?XX以外の、レイシフトメンバーって一体・・・」
「ハタヨーダナ、要請に応じ到着したぞ。」
「水着でなくてはいけない理由は分からないけれど、クル王家の一員としてこのバーヌマティー、全力をもって対応しましょう。」
「吾輩もいるぞー。デアデアのマスター!一緒に頑張るぞー!」
難しそうな表情を直ぐ様消して此方を見るダ・ヴィンチと鎧を少し纏った状態の第2臨姿のXXが自信満々にドンと胸元を叩いた。
最初の2人はともかく余り一緒に居るのを見たことのないメンバーを集合させたのに疑問は残るが、他のレイシフトメンバーが誰なのかを問いかけようとする。
その問いかけが終わる前に扉からハタヨーダナ、水着のバーヌマティー、太歳星君が司令室に入室してくる。
「………全員揃ったようだね。さて、今回の特異点はどうやらインドの神々が原因の特異点みたいなんだ。」
「また、善意でなにかしちゃってるのかなぁ……」
揃ったメンバーを見渡してダ・ヴィンチが言葉を紡ぐ。藤丸はそれを聞いてしまい思わずぼやくように言葉を呟いてしまう。
(藤丸の見えない位置でアルジュナ・オルタが肯定することなく僅かに目線を反らし、怒りそうなガーンダーリーとドリタラーシュトラは何とも言い難い表情で無言を貫いている。)
「………。当機構はインドの神々より武具を賜っているし、バーヌマティーも神性特攻を持っている。適切なメンバーだと肯定しよう。」
「ヴィヤーサからも、宜しく頼むと言われてるもの。何であろうとマスターのどこにも触れさせないわ。任せて頂戴。」
「何が出来るか分からないが、吾輩も全力で頑張るぞ〜!」
ハタヨーダナとバーヌマティーは無言で見つめ合った後、冷静そうな様子で言葉を紡ぐ。太歳星君はぴょこぴょこ跳ねながらも元気に主張した。
「皆、やる気は十分みたいだね。君はこれを付けてからレイシフトに赴いてくれ。」
「………何これ?サングラス……?」
「プリヨダナと一緒に作ったんだ。もしかしたら、ウルクのようにマナの濃度が高いかもしれないからね。それを付けることでいつもの礼装よりもかなり安全性が保証されるんだ。掛けていれば君だけではなく、同行サーヴァントにも適応出来るように作ってある。壊れないように設計してあるから、レイシフト中はどんな状況でも外さないようにすること。いいね。」
「………わ、分かったよ。」
困ったような顔をしながらもダ・ヴィンチは微笑み藤丸に持っていた物を渡してくる。それは少し形の変わっているサングラスのような物だった。
ダ・ヴィンチは真剣そうな顔で此方を見ながら言葉を連ねるため、気圧されながらもサングラスを直ぐに着けた。
「格好良いですよ、マスター君!まぁ、私のヘルメットの方が格好良いのですが!………マスター君、耳当てがあるみたいなのでしっかり付けましょうね。」
「着けてる感じか全然しないや!声も問題なく聞こえるけど、耳元のこれって何の為にあるのかなぁ?」
「問題なさそうなら、良かったよ。……さて、この特異点にはカルデアのサーヴァントが1騎囚われているんだ。君は彼を連れ戻して来て欲しいんだ。」
サングラスを着けた様子視たXXは此方を褒めながらも自身の自慢をしつつ、耳当てのような物の角度を調整してくれた。
グラスの色に視界が僅かに染まるがそれ以外は軽く作っているのか重さを感じることなく普段通りと何ら変わらないように感じるため不思議そうに問いかける。
質問に答えることなくダ・ヴィンチは安心したように息を吐きながらこれからの方針を説明し始める。
「そういえば、この前はユダナが攫われていたな。良くあるのか………?」
「今回攫われたのはスヨーダナ・オルタ。私の愛しい息子の一人。」
「どうやら、適正メンバーだったのか先に勝手にレイシフトした者もいるみたいなんだ。・・・どうか、レイシフト出来ない私達の代わりに取り戻してきて欲しい。」
「…………あれ。そういえば………。最近スヨーダナ・オルタを見て無かったのに、どうして気が付かなかったんだろう………!」
不思議そうに聞くハタヨーダナに対してガーンダーリーが攫われたサーヴァントの名前を上げる。ドリタラーシュトラも難しい顔をしながらも此方へと頭を下げてくる。
スヨーダナ・オルタという名前を聞いた瞬間、彼の姿をハロウィンから一度も見ていないことに違和感すら抱かなかったー否、そもそも「スヨーダナ・オルタ」という名前を聞くまで彼のことを思い出せなかった(先程まで忘れていた)事に気が付いてしまい不安になって言葉を吐き出す。
「………相手はインドの神々なんだ。何でもありなんだろう。」
「………ふふふふふ。そう。この特異点にはインドの神々がいるのね?なら、手加減なんてしないわ。思いっきりぶっ飛ばしましょう、マスター。そして、スヨーダナ・オルタを取り返しましょう!」
「………。プリヨダナから君達宛に、伝言を受け取ってるんだ。はいこれ。」
「封筒………?」
何ともいいがたい表情をしながら肩を竦めるダ・ヴィンチに対して、インドの神々への怒りを抑え切れてなかったのかバーヌマティーがゴキゴキと手を鳴らしながら話しかけてくる。
そういう反応をされるだろうことは予想していたのか、ダ・ヴィンチは特にバーヌマティーに対して言及することなく、此方にしっかと閉ざされたままの封筒を渡してくる。
「えーと、なになに…………。
『風と太陽の導きは多分ちゃんとしたものだから話は聞いておいた方がいいと思うわ。例えあなた達がそこで何をしたとしても特異点が収束したらどこにも影響は出ないから、安心して頂戴。
追伸。どうしても我慢できないなら、何も気にせず全部ぶっ飛ばしちゃってもいいと思うわ。』
だってさ。」
「ヴァーユ神とスーリア神か・・・?・・・・待てよ。もしかして武具などを返すチャンスでは無いか?」
(「無理なんじゃないかしら。」って言ったら落ち込んじゃうわよね……。黙っておきましょう。)
「………どうかあの子の事、宜しくお願いね。」
「………マスター、貴方ならば大丈夫です。ですが、無理をしすぎないよう気を付けて下さいね。」
「有難う、アルジュナ・オルタ。ドリタラーシュトラとガーンダーリーも安心して。ちゃんとスヨーダナ・オルタと一緒に戻ってくるよ。・・・それじゃあ、行ってきます!」
封を切って書いてある文を読み上げる。すると、ハタヨーダナが良いことを思いついた!とでも言うような顔をするが、バーヌマティーはそれを見て僅かに苦笑する。
ガーンダーリーもドリタラーシュトラと同じように頭を下げ、今までは成り行きを見守り続け無言だったアルジュナ・オルタが励ますように藤丸の右手を両手で包むようにギュッと握ってくる。
暫くしたら手を離すアルジュナ・オルタに礼を言いながらも励ますようにガーンダーリーとドリタラーシュトラに声をかけてから藤丸はその特異点へとレイシフトに向かっていった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「………どうやら、マスター達はレイシフトしたようだね。」
「大丈夫かしら……。今回はインドの神々が暴れ回ってくれた方が目眩ましになるのよね。・・・何だが、複雑な気持ちだわ……。」
「半分はそっちの理由だろうけど、もう半分はいつもの善意()だろうからねぇ…………。」
「いつになったら、ブレーキした方がいいって理解するようになるのかしらね………。」
「…………君も大変だね…………。」
~設定~
〇勝手にレイシフトしたサーヴァント2騎
今回の特異点のレイシフト適正メンバーであるが本人達の意志ではなく、カルデアに霊基登録しているとあるサーヴァントによりカルデアが観測する前に「どこなのかが不明な場所」にレイシフトさせられている。不満はあるが、必要なことだとは理解しているので特異点内で何かしらの活動をしている模様。
〇攫われている■■■■■基スヨーダナ・オルタ
意図的かそれとも勝手にレイシフトしたメンバーが居たことにより相手側の術式が切れたのかは不明だが、カルデア側でも名前(居なくなったのが誰なのか)をようやく認識することが出来た。
因みに虫食いの名前が5文字だったのは個別の呼びかけが彼が生きていた時空では教祖以外だと「スヨーダナ」だったため(スヨーダナ・オルタと名乗り始めたのはカルデアに来てから)。
本当なら彼にとって、共に在りたい・守りたいと願った宝物(人物)は教団の人間ではなく、その名前を愛おし気に呼んでくれる相手だったのだから。
未だに特異点のどこかに囚われている。
〇ガーンダーリーとドリタラーシュトラ
一番最初に知らせると約束していたため、特異点観測後すぐに司令室に呼ばれている。ムニエルに声を掛けられてマスターが来る数十分前に司令室に集まって話し合いをしていた。攫われた息子が誰なのか判明したが、大変なことに巻き込まれているとアルジュナ・オルタに説明されたため、気が遠くなった。他の者に不安を与えないよう気丈に振る舞っている。
レイシフトメンバーでは無いため出来ることは無いと分かっているが、心配なため司令室に残っている。
〇ハタヨーダナとバーヌマティー
偶々ヴィヤーサ部屋に2人だけで訪れていたため、他のマハバ関連サーヴァントに今回のレイシフトメンバーに選出されたことが居合わせたメンバー以外に知れ渡っていない。
バーヌマティはヴィヤーサに助言をいくつか貰ったため、「インドの神々、ぶっ56す!」って言う気持ちをほんの少し抑えることが出来ている。ただ、暴れないとは言っていない。問題なければぶっ飛ばす気満々。ヤる気に満ちている。
ハタヨーダナもやる気は十分だが、お供のガルダはいつもよりも更に「我が頑張らなければ!」と気合を入れている。
〇太歳星君
吾輩頑張るぞー!とふんすふんすしながら気合を入れている。
マスターと同じく何も知らされていない唯一のサーヴァント且つ癒し枠。
〇サングラスのように見える道具
プリヨダナとダ・ヴィンチの共同で作った道具。材料はプリヨダナ提供。
彼曰く「材料はとあるヒトから願いを叶える対価として受け取った」とのこと。
サングラスの 見た目は逃〇中のハ〇タ〇が付けている物に似たような見た目。
グラスの色は薄い青色。細長いイヤホンのような耳当てもついており、両耳もしっかりガードされている。
今回のレイシフトが終わったらガラクタになってしまうため、コスパは最悪だが色々な術式が仕込んである模様。
〇アルジュナ・オルタ
気が付いていけない事に気が付いてしまう可能性を察知して司令室を訪れた。
マスターに気が付かれないよう細心の注意を払っていたし実際に気が付かれなかったが、ピリピリとした気配を纏っていた。
マスターの令呪が宿る右腕を両手でぎゅっと数分間包み込んでいる。
現在、神経を尖らせながらも司令室にて待機中。
〇謎のヒロインXX
お仕事ですね!任せて下さい!!
〇ヴィヤーサとプリヨダナ(1臨の姿)
ヴィヤーサがハタヨーダとバーヌマティーに助言をしてから司令室に送り出した十数分後にプリヨダナが部屋に訪ねてきた。
プリヨダナが書いたマスターに充てた手紙の追伸は半分くらい本音だったりする。
現在、2人ともヴィヤーサ部屋にて待機中。
今回の特異点は自分たちが動かない方がいいことは分かってはいるものの、いざという時の為にいつでも動けるように準備はしている。