天挺空羅での伝達

天挺空羅での伝達

スレ主

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2人の会話を聞いていた織姫は急にこちらに振られた脈略のない言葉に「え!?」と驚いた。


「え、あ、あともう少しかな…そんなに時間はかからないと思うけど…」

「急にどうしたんだ…?」


チャドは唐突な問いに心配そうにこちらを見ていた。



「…深い意味はないけど……ただ、まだ安心するのは早いみたいだから」


 回復が終わり、一護は岩鷲の肩を借りながら、恋次達を探すために双極の丘から下に降りる。

 そして突如、一護達の耳へ女性の声が響いた。

 声が接続されたように耳へと木霊する。どうやら四番隊が伝達用の鬼道を使っているようで、織姫は聞こえていないようだったが、本来彼ら死神からすれば侵入者である自分たちの内6人に情報が渡っているのを考えれば情報漏洩ではなく、意図的に行った行為だと理解できた。

一護は自分たちにそれを伝えた意図が理解できず、声をを出した。


「大体 隊長を斬ったとかって瀞霊廷内のモメ事じゃねぇか…そんなの俺達に言ってどうすんだ?」

「私たちに関わりがある事柄だから…じゃないかな」


 一護は璃鷹の言葉に「…関わり…?」と復唱するようにつ呟いた。


「言うべきだと判断したから言ったんだろうってことさ」


 石田の言葉をまだ理解していない一護のために石田がわかりやすく、今回の不審な点を説明する。


「…わからないか黒崎 その藍染という隊長が中央四十六室──話の流れから見て 瀞霊廷の最高司法機関と見ていいだろう」


「それを全滅させ 自分の目的を恰も その四十六室の決定であるかのように見せかけて遂行しようとしていたのなら──その目的とは何だ?」

「──……」

「………… …処刑…か?」


押し黙った一護の代わりに、岩鷲が答えた。


「そうだ 僕達が尸魂界に入ってからどんどん早まっていった朽木さんの処刑の期日…君も違和感を感じていた筈だ」


「だがそれも全て今の話で繋がった 五番隊隊長藍染惣右介…彼の目的こそが──朽木さんの殺害なんだ!」


 一護は驚愕から目を見開く。

その言葉からルキアと恋次の危険が迫っていることが読み取れた。

 先程まで白哉と戦っていた双極の丘を見上げる一護に、璃鷹は戦闘の意思を確認した。



「行くんだよね」

「…あぁ」


 璃鷹は悲痛な顔をすると、申し訳なさそうにしながら一護に言葉を投げかけた。


「一護…厳しいことをいうけど…ここまで事を大きくした相手が……そう簡単に朽木さんを諦めるとは思わない」

「……」


──今回の企ては、大規模に画作されたものである事は確かだ。


──…一護は利益や効率で動いていない…感情で動く。



(……最悪危険になったら影に逃げればいい…色々やりようはあるしね)


 しかしいくら危険性を話したところで一護の前では根本的に無駄であることは璃鷹もわかっていた。

璃鷹は「だから……」と言葉を続ける。


「だから…今までよりも気を引き締めていこう」

「……っおう!」


 一護はいつも自身の気持ちを汲み、ついて来てくれる璃鷹に顔を綻ばせながら返事をする。

 一護は走り出すと、璃鷹もそれについて行く。

一護は「わりぃ先行く!」と石田達に大声を出すと、2人はルキアと恋次の居る双極の丘に走る。


「黒崎くん…鳶栖さん……」

「大丈夫か井上…?」


 織姫達はその後ろ姿を心配そうに見ていた。

 石田は自身の腕を見る。傷は治っているのが、一番肝心のモノは、もう戻ってはこない。

 石田は何も、滅却師の力を失った事を後悔をしているわけではない。瀞霊廷に来る前の修行で、散霊手套をはめてから覚悟はできていた。


(後悔じゃない、これは)


───ただ、もう共に戦えない事を偲んでいるだけだ。


 石田の幼馴染は自分なら出来ると言っていたが、実ところ石田はもう自身の力量で散霊手套のデメリットで失ってしまったものを、どうにかできるとは思っていない。


(了承してしまったからには、できるだけのことはやるつもりだけど……)


 もう、滅却師の力が戻らないことを、石田は感じていた。


「…今の僕たちじゃ追いつかない、早く双極の丘に行こう」



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