黄金の揺籃で眠れ

黄金の揺籃で眠れ


引用SS

「これには預かり知らぬ愛なので」 https://telegra.ph/これには預かり知らぬ愛なので-08-06

「揺籃」 https://telegra.ph/揺籃-08-08


私(ユユツ)は正しき選択をする者だった。カウラヴァの愛はどうあっても世を焼く邪悪であり、災禍を招く過ちなのだ。身の程を弁え、全てを受け入れる。正しさの為に愛を切り捨てた。

素晴らしき忍耐、苦悩と苦悶の果てに苦しみの続く道を選んだ強靭なる只人(ユユツ)。

けれど────未練はいつまでも付き纏う。「本当にそうするしかなかったのだろうか?」と。


悩めるユユツに、とある囁きが耳朶に注がれる。何者かの入れ知恵。(はて、あれは誰がそう囁いたのだったか)

ドゥリーヨダナたち百王子の真相。パーンタヴァに科される苦難の所以。神々の思惑を、ユユツは知ってしまう。(厳重に蓋をしていた激情が吹き荒れて、もう二度と引き下がれなかった)(何某が吹き込んだのか、その時にはもう取るに足らない些事だった)


そうして私(ユユツオルタ)が生まれた。

正しさを手放した存在。この身の内に燃え盛る激情の儘に振る舞うエゴの塊。

神を根絶すべし。燼滅せよ。そうでなければ一族が滅ぶ。あの子たちに幸せな結末は訪れない。

正しさのために手放した兄弟たち。(百人も居たのに一人も生き残らなかっただなんて)(共に生きて欲しかった)

正しさに苦しみ摩耗していった従兄弟たち。(あれほどまでに善き人が善良ゆえに苦しむ様は、到底見ていられなかった)(死出の旅路になど行かないで欲しかった)

願うは凡庸な祈り。愛しき人々が笑い合える日々を。傷つけ合うことのない理想を求めた。だからこそ、神々は燼滅しなくてはならぬ。


(いいや、それだけでは足りない)

(ドゥリーヨダナたちも、ユディシュティラたちも、きっと止まらないだろう。生前だってそうだったのだ。言葉だけで止まるような人じゃない)

(癒やし、微睡ませ、守護する揺籃が必要だ。彼らを傷付ける世界から鎖ざす監獄が必要だ。─────回帰させよう。母なる海の中へと。いがみ合う因縁が生まれるより以前に、憎悪の連鎖が縺れるより過去に。生まれる前に還らせよう)


  ヤール・ニッティヤ

『眠りに誘え、黄金の揺籃』


「もう何もしなくていいんだ、愛おしい弟たち」

「おやすみ、優しく暖かく良い夢を」

「決して覚めぬ永遠の眠りへ」



"カタン"

遠くから何かが倒れる音がした。愛知らぬモノが黄金の夢から目覚め、ユユツオルタが創り上げた揺籃に罅が入る。



「ああ………」

愛すらも奪われた神造機構の無垢な瞳を見下ろして、ユユツオルタの眦から血の涙が流れ落ちる。

「何故起きてしまったんだい?愛する『弟』よ……」



"父"の顔をした神たるアルジュナがスヨーダナを取り戻さんと血相を変える。姿を消したドゥリーヨダナたちの救出にカルデアから数多くの追っ手が差し向けられて。


────ユユツオルタは思い知らされるのだ。

永遠など存在しないのだという事を。

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