隊長格との遭遇

隊長格との遭遇

スレ主

目次


少女は椅子に腰掛けた。テーブルの上に数冊の古ぼけた書物が複数並べられている。

璃鷹が見ていたそれは家の書庫から持ち出した治療術式についての記述の載ったものだった。


「治療術式か…」


専門性の高い分野である故に今まで手を出せなかったが今後必要になってくるのは確かだ。

外殻静血装で他者から奪いそれで治癒してもいいが一護たちの前ではそれは使えない。

彼らに内緒で使ってもいいがバレた時が面倒だ。

そして璃鷹ら人前では使えないことを改めて再確認した。さてどうするかと深いため息を吐く。

おじもおばも既に亡くなっている。両親は言わずもがな…肝心の石田には聞いてみたが恐らくそれ自体知らないのだろう。


「いや…1人いたな」


石田雨竜の父───石田竜弦。

何度か話題を振った時には会話には出さなかったがカマをかけた時の口ぶりからしてまだ存命のはずだ。

同じ滅却師…そしてあちらの方が経験も場数も遥かに上だろう。

もしも戦闘になった時のことを考えれば行かない方が賢明なのは確かだ。

しかし今璃鷹が学びたい技術を持っているのは石田雨竜の父である石田竜弦しかいない。そうして考え込んでいると空座町内で複数の霊気を感じ取った。


「…?」


その一つは恐らく朽木ルキアのものだった。しかし何かおかしい。ソウルソサイティからの救援としてやってきた死神か……或いは追手。

──無視するか…それとも今の霊気を辿って助けに行くか……。

面倒事であることには変わりないが一護と懇意にしているルキアを助ければ利点がないわけではない。


「面倒くさいなぁ……」





***




朽木ルキアは整備されているコンクリートの道を一心不乱に走り抜けていく。

真夜中と言うには些か早すぎるが、学生が歩き回るには遅すぎる時間だ。

ルキアの今の格好はリュックサックにワンピースと家族と喧嘩をした学生の家出と見られてもおかしくはない。補導でもされれば面倒なことになるだろう。

しかし今はソウルサイティから隠れ、義骸に入り人間として生活をしている朽木ルキアにとってそれは気にするべき事柄ではなかった。


「───私は───…少し…こちらの世界に長く関わりすぎたのか…」


「イィエ────ッス!!わかってンじゃねぇか!!」



突如として張り上げられた蛮声──赤い髪にゴーグルをつけた男の服装はルキアがよく見知った死覇装だった。

常人がいる筈がない電柱の上に立っている男は満月を背に斬魄刀を鞘から抜きルキアを見下ろしていた。


「まァ言い方変えりゃ こうして現世に長居したおかげでてめェはちっとばかし長生きできたってコトだがな!ルキア!!」

「…貴様…恋次…阿散井恋次か…⁉︎」


ルキアは幼馴染である男が自身を捕縛しに来た事態に驚愕した。

恋次は愕然としているルキアに突如赤髪の男の一閃が降りかかる…がその刃が地面を傷をつけることは無かった。

突如斬魄刀に目掛けて鉄串が飛びこみ恋次は警戒して後ろに下がった。


「…!」

「…何者だてめぇ…!?」



月夜に照らされながら物陰から姿を現した少女は手には鞭の形の霊子兵装を携えている。

その突如現れた存在に恋次は警戒をとかずに目前の少女を見据えた。

璃鷹は男の問いに答えることなく恋次たちを交互に観察するとこの状況に似つかわしくない…夜中散歩をしていたらたまたま会った友人に挨拶するようにルキアに話しかけた。



「こんばんは いい夜だね朽木さん」

「鳶栖…!?なぜお前がここに…!」


そしてルキアもまた自身の前に現れた予想外の人物の登場に目を見開いた。騒ぎを起こせば如何に滅却師が霊気探査に長けていると言ってもあまりに早すぎる到着に驚きを隠せないる。

男は警戒しながら手に持った斬魄刀をその人物に向けた。そして警告の意味で何者であるかをその人物に尋ねた。


「…てめーへの質問が返ってきてねぇな 俺はてめーに言ったはずだぜ『何者だ』ってな」

「私が何者なのか…なんてそんな事は今貴方にとって大した問題では無いはずですが…」

「あ?おいおい、そりゃどういう意味だァ…?」

「人間、死神、そして虚も…種族関係なく全ての生き物は皆等しく…自身の命が狩られると分かった瞬間それ以外の事柄は全て些事になるものです 、ですからどうか…お気になさらず」



そのまま璃鷹は二人の死神に霊子兵装を構えた──。

すぐにでも戦闘が開始のゴングが鳴らされようとしているかに見えたが恋次はある程度少女が何者であるのか当たりをつけた。


「まあいい…てめーが何者かんて今はどうでもいいからァ どうせルキアを助けにきた現世のお仲間って所だろ」


男はあえて璃鷹に我関せずを貫きルキアに話しかけた。


「それより…だ。尸魂界からの追手が 背後に迫ってるってのに いくら義骸の身とはいえ 考え事に夢中で 声かけられるまで 気付かねえってか?二月三月で ちいっと ユルみ過ぎじゃねぇか!?」


不愉快そうに眉を釣り上げた男は迷いなくルキアに言った。



「吐けよルキア てめーの能力を奪った人間はどこにいる?」

「な…何を言っておるのだ…? 義骸に入っておるからといって力を奪われたとは 限らぬし…まして その力を奪った相手が人間だなどと…」


ルキアは顔を引き攣らせながら自身が弱い故に巻き込んでしまった一護を思い必死に心苦しい嘘を吐く。

だがしかし、その虚言はいとも容易く、残酷にも目の前の男によって両断された。


「人間だよ!でなきゃてめーが そんな人間みてーな表情してる筈が無え!」

「────…!」


図星を突かれてルキアはひどく狼狽していた。

その二人の様子を見た璃鷹はどうやら目の前の死神とルキアが親しい間柄らしいことを把握した。

恋次先ほどルキアに投げかけた言葉には特定の人物への怒りが込められている。

それはルキアに対してというよりは朽木ルキアの死神の力を奪った者への憎悪が窺えた。

少しソウルソサイティ側の状況に語弊があるようだが、この空座町において死神から力を注がれ人の身で死神になれる人間など璃鷹の知る中で1人しかいない。



「オレと同じ ルコン街の出でありながら 大貴族の朽木家に拾われ死神としての英才教育を施された 朽木ルキアともあろう者がァ!!そんな人間みてーな表情してて いい筈が無えんだよ!!」


目を見開き怒りをあらわにする。

そして目上の人物に対する呼びかけにしては少々荒々しく、そして同意を求めるかのようにしてまだ自分たちにの目に見えないその人物に声をかけた。


「なァ朽木隊長!」


気がつけばルキアの背後には赤髪の男と同じ死覇装を身に纏った男が立っていた。

ルキアはその人物の目に見えて顔面蒼白になりながらその人物の名を震え声で呟いた。



「────白哉……兄様────……!」


「…ルキア………」


その予想外と人間の登場にそちらに思考が割かれたせいだろうか。

ほんの一歩赤髪の男はルキアに向かって刃をふるった。

恐らく彼女だけでも避けられただろうが多少の負傷は否めなかっただろう。

念のために打った弓は刃の勢いを殺し、ルキアの体には届かなかった。その後直ぐに2人の死神に鞭を放った。


「ッチ」


2人は気がつけばこちらから少し距離を取っていた。殺気は無い、ただの牽制のためだけの攻撃──その撫でるような舐めた態度に恋次はイラついたように舌打ちをした。

そしてそんな恋次とは裏腹にルキアの“兄〟であるらしい死神、その目にはこちらが映っておらずこちらに対して眼中にない様子だ。だが逆に言えば自分に意識が向いていないならばそれはこちらを警戒していないということ。

それはそれで良い状況だと璃鷹は楽観視した。

璃鷹は皮肉混じりに、そして他から見れば先ほどルキアに投げかけた意趣返しのように聞こえる言葉を恋次に投げかけた。



「人間みたいな…なんて朽木さんのお友達は面白いことを言うんですね、死神も人もそう大差なんてないのに」

「あァ?」

「貴方は先程私を彼女の現世での仲間だと言いました…なら貴方が言う朽木ルキアの仲間である私が…ここで朽木さんを斬られるのを黙って見ているとでも?」


そう強気な態度で答えた璃鷹は恋次を煽るように言葉を選ぶ。それを聞いてルキアは「鳶栖…」と小さな声で呟いた。

そのままルキアを自身の背の後ろに隠して彼女の安否を確認した。


「ケガしてない?」

「あ、あぁ…すまない」


そう遠慮がちに目を伏せるルキアはいつもの彼女より弱気に見えた。どうやら今回はそれなりの非常事態らしい。

恋次は鼻で笑うと璃鷹に話しかけた。



「はっ とんだ死に急ぎ野郎だ。黙ってそこで見とけば命まではとらねぇで置いたのになァ?いいぜ おまえを殺した後で…次はてめーだルキア」


ルキアは自身のせいで巻き込んでしまった璃鷹に慌てて声を出した。


「まずい!早く逃げろ!!私のことなぞ…」

「朽木さんはそこで見てて」


ルキアの要求を聞かずに目の前の恋次に向き直る。

どうやら何を言っても無駄らしいと悟ったルキアは自分の無力さに拳を力強く握り苦い顔をした。

一触即発の状況で両者が武器を構える──そして先に仕掛けたのは璃鷹からだった。


「さぁ始めましょうか」



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