隊長格との遭遇②
スレ主目次
「手加減なんてしてていいんですか?」
お互いに様子見のような攻撃が続いた──若干…微かな差ではあるが璃鷹が押している。
その突けばすぐにでも崩落しそうな均衡を最初に崩したのは恋次だった。
「そりゃお互い様だろ?…まぁ今のが俺の本気だと思ってるならテメェはその程度ってことだよ」
「…!」
恋次の刃の重みが増し──璃鷹は壁に叩きつけられた。少し顔を歪ませるとわざと相手に見せつけるように床に伏せて拳を握り、冷汗を滴らせた。
璃鷹の体には擦り傷程度の傷が出来ていた。
「っ」
「さっきまでの威勢がまるでねぇぜ?」
恋次は歯を見せて果敢に笑う。
──赤髪の死神は私でも対処できる…でももう1人は…今戦っている男より格上なのは確実だけど……。
警戒しておいて損はないと意識を2人の死神に割く。
この絶対絶命とも言える状況で璃鷹は冷静に目の前の人物を冷静にそう分析した。
一護達がこちらに着くまでには適度に負傷しておいた方がいいだろうと璃鷹は今回の戦闘において攻撃を受ける時のみに使用していた予め強度調節が施された静血装をやめた──。
璃鷹は次の攻撃を待った。しかしいくら待っても追撃は来ず、目の前男は斬魄刀を降ろし、璃鷹に男が口を開いた。
「さっきてめーは自分をルキアの仲間って答えたな…つうことはあいつから死神の力を奪ったやつもてめーの仲間か?」
「…そうだと言ったら?」
挑発的に聞こえる少女の言葉は落ち着いていて息も上がっていない。虚勢に見える態度で恋次に質問を返した。
恋次から見ても、ルキアの目から見ても立ち上がってこない様子を見るにもう体力がつきかけているのは明白だった。
恋次は璃鷹に言った。
「そいつ居所を吐きな、そうすりゃ命だけは助けてやる…わりぃ話じゃないはずだぜ?」
──……予想通りの言葉だった。
ここでわざわざ追撃をせずに交渉を持ちかけた時点で男にとって璃鷹の立ち位置は彼らより下だ。
強敵の乱入者という立ち位置よりは力の差も理解していない弱者、自身の欲しい情報を持ったネズミが実力も分からずに突っ走りこちらに来た程度のことだろう。
いい傾向だと思いつつも男の問いかけに璃鷹は内心面倒くさいと冷めた気持ちでその言葉を聞き流した。
(一護の身の安全のために全員殺してもいいけど……隊長格2人が行方不明……流石に虚のせいには出来ないなぁ)
それに恐らくだが、ルキアはこの2人と親密な関係だ。
騒いで一護達の前でそれが露見すればまためんどくさいことになると璃鷹は悩んだ。
──時間が時間だしもうここに誰かが来てもおかしくない……最初にこの人達の霊気を感じ取った時点で3人とも殺しておけばよかったな………。
璃鷹はここに来た自身の選択を悔やんだ。
意識を目の前の男に集中し……そして一つ、分かりきったことを男に質問をした。
「………もし、私がそこへ貴方達を連れて行ったら……一護はどうなりますか」
「殺す」
迷いなく言われたその言葉に璃鷹はジっと恋次を見つめた。現世の人間を殺せると明言できる程度には任務に対して真摯な死神らしい。
その後恋次の動揺を誘うため、その話題の対象を挿げ替えた。
「そうですか……では朽木さんはどうなりますか?」
ピクリと少し恋次の体が反応した。
恋次はルキアの処遇について話し始めた。
「…ルキアはソウルソサイティでの死刑が決まってる」
「死刑…彼女が……?」
ルキアは「…っ」と重苦しい表情で拳を握りしめた。
彼らに気遣いをかけさせないように隠していた秘密が露見し、またそれが裏目に出たこの事態への不甲斐なさを感じ、顔を曇らせた。
恋次は死神側の今回ルキアを捕縛しに現世へ来た経緯について語り出した。
「そもそも人間への死神能力の譲渡は重罪…その処刑を刑軍どもじゃなくてオレ達に任せたのは上なりの優しさだろうよ」
「あれは緊急事態だったと聞いています。決して故意では」
「それがなんの理由になんだァ?そんなんでいちいち法に特例を乗せてたらキリがねぇって話だぜ 」
恋次の言い分はもっともだった。
ただの死神である朽木ルキアのためにわざわざ特例を作る…それは彼女と親しい間柄や慕っている者からすれば良いことだ、しかし組織内においてその選択肢は下の者への軋轢となるだろう。
恋次は璃鷹に返答を迫った。
「話はそれだけか?で、返答は?」
「……もし嫌だと言ったら?」
「てめーもわかってんだろ?この状況ではどういう返答が正解なのか」
「よせっ恋次!!」
ルキアは声を荒げて恋次を止めたが璃鷹は──はっきりと拒絶した。
「──お断りします」
武器を構え立ち上がり霊供兵装を構えた。
「朽木さんを連れてなんて行かせないし…一護も絶対に殺させない」
劣勢でありながら強気な態度でそう言い放った。この状況おいてそれは夢物語に等しいだろう
交渉が決裂したとわかると恋次も再び刃を構え戦闘を再開させる。
「さっきのは躱したんじゃない 躱させてやったんだ ──次は斬るぜ」
そう言って自身の斬魄刀を構えて直ぐに───青い弓が、恋次の頭をめがけて飛んできた。
「丸腰の女の子相手に武器を持った男が2人がかり…見ててあまり気持ちのいいモンじゃないね…僕はあんまり好きじゃないな そういうの」
「…何者だてめぇ…!?」
「…ただのクラスメイトだよ 死神嫌いのね」
***
「…石田…」
「まぁ流石に気づくよね」
あれだけ騒いでいたのだからもう時期気づく頃だろうと思っていた来訪者にそこまで驚かなかった。
手には使い捨てのレジ袋のようなものを持ちながらスタスタとこちらに向かってきた。
「鳶栖さん……次からは緊急事態が起こったときはせめて一言何か言伝を送ってくれないかな…僕が言えたことじゃないけど本当に1人で対処できないこともあるだろうし…」
今回大分心配していたのだろう。
腕や顔に見える少しの傷に顔を歪ませると説教、というよりは言い聞かせるようにして幼馴染に対して言った。
しかし璃鷹もそれに関して反論した。
「だって竜ちゃん携帯持ってないでしょ」
「……それは…こう、弓に手紙を括り付けて……」
「私そこまで遠距離から的確に弓単体を飛ばせるほど霊子操作高くないし、流石に無理だよ」
痛い所を突かれた石田はそれ以上何も言えず唸った。
親元を離れて1人暮らしをしている石田に携帯電話は難しいだろうことは石田本人も分かっていたので何とかしようと大代案を答えたがそれすら説き伏せた。
ルキアはなぜここに石田が来たのか分からず混乱しながら石田に質問を投げかけた。
「貴様…どうしてここに…」
「ただの偶然さ 朽木ルキア 君の気にすることじゃない強いて言えば…この24時間営業の洋裁チェーン『ヒマワリソーイング』に夜中突然行きたくなったが その支店がこの辺を歩いていただけのこと 別に死神の霊気を感じたから気になって飛び出してきたことへの口実作りのためにわざわざウチからこの袋を持ってきたわけじゃないぞ」
「言わなきゃバレないのに……」
真面目な顔をして事細かに、そして説明口調で話し出した石田にルキアは少し引き気味な顔をしていた。
そこでルキアに璃鷹がアドバイスを入れた。
「気にしないであげてね、竜ちゃんあぁいうところあるの」
「と、鳶栖……」
慣れたその態度にルキアは思わず呟いた。
掛け合いをしていると、突如石田の持っていた袋の持ち手部分は器用に切られ袋は下に落ちた。
切った相手はすぐにわかった。
「!」
「ガチャガチャ言ってんなよメガネ 質問してんだぜこっちは『てめーは何者だ?』ってな まぁ答える気が無ェならそれでもいいや オレはてめーを先に殺すだけだ」
「!まて恋次!此奴らは関係な…」
慌ててルキアが弁明するが石田は恋次を煽るようにして恋次に返答した。
「何を言っているんだ?ちゃんと答えただろう ただの朽木ルキアのクラスメイトだ 死神嫌いのね」
「朽木さん下がってて…それに今更関係ないって言うのは無理があると思うよ」
璃鷹はルキアに下がっているように伝え、石田は少し突き放した言い方をしながら先程言った言葉を再びなぞり、恋次に向かってそう答えた。
しかしやはりというべきか名を聞いているのにそう言われてが納得する者などいない。
恋次はその自身に対しての舐めた態度に怒りを見せる。
「そういうのは答えてねぇって言うんだよ!」
「……………石田雨竜だ よろしく」
「…あ?何だ急に?」
先程まで名前を頑なに言わなかった石田が急に名乗ったもので恋次は呆気に取られていた。
「いや そこまで言うならせめて名前くらいは名乗っておこうかと思ってね いかに死神とはいえ───…自分を倒した相手の名前ぐらいは知っておきたいからね!」
「…決定だ!てめーは殺す‼︎!」
苛立ちながらそう宣言した恋次を横目に、璃鷹はため息を吐きながら言っても無駄だろうがまだ先日の傷が癒えていない石田の身を案じて忠告した。
「……無理しちゃダメだからね」
「もちろんだよ」
「止せ!恋次‼︎石田‼︎鳶栖!!」
三人を止めようとするルキアは必死に引き留めたがその言葉を聞き入れられるわけもなく…戦闘が開始した──。