轍の影(1-2)

轍の影(1-2)

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※注意事項※

「よすが と えにし」系列と同軸です。時間軸は「ともなき」の後、旗揚げ組がifローさんと会う話。

 (1)はペンギン視点。(2)はifローさん視点。(3)は正史ローさん視点を予定。

 ペンギン達が船長を出し抜いてifローさんと会ったりしてますが、彼らは考えなしじゃないし、正史ローさんにも非があります。双方へのヘイト的な意味合いはない。

 誤字脱字はお友達。


 尻叩き用です。そのままここを編集して完成させる予定。


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 俺達が船に戻ると、待っていた面々が落ち着かない様子で顔を出す。向こうのキャプテンの様子を聞きたがっていたが、俺達の浮かない表情からすぐに何事かあったと察したようだ。ベポが慰められながら、なんとか事の経緯を説明した時には、皆険しい表情へと変わっていた。


「大丈夫なのか、向こうのキャプテン」

「わかんねぇ。……俺達、とんでもないことやっちゃったのかも……」

「キャプテンの言う事聞いて、接触しない方が良かったのかもな……」

「余計なことしちゃって……すみません……」

「へこむなよ、ベポ。そんなこと言ったら俺達全員の責任なんだから」


 そう。俺達のせいだ。

 キャプテンは確かに「邪魔だ」と言った。それは考えがあっての発言で、理由を教えてもらえなくとも従っていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。


(それでも、俺は会いたかった。会うべきだと思った)


 でも、それに根拠はない。

 寂しいだろうなと慮ったのと会いたいという感情とでは、後者の方が比重が大きかっただろう。そんな行動のせいで、向こうのキャプテンを苦しめた。その事実に、この場に流れる空気が重苦しいものへと変わっていく。


「あ〜もう!!」


 耐えきれなくなったイッカクの声が響いた。彼女は、パンッと自分の頬を両手で叩いて立ち上がる。


「ここで落ち込んでてもしょうがない!野郎共!今アタシ達に出来る事は?」

「船の整備……」

「料理の仕込み……」

「洗濯……」

「武器の手入れ……」

「よし!なら、それしながらキャプテンを待つわよ!アタシらの不満はキャプテンにぶつけるし、キャプテンのお怒りも受ける!そこからまた、次を考えましょう!」


 暗い顔をした男衆を、そら立った立ったと急かして持ち場に就かせてゆくイッカクを眺めていると、気の強い瞳が俺達三人を捉える。


「アンタ達は使い物にならないだろうから、部屋で休んでな」


 シッシッと追い払うジェスチャーに、肩透かしを喰らう。


「……お前はつよいな」

「マァ、直接見たアンタ達ほどダメージ受けてないからね。状況を把握しきれてない……ってのもあるし。こいつらは下手に考えさせるより働いてた方が、うだうだ悩まずに済むからさ」

「そう、か……」


 そういうことなら、いくらか上擦っている声には気付かないフリをしよう。


「悪い、イッカク。暫く、たのむ」

「あいよ。お礼はそれぞれ三倍返しでよろしく」

「ふ、あはは……あくどいなあ」

「アンタ達三人の穴埋めするんだから当然でしょ。ほら、さっさと行きな」


 にっと歯を見せて笑った彼女に任せ、俺達三人はノロノロとしたスピードで部屋へと戻る。

 俺達の部屋は他より少し大きい。初期の頃、キャプテンを含め四人で寝泊まりしていた部屋だ。

 仲間が増えてきた頃、キャプテンがいつまでも平船員と同じ部屋で雑魚寝はどうなのかと話し合った結果、今は違う部屋で寝ている。

 物が多くてごちゃっとした部屋。特別なものは何もないが、暇な時は四人で集まってうだうだ過ごす、船出前の延長線上にある場所だった。

 寝転んだベポを枕に、三人でぼんやりと天井を見つめる。

 機密性の高い潜水艦内。

 喧騒も、波の音も入ってこない。

 静かだった。


「なぁ。シャチ、ベポ」


 気の抜けた俺の声に返答はない。呼びかけはしたが、ほとんど独り言に近いものだったのでそれでよかった。


「向こうのキャプテンがああなったのさ、多分俺のせいだ」

「…………っ、なんで」

「愛してるって言ったのが不味かったのかなって」

「なんだよそれ……!キャプテンは、俺達の事嫌いになったってことかよ?!」

「ンなこと聞かれてもわかんねェよ……なんもわかんねぇ」


 刺々しいシャチの声に返す言葉が尻すぼみになってゆく。俺の顔を一瞥したシャチが、ばつが悪そうに小さく謝った。


「俺達、思い上がってたのかな」

「……どう、だろうな」


 俺達がずっと側で見てきたトラファルガー・ローという男は、俺達の愛を求めて喜んでくれる人だった。

 面と向かって求められたことがないから全て俺たちの妄想かもしれないけれど。

 うざったいという顔をされる事もあった。スルーなんて日常茶飯事だったし、大切な戦いにはいつも置いて行かれたけど、それでも確かに愛されているし、俺達も愛している。

 あの人はカッコつけたがりでいじっぱりで寂しがり屋で怖がりで、反応を返すのが下手くそだった。その証拠に、どれだけ不機嫌な時でも、俺達の想いを嫌だとか気持ち悪いとか一度も言ったことがなかった。それだけは満場一致、船員全員が共有している認識だった。

 初めてだった。

 俺達の愛を一度も拒絶しなかった彼が、初めて拒んだ。


(そう思ってたのも自惚れだったのかな。それとも、別の世界の俺達がなにかやらかしてたのかな)


 俺達がいっぱい愛してると伝えて、幸せになれるまでサポートする。それが、一番彼にとっていいことだと思っていた。

 彼にとっての俺達は、愛を伝えられるのが苦になるくらい邪魔だったのだろうか。そうであるはずがないと理解していても、悪い事ばかりが脳裏を過ぎる。


「ローさんは知ってるのかな?」


 部屋に入ってからずっと無言だったベポが、ぽつりと呟く。


「何を?」

「向こうのキャプテンが、さっきああなった理由。知ってたから俺達、向こうのキャプテンに会うなって言われたんでしょ?」

「まぁ、……知ってるんじゃね?だからさっき帰らされたんだし」

「そうだよね……。はぁ、完全に余計なことしちゃったんだなあ……」

「___ちょっと待て」


 何かが引っ掛かった。

 身を起こして、考え込む。


 状況を整理しよう。

 俺達のなにかが原因で、向こうのキャプテンが過呼吸を起こした。そこははっきりと因果関係が見えている。ならば、


「__なんで、俺達向こうのキャプテンに会えたんだ?」

「え?」


 俺の問いに、二人が首を傾げる。


「会えばああなるって初めから分かってたなら、ドクターチョッパーは絶対会わせないだろ?」


 彼は、優秀で誠実な医者だ。

 患者のことを第一に考えている彼ならこの場合、俺達に面会不可能な理由をきちんと説明して絶対に会わせないはずなのだ。


「確かに。でも、チョッパーは俺達を会わせた……んん?なんかおかしくない?」


 考えれば、おかしな事は他にもある。

 向こうのキャプテンがパニックを起こした時のチョッパーの対応は想定外と言った様子で、完全に後手に回っていた。

 一方、ローさんはかなり落ち着いていたように見えた。

 感情の共有があるにしたって、いやあるからこそ、不意にパニックを起こされたら動揺する筈だ。

 でも、そうはならなかった。まるで、あらかじめ予測できていたような……。

 つまり。


「ローさんは向こうのキャプテンについて、主治医のドクターチョッパーも知らない何かを知ってる……?」



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