虚の孔
スレ主目次
璃鷹は一緒に来ていた織姫とたつきと一緒にドン観音寺の除霊を他の観衆と共に目撃していた。
人が廃病院の敷地に入った辺りから叫んでいた半虚に向かってステッキの様なものを使い霊魂の孔を鈍い音を立てながら広げている。
その様子から恐らく知識がない一般人であることが伺えた。
〝ここで虚になって暴れでもしたら随分と面白そうだけど〟
このような人が密集した場所で虚など出れば大惨事になる事は確実でありその見えない怪物に怯え逃げ惑う人々を見て悦に浸るのもやぶさかではない。しかしここには死神化ができる黒崎一護が今まさに同じ場所に存在する。もし運が良ければ近くに居る2、3人は虚に殺されるだろうが今まで観察してきた黒崎一護こ実力からあの程度なら彼がいるならばそれもないだろうなと一護の居る方向に目をやると一護は既にドン観音寺のところまで足を進めて警備員に取り押さえられていた。
「一護!?」
「黒崎くん‥!」
たつきと織姫は璃鷹の近くでいつもとは違う一護の行動に動揺を見せている。
CMに切り替わったようでどうやらテレビには映らなかったらしいが、
しかし果たしてこの状況でもし仮に少しでも映像に映っていた場合今テレビを見ている人間の中に一護が見えるような霊力の高い持ち主がいたならば一護の目立つオレンジ髪と番組で既に空座町の名前を出している為特定しようとすればできてしまう。
そして何より朽木ルキアの公衆の面前での失言。
〝朽木さんは何を考えているのか〟
──そしてもし、それが死神に恨みがある人間がそれを見たとしたら。
考えすぎにしても、先ほどの一護の行動は軽率と言うしかないだろう。理解できない。
自分が勝てるようなら応戦し一護への信頼を深めたいが、仮にその相手が自身より格上だった場合は言わずもがなだろう。
──今はタイミングとしては中々良いが場所が悪い。死神は人間には見えないが滅却師は生身の人間、公衆のど真ん中で正体を晒すような間抜けにはなりたくない。
よって以上の理由から一護に自分の正体を明かすには今はまだその時ではない。
ふと隣を向くと2人は今虚と戦っている〝一護〟の場所を見えている。
「大丈夫?井上さん」
璃鷹は心配そうに顔を曇らせている顔を覗き込む様にして織姫の目を見た。それに思考が途切れていた織姫がハッとしながら手をブンブンと回した。
「う、うん!!私は大丈夫だよ!!」
「本当に?」
「ホント全然平気!!いやぁ最近暑いから熱中症かなぁ」
そう笑って誤魔化す織姫の顔には少し汗が出ていたが、しかしそれは暑さから垂れたものではない。
「井上さんは凄く一護のことが大切なんだね」
一護を心配して顔を一挙一動コロコロ変える織姫を見ながらポツリと言って言葉に織姫は固まった。
「え、?」
「心配そうにしてたから」
固まったまま声を漏らした織姫にそう言っていつものように笑う璃鷹の顔を見て織姫は少し間を置いてゆっくりと返事をした。
「──うん大切だよ、物凄く」
織姫はそのまま胸に手を当ててそれを何度も心の中で繰り返すようにして言った。璃鷹はそれを見て「へぇそうなんだね」と当たり障りのない言葉を告げたが、
織姫は今自分が言った言葉をを思い出して熱くなった顔を手で仰ぎながら下を向いていた顔をパッと上げた。
「あれ、顔が赤く…さ、流石にこれは気持ち悪いよね!!いやぁ変なこと言っちゃてごめんね私ったら」
その璃鷹の顔が目に入った瞬間織姫の動きがピクリと止まった。
いつも織姫達を見ている目とは違い無機質で何を見ているのか分からない濁った琥珀色に織姫は何も言えなかった。
璃鷹は固まっている織姫をよそに時計を気にする素振りをすると「あ、」と声が出た。
「ごめんね用事思い出したからそろそろ帰るよ」
「え、それならもう遅いし織姫と送っていくよ」
この状況でとも思ったが流石に遅いし親御さんが心配するだろうとたつきはわかってくれたようで一人で帰らすのはと気を遣ってそう申し出てくれた。
「大丈夫!!少し暗いけど歩けないほどじゃないし浅野くんたちと一護のお父さんと妹さんに挨拶してから帰るね」
そういう時手を振りながらもう人混みをかき分けて後ろの方へと下がっていった。
「2人もこの後帰り道気をつけてね。最近物騒みたいだから」
それだけ言うと振っていた手を下げて人の中に紛れる。「あ、待って鳶栖さん、」そう呼び止めたがもう聞こえていなかったようで璃鷹の姿は完全に見えなくなっていた。
織姫は先程の目が忘れられずに思わずたつきに聞いてしまった。
「たつきちゃん‥さっき鳶栖さん変じゃなかった?」
「?どこも変なところはなかったと思うけど‥もしかして足挫いて歩き方変だったとか?あちゃ‥それなら一緒に帰ったほうがよかったよなぁ」
そう呟いて璃鷹を心配するたつきを見て言いかけた言葉を飲み込んだ織姫は汗を拭いて何でもないように笑顔を浮かべた。
「ううん!やっぱり私の勘違いだったみたい!!」
──あたしの気のせい、だよね。きっと。
***
璃鷹は別れたその足で近くのビルを見つけるとそこへ登っていく。シンと静まり返ったビルの階段に心地いいリズムの音が響き渡る。
そうして屋上の鍵を管理室からくすねてきた鍵で開けると丁度良い、虚が病院の中に移動したようで一護の姿は見えなくなった事に「もしかして今中で戦ってるのかな?」とぼやいた。
「急いで見つけたけどここなら見晴らしもいいし大丈夫そう」
───頑張ってね一護。
璃鷹は備え付けられてある柵を乗り越えてその下に座りながらそう呟いた。