続・後宮パロ4ス

続・後宮パロ4ス



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 ──気に入らない。

「は……っぅ、あ、んっ」

 聞いたことないような甘い声が、腕の中から上がった。せっかく繋いだ手からも逃れようともがくから、苛立ち紛れに再び手首を押さえつける。しばらくは抵抗していたようだったが、次第に大人しくなった。

 満足げに笑って唇を落としていく。額、目尻、頬、最後に口へ。散々吸ったせいか少し腫れぼったくなった唇を柔く食めば、応えるようにゆっくりと開かれる。

「いいこ」

 褒めるように額を擦り合わせて、吐息とともに舌を滑り込ませた。またしても逃げようとするのを捕まえて吸い上げれば、かたく閉ざされた瞼に涙がにじむ。苦しいのだろか、しかしやめる気は毛頭ない。

 やめてって言われても止まらないと、さっき宣言したばかりなのだから。

「ふ……っんん、っく、ぅあ」

 息継ぎのため離れれば、潤んだ瞳と目が合う。雫をこぼす青玉のような瞳、濡れた唇、紅潮した頬。その全てがたまらなく美味しそうで、今すぐにでもこの手に入れたくなってしまう。

 しかし衝動のまま喰らいつこうとした頭から、途端に熱が引いていった。──だってこの表情を見たのは、自分がはじめてじゃない。

「ぃ、いた……っ」

 無意識に手に力をこめてしまうも、ゆるめることはできない。怪我をさせたいわけじゃない、でも──叶うなら全部、彼女のはじめては全部、僕が良かった。

 痛みからか、目の前の顔が苦しげに歪む。寄せられた丸い眉、震える唇、ぽろぽろと落ちる涙。

「──ああ、」

 まだ、あった。

 誰も見たことの無い、僕だけが知る彼女の姿。

 ゆっくりと手を離すと、細い手首にはうっすらと手型が残っていた。でもきっとそれも、じきに消えるだろう。

 労わるようにそれをひと撫でし、腕をたどって肩の方へ。鎖骨をなぞり上げれば、不安そうな顔がぴくりと反応した。何をされるのだろうと怯えるその目に映り込むエランの顔は、浮かぶ不穏さも相まって凄絶な色香をまとっている。

「ひ……っ、あ!? いっ」

 直後、スレッタの首筋に痛みが走る。甘噛みなんて生易しいものじゃない、思い切りと言って差し支えないほどのそれに、青の双眸が見開かれた。

「や、ぁっ!?」

 今度は傷つけない程度の強さで、エランは何度も何度も肌に歯を立てる。繰り返し噛まれた首はきっとひどい有り様になっているだろう。傷になっているのは最初のものだけだろうが。

「ひぐ、あ、ぅあ……っ」

 子どものように泣き出してしまった姿に構わず、滑らせた手で両の乳房を鷲づかんだ。儚いほど柔らかいそれを、ぐにぐにと揉みしだく。なんで、と降ってきた声に答えるつもりはなかったのに、気づけば口が動いていた。

「きみがわるいよ」

「わっ、わたし何か怒らせるようなこと……っひゃぁ!?」

 尖り始めていた先端を摘むと、良い声が上がる。でもこの声はきっと、あいつも。

「いっ、た……ぁ、んぐっ」

 固くなった蕾を爪先でぐりぐりと押し込むようにして、口を塞ぐ。抵抗するようにじたばたする体にのしかかって押さえ込み、見開かれた瞳に無理やり映り込んだ。爛々と輝く緑の瞳が、スレッタの抵抗心を奪っていく。

「んん………っん! ん!! ……っはぁ、はぁ、あ……」

 酸欠で真っ赤になった頬をひと撫でして、今度は息を吹き込むように唇を食む。自分の呼吸で彼女も息をしているのかと思うと、なんとも言えない充足感で心が満たされた。ゆっくり、エランの口端が吊り上がる。ぼやける視界にその姿を認めて、スレッタの瞳に怯えが走った。

「……こわい?」

 ぴくり、震える肩がはねる。言っていいものかと迷っているその頭を努めて優しく撫でれば、ほっと吐かれる安堵の息。思わず手が止まった。

「す、すこし……」

「……そう、少し」

 熱が引いて、エランの頭の中がクリアになっていく。ここまでしてもまだ『少し』なのか。

「……まぁ、やめないけれど」

 言うなり、さっきと反対側の首筋に歯を立てる。あからさまに強ばった身体を辿るよう、肩、胸、腹にも歯を立てて、足の間にたどり着いた。左右に開かせたその間、下着を取り払って現れたあわいは、まるで男を知らないかのようにぴたりと閉じていた。

「……」

「ひっ、や、ぁ……っ」

 試しに指を突っ込んでみるが、まるで濡れていない。当然だろう、まともな愛撫などしていないのだから。指を食い締める肉壁は異物を拒むようひっきりなしに収縮し、次第に嗚咽と共に震え始めた。

「ひぐ、……っぅあ、あ……やだ……」

「いや?」

 返事は無い。ゆっくりと指を引き抜き、隠れていた芽を弄る。皮を被ったままでも刺激は受け取ったらしく、抑えていた脚がビクンとはねた。

「ひぅっ」

「ああ、ここはちゃんと感じるんだ。……じゃあ、」

「あ、っあ!? なんっ、や、っつめた……っ」

 敏感すぎるからか、初めこそ冷たいと繰り返していたその声も、舐るように唾液を塗り込んでいけば次第に甘く蕩けていく。しまいには熱いと、真逆のことを口走るほどに。

「あっ、あ! ひぅ……っあつぃ、あつくて……っ」

「つめたいんじゃなかったの」

「やぁっ、も、やめ……」

「本当に、やめていいの」

 指先で摘むように転がしながら、綻んだ入口を唇でくすぐる。ふ、と息を吹きかけるだけで奥から蜜をこぼすほどになったそこに、再び指を押し込んでみた。確かにまだきつい。しかし先ほどとは、まるで具合が異なっている。

「あは、……ねぇ、分かるかな」

 くるりと手首を返し、指の腹でざらついたところを何度も擦る。びくびくと収縮する胎内は異物を歓迎するように蠢き、奥へ奥へと誘うようだった。

 指はそのままに、放置していた秘芽の方も可愛がってやる。舌先ではじき、皮をむいてころりと転がせば悲鳴じみた声が上がった。

「きゃう……っだ、だめ、だめですっ、それ……っあぁぁっ」

 咎める言葉に似合わない嬌声に気を良くして、そのまま吸い付く。舌先で嬲りながら吸いあげれば、ひときわ大きな声が上がった。

「し、しんじゃっ……も、しんじゃいま……っ」

「死なせはしないよ」

  もうエランも大概、冷静さなど残していなかった。安心させるように吐いたはずの言葉はスレッタの耳を素通りし、淫靡な空気にとけていく。

「ぁ、ゃ……ひんっ、ぁ〜〜〜〜ッ」

 やがて腰が大きく震え、はじめのようにスレッタの中がきつく収縮した。直後、くたりと力の抜けたその肢体は赤く染まりきっていて、無防備に局所を晒しながら彼女は荒い呼吸を繰り返す。

「……怖いんじゃ、なかったの」

 虚ろな瞳に割り込んで、顎を持ち上げながらエランは問う。

「怖いって怯えてたのに、こんなに感じるんだ。純情そうな顔していい趣味だね」

 スレッタ。噛み締めるように名前を呼び、触れるだけの口付けを。しかし蜜を拭った指先が、血が止まったばかりの首の噛み痕をぐりぐりとえぐる。

「いっ……」

「痛いことと気持ちいいこと、同時にしたら一体どっちが勝るんだろうね。……ためしてみる?」

 言うなり、蜜口に昂りを押し付ける。みちりと入り口を押し広げられる感覚に、スレッタは呼吸を止めた。

「息を止めないで、……深呼吸して、そう、……じょうず」

 人工呼吸のように吐息を与え、離れ、また口付ける。そんなことを繰り返しているうちに、半分ほどがスレッタの中に埋まった。

「……っ、──っ、っ」

 ただ与えられるまま呼吸を深めていた彼女は、もう声も出せないらしい。好奇心でふっと離れてみれば、途端にひきつった呼気をくりかえす。過呼吸になる前に再び息を吹き込んでやれば、強ばっていた身体から安心したように力がぬけた。押さえつけた手首からそれを感じ取って、優越感に浸る。──だってこんな姿、あいつだってきっと知らない。

 酷くはなかったと、スレッタは言った。優しいとも言わなかったが、意地悪でやめてくれなかったとも言っていた。ならあいつが確実に見ていないと言えるのは、酷くされた時の彼女の反応──そう、まさに今のような。

「ふぁ……っん、ぐ……っう」

 初めてでもないだろうに、あまりに狭い蜜洞をこじ開けみちりみちりと進んでいく。あつく濡れた感覚がまとわりついて、未知の快感に脳が蕩けそうになる──この新雪を踏み荒らすのが、自分であったなら良かったのに。何度目かも分からないそれが頭をよぎり、振り払うようにさらに押し込んだ。こつりと先端が当たって、最奥に到達したことを悟る。

「は……、わかる?」

 気持ち膨らんだ腹を撫で、恍惚とエランは語る。

「ここ。いま、君の中にいる」

 体勢を変えるため身じろぐだけで、感じたことの無いほどの快感に呑まれそうになる。だからだろうか、じわりと滲んだ視界が一気に決壊した。

「……だから、わすれないで」

 ──傷になればいいと思ったのだ。体への傷ではなく、心の傷に。

 だって彼女は皇帝の妃で、後宮に住まう女の一人で、本当なら自分なんかが手を出せるようなひとじゃない。ただ皇帝と同じ年に生まれただけ、前皇帝が気まぐれに一度抱いただけの女官の子なんて、皇帝の血を引いていること以外に価値のない命だ。身分なんてないに等しく、後宮で生まれ命を終えるまで後宮のために尽くすただの駒。唯一愛してくれた母が亡くなってから、闇と欲望の渦巻くここに安らげる場所など何処にもなかった。──彼女と、スレッタと出会うまでは。

 皇帝の妃の一人、後宮に住まう女。エランと同じく皇帝のものでしかない彼女は遠くない未来できっと、本物の皇帝と──『エラン』と、体を重ねることになるのだろう。双子の弟であり後宮専用の影武者であるあいつが抱いたということは、つまりそういうことだ。ちゃんと清い体か、皇帝に尽くす気質か、反抗の意思はないか──影武者であるあいつが確かめて、それから皇帝に差し出される。そうしてきっといつか、子を産むのだろう。辰星との繋がりを深めるための子を。

 ──傷になればいいと思ったのだ。一生消えない、皇帝に抱かれている時に否が応でも思い出してしまうような、そんな心の傷に。

 はじめてになれなかったなら、せめて他の誰も知らない姿を。さいごにもなれないなら、せめて一生消えない傷に。

「……? っひ、かは……っ」

 細い首に手をやって、ゆっくりと体重をかける。気道を圧迫すれば、スレッタの顔が苦しげに歪んだ。力をゆるめて、腰を動かす。濡れた音が響いて、彼女の体が弛緩した。

「……ど……し、」

 どうして、と言いたいのだろうか。依然として首にかかったままの手を弱々しく引っ掻きながら、光を残したままの瞳を見つめ返す。

「さっき言ったよ。……痛いことと、気持ちいいこと。同時にしたら一体どっちが勝るか試そう、って」

 まぁ、痛いことというよりは苦しいことかな。そう続けて、再び手に力をこめる。両手を使ったら本当に絞めころしてしまいそうだったから、片手で加減しながらゆっくりと。照れや快感では無い赤みがその顔に広がり、追い立てるように腰を打ち付けた。

 粘ついた水音が大きくなる。不思議なことにスレッタの中は潤いを失うどころか増す一方で、どうしようもなく唇が歪んだ。

「あは、もしかして気持ちいい? 首を絞められてるのに?」

 ぐ、とさらに力を込めれば、はくりと乾いた最後の呼気が吐き出された。色を失った唇が震え、開放された気道が勢いよく酸素を吸い込む。げほげほと咳き込むその耳朶に唇を寄せた。

「大丈夫。さっきも言った通り、死なせはしないよ」

 加減しながらまた気道を圧迫して、柔らかい肉のあわいを蹂躙する。引っ掻き傷だらけになった手を見下ろして、しばらくは手袋で隠さないとな、なんて他人事のように考えていた。無我夢中で腰を振って、そうしてようやく、終わりを迎える。

「っく、ぅ──」

 ひときわ強く奥へ打ち付けて、同時に手にも力をこめる。目の奥が真っ白に染まり、直後、全身から力が抜けた。

「っは、は……は……、ぁ?」

 視線を上げた先。彼女がぐったりしたまま動かないことに気づいて、ざっと血の気が引く。慌てて口に手を当て心音を確かめるも、確かな呼吸と命の音。──どうやら気を失っただけのようだった。

「………………ごめん」

 空虚な謝罪を吐いて、繋がったままのその場所を見下ろす。どろどろに混じりあった互いの体液の感覚が心地よくて、まだ出ていきたくない。そんな我儘も、月が傾くまでは許されるだろうか。

 解き放たれた怪物のような何かを再び胸の奥底にしまいこんで、いとしい女をかき抱く。そっと落とした口付けはあまりに拙くて、幼子のままごとのようですらあった。


 ──五番目と呼ばれる彼、現皇帝の双子の弟であり、昨日スレッタを抱いたように『見せかけた』後宮専用影武者の『エラン』が窓からひょっこり顔を覗かせたのは、そのすぐ後だった。


「いや、あくまでフリだから抱いてないよ〜って情報共有してなかった僕も悪かったと思うよ? でも、勘違いでも昨日破瓜したばかりの女の子に、まして処女相手にこんな無体を働くのはどうかと思うんだけど。……え? スレッタへの口止め? うっかり君にも知らされてない機密情報を喋っちゃったから、ボロ出さないために四号にも喋らないでねって言っただけだけど。出処探られてうっかりバレたら、僕もスレッタもおしまいだし。むざむざ死ぬのは御免だからさ。

それより、一体何したの君。この子、昨日僕が偽装のために一時間布噛ませてくすぐり倒しても気は失わなかったんだけど?」


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