海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅1/3

海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅1/3

Nera

雲1つない快晴の大海を4隻の軍艦が航行している。

アラバスタ王国の内戦の元凶であるクロコダイルを撃破した2名の英雄。

ルフィ大尉とウタ少佐を海軍本部まで護送する艦隊であった。



「わりぃ!部屋に戻っていいか?」

「また部屋で食事をなされるおつもりですか?」

「ああ!!」



軍艦の食堂で1人の若者が自室に料理を持ち帰って食べようとしていた。

最初は困惑してそれを咎めていたコックたちだったが半ば諦めていた。

当の本人は笑って答えており、当然のように料理を持ち帰るつもりだ。



「あまりやり過ぎるとウタ少佐…准将に怒られますよ」

「…と言っている間に行ってしまわれたな」



肩を竦めてコックたちは海軍の若き英雄を見送った。

一目散に料理をがっつく男が持ち帰るのに疑問があったがあえて放置した。

衛生的な問題もあるが、ウタ少佐がそれについて探っていたからだ。



「……よし!」



大尉は気を集中させて見聞色の覇気を駆使し、周りに誰も居ない事を確認した。

ここで彼はようやく持ってきた料理を床に置いた。



「出てきていいぞ」

「大佐さんありがとう」



大佐の呼びかけで物陰で出て来た黒髪の女。

“悪魔の子”という異名を持つニコ・ロビンは申し訳なさそうに頭を下げた。

彼女は、アラバスタ王国の内戦の主犯格だったがクロコダイルに裏切られた。

生きる希望も途絶えた彼女は、そのまま死のうとした所をルフィに助けられた。

行く当ても帰る場所も無いせいで軍艦の一室にこっそりと匿ってもらっていた。



「なあ、本当に行くところはないのか?」

「私には帰る故郷も助けてくれる知り合いも居ないの」

「でもよ。この軍艦は海軍本部に向かってるぞ」



彼女の首には懸賞金7900万ベリーが懸けられている。

それだけならいいのだが、世界政府は本気で消したがっている存在だった。

理由はルフィも知らないが本能でそれを悟って何とか存在を隠そうとしていた。



「別に良いの。私はこのまま流されるままに生きるしかできない」

「本部にはおれより強い奴がゴロゴロいるんだ。すぐにバレるぞ」

「そうなった時は、受け入れるしかないわね」



お腹を空かせた彼女は料理を食べ始めた。

どんなに追い詰められても食欲には勝てないようだ。

ルフィも持ってきた残飯を貪っており腹を満たしていた。



「そういえばさ、俺の知り合いで無罪になった海賊が居るんだ」

「それはすごいわね」

「フルボディって奴が必死に弁護したら裁判のおっちゃんたちが同情したそうだぞ」

「その海賊は良い人と知り合いなのね」

「だからおれも同じ事をすれば、なんとかならないのか?」



ルフィは、ジャンゴという海賊がフルボディという海兵に助けられた件に触れた。

フルボディは必死の弁護を裁判官にして三等兵という下っ端に降格された。

しかし親友を無罪にする事に成功して、2人仲良く充実な人生を送っていた。

そんな話をウタから聴かされて覚えていた彼はその話を咄嗟に思い出した。

それならニコ・ロビンも何とかなるのではないかという希望に縋ってみたのだ。



「お気持ちはありがたいけど無理よ。私には敵が多すぎる……」

「……そうか、変な事を言って済まなかったな」

「ありがとう。私に気を遣ってくれたのは、あなたが初めてよ」



ニコ・ロビンとしても彼に迷惑をかけると分かっている以上、下船したかった。

しかし、何故か彼から離れる事ができず、ずるずるとここまで引き摺ってしまった。

いくら“海軍の英雄”であるガープ中将の孫でもロビンを匿うのは大罪である。



「思ったんだけどさ。何でクロコダイルと手を組んだんだ?」

「私の夢を叶える為に利用しようとしたの。結果はこの有様だけど…」



ニコ・ロビンは2回もルフィの命を救っていた。

1回目は、鉤爪で串刺しにされた後、流砂に呑まれた時に救助してもらった。

2回目は、解毒剤を飲ましてくれたおかげで何とか生き残る事ができた。

クロコダイルと手を組んでいる相棒とは思えない行動である。

だからルフィは、ロビンが悪い奴のように見えなかったので質問をしていた。



「まあいいか。何回か港に行くらしいからその時に降りるといいぞ」

「ダメよ」



ニコ・ロビンに下船を促す男の言葉に女が制止した。

するとルフィは直立不動で立ち上がって硬直した。

ロビンの下船を制止したのは、ロビン本人ではなかった。



「捨て猫でも拾ったかと思ったら…とんだ鼠が居たもんね」

「ウタ……!」



紅白の髪を指でなびかせた女は真剣な顔つきでルフィを見た。

幼馴染であり上官であるウタに発見された彼は言い逃れはできなくなった。



「ねえルフィ。ニコ・ロビンを匿うのはやめなよ」



部下からルフィの行動がおかしいと知らされていた少佐。

だからといってすぐに疑う事もできず明確な証拠が見つかるまで泳がしていた。

そして見聞色の覇気で様子を伺って衝撃を受けて隙を見て部屋に侵入した。



「いや、あの!でもよ」

「言い訳は結構、あんたにも事情はあるんでしょ。だからこそ言わせて欲しいの」



ニコ・ロビンがルフィの恩人だとウタも知っていた。

だからと言って彼女を見逃すわけには行かなかった。

自分たちを破滅させる元凶を見逃せるわけがなかった。

ただ、幼馴染の性格をよく知っているので、あえて別の切り口をした。



「もっとうまくやりなさいよ。今、あんたの奇行で部下たちが話題にしてるのよ」

「でもよ!」

「せめて私に相談できなかったの?ねえそこまで信用できなかったの?」



ウタに相談したところでロビンの保護を却下されるのはルフィが一番知っていた。

しかし、ルフィ1人で抱えられる案件ではない。

だからこそ自分に相談してくれなかった彼にウタは純粋に怒っていた。



「それは…」

「私が何で怒ってるか分かってるよね?少なくとも相談は乗ってあげたよ?」

「ごめん…」



ウタとしても同意見だと答えるだろうが、少なくとも代案は出してくれたはずだ。

彼女が一番怒っている理由は、自分に相談せずに独断で破滅の道を進んだ点だ。

ルフィと離れ離れになりたくない彼女は、その可能性を根絶やしにするのに躍起だ。



「まあ、済んでしまった事よりこれからの事を考えましょうよ♪」

「えーっと…」

「どうしたの♪」



気を取り直してこれからの未来について考えようと楽しそうに告げるウタ。

それに対して動揺したのかルフィはうまく発言できなくなっていた。

ニコ・ロビンも彼の様子がおかしいのに気付いて質問しようとした。



「大佐さんどう「ニコ・ロビン!逃がさないよ」え?」



ロビンが動こうとするとウタは彼女に警告した。

言葉の意味は理解できるが、何が起こったのか分からない。



「すまねぇ!ウタが許すまで現実世界に帰れなくなった…!」

「どういう事?」

「ここはウタワールドなんだ。現実世界から魂だけ連れてこられた」



“海軍の歌姫”という異名を持つウタは能力者だ。

彼女の“ウタウタ”の能力は歌声で精神に作用して魂を現実世界から放す事ができる。

魂と肉体は精神という紐で結び付いているのでそれを引っ張る形で魂を誘拐した。

今見えている世界は、ウタワールドと呼ばれるウタが生み出した世界。

彼女が寝るか、解放してくれるまで絶対に自力で出れない牢獄だった。



「ニコ・ロビン、あんたがルフィの恩人だと知っている。でも逃がさない」

「そんなに私を消したいの?」

「えぇ、私はサカズキ大将の直属の部下。取り逃したあんたを見逃せないの」



20年前、ニコ・ロビンの故郷であるオハラは世界政府に消された。

“空白の100年”という歴史を探求した考古学者の聖地は抹消されるしかなかった。

海軍の軍艦10隻、本部中将5名による集中砲火で生存者は存在しないはずだった。

唯一生き延びてしまったニコ・ロビンを除いて…。



「おいウタ…」

「ルフィ!知識と思想と信仰は必ず伝染するの!!ここで止めないとまずいのよ!」



800年に渡り存在する世界政府が設立される前の100年間だけ歴史は空白だ。

あらゆる考古学者はおろか、民間人も何故禁止されているのか分からない。

ただ、世界政府によって興味を持つ事すら禁止されている。

なんならその思考を持った学者が潜んでいる可能性があるなら身内切りすらした。

避難船に乗り込んでいた数十名の海兵を犠牲にしてでも守り抜いたはずだった。

だが、ロビンの生存によって失敗した。



「“オハラの意志”はここで途絶えなければならないの」

「…ふふふ、やっぱりそう思うのね」

「でも、あんたはルフィの恩人。できれば穏便に済ませたいの」



ウタとしてもニコ・ロビンを殺すのを躊躇っていた。

ガスパーデなど救い様がない奴らを殺害した彼女もさすがに思う事はあったのか。

ロビンが抵抗しない限り拘束もしないし、なんなら椅子と机、本を召喚してみせた。



「ちょっとルフィに説教したいから、それで暇を潰してて」

「…良いの?」

「ルフィを助けてくれたお礼よ。この軍艦にあった書物を読んで大人しくしてね」



サカズキ大将の部下と恩人に対する心境の板挟みになったウタは妥協した。

とりあえずニコ・ロビンにウタワールドで堪能してもらって逃げないようにする。

彼女の身柄をどうするのか考えるとして真っ先にルフィに説教するつもりだ。

ルフィは諦めたようで正座してウタが来るのを待っていた。



「お待たせ。今日はどんな罰にする?」

「ウタが満足するなら何でも良い」

「そう?じゃあ今回はこれにしようか」



とにかくルフィはウタのやりたい様にさせた。

ここでは絶対に勝ち目がないって分かっているからこそ抵抗はしない。

それを知っているウタはあえて抵抗させる罰を与えた。



「おい!!それは…!」

「あははっはは!ごめんごめん。ちょっとやりすぎちゃった!」

「おれはもっと優しい方が…」

「私のやりたいようにやれって言ったよね?観念しなさい!」



大佐になる男の前に立ち塞がったのは難関の問題集だ。

これには海兵の基礎知識を応用した物が詰まっており主に文官たちが愛用している。

武力だけで成り上がる武官を支えるのは、いつの時代もインテリである。

動揺する幼馴染に本のページを捲って見せつけると彼はすぐに目を回しだした。



「まずは基礎から行くよ。マスケットを手入れする時に真っ先に外す部位を答えよ」

「わかんねぇよお!!」

「ヒント、銃を手入れをするには何をやるべきだと思う?」

「それヒントじゃねぇ!?新たな質問だぞ!!」



完全に揶揄われているルフィは何としても罰を変えてもらうつもりだ。

だが、彼女は絶対に罰を変える事などしないだろう。

体験で学んでいく彼は銃の手入れなどさっさと忘れた。

それを知っているからこそ彼女はあえて分かるはずもない問題を出した。

お互いを知り過ぎてるからこそどうしても妥協をする事などできやしない。



「…楽しそうね」



ニコ・ロビンは歳が近い男女が仲良くしているのを見て内心で嫉妬した。

もしかしたらあったかもしれない未来を否定するかのように本を読み漁った。



『え?』



ロビンは偶然にも本同士に挟まっていた冊子に注目した。

この軍艦に保管されている機密記録であった。

それもオハラのバスターコールについて記された物だった。



『彼女からのプレゼント?ありえない…のかしら?』



ウタがそんな物を用意する気遣いはないはずだ。

おそらく適当に本を持ってきた時に紛れ込んでしまったのだろう。

彼女は気付かれない様に記録を漁った。



『この軍艦は、オハラのバスターコールに参加してたのね』



20年前の悪夢は今でも鮮明に思い出される。

しかし、彼女はその事件を体験しただけで真相を記した記録は知らない。

新聞には世界転覆を試みた悪魔たちを討伐したという記録しか存在しない。

だからこそ真相を知ろうと躍起になった。



『やっぱり海兵たちも討伐命令に疑問に思ってたのね』



そこにはバスターコールに参加した中将の私情が書き殴られていた。

丸焦げになった死体を見て発狂した海兵を射殺したなどへの独自の解釈。

何故か湖に沈んだ書物を処分しない同僚や上層部への疑問。

集中砲火しても傷1つ付かなかったサウロ中将の凍死体への疑惑。

読めば読むほど、この中将は何も知らされておらず混乱していたようであった。



「おれはウタよりもパンチを強く打つコツを知ってるんだぞ!!」

「出たァ!!負け惜しみィ!!」



未だにウタワールドの創造主は、これに気付いていなかった。

避難船を沈めてまでして取り逃したロビンに情報を与えるなどあり得ない。

サカズキ大将の汚名返上を狙っている女は幼馴染を弄るのに夢中であった。

好都合とロビンは必死に書いてある記録を記憶しようとしていた。



『ベガパンク?オハラを訪ねていたの…?』



世界一の科学者であるベガパンクがオハラに向かおうとしていたという記録。

名前も分からない記入した主は、断固として認めず引き留めようとしていたようだ。

『オハラの湖に眠る書物を見せるわけにはいかない』と文を残して終わっていた。

その次のページからは白紙であり、どうやら中将の身に何かあったようである。



『この人に何があったの!?』



海軍本部の中将が消されたとなると大騒ぎになるはずだ。

ところが例外を除けば該当する中将の名に心当たりはない。

当時参加していた中将の中でサカズキとクザンは今では海軍大将。

オハラの真相を知っている人物を消すには大きすぎる存在である。



『真相を探らないといけないわね』



少なくともオハラのバスターコールには謎が多いと理解した彼女は笑った。

まだここで死ぬべきでは無いと確信した彼女は何としても逃げようと考えた。



「あのウタ准将さん?」

「まだ准将相当官だよ。佐官以上は正式な叙任式を受けるまで元の階級のままなの」

「でもこの艦隊の司令官よね?」

「サカズキ大将の勅令みたい。私に将官としての素質を試しているみたいね」



ウタは准将になったが叙任式を受けてないので事実上、少佐権限しかない。

だが、4隻の軍艦からなる艦隊の総司令官に任命されていた。

表向きは拿捕したクロコダイルを護送するようになっているが本人は乗っていない。

あくまで将官として試す為に艦隊の指揮を大将から任命されたに過ぎない。



「どう?将軍になって何か思うことは無い?」

「自由に動けなくなったのが不満ね。中将まで行けば楽になるけどさ」



海軍本部の佐官クラスは“偉大なる航路”で軍船の船長になれる。

4つの海では尉官クラスでも任命できるが、この海域では佐官以上が船長となる。

そして海軍本部が所有する大型の軍艦は将官クラスしか船長になれない。

あまりにも巨大な武力故に強さ以外にも指揮、人望、思想に優れた者しかなれない。

そんな重圧に乙女が苦しんでいるとロビンは見抜いていた。

実際にウタに質問すると予想通りの返答が出て思わず口角を釣り上げてしまった。



「私で良ければ相談に乗るけど?」

「そうやって逃げようとしても無駄だよ」

「なあウタ。ロビンの相手をしてあげてくれよ」

「……とりあえずあんたはこれを暗記してなさい」



ロビンの提案をウタが蹴ろうとするとルフィがその提案に乗っかった。

頭痛がしてきた彼は、なんとしてもウタをロビンに押し付ける気満々だった。

それを見抜いた彼女であったが休憩も必要だと思い宿題を与えて解放した。



「うわ…文字だらけじゃねぇか」



宿題を見たルフィはさっさと本を枕替わりにして横になった。

ウタに怒られるのも悪くないと思っている彼は本で学ばない。

彼女に直接教育されたらやむを得ずに頑張るがそれ以外にやる気はない。

体験で学んで成長する彼にとって本というのは枕でしかなかった。



「で?私の相談に乗ろうって言ったよね?」

「えぇ、階級で縛られて幼馴染と気軽に接触できない貴女にアドバイスをするわ」

「へえ、どんなのがあるの?」



ウタにとってルフィは太陽そのものだ。

彼から引き離されれば一輪の紅白の華はあっという間に枯れてしまうだろう。

半信半疑ながらもロビンの口からアドバイスを受けようと向かいの席に腰かけた。



「まずどんな風にルフィと接したいか聞かせてくれない?密会なら良い案があるの」

「密会かー。私としてはバレたら大騒動になりそうで…」

「あらお嫌い?」

「大好きよ!」



20年間も狙われ続けた女から様々なアドバイスを受けて嬉しそうに笑うウタ。

とりあえず自分へのヘイトを減らせて満足してもらう事を願っているルフィ。

能力を解除してもらう為に口八丁で好感度を稼ぐニコ・ロビン。

少なくともウタからルフィへの怒りが消えた頃に事件が起こった。



「ウタ准将相当官!!」

「どうしたの?」



現実世界で木箱に腰掛けて眠っている2人を見守っていたウタ。

そんな彼女が居ると聞きつけて部屋の外から海兵が呼びかけて来た。



「革命軍のヴィント・グランマ号が接近しています!!」

「なんですって!?革命家ドラゴンが来ているの!?」



ヴィント・グランマ号は黒龍をイメージした革命家ドラゴンの船である。

それが接近してきたという事は、アラバスタ王国の内戦の元凶と接触する為か。

海軍が虚報を流した結果、とんでもない奴が釣れたとウタは嫌でも自覚した。



「今行く!総員戦闘準備で待機しなさい!」

「ハッ!!」



ドラゴンと王下七武海であったクロコダイルの接点は不明だ。

世界政府はアラバスタ王国の内戦はドラゴンが暗躍していたと見ていた。

ところが実際調査したところ、革命軍との接点がなかった。

同じ七武海のドフラミンゴが運営する商会の武器が大量に発見されたくらいか。

バロックワークスが地下組織である故に全貌が把握できてないのが現状である。



「なんでこのタイミングで……まさか!!」



革命家ドラゴンがニコ・ロビンが軍艦に密航しているという情報を掴んでいたら…。

そう考えてしまったウタは何としても阻止しなければならないと誓った。

すぐさま彼女はウタワールドからルフィを解放した。



「起きてルフィ!!」

「……ほえ?」

「寝ぼけないで!!」

「いででで!!ビンタは!!いで!!」



寝ぼけているルフィに軽くビンタした彼女は、念を押して彼に約束させた。



「良い!絶対にこの部屋に籠ってロビンを守りなさい!」

「何かあったのか?」

「世界最悪の犯罪者が乗る船が接近しているの!!」

「おお!じゃあ、おれも闘いに参加していいか?」

「あんたは命の恩人であるロビンを守りなさい!!」



あえてウタは、命の恩人であるロビンを守れとルフィに厳命した。

実際、寝ているとはいえ身柄を革命軍に持っていかれると厄介になる。

さきほどの会話で親近感ができた彼女は、肉体操作でロビンを殺したくなかった。



「絶対に部屋から出ないでよね!」

「分かった!任せておけ!」



腹括って覚悟をした幼馴染の顔を見て安心してウタは部屋から飛び出した。

既に海兵たちが配置についており、自分の指示を待っている状態だった。



「相対方位128°!!敵船を裸眼で捕捉!」

「右舷三列砲塔、砲撃準備!!急げ!!」

「シグナルブックのコード022!友軍の艦との距離を開けろ!誤爆するぞ!!」



海軍大将サカズキから授かった3000名の海兵は優秀だった。

ウタ准将相当官の指示がなくても4隻の軍艦は戦闘準備に入っていた。

少佐であるウタは、海兵たちの動きはある程度理解できている。

ただ自分の指示だけでそれを再現しろと命じられると難しいだろう。



「状況は?」

「ウタ准将相当官!本艦の右舷後方からヴィント・グランマ号が迫って来ています」

「このままだと20分も経たないうちに砲撃射程内に入ります」

「「ご指示を!!」」



ウタの問いに対して的確に返答した下士官たちは艦隊の司令官の指示を待った。

彼女は一呼吸した後、命令を下した。



「本艦隊は今から近隣の海軍基地に向けて針路を取るわ!!付近の海軍基地は?」

「えーっと……海軍本部グランドライン第8支部ナバロンが近いかと」

「只今より本艦隊はナバロン要塞に向けて針路を変更!命令を伝達しなさい!」



艦隊司令官の命令で海軍本部からG-8支部に針路に変更された。

すぐさま通信兵が電伝虫を通じて友軍に情報伝達をしようとした。



「あれ?おかしいな」

「…どうしたの?」

「念波が届きません」

「妨害念波?まさか…ツノ電伝虫!?」



電伝虫による通話は黒電伝虫で盗聴できる。

なので機密情報などを知らせる時は白電伝虫を一緒に繋いで妨害念波を飛ばす。

しかし、それだと通話自体はできるので革命軍は対策をしていたようだ。

通話そのものを不可能にする妨害念波だけを飛ばすツノ電伝虫が存在する。

通信ができないのはこの電伝虫の仕業だとウタは見抜いたが疑問点もある。



「連絡手段を発光信号に切り替えなさい!」

「しかしそれだと解読される可能性が…!」

「情報伝達できずに自滅するよりマシよ!!」



やむを得ず艦隊司令官の命令で発光信号で同伴する軍艦に連絡を開始した。

それはすぐに革命軍の見張りにも信号を確認される事となった。



「ドラゴンさん!右翼の軍艦から発光信号が!!」

「ああ、間違いない。あれが旗艦だろうな」

「真っ先に艦隊に命令を下したからですか?」

「いや、発光信号を解読した結果、そう思っただけだ」



世界最悪の犯罪者、“革命家ドラゴン”は海軍の艦隊に喧嘩を売りに行った。

建前上はクロコダイルを狙っていると告げたせいで革命軍の士気は低い。

彼らとしても立派な王国で内戦を企んだクロコダイルは御免だった。



「ドラゴンさん、クロコダイルの奪還は百害あって一利なしです!」

「サボ、それは私が良く分かっている」

「それにクロコダイルは別の軍艦で護送されており、本人は乗っていません!!」

「その情報については把握済みだ」

「ではなぜですか?」



顔の火傷が目立つサボという参謀長に咎められた革命家は辺りを見渡した。

誰もがクロコダイルの奪還を望んでいないように見える。

そもそも虚報を掴まれていると分かっているので士気が低いのは当然である。

実際、ドラゴンが選抜したメンバーなのだから同じ事を考えていると実感していた。



「良いだろう…今から本作戦を決行する理由を述べるとしよう」

「本当の理由?」



可愛らしい女の子であるコアラが首を傾げた。

彼女も戦闘員であり、ドラゴンを信頼しているがこの作戦は疑問に思っていた。

喧嘩を売ろうにも軍艦に乗っているのは若き海軍の英雄たちである。

アラバスタ王国を救った彼らと交戦してまで決行する理由が思いつかなかった。



「全軍!聴け!!今から本作戦を決行する理由を伝達する!!」

「あの艦隊にオハラの生き残りであるニコ・ロビンが密航しているのだ」



革命家ドラゴンを信じている革命軍は固唾を吞んで発言を待っていた。

だが、ボスが放った一言で彼らは動揺してしまった。

長年探し求めた女性が海軍の手に渡ってしまった。

それだけではなく相応の戦力が配備されていると察してしまった。



「嘘だろう!?」

「まさか俺たちを釣る罠か!?」

「ありえる。狡猾な世界政府の事だ。目の前でロビンを殺害するのは否定できん」



同志たちはロビンが海軍の手に渡っていると知って絶望した。

下手に手を出せば、オハラの灯は瞬く間に途絶えると判明したからだ。



「いや、おれの推測だが大半の海兵にはロビンの存在は知らされてないだろう」

「「「「えっ?」」」」



ところがドラゴンが放った一言で更に混乱する羽目になった。

世界政府が真っ先に消そうとしている女を匿う理由が無いからだ。



「言っただろう。ロビンは密航していると…」

「何故そう思われたのですか?」

「ニコ・ロビンはルフィ大佐相当官の命の恩人だからだ」



カラスという男がドラゴンに質問すると予想だにしてなかった回答が返って来た。

推測と言うわりにはあまりにも馬鹿げている話にしか聴こえなかった。

ただ、オハラの意志を継ごうとしていた彼らの士気は高まった。



「いいか!この機会を逃せば“オハラの意志”を途絶えさせることになる!」

「ニコ・ロビンの身柄が世界政府に渡る前に必ず保護をするのだ!!」

「クローバー博士、いや学者たちの犠牲を無駄にさせない為にも!!」

「ここで逃せば同じ悲劇が引き起こされる!何としても阻止しなければならない!」



革命家ドラゴンの演説でニコ・ロビンを海軍から奪取する事を決意した革命軍。

例え海軍の若き英雄たちと交戦してでも、オハラの意志を守るつもりだ。



「ウタ艦隊司令官代行殿!!追跡を振り切れません!!」

「やむを得ない!!臨戦状態で待機!砲撃は私の命令を待て!」

「ハッ!」



一方、海軍サイドで1人だけ革命軍の狙いがニコ・ロビンと分かってしまったウタ。

直属の上官であるサカズキ大将から授かった3000名の兵力と4隻の軍艦。

それらに甚大な被害が出してでも革命軍に身柄を確保されるのを阻止するつもりだ。



『“オハラの意志”は、何としても途絶えさせなければならないの!!』

『そうしなければ避難船に居た民間人と海兵の犠牲が無駄になる!!』

『サカズキ大将の失態をここで返上し、准将としての責務を全うするの!!』



ニコ・ロビンに対する想いは、ドラゴンとウタは同じくらいに強かった。

片方は何としてもオハラの学者たちの犠牲を無駄にしない為にも!

片方は何としても騒動に巻き込まれた民間人や海兵の犠牲を無駄にしない為にも!

アラバスタ王国とG-8支部の中間に位置するハーリング海で戦闘は避けられない。



「海軍に怯むな!!何としても作戦を成功させるのだァ!!」

「世界政府に盾突いて世界の平穏を乱す革命軍を返り討ちにしてあげなさい!!」



ドラゴンとウタによって士気が昂揚した双方の軍が交戦の準備に入った。

後に世界の命運を変える事となる“ハーリング海の海戦”がたった今、開幕した。


海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅2/3に続く

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