海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅2/3
Nera世界政府の強大さを示すかのような巨大な軍艦。
それは菱形の交点に位置するように4隻が展開していた。
乱入するのは世界最悪の犯罪者である革命家ドラゴンが乗るヴィント・グランマ号。
気候が比較的穏やかなハーリング海で海戦が始まろうとしていた。
「ウタ艦隊司令官代行!砲撃の許可を!!」
「まだ早い。もっと引きつけなさい!」
「しかし数が多い分、先手を打った方が勝率が高いです!!」
「あくまで撃退するだけ考えなさい!!徹底的にやるつもりはない」
海軍本部大佐に砲撃の許可を促されたウタ准将相当官は、それを却下した。
何としてもニコ・ロビンの奪取を阻止しようと考えていても損害は極力避けていた。
砲撃をしてしまえば、厄介な能力者がゴロゴロと出てくるだろう。
あくまで“力なき民衆の代行勢力”と自負してる革命軍が自分から打って出る事ない。
そう期待しているからこそ彼女は砲撃命令を許可できなかった。
「ウタ准将相当官!このままでは敵船の砲撃射程範囲に入ります」
「まだ待ちなさい。向こうから仕掛けるまで砲撃は厳禁とします!」
「襲撃されてからでは遅いのですよ!?」
「この艦隊の司令官は私よ!黙って従いなさい!!」
菱形編成の右翼を担当する旗艦にヴィント・グランマ号が並走しようと試みる。
速度では勝っている軍艦に何故追いつけるのかウタは疑問に思っていた。
そして気付いた。
「なるほど“風”が味方か。砲撃しないで良かったわ」
この時代の船の主流は帆船である。
中には蒸気機関の船もあるが、世界政府に検問されてほとんど存在しない。
それはともかく海戦は風の向きで大きく勝率が変わって来る。
向こうが“風”を味方にしている以上、勝率は絶望的と言っても過言ではない。
「だとしても数では我々が圧倒しています!!」
「見聞色の覇気で敵勢力を確認したわ。ルフィより強い奴が10人以上居るの」
「そんな馬鹿な…!?」
この艦隊にはウタ以外に海軍本部将官が3名居た。
軍艦1隻に付き最低でも将官1名、佐官1名が乗船する規則が存在する。
しかし革命軍を迎え撃つには、力不足過ぎた。
億越えの賞金首と対等にやり合える海兵でも中将でない限り、戦いにならない。
ウタを司令官にする為に同僚が全員、准将というのもあり圧倒的に不利であった。
「そういえばルフィ大佐相当官の姿が見当たりませんが?」
「ルフィなら機密書類を守るように任命してる。心配しないで」
「いやいや!ルフィさんがそんな器用な事ができるわけが…!?」
とんでもない爆弾発言をした准将候補に大佐が動揺した。
すぐにその事を問いただそうとしたが、それが叶う事はできなかった。
「嵐脚 “2分音符<ハルベノーテ> ”!!」
ウタが高速で脚を突き出すと斬撃の効果を持ち合わせる風が生まれた。
その飛ぶ斬撃は、軍艦に向かって飛んできた砲弾を切り裂いて爆発させた。
爆発を見届けたウタの顔は、怒りを通り越して失望しているようであった。
「全艦砲撃開始!!敵艦を集中砲火しなさい!!」
ウタ艦隊司令官代行の命令によって旗艦の三列砲塔が砲撃を開始した!
それを目撃した護衛艦の3隻も続いて砲撃を開始した。
無数の砲弾が真っ黒なヴィント・グランマ号に向かって飛んでいく。
「あ!?何が起こった!?」
ところが砲弾は船に直撃する前に水面に向かって円弧を描いて水面に落下した。
まるで強風で砲弾の軌道を変えられたように全弾命中しなかった。
「撃てェ!!」
掌砲員たちが怖気ずに砲撃をしているが全く当たる気配がない。
軍艦の右舷側面にある2つの砲列も砲撃したが全ての砲弾が命中しなかった。
「ドラゴン!相手は軍艦だぞ!イワンコフの二の舞になりかねん!」
「分かっている」
ドラゴンとしても海戦をする気はなかったが気が昂った新入りが砲撃してしまった。
あの艦隊を指揮する司令官は極力戦闘を避けていたようだが無駄になった。
菱形から右先梯形陣に変化し、右下から侵入する本船を迎撃する陣形になっていた。
そのせいで風を味方に付けないとあっという間に沈められる状況だった。
「しかし妙だ。何故、旗艦を最後尾にしたんだ?」
「よっぽど味方の損害を避けたいみたいだね!こっちからすれば好都合だけどさ!」
「いや旗艦を餌にして集中砲火するつもりだ。そんな甘ちゃんじゃやっていけんぞ」
用心深いドラゴンは旗艦を最後尾にした点を警戒し、疑問を口にした。
裸にネクタイとジャケットを羽織る奇抜な格好をしたベロ・ベティが疑問に答える。
海軍の護衛艦は旗艦より先行しており、しんがりをしていると彼女は考えた。
その意見を否定したのは革命軍の発明家であるリンドバーグだ。
【( 】の陣形である以上、最後尾に船首を向ければ残りの艦に砲撃されると告げた。
「まずは旗艦を護衛艦から引き離すとしよう」
ドラゴンの一言で気候が荒れて強風が敵艦隊を襲撃した。
大きく波が荒れて砲撃を中断するほど軍艦が大きく揺れた。
「うわあああああ!?」
大きく傾いた甲板から海兵が落下する瞬間、辛うじて左手首を掴まれて助かった。
「ウタ少佐!じゃなかった准将相当官!」
「どっちでもいいわよ!!早くぅ!!戻れ!!」
腕力だけで持ち上げた彼女は海兵を甲板の方に引き摺り込んだ。
他に海に転落しそうな海兵は居ないが、このままでは軍艦が持たない。
「大佐は本艦の指揮の代行をお願い!」
「どこに向かわれるのですか!?」
「秘策を発動させるわ!第2陸戦分隊は私と来なさい!」
「「「「ハッ!!」」」」
海軍本部大佐の問いかけにウタは笑って答えた。
それを受けて大佐は耳栓の準備をして彼女を見送った。
20名に満たない分隊を引き連れて艦長は最後の手段に出ようとしている。
「帆を畳め!メインマストはともかくミズンマストが強風で折れるぞ!!」
「艦隊司令官代行により何があっても帆を畳むなという厳命を受けてます」
「何を考えているんだ!?」
残りの3隻の軍艦も強風のせいで大混乱していた。
波が船体に激突する度に大きく傾いて転覆しそうになっていた。
特に風のせいで陣形が保ってられず他の船体と激突する可能性も否定できない。
そしてなにより強風でマストが折れる危険性があった。
「何でこんなに海が荒れるんだ!!さっきまでこんな気候の予兆は無かったぞ!?」
「悪魔の実の能力に決まってんだろ!!良いから任務に集中しろ」
一等航海士が気候の変更に嘆くと上官が能力のせいだと告げる。
ハーリング海は“偉大なる航路”の中でも気候が安定している。
そのおかげで民間船やそれを護衛する海軍の艦船の往来が多い。
自分の知らない未知なる気候に嘆く男を励ますように小隊長は檄を飛ばした。
「……!!」
「カラスゥ!拡声器のスイッチを押し忘れているわよ~!!」
何かを告げようとしてボソボソと呟いているカラス。
それを見かねた巨人族のオカマであるモーリーが忠告した。
ようやく自分の声が聴こえていないと気付いた彼は拡声器で改めて告げる。
「砲撃は無力化しました。あとはおれに任せてください」
「いや、もう少し待て。軍艦の様子がおかしい」
「…と言いますと?」
しかしドラゴンは用心深かった。
誰もが違和感に気付けずリーダーの言葉を待った。
「あれだけの強風で帆を畳まないのだ。まるで…」
「まるで?」
「機会があればいつでも逃げ出せるように…」
最後尾に居る旗艦が煙幕を放っており何かを隠しているようであった。
風で晴らそうとしても何度も煙幕を焚いているせいで何をしているか分からない。
だが、碌でもない事を企んでいるとドラゴンは見抜いて見聞色の覇気を発動させた。
水上にいる軍艦に違和感はない。
では海中はどうかと調べるとすぐに異常を発見した。
「操舵手!主舵いっぱい!!早くしろ!!」
「は、はい!!」
ドラゴンの怒声を聞いた操舵手は慌てて舵を右に切った。
船が大きく右に傾いて敵艦隊と並走する形となった。
その瞬間、海中から何かが飛び出してきて大きな水飛沫が甲板を濡らした。
予想もしていなかった能力者たちは全員、一時的に無力化された。
「みんな!どうしたんですか!?」
「サボ!海獣よ!!」
能力者ではないサボ参謀総長は何事かと警戒した。
ずぶ濡れになったコアラの一言で何が襲撃してきたのか分かった。
海獣、4つの海でも出くわす可能性がある哺乳類である。
「速やかに水中音響装置を回収しなさい!!」
「「「「ハッ!!」」」」
見事に水棲生物を敵船にけしかける事に成功したウタは次の命令を下す。
ウタウタの能力を水中に届けたベガパンク製の水中音響装置の回収を急がせた。
強風のせいで歌声が敵船に届かないと考えた彼女は逆転の発想をした。
水中を通して水棲生物に歌声を聴かせて妨害しようと試みたのだ。
「通信兵!電伝虫は使える!?」
「は、はい!大丈夫です!!」
通信兵から電伝虫を受け取ったウタは大声で命令を告げた。
≪我が艦隊はG-8支部に向かう!全艦!全速前進!全員生還せよ≫
≪海獣や海王類の気を惹く為、砲撃は厳禁とする!速やかに命令に従いなさい≫
≪3千名と4隻の軍艦が無事に基地に帰投する事を祈る。それ以外は禁じる。以上よ≫
無事に全艦に命令が伝達したのを実感した艦隊司令官代行は受話器を下げた。
これ以上の命令は却って現場を混乱させると彼女自身が分かっている。
彼女から電伝虫を渡された通信兵は近隣の基地と連絡を取り始めた。
「大佐、急な指揮代行を命じてごめんなさい」
「い、いえ…」
「まだ危険は去っていない。頼りにしてるわよ」
“海軍の歌姫”に褒められた大佐は何が起こったのか一瞬分からなかった。
海軍や民衆はおろか海賊すら彼女の歌声と容姿は大人気である。
そんな歌姫から期待を寄せられていると実感した彼は気持ちを切り替えた。
「お前ら!必ずウタ准将相当官とルフィ大佐相当官を守り抜け!!」
「「「「ハッ!」」」」
甲板員と陸戦隊は、大佐の命令を受けて敬礼をした。
距離を離したとはいえまだ戦域離脱をしておらず予断が許されない状況だ。
全海兵が身を引き締めて護送任務を達成するつもりだ。
能力を発動したウタは眠気覚ましを服用して何とか眠らないように心掛けた。
「竜爪拳!“竜の鉤爪”!!」
サボは武装色の覇気を纏った指が海獣の喉部を破壊した!
生命の危機に瀕した20m級の海獣はそのまま海中へと沈んで行く。
「さすがサボ君!頼りになるね!」
「いやまだだ!!」
ボートに乗っているコアラは見上げて彼を誉めたが未だに戦闘は終わっていない。
見聞色の覇気を発動した彼は海中の様子を探った結果、身構えた!
魚介類の大群がヴィント・グランマ号の船底や船体に激突して転覆を試みている。
「コアラ!お前の真下に居るぞ!!」
「魚人空手!“水振波”!!」
今度はコアラが水上に向かって拳を打ち付けて振動を放った!
水中を駆け巡る振動は、操られた魚介類の先鋒を粉砕し、残りを追い払った。
それでも数が多すぎて押されているのが現状だ。
「サボ!!まだ来るぞ!!」
「クソ!!痛覚どころか生存本能すらないのかこいつら!?」
「どう見ても操られているに決まってんだろう!!」
「コアラ!もう無理だ!!帰還しろ!」
「は、はい!!」
まるでゾンビのように撃破しても立ち塞がって来る水凄生物たち。
船に乗せている文献や財産を考えるとこれ以上、船を痛めるわけにはいかない。
コアラが乗船したのを確認したドラゴンは風を利用して無理やり船を動かした。
「海王類だァ!?」
「危なかった…!」
全力でその場から脱出した瞬間、全長250m級の中型海王類が海上に飛び出した。
いくら実力者であってもその質量自体を消滅できるわけではない。
間一髪で船の全壊を免れた革命軍は敵艦隊の旗艦へと高速で向かって行く!
「ウタ准将相当官!敵船が本艦に向かってきます!」
「操舵班!面舵いっぱい!!」
「えぇ!?取舵いっぱいでは!?」
右後方から高速で突っ込んでくる敵船に対してウタは面舵を切ると命令した。
明らかに追い抜こうとする船の進路を妨害すると思った大佐の声は震えた。
間違いでなければ、この歌姫は軍艦を敵船に激突させると分かってしまったからだ。
「このままでは本艦が敵船と激突します!!」
「構わない!こっちは質量が2倍もあるのよ!!さっさとぶつけなさい!!」
「「「「ええ~~~!?」」」」
ここでようやくルフィ大尉が自由奔放の性格に育った原因を彼らは理解した。
冷静になって考えてみれば、彼についていける彼女がまともなわけがなかった。
しかし、それに気づいても後の祭り。
サングラスをかけて笑うウタを尻目にウタ派の将兵たちが次の作戦に取り掛かる。
これには、ドラゴンも動揺するしかなかった。
「しまった!!動きを読まれた!!」
急に風向きを変えれば、ヴィント・グランマ号がバランスを崩して転覆する。
旗艦を沈めれば、ニコ・ロビンの命に関わるどころか全てが無駄に終わる。
なんとか対処しようとする船首楼に居る彼の眼前で何かが撃ち上がった。
「……空砲?おのれ!!閃光弾か!?」
最初は拍子抜けした彼だったがすぐに閃光で視覚を奪われた。
革命軍はおろか海軍の部隊すら被害を被っており大半の船員が大混乱した。
それもそのはず、ウタはジェスチャーで直属の部下にしか指示をしていなかった。
サカズキ大将が寄こした海兵にスパイが居ると踏んで情報を出し渋ったのだ。
「撃て撃て!!」
「フォアマストに命中!!」
「次弾装填を急げ!!」
キャラック級の軍船時代からウタと付き合いがある直属の部下たちは動揺しない。
海王類の体内を冒険するなど無茶に付き合って来た彼らからすれば気にしなかった。
うずくまった砲手に代わって砲撃をして敵船のマストを破壊する事に成功した。
さすがに正面を風で防御できない革命軍を乗せた船は次々と砲撃が命中する。
「あはははは!!真面目に相手をすると思った!?海獣さん!受け止めてね♪」
部下の奮闘を見たウタは嬉しそうに笑いながら左腕を上空に振り上げた。
すると軍艦の前方で歌に魅了された海獣が盾になるべく立ち塞がった。
「ドラゴンさん!!前方に海獣が!!」
「サボ分かってる!!回避は無理だ!!衝撃に備えろ!!」
見聞色の覇気で海獣を感知したサボはリーダーに回避行動を促すが却下された。
この状況で回避行動するという事は、大半の船員を海に投げ捨てると同意義だ。
海に嫌われた能力者が多数乗っている現状では衝突した方が犠牲が少ない。
そう考えたドラゴンはそのまま船を突っ込ませた。
「うわあああ!!止まんねぇ!?総員衝撃に備えろ!!」
ルフィ派の将兵が激突した海獣ごと敵船が突っ込んで来るのを見て叫んだ。
「もっとでかい方がよかった」と他人事に呟くウタに気を配る海兵は居ない。
総員、受け身の体勢になって衝撃に備えた。
とりあえずマイクだけは死守しようとウタは船内に入っていく。
その20秒後、何の罪が無い海獣が軍艦と大型ガレオン船に挟まれるように激突した!
「ウタ!!どんな操縦させてんだァ!?うわああああ!!」
当然、船内は激突による衝撃で人や物が宙を舞って壁や床に叩きつけられた。
寝ているニコ・ロビンを守るためにお腹を膨らませて木箱を吹っ飛ばす。
それでも積み荷が彼らに襲い掛かりゴム人間の彼は庇うように下敷きになった。
「って!!あぶねぇよ!!」
すぐさま積み荷を撃退したルフィはロビンの安否確認をした。
少しだけ傷ついたが命に別状は無いと分かって安堵の息を漏らした。
「なんかすごいことになってんな」
見聞色の覇気で辺りを調べて軍艦の乗組員は1人を除いて激痛で苦しんでいた。
幼馴染だけは無傷だったのか元気そうで軍艦の甲板を駆け回っていると分かった。
それを感じた彼は、とりあえず言われた通りロビンを守る為に部屋に閉じこもった。
「よくもやってくれたな!!」
「これは高くつくわよ!」
カラスとモーリーを先鋒となり次々と革命軍の主力たちが軍艦に乗り込んだ。
旗艦に居た海兵たちは未だに立ち直れておらず護衛艦とは距離があり過ぎた。
孤立無援となった軍艦は、革命軍の手に落ちようとしている。
「やむを得ん!!」
革命家ドラゴンは覇王色の覇気を発動して軍艦内の乗組員を威圧した。
探しているニコ・ロビンすら気絶する事となるが余裕がない彼に躊躇いは無い。
ルフィとウタ以外の将兵は気を失って無力化された。
「ううっ!!きっついのきたわね…」
意識が吹っ飛びそうになったウタ准将相当官は膝を付いて何とか耐えた。
左手で胸を右手でマイクを握り締めた彼女は実力差を嫌でも思い知っただろう。
「おれも行きます!!」
「サボ、コアラと共に船を守ってくれ。まだ何かあるかもしれない」
参謀総長も軍艦に乗り込もうとしたのを制止したドラゴンは最後に乗船した。
そこには膝を付き能力で疲労して息を漏らす女に武器を突き付ける部下たちが居た。
「これだけやってくれた以上、分かってるんだろうな?」
「ふふふ、海軍本部の将官がそんな脅しに屈すると思う?」
明らかに激高して飛び掛かってきそうな革命軍主力のカラスにウタは退かなかった。
実力差があると分かっていながら彼らを煽る余裕は残っていた。
痺れを切らした彼らはドラゴンがこの場に居なかったら彼女を攻撃していただろう。
「君は…やはりウタか…」
「あははははは……これが本物か♪参ったわね…勝てる気がしないの♪」
ドラゴンを間近で目撃した彼女は自分がいかに弱いのか思い知った。
「残念でした♪この艦隊にクロコダイルは乗ってないわよ♪ざまぁみなさい♪」
「私はニコ・ロビンを保護しに来たのだ」
「ニコ・ロビンなんて乗ってないわよ♪骨折り損のくたびれ儲け♪残念でした♪」
だからといってニコ・ロビンを分け渡すほどウタの心は折れていない。
予想通りの返答を受けたドラゴンも退くわけには行かない!
「おいウタ!!ロビンが覇気を喰らって痙攣してるんだがどうすればいい!?」
お互いに退けないせいですぐにでも血が流れる一触即発な空気を破った男は叫んだ。
無抵抗で寝ていたニコ・ロビンが覇王色の覇気を喰らって痙攣してしまったと。
ドラゴンも革命軍主力もまさか彼女とすぐ逢えると思っていなかった。
幼少期の手配書の写真に面影がある女を目撃して一瞬だけ硬直して動けなくなった。
「バカルフィ!!」
隠し通そうとしたロビンを運んできた幼馴染に激怒したウタは能力を発動させた。
風に守護されているドラゴンとルフィ以外はウタワールドに心が取り込まれた。
わざわざマイクを死守したのは、軍艦内にある音響装置で敵船に歌を届ける為だ。
さきほどの会話で地味に歌っていたウタは虎視眈々とドラゴンの隙を狙っていた。
ところがルフィがやらかしたので奇襲に失敗してでもドラゴン以外を無力化させた。
「誰だ?この刺青のおっさん?」
「革命家ドラゴン、世界政府の秩序を崩壊させようとしている悪い奴よ」
「ふーん、お前!悪い奴なのか!?」
知識も無く常識も知らない無垢なルフィに問われたドラゴンは黙り込んだ。
言っている事は間違っていないし、下手に口を出せばロビンの命が危うい。
なにより実の息子に向かってどんな反応すればいいか困ってしまった。
すこしだけ考え込んだ彼は絞り出すように返答をする。
「悪い奴ではない、世界から追われているニコ・ロビンを保護しにきたのだ」
「……嘘は言ってないみたいだな」
ニコ・ロビンの存在を知ってからウタが豹変したと思っているルフィ。
何とかして彼女を元に戻すきっかけを探しててようやくその願いが叶いそうだった。
本能で男を確認して大丈夫だと判断し、恩人であるロビンを彼に託そうとした。
「ルフィ!!何があってもニコ・ロビンを渡さないで!!」
不眠錠を飲んだウタは、眉間に皺を寄せて罵倒する様にルフィに釘を刺した。
ウタの歌声で精神を掴まれて意識を失った肉塊が次々と立ち上がっていく。
革命軍の主力はおろか、サカズキ大将の配下である海兵たちをも動かしていた。
「“オハラの意志”を途絶えさせるわけにはいかん!!」
「“オハラの意志”は必ず途絶えさせる!!例えここで全滅してでも!!」
ニコ・ロビンにぶつける想いは2人とも同等だ。
男は世界政府によって犠牲になった考古学者の想いを次世代に繋げる為に。
女は禁忌を犯して世界政府の秩序を崩壊させようとする想いを途絶えさせる為に。
決して退けない戦闘が始まろうとしていた。