「正義」の行方1
コハルvsマシロ==================
ツルギが不意に感じ取った嫌な予感によって“菓子”を避け無事で済んだ一方
ハスミやマシロ、そして大勢の正義実現委員は完全に「砂漠の砂糖」の魔の手に絡められてしまった。
しかし正義実現委員会は、ツルギ以外の全員が「砂糖」に蝕まれているわけでは無かった。砂糖菓子を警戒する委員長の姿や豹変しおかしくなっていく仲間の姿を見てなんとなく手をつけられなかった者も、確かに存在したのだ。
仲正イチカ、ツルギとイチカを特に慕っている正義実現委員達、そして今となっては“砂漠の魔女”と呼ばれカルテルの中心人物へと堕ちてしまったハナコと同じ「補修授業部」の友人コハル。
彼女たち正気を保っている正義実現委員会は、“アビドスを倒すため”ではなく“正義を見失った仲間達の目を覚ます”ために反アビドス側として先生たちに協力し戦うことを決めたのだった…
そして遂に始まった現アビドス勢力との戦い。相手は自らの精神を満たす“砂”のために、ツルギが普段見せる狂気よりもっと悍ましい狂気を孕みながら襲いかかって来たのだった。
「私たちの希望を奪うなああああっ!」
「この人でなし共め…!みんなの幸せは絶対に渡さないっ!」
「こんなに楽しくて美味しいもの、他にないというのに…この幸福を知らぬ哀れな方々に、砂糖の素晴らしさをしっかり教えて差し上げましょう!」
イチカ「うわぁ…これぞ見る地獄ってやつっすかね〜?あんなに目を爛々とさせながらおっそろしい事言ってこっち来てるっすよ?」
コハル「そ、それでもノコノコ逃げるわけにはいかないでしょ!私はヒフミとアズサと合流してハナコを助ける!イチカだって、正義実現委員のみんなを助けるつもりなんでしょ!」
「ま、それは当然っすよ。…大事なみんなを狂わせた連中なんか、正直なところ一発シメてやりたいっすけど…それは“やるべき人”がやるべきだと、私は理解してるんで。“エリート”にしか出来ない大仕事、任せたっすよ。」
「っ!当然よ!あたしがあのヘンタイバカの首根っこ引き摺ってくるところしっかり見なさいよね!」
ツルギ「…お前ら、覚悟は決めたか?」
正実モブA「は、はいっ!」
B「一生懸命頑張ります!」
C「仲間を…友達を…正義を…」
全員「「「再び取り戻すために!」」」
「それでいい。私はハスミとマシロを優先する。お前らは無理しない程度にあいつらを捕まえて、さっき渡した“光の飴”を食わせろ。速攻ではないだろうがある程度の鎮静化は出来るはずだ。」
「「「了解しましたっ!」」」
「さあ、見失った正義をもう一度叩き込んでやる時間だ。行くぞッ!」
「「「「「おおおおおーっ!」」」」」
赤と黒で彩られた少数精鋭は、かつて同じ色をしていたはずの水色(アビドスカラー)に染まった大軍勢と交戦を始める。流石はツルギ率いる精鋭達と言ったところか、多勢に無勢と言わせぬ調子で次々と“砂糖漬け”になった仲間を捕らえ光の飴を投与することで無力化していく。しかし“快調”、とまではいかなかった。
(ドギュンッ!)
正実モブA「い゛づぅっ!?」
コハル「だっ、大丈夫!?高い所からのSR射撃…ということはまさか!?」
アビドスの校舎近くに建造された、巨大な「砂の砦」
その屋上には傍に砂糖を置き、スコープを覗いて着実に正気の委員達を撃ち抜いていく1人のスナイパーがいた…その名は静山マシロ。ハスミ達と同じく“正義の行方を見失った者”である。
彼女もまたアビドスカラーである水色を基調とした制服を着ている…皮肉にもそのお陰で、青空広がるキヴォトスでは赤と黒の正義実現委員会の制服よりカモフラージュしており、正気の委員達は混戦状態ということもあって狙撃位置を把握することが出来ずにいた。ツルギが一直線にハスミの所へ向かえないのも、マシロとハスミのダブル狙撃を避けるため思うように進めないからであった。
マシロ「ツルギ先輩の足止めをしつつ、これで8人目…駆け寄って来たのはコハルさんですか。相変わらず隙が多いですね。昔の好で脳天だけは許してあげます。とりあえず腕を動かせなくしましょうか。」
そう呟きながら狙いを定め引き金に指をかけるマシロ。だが彼女のことを知っていたコハルは、撃たれてダウンしたAの腕を引っ張りながら後ろに倒れ込んで弾を避けた。
「はぁ…そんな小さい身体で他の人を守りながら戦えるとでも?笑えませんね。貴女も、他の委員達も、全員二度と帰れなくしてあげます…っ!」
弾は外れたが、今から当てれば何の問題もない。スコープの先のコハルは駆けつけた衛生兵担当の委員に負傷したAを預けている。
(それほど大きな隙、突かれれば自分の小さい体に風穴が開くくらい彼女も分かっていると思っていたのですが…)
内心憐れみと呆れを覚え、いつでも始末できるコハルよりも先にAを保護した衛生兵から始末しようとスコープをずらそうとしたその時…
(キッ!)
──視た
涙目のコハルが、スコープ越しのこの目を睨んだ──
「ッ…!?」
間近でコハルの顔を見たマシロは、思わずスコープから目を離してしまう。動揺、困惑、不安が襲い掛かってきた。ただでさえ砂糖で不安定な心が悲鳴を上げ始める。
「何…いまのっ…──あ゛、ぐぅっ…!?さ、砂糖…砂糖っ!」
あまりの頭痛に頭を左手で抑えながら、傍に置いた砂糖を右手で掴むとガリガリと噛んでいく。徐々に染み渡る多幸感と安定感で思考を少し戻したマシロは、急いでスコープを覗き直す。
──いない。コハルがいない。
「ど、どこ…!?どこだっ!」
混戦状態と晴れぬ動揺で誰がどれかよく分からない。あの睨みつけたコハルの顔は、下手すれば暴れまくるツルギよりも自分の心を揺らしてくる。
「早く始末しないと…!」
焦燥─焦燥─焦燥
「どこだっ!どこにいるんだっ!」
始末─始末─「マシロッ!!!」
「はっ…?」
コハルの声が
横から聞こえた
「あんた…あんたってやつ、はぁっ!」
スコープから目を離し、横を見る。そこには涙を浮かべつつあの睨んだ顔で仁王立ちするコハルがいた。マシロは急いでライフルを手に持つと立っているコハルに向け…
「コハルゥッ!」
「ふざけたことしてんじゃないわよこのバカッ!あんた今何してるか分かってんの!?」
「…は?」
まるで喧嘩した子供のような口ぶりで、泣きながらマシロに向かい銃を向けることなく涙声で怒鳴る。
「あんたいつも言ってたじゃない!正義ってなんなのかって!いっつも頑張って調べて、先輩たちを見習ってたじゃない!こんなのっ…“こんなの正義じゃないって分かってんでしょうがぁっ!”」
「ッ!?」
正義じゃ…ない…?
いいや、そんなはずがない!
「う、うるさいですっ!貴女に何が分かるんですか!砂糖という素晴らしいものを知ることもせずに勝手なことを言わないでください!い、今捕まるなら撃ちませんから、銃を捨てて座っ…」
「素晴らしい!?どこが素晴らしいのよっ!そんなもののせいでみんなどうなってんのか見たことあんの!?」
「この目でハッキリ見てます!みんな楽しくて、救われて、不安や恐怖など感じない生活を送る…これこそ正義が実現されて…」
「されてるわけないでしょぉ゛っ!」
「なっ…!?」
「あんたはっ!砂糖欲しさに強盗したり!友達を傷つけたり!依存しておかしくなることが正義だって言うの!?違うでしょ!?こんなもの、“悪”でしかないのよっ!もう分かってるのに意地張るんじゃないわよバカぁっ!」
そう泣き叫ぶように訴えたコハルは、耐えきれずに座り込み銃を手から離した
─────…
正義実現委員会がティーパーティからの命令で1日休むことになった時お世話になった読書愛好家のあの人たちが、スイーツキッチンカーを襲い砂糖強盗している所を見た
普段温厚な正義実現委員の子が、カッとなり友人を殴ってしまったと泣いている所を見た
ハスミ先輩が凄く不機嫌な様子で不良生徒を必要以上に痛めつけた後、異常な量のスイーツを摂取している所を見た
そういえば、私は全部見ていたんだ。
この砂糖が“悪”である場面を…
私が今いるこの砂の砦…いつかの夏に作った砂の城よりも大きく頑丈で、火を使えば砂糖をいつでも摂取できる素敵な砦だったから気に入っていたはずなのに…何故だろう。
今は全く魅力に感じない。
「あれ…?」
気が付けば、マシロの目からは涙が溢れていた。コハルが泣きじゃくるその姿を見ると、マシロもライフルを手から落とした。
「正義…そうだ、私って、正義のために…今までやってきてた…」
身体はあの砂糖、「砂漠の砂糖」を欲している。置いてある無線機からアビドス側の援護を求める声が聞こえる。
でも…でも!
「私は…!正義実現委員会、のっ…!」
落としたライフルを拾い上げる
「静山っ、マシロですっ゛!」
それを思いっきり無線機に向かって振り下ろした。
「ぐずっ……?ま、マシロ…?」
「はぁっ…はぁっ…!」
マシロは片手でライフルを持ちながら粉々になった無線機の前で立ち尽くし、もう片方の手で置いてあった砂糖を拾うと…
「悪は、滅すべきっ!」
それを思いっきり遠くに放り投げた。
「ま、マシロ…!マシロぉっ!」
「す、すみません、でした…コハルさん…私は、道を踏み外してしまっていました…貴女のおかげです、ね…ありがと…うぅっ!」
マシロはその場に崩れ落ちる
「ちょ、ちょっと!しっかりしなさいよっ!ねえっ!」
「やっぱり私、正義とは程遠いです…砂糖を跳ね除けたのに、体が欲しがって…かはっ!」
「そんな…!っ、衛生兵!近くにある砂の砦にきて!マシロが正気に戻ったの!でも禁断症状で大変なのよっ!」
衛生モブ「了解しました!すぐそちらに向かいます!」
コハルは、ハナコという大事な友達の前にもう1人の大事な友達を救出した。
接点はあまり深く無いものの、同じ学年で先輩達を尊敬する仲間であり友人ではあったマシロの“正義”を見つけたのだ。
しかし正義の行方を見失った者はまだいる…
そしてツルギを援護していたイチカに、堕ちた正義実現委員会とは違う新たな脅威が近づいていた…
??「さ〜!」
???「いざ!」
「「砂糖温泉開発の時だーッ!!!」」
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