月雪ミヤコの正義は何処にある?
「モエ……いいえ、モエだけではありません。サキ、ミユ、これはどういうことですか?」
「どういうって……」
仲良く子ウサギ公園に帰って来た3人を相手に、ミヤコは問い詰めた。
その手にはミヤコが覚えているよりもずっと軽くなった財布が握られている。
「ああ! お金のこと? ごめんごめんちょっと使いすぎちゃってさぁ」
悪びれもせずに答えるモエ。
個人の手持ちとはまた別の小隊としての共有財産に手を付けたというのに、その顔には罪悪感などは欠片も見られない。
「また今度補填しとくよ、それでいいでしょ?」
「良いわけないでしょう! いったい何に使ったんですか?」
埒が明かないとその金の用途について尋ねる。
モエなら認可されていないような違法な爆弾などを仕入れていてもおかしくはない。
だが帰ってきた答えにミヤコは耳を疑った。
「何って……ケーキだよケーキ」
「は……け、ケーキ?」
「そう! この間空調システム修理したケーキ屋あったじゃん? あそこのケーキマジで美味いから、ここんとこ毎日通ってるの」
「ケーキ……嘘でしょう? たかがケーキで」
「ミヤコ……『たかが』ケーキなんて言うものじゃない。あれは素晴らしいものだ。パフェやシュークリームだって絶品だし、行列だって出来るくらいに人気もある店なんだぞ」
「……うん」
愕然と呟いたミヤコの言葉に反応したのはサキだ。
隣のミユもうんうんと頷いており、2人も同様の意見を持っていることが伺える。
「貴女たちまで……もういいです。お金はきちんと補填してくださいよ」
「おっけーおっけー、それくらいやるよ。まだまだ食べたりないし」
金庫のお金を使い果たすほどの愚行に、ミヤコは言葉を失った。
だが既に無いものをこれ以上追及したところで、納得できる答えなど帰ってこないのだろう。
理解できない行動に頭を抱え、無理にでも話を切り替えるしかなかった。
「……明日も朝から動きます。今日のところはソラさんから頂いた廃棄弁当があるので、それを食べてください」
「ええ~、焼き肉弁当じゃん、これ味薄くて好きじゃないんだよね」
貴重な焼き肉弁当を前に、モエが愚痴をこぼす。
濃厚なタレが掛かっている肉を前に味が薄いと宣うのを見て、重症だとミヤコはため息を吐く。
期限切れの廃棄だとしても、厚意でもらったものに対して、あまりにも失礼な態度である。
これは反省してもらわなければならない。
「3人とも、しばらくケーキ屋に近寄ることは禁止します。いいですね?」
「はあっ!? そんなのあり?」
「ふざけるなよミヤコ! 私たちがどれだけあのケーキを楽しみにしてると思ってる?」
「……人の心が無い」
「なんとでも言ってください。これはRABBIT小隊として決定事項です」
これを荒げて反論してくる3人をピシャリと切り捨てて、ミヤコはリーダーとして判断を下した。
今はまだ金が少なくなっただけだが、これをこのまま見過ごしてしまえば、小隊としての活動自体が出来なくなるのだから当然の話である。
「……」
「……」
「……」
恨みがましい目で見つめてくる3人だが、ミヤコは決定を撤回するつもりはない。
いくら不満だろうと、生活を破綻させるような嗜好品は慎むべきだからだ。
「私は今日は別のテントで寝ます。3人は頭を冷やしてください」
一言告げて、ミヤコはテントを出た。
引き留める声は無かった。
「……みんな、どうしてしまったんでしょう」
ぽつりと呟くが、ミヤコの欲する答えなどはない。
何かがおかしいのに、どうしておかしくなったのかが分からずモヤモヤとする。
言葉は通じるのに会話ができていないようなチグハグさがあった。
少し前まで、こんなはずではなかったのに、だ。
「ぴょんこ、あなたはどう思いますか?」
ペットのぴょんこに質問するが、当然のことながら喋ることのできないウサギに返事などできない。
弁当の付け合わせに入っていた野菜の切れ端をもしゃもしゃと頬張るぴょんこ。
頬を膨らませて食べる姿は愛らしく、ミヤコのささくれた心を癒してくれる。
「ふふ、あなたはいつも通りですね。それがいいのですが」
――タァンッ!
軽い、澄んだ音がミヤコの耳を通り抜けていく。
同時に、目の前のぴょんこがはじかれたように跳ねて、地面に転がった。
「……え? ぴょんこ?」
ピクピクと痙攣するぴょんこ。
その体からは血が流れており、白い毛皮を噴き出す血で赤く染めていた。
「あう……外した……」
「ミユ、ちゃんと狙えよ、下っ手くそだなお前!」
「くひひっ、狙撃手が狙撃外すとか狙撃手止やめたら?」
「的が小さくてちょっと狙いがぶれただけ……次は頭に当てる……」
「あ、ああああ……」
震える手でぴょんこを抱える。
幸いにも体を掠めただけのようだが、小動物では致命傷になってもおかしくはない出血量だった。
「助けます! 必ず助けますからねぴょんこ!」
声を掛けながらミヤコは走り出した。
ぴょんこを治療してくれる病院へと運ぶために、なりふり構ってはいられない。
「あははははは!」
耳の端で誰かが何かを言っている声は聞こえても、今のミヤコにはそれを言語として認識できない。
獣の嗤い声など、理解できるはずもない。
―――――――――――――――――――
動物病院までノンストップで走り続け、閉まりかけていたドアをこじ開けて獣医に頼った。
緊急の手術を終えてぴょんこが一命を取り留めて峠を越すのを終えた時、気が付けば既に翌日になっていて、時間も昼に差し掛かろうとしている。
そのままぴょんこを病院に預け、ミヤコは子ウサギ公園まで戻って来ていた。
一睡もせずに夜を越したミヤコは、ぴょんこの血で赤黒く染まって乾いた服のままだった。
「あーケーキ美味いな」
「くひひっ、やめられないとまらない、まさに麻薬だよねぇ」
「……!……!」
ミヤコが見たものは、昼に差し掛かろうという時間帯だというのに、ケーキでパーティ―を繰り広げる3人の姿だった。
昨日言った働きもせず、禁止と言ったケーキを貪り、享楽に耽っている。
「くひひっ……お、ミヤコじゃん。どしたのそんな汚い恰好して。風呂入ったら?」
「……どうして、ぴょんこを撃ったのですか?」
「ぴょんこ? ……ああ! あれはミヤコが悪いでしょ、ケーキ禁止とか言うからさあ」
「私たちもイライラしてたからな。悪かったよ」
「……」
ミユもうんうんと頷いている。
「イライラ……そんな、ことで?」
「なにおう! 私たちにだって言い分はあるぞ? 日々の生きがいのケーキを奪われたら反抗するのは仕方がないだろうが。ミヤコも『たかが』ウサギの一匹や二匹でうるさく言い過ぎだろう」
「……そんな」
ミヤコにはもう何が何だか分からなかった。
サキもモエも言っていることが理解できない。
「ミヤコちゃん……ミヤコちゃんの分のケーキ……買ってきた、から食べて……」
「くひひっ、ミユは優しいよね、あんなこと言ったミヤコにも分け与えるんだから」
「ミヤコちゃんは……知らないだけだし……」
そっと差し出されたミユの手には、きれいなケーキが皿に載っている。
甘い香りが漂い、昨日の夜から何も食べておらず空腹になっていたミヤコを刺激する。
きっと美味しいのだろう。
この3人がこれほど求めるものなのだから、とても美味しいのだと、ミヤコは理解していた。
「いりません」
パン、とミヤコはケーキを叩き落した。
いくら空腹でも、こんなものを欲しがりたくはない。
地面に落ちて、べちゃりと形が崩れたケーキに3人から悲鳴が上がる。
「酷いよミヤコちゃん……もったいない……」
「ミユ……? 貴女なにを!?」
ミユは犬のようにうずくまり、地面に落ちたケーキを食べ始めた。
崩れて汚れて砂まみれになったケーキを、それでも美味しそうに味わうのだ。
「そんな……」
ガリゴリと口の中で砂利が音を立てるが、気にした様子もなく舌を這わせるミユの姿に、ミヤコは絶句する。
いくらなんでもおかしい。
「ここまでケーキを欲しがるだなんて……ケーキ? ケーキが原因?」
異常なまでのケーキに対する執着に、ミヤコはようやくその原因に気付いた。
みんなが変わってしまったのは、あのケーキを食べてからだったということに。
『新製品のケーキで、味には自信ありますよ』
「……そういう、ことですか」
あの店長は、にこやかな顔をして、こうしておかしくなるのを見て嗤っていたのだ!
「ゆるせません」
こんなおぞましいものを食べさせて私腹を肥やしている人間を、赦すことはできない。
怒りのままに、ミヤコは言葉を発した。
「モエ、お金はまだ残っていますか?」
「ええ? あーもう無いや、すっからかん! いっそ清々しいくらいだね」
「なんだと!? おいモエどうする? お金がないとケーキ食べられないじゃないか!」
どうしようどうしよう、と頭を抱える少女たちに、ミヤコは告げた。
「お金が無くても、ケーキを食べる方法はあるでしょう?」
――売っているケーキ屋を襲撃すれば、金など払わなくても食べ放題だ。
天啓を得たかのように、3人の少女たちは喜んで頷いたのだった。
―――――――――――――――――
電灯の切れたくらい部屋の中で、鈍い音が響く。
「ううっ……もう、やめ」
「やめません。早く話してください。みんなを元に戻す方法を」
「し、知らな、あぎっ」
「まだしらを切るつもりですか」
悲鳴を上げるケーキ屋の店長の頬を殴り、望む答えを聞き出そうとするミヤコ。
助けを求めても聞き入れられることはなく、尋問の耐性などない店長は知らぬ存ぜぬと返すしかないのに、さらに暴行を加えられていた。
「次は指を折ります」
「ひぃっ……」
「ちょっとちょっと~、いくらなんでも、それはいただけないなぁ」
真横から聞こえて来た声に、ミヤコは店長から手を放し、弾かれたように飛びのいた。
「やんちゃするにも限度がある。職人の手を傷つけるなんてやっちゃダメでしょお?」
「あなた、は……」
気付けなかった。
いくら尋問に意識を向けていたとはいえ、SRTとして厳しい訓練を受けて来たミヤコが、ここまで近づかれるまで存在に気付けなかったことに警戒心が高まる。
「その制服と校章、アビドスですか」
「そだよ~、小鳥遊ホシノだよ、よろしく~。そっちは……SRT? 潰れて終わったところじゃん。まだその制服着てるの?」
「っ!?」
ふうん、と率直な疑問を浮かべたホシノだったが、それがミヤコの癇に障った。
「SRTは、まだ終わっていません。例え廃校処分になったとしても、正義の志はまだ消えていません!」
「へえ? 正義? それってさぁ、罪もない市民を自分勝手な気分で痛めつけることなの? 随分とまあ楽しそうだったけどさ」
スッとホシノが指さした先には、尋問で顔を腫らした店長が倒れている。
傍から見ればただの押し入り強盗である。
「困るんだよねぇ、おじさんが頼んで頑張ってもらっているケーキ屋をこんなボロボロにされるとさ」
「あなた、が……?」
「そう、いわゆるスポンサーってやつ。気付いてなかったの? アビドスのマークは店先に入れていたのに」
まだまだ知名度が足りないかなぁ、とぼやくホシノ。
だが続く言葉に、ミヤコの脳が沸騰する。
「せっかく美味しい砂糖を広めているんだからさぁ、覚えていってよ~」
「砂糖……」
「君の仲間の子たちも大好きな、みんなが夢中になる特別製。アビドスでしか取れない『砂漠の砂糖』だよ。このお店もそれを広めるためのものだよ~」
「……が」
「ん?」
「おまえがぁああっ!」
目の前に現れた元凶に、とてもではないが冷静ではいられない。
声を荒げるミヤコはその怒りのままに銃口をホシノに向ける。
だが
「おそいよ」
「がっ!?」
振り上げた腕に合わせるように下から蹴りを加えられ、弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。
直後にホシノの手に持つ盾がミヤコの顎先を掠め、脳が揺らされた。
「有名なFOX小隊ならともかく、SRTでも未熟ならこんなものかぁ~」
「ぐっ、うぐうっ!」
「裏に誰がいるかも気にせずに、自分の感情優先で尋問楽しむような子じゃあ仕方ないかな」
脳震盪で倒れたところに、ホシノの盾が背中に押し付けられて身動きが取れなくなる。
小柄な少女のホシノが片手で押さえているだけだというのに、巨岩が載っているかのようにびくともしない。
「でもそのガッツは気に入ったよ。アビドスに来ない?」
「いや、です……!」
「正義の名のもとに悪い人たちをこらしめたいんでしょ? なら来なよ、おじさんたちが認可してない粗悪品をばら撒こうとしている悪い人とかを相手に、思う存分戦ってくれていいんだよ?」
「お断りします!」
ホシノの言うことなど当てにできるものか。
粗悪品をばら撒くのは確かに悪だろう。
だがしかし、だからといってホシノの行いが善であるはずもなく、更なる悪行に加担させられるだけに決まっている。
「強情だねぇ……じゃあ外にいる他の子たちに聞いてみようか」
「っ!? それは……」
「みんなは賛同してくれると思うよ? このお店に置いてある程度の量なんて目じゃないくらいに、アビドスなら好きなだけ砂糖が食べられるんだからさ」
ケーキに、それに含まれる砂糖に異常に執着している今の3人ならば、ホシノの勧誘に是が非でもと賛同して付いていくだろう。
「こんなこと、ゆるされていいはずがない。きっと先生が黙っていません!」
「先生? あ~先生ねぇ、それを言われるとこっちも痛いなぁ」
頬を掻いて気まずげに苦笑するホシノ。
悪いことをしている自覚はあるらしい。
「じゃあ言ってみなよ」
「え……?」
ホシノが一台のスマホを取り出す。
そのカバーの特徴はミヤコのよく知るものだった。
「それは、私の……っ!」
「やっぱりロックしてるよねぇ、ハレちゃんお願い~」
いつの間にかスリ盗ったミヤコのスマホを掲げてホシノが何事かを口にすると、次の瞬間、なぜかスマホのロックが外れて待ち受け画面が立ち上がった。
「うへへへ、可愛いウサギちゃんじゃ~ん。ああ、ミヤコちゃんっていうんだねえ君」
「かえ、返してください!」
ミヤコの頬が赤く染まる。
怒りとはまた別の、自身の隠された秘密の部分に無造作に踏み入れられた羞恥心でだ。
「そんなに大声出さなくても、すぐに返すよ。ほら」
「あ、え……?」
伸ばしたミヤコの手に、ポンとスマホが載せられる。
その画面には電話のアプリが立ち上がっていて、相手の名前が表示されている。
「先生……」
「倒れて動けないミヤコちゃんのために、おじさんが準備してあげたよ。それじゃあ掛けてみようか?」
「……」
「指は折っていないんだから、その指を下ろせば先生に繋がるよ?」
「それ、は……」
「ほら、やりなよ」
顔を上げたミヤコの視線が、ホシノの視線と交錯する。
ホシノの鏡のように丸い瞳には、今のミヤコの姿がありありと映し出されていた。
「『SRTの看板を汚して幼気な市民を傷つけてしまったけど助けてください』って」
「~~~~~~~っ!!」
声にならない叫びがミヤコの喉から洩れる。
言えない。
言えるはずもない。
SRTが廃校になったとしても、正義を貫けるのならそれで良かった。
己の信念に殉じたのであれば、公園での野宿生活も廃棄弁当で空腹を紛らわせるのも苦ではなかった。
全ては正義のために。
助けを求める声を聞き逃さず、どんなときにも揺るがない正義。
だが今のミヤコは、自らその信念を裏切った。
正義を謳っていたはずのSRTで、その正義を信じているRABBIT小隊が、かつて糾弾したFOX小隊のようなことをしているのだ。
否、これはもっとひどい。
ミヤコは自身の怒りのままに暴力を振るい、その矛先を市民に向けた。
素面のままでやってしまったミヤコは、砂糖中毒によって突き動かされた他3人よりも尚性質が悪い。
「じれったいなぁ、もう」
「あっ!」
ポン、と横から伸びて来た手が通話ボタンを押す。
コール音が数回鳴り、電話がつながった。
『“……もしもし、ミヤコ?”』
「……も、もしもし、先生」
『“うん、どうしたの?”』
助けてほしいと声に出せたのなら、どれほど良かっただろうか。
凍り付いたようにその言葉はミヤコの口からは出て来ない。
「なんでも、無いんです。先生の声が聞きたくなって」
『“そう? 私も、ミヤコの声が聞けて良かった。RABBIT小隊の子たちも元気?”』
「元気です。モエがやり過ぎちゃったり、サキが怒ったり、ミユが目立たなくて落ち込んだりしてますけど、いつも通りです。だから……」
『“ミヤコは?”』
「え?」
『“ミヤコは、何か困ったことはない?”』
「……………大丈夫です。先生も忙しいのに電話してすみません」
『“気にしなくていいよ。私は先生だから、生徒みんなの助けになりたいんだ”』
その言葉に、嘘はないのだろう。
生徒の夢を応援し、悪いことをしたら叱り、大人としての責任を果たすのだ。
今まで先生がやってきたことを、交流した時間は短くともミヤコは知っている。
(ああ……眩しい)
それを何の衒いもなく言える先生だからこそ、今のミヤコは言葉にはできない。
「それでは先生……最近は寒さも厳しくなってきたので、風邪など引かないように気を付けください」
『“うん、ミヤコも気を付けてね。何かあったら連絡するんだよ?”』
「……はい」
通話が切れる。
ツーツーと電子音が耳に残る中、黙って聞いていたホシノが口を開いた。
「良かったの? 助けを求めなくて」
「言えるはずがないでしょう! こんな、こんな今の自分を見せられるはずがない!」
震える声でスマホを握りしめながら、ミヤコは叫んだ。
「あなたのせいだ! あなたが、こんなことをするから……っ!」
「そうだねぇ」
「みんなを元に戻す方法を教えてください、でないと私は……」
「私は?」
「誰にも合わせる顔がなくなる……」
せめて3人を助けないと、ミヤコのやったことがただの暴挙に落ちてしまう。
藁にも縋る気持ちでホシノに視線を向ける。
「それはミヤコちゃんの頑張り次第かなぁ?」
「私の……?」
「『諦めなければ夢は叶う』っていうじゃない? だからミヤコちゃんも諦めずに頑張れば、もしかしたら叶うかもしれないよ」
「それは、つまり……」
ミヤコの問いに、ホシノは明言せず、笑みを深めるだけだった。
「ようこそアビドスへ、歓迎するよ」
ホシノのその言葉に、ミヤコは声を上げることもできず俯くしかなかった。
差し伸べられたホシノの手を、握り返すことも振り払うこともできない。
「ミヤコちゃん……SRTの、ううん、君自身の正義を貫ける場所に案内してあげる。期待しているよ」
「うう……ううううううっ!」
ホシノの期待などミヤコには何の価値もなく、皮肉にしか聞こえない。
惨めな自分が恥ずかしくて仕方がなく、ミヤコは蹲って呻きをもらすことしかできないのだった。
私の……私たちの正義は、いったい何処へ行ってしまったのだろうか……?