加筆まとめ⑨

加筆まとめ⑨

無限追跡ごっこ

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虚圏


 虚圏に突入して早々に遭遇した破面達は石田と茶渡によって撃破された。

 地下に造られた広間の天井が崩れ始め、瓦礫が降り注ぐ中、カワキは石田の台詞をなぞるようにボソリと呟いた。


『“真に怖れるべきは死神ではなく滅却師だ”、か……』


 その言葉は当たらずも遠からずだった。

 ——あの言葉は私への牽制? それとも遠回しな虚圏への警告か?

 黒腔内での会話の反応を見た限り、石田は見えざる帝国の情報は聞いていないように思えた。

 だが、反応自体が演技だとすれば——


『石田くんは役者になれるね。大したものだ』

「確かにアイツ、言うことがいちいち芝居がかってるけどよ! 今はンなこと言ってる場合じゃねえって!!」


 降ってくる瓦礫から頭を庇いながら一護が叫ぶ。

 崩れていく建物から脱出するべく、四人は外へ繋がっていると思しき階段へ駆けていった。


「とりあえず階段だ! 急ぐぞ!!」


◇◇◇


 外に脱出して暫く、遠くに見える宮殿のような建造物を目指していた一護達。

 しかし一向に辿り着く気配は無く、砂漠で足を止めて休んでいたところ、四人の耳に悲鳴が届いた。


「やあああああああ!!!」


 振り返ると、頭からボロ布を被った子供が必死に逃げる姿が見えた。

 その背後から巨大な黒い蛇に似た生物や大きな面に手足が生えたかのような破面、そしてクワガタのような面の破面が迫る。


「ばははははははははは!!!」


 砂漠の砂を巻き上げながら、奇妙な集団が子供を追い回す。


『あれは……』


 見たところ蛇のような生物は除いて、他は破面のようだ。カワキは目の前の光景を見て、恐らくは共喰いだろうと判断した。

 勝手に潰し合っている分には害は無い。放置して先に進もうと言いかけた矢先——


「……に……人間……!? まさか……! 僕らの他に人間が!? そんな筈……」

「考えんのは後だ! 助けるぞ!!」

『…………』


 ——石田くんも一護も節穴なのか?

 駆け出した一護達を見て、まさかと思いながらもカワキは一護の後に続いた。

 集団に追いついた一護が布に包んだままの斬月をフルスイングし、大きな面の破面を顔から吹き飛ばす。


「ぼほが!!!」

「シュッ!?」


 吹き飛ばされた破面を見て、クワガタのような面の破面が奇声を上げた。

 カワキは珍妙な集団は無視し、飛廉脚を駆使して逃げる子供を先回りする。


⦅この布を剥いで破面だとわかれば茶番も終わる。全く、一護には困ったものだ⦆


 月の光に照らされた憂鬱そうな表情は、捉え方によっては子供を心配している風にも見えた。

 カワキは容易く追いつき、細腕で子猫を掴むように子供を捕獲する。


「ああ〜〜! な……何スかあんた!? イキナリ何するんスか!!」

『騒がないで。“今は”君に危害を加える気は無い。大人しくしていてくれるかな』


 カワキ達の後ろで白い砂が大波のようにうねって、月夜の砂漠に絹を裂いたような悲鳴が響き渡った。


「イヤアアアアア!!!」


 茶渡が巨大な黒い蛇のような生物を持ち上げ、石田がクワガタの面の破面に向けて弓を構え、一護が大きな面の破面を足蹴にした。

 クワガタのような面の破面が叫ぶ。


「ああっ! 痛い痛い! さきっぽが!! さきっぽがちょっとあたってる!!!」


 その様子を見て、カワキに掴まれた子供がジタバタと藻がいて叫んだ。

 だが、カワキの拘束は弛まない。


「や……やめれーーーー!! やめてけろーーーー!!!」


 暴れた拍子で被っていたボロ布が取れ、大きな傷がある少女の顔が表れる。その頭には割れた仮面が付いていた。


「ネルたつがあんたらに何スただ!! イズワルはやめてけろっ!!!」

「…仮面…! ……オマエ……虚か!?」

『……何だ。やっぱり一護も気付いていなかったのか。そんなことだと思ったよ』


◇◇◇


「ほんとーーにっ申ス分けあるまスんでスたっ!!」


 少女と共に、少女を追い回していた破面達が深々と土下座した。


「ネルたつの無限追跡ごっこがまさかそんな誤解を生むだなんてつッとも思いませんで……」

『……共喰いではなく?』

「怖いこと言わねえで欲しいっス!」


 “無限追跡ごっこ”なる名称の遊びに、首を傾げたカワキ。

 ボロ布を纏った少女——ネルが汗をかきながら弁明する。


「いかんせん、虚圏にはゴラクっつうのがねえもんでハア……」

「ごっこって……オマエちょっと泣いてたじゃねえか」

「はいィ! ネルはドMだもんでちょっと泣くぐらい追っかけてもらわねえと楽スくねえんス!」


 笑顔で答えたネルの言葉に、一護が目を吊り上げて大きな面の破面に拳を振るう。

 ——ゴッ! と鈍い音が響いた。


「ガキになんつー言葉教えてんだ!」

「おばッ!」


 カワキは一気に興味を失ったようで、空に浮かんだ三日月を眺めながらぼんやりと喧騒を聞いていた。

 不思議そうな顔をした石田が、ネルに名を訊ねる。


「その“ネル”ってのが君の名前かい?」

「はいィ! ネルは破面のネル・トゥと申スまス!!」

「…………。……破面……!」


 一護はネルを観察するかのように、じっとその顔を見つめた。

 ネルを追い回していた破面達も、それに続いて自己紹介に移る。


「ネルの兄のペッシェです」

「その兄のドンドチャッカでヤンス」

「そんで、後ろのデケえのがペットのバワバワっス!」


 破面達がサーカスの決めポーズのようにバワバワを手で指し示した。

 突っ込みどころがあり過ぎる自己紹介に一護が堪らず口を挟む。


「待て待て待て待て」

「何スか?」

「破面に兄妹とかペットとかあんのかよ!?」


 虚の成り立ちを考えれば普通は無いなと考えながらも、カワキは指摘しなかった。


「失礼な! あるスよ、そんくらい!」


 カワキはネル達が騒ぐ声を聞き流す。

 茶番が終わる時を待ちながら、カワキは彼方に見える宮殿をじっと見つめていた。


***

カワキ…石田のことを策士だと思ってる。ネルにはあまり興味が無い。言ってることが完全に人質を取った犯人。どうでもよくなるとツッコミすらしてくれないスーパードライ。


ネル…カワキへの謎の好感度の高さはこの時の事が関連してそうな雰囲気。カワキはネルには興味ないけど、ネリエルには関心ありそうなのでバレなくて良かったのかもしれない。


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