加筆まとめ⑨

加筆まとめ⑨

虚圏への道のり

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地下勉強部屋


「我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実存を縛る刃 黒髪の羊飼い 縛り首の椅子 叢雲来たりて 我・鴇を打つ」


 朗々と響く浦原の詠唱に合わせて、二本の柱のようなものが光を放ち始めた。

 柱を基点にして青白い黒腔が開く様を、一護達は柱の下方から見守っている。


⦅この短期間で見事なものだ⦆


 カワキは感嘆と共に、頭の中にある情報(ダーテン)に書かれた浦原への要警戒の文字を強調した。

 柱の上からしゃがんでこちらを見遣った浦原がこの先の説明をする。


「破面達が往き来するこの穴は、名を“黒腔”と言います。中に道は無く霊子の乱気流が渦巻いています」


 浦原の説明に、一護達四人は真剣な顔で耳を傾ける。


「霊子で足場を作って進んで下さい。暗がりに向かって進めば虚圏に着く筈です」

「——わかった」


 頷いた一護が暫し押し黙って、おもむろに「……浦原さん」と口を開いた。

 柱の上に居る浦原に視線を遣って、一護は言う。


「ウチの連中のこと、頼んでいいか。俺のこと心配しないように、上手いこと言ってやって欲しいんだ」

「……わかりました」


 一護の頼みを受けた浦原が頷いて質問を返した。


「……お友達には?」

「……あいつらには……帰ってから謝る」


 その言葉に意味深な笑みを浮かべた浦原が「……わかりました」と頷いた。

 その様子を確認して、一護達は黒腔へと飛び込んだ。


「行くぜ!」


◇◇◇

黒腔


 一護を先頭にその後方を茶渡が走る。

 一護の霊子によって作られた足場は砂糖菓子のように脆く、両端から崩れている。

 カワキはその様に信じ難いものを見る目を向けてポツリと呟いた。


『——なんて酷い有り様だ……』


 滅却師にとって霊子操作は基本中の基本である。特に、カワキの得意とする分野でもあった。

 それ故に、これほどまでに粗末なことがあるものなのかと、衝撃を受けたのだ。

 カワキが驚きと呆れの視線を向けた先、ガシャア! と大きな音を響かせて茶渡の足元が抜けた。


「うっ!?」


 それはそうもなるだろうと、哀れみとも侮蔑ともつかない表情でカワキはその様子を見ていた。

 音に振り返った一護が慌てて足を止め、振り返る。


「大丈夫か! チャド!!」


 危うく暗闇が広がる世界へ落下しかけた茶渡が、既のところで何とか這い上がって答えた。


「ム……! 問題ない……」


 石田が、一護の傍を自力で作った足場で流れるように移動し「……やれやれ……」と呆れた様子で溜息交じりに呟いた。


「無様だな。足場くらい、もう少しまともに作れないのか」

『全くだ……こんなに脆くて見苦しい足場しか作れないなんて……』


 石田と同じく、自力で足場を作って移動しているカワキが引いた目で一護を見る。

 二人にチクチクと痛いところを突かれ、一護がむきになって声を荒げた。


「ウルセーな! 俺ァこういうの苦手なんだよ! つーか何だよ、オマエらのソレ! オマエら二人だけズルじゃねーか!!」


 一護の叫びに、眼鏡をクイっと押し上げて移動しながら石田が答えた。

 カワキも石田の言葉に続いて言う。


「飛廉脚の応用だよ。このくらい訳ない」

『一護だって理論上は可能な筈だよ。その様子ではまともに動けないだろうけどね』


 二人の言葉を受け、一護は言い返す言葉も無く悔しげな視線を向けた。

 走りながら黙って話を聞いていた茶渡が「……そういえば……石田」と思い出したように石田に声を掛けた。

 茶渡の声に振り返った石田。石田の視線に、茶渡が「浦原さんから聞いたんだが」と言葉を紡ぐ。


「お前……親父さんと契約していたそうだな……“修行をつけてもらう代わりに死神とその仲間に関わらない”——」

(————!)


 図星を突かれたような石田の反応は茶渡の話が事実だと示しているように見えた。

 おそらくは、“修行をつける”という部分は、“滅却師最終形態で失った力を戻す”とした方が正しいと思われるが——


『……石田くんがそんな契約を?』


 思わぬ話にカワキが目を丸くした。

 カワキがこれまで目にしてきた石田の姿を思うと、到底そんな契約を結ぶ人物だとは考えられなかったのだ。

 死神に関わらずにどう復讐しようと言うのだろうか? カワキは石田の思惑が理解できずに考え込んだ。


⦅復讐を諦めた……? 現世の人間達まで巻き込むほどに死神を憎んでいたのに……どういう心境の変化だ?⦆


 カワキが黙っている間にも話は進む。

 茶渡が石田の考えを推し量るような声色で訊ねた。

 一護も驚いた様子で石田を問い質す。


「それなのに……どうしてここに居るんだ……?」

「何だそりゃ!? 初耳だぞ、石田!? そうなのかよ!?」


 口々に訊ねられた石田が、一護に視線を向けて答える。


「……ああ、その通りだよ」


 肯定を返した石田に、カワキの脳裏には幾つかの可能性が思い浮かんだ。


 ——石田竜弦から見えざる帝国(私達)の話を聞いたんじゃないか?

 ——以前、一護に「次に会う時は敵同士だ」と言っていた……あれはどうなった?


 石田の心境の変化は、カワキの任務には直接関係が無いことだ。それよりも、気にするべきことは他にある。

 カワキは探りを入れるように石田に問い掛けた。


『石田くんの師匠はお爺様だと聞いていたけど……お父様からは何か“新しいこと”を教えてもらえた?』


 見えざる帝国について聞いていたなら、何かしらの反応はある筈だが——

 石田は過去の記憶を辿るように、虚空に視線をやって「……いや……」と答えた。


「新しい技を教わったわけじゃないけど、まあ……良い経験になったとは思うよ」

『……そうか。それは何よりだ』


 石田の反応を見ると、竜弦は余計なことは言わなかったようだ。カワキはそう結論を出した。

 続くもう一つの疑問は、カワキが訊ねるより早く、言い争いながらも石田と並んで走る一護が突っ込んだ。


「でも何でだよ? 尸魂界が手ェ引こうが俺が死神なコトには変わりねーだろ!」

「違うね、君は死神代行さ。しかも“尸魂界に見捨てられた”ね」


 一護の疑問に、間髪入れずに石田が皮肉交じりの言葉を返す。

 こちらも杞憂だったようだと、カワキは『言い得て妙だ』と相槌を打つ。

 物言いたげな目で石田を見る一護。石田は得意げな顔で続けた。


「…………」

「つまり、今の君は死神でもなければその仲間でもない。それに関わっても何の制約も受けないって訳さ」


 つらつらと語る石田の様子に、カワキが納得したような顔で呟いた。


『考えたね。だけどそうか……石田くんは石田くんの“やりたいこと”を諦めた訳じゃないんだね。納得いったよ』

「……屁理屈じゃねーか」


 一護は唇を尖らせて、石田に白けた視線を向ける。

 一護の発言が気に障ったようで、石田がチクリと言い返した。


「契約の穴を突いたと言ってもらいたいね」


 石田の反論に対して、一護が声を荒げて言い返したことで口論が始まる。


「だからそれを屁理屈って言うんだよ!」

「うるさいな、君は一体どっちの味方だ?」

「オメーの敵だッ!!」


 カワキは疑問が晴れて興味を失った様子で言い争う二人を追い越して進む。

 殿を走る茶渡は、見慣れた光景に「……石田らしいな……」と笑みを浮かべた。

 一護達は遠足にでも行くような雰囲気で虚圏への道のりを駆け抜けた。


***

カワキ…一護の霊子操作がド下手で、道がガッタガタなのを見てドン引きしている。石田エアプなので石田をほんのり疑いの目で見たり、石田が屁理屈捏ねてるのを見て「死神への復讐も何らかの屁理屈で通すつもりだろうな」と考えたりしてる。


一護…理論上はスライド移動が可能な男。ここでカワキに突っ込んでいれば何か情報が得られたかもしれないが、普通にバカにされてると思って流しちゃった。惜しい。


石田…カワキの探りを「新技でも教えてもらった?」って意味だと誤解した。ここで下手打ってたらカワキ13に殺られてたかもしれない。友達に凄まじく誤解されていることはまだ知らない。


チャド…一護の作ったガッタガタロードを走らされている。浦原さんから色んな話を聞いてるので、石田周辺とかその他の分野でカワキより情報持ってるかもしれない。


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