加筆まとめ⑥

加筆まとめ⑥

団員達との接触1

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見えざる帝国


 報告を終えたカワキが自室へ向かって廊下を歩く。

 一般の団員達は疎か聖文字持ちでさえ、カワキを恐れ、或いは気味悪がって、自分から近付く者はそう居ない。

 まさに腫れ物扱いと言って差し支えない有り様だが、当のカワキに周囲の態度を気にする様子はなかった。


「あっ! 居た居た、おかえりー殿下!」


 泰然として歩みを進めるカワキに、手を振りながら近付く影があった。

 カワキに対して物怖じせずに話しかけてくる者は限られている。聞き覚えのある声にカワキが振り返った。


『ジゼルか』

「水臭いなァ……ジジでいいよっていつも言ってるのにー」

『そうか。それで、用件は?』


 素っ気ない態度で応じたカワキに、ジジは眉を下げて芝居がかった様子で大袈裟に悲しんでみせる。


「もうッ! 殿下ってば冷たァい……ボク傷付くなぁ……」


 わざとらしい仕草に白けた視線を向けるカワキを見て、ジジは早々に諦めたようで演技をやめて話題を変えた。


「一足早く瀞霊廷に攻め入ったんでしょー? 死神達はどうだった?」


 考え込むように視線をずらして、カワキは瀞霊廷での戦いを振り返る。

 流魂街での志波家との接触、隊長格との戦い、四十六室の壊滅、藍染の企み……。

 とても一言では言い表せないほど、色々な出来事があった。思い出した内容を総括して問いに答える。


『隊長格は流石に強かったよ。だけど他はそうでもないな。陛下に聞いた話より随分と質が悪い。聖兵の方がずっと使える』

「そうじゃなくてー! もっとこう可愛い子が居た、みたいな話は無いの?」


 ジジが聞きたがっていた話は戦力分析ではないようだ。

 カワキにはジジの言う「可愛い」はよく解らない。カワキから言うことは一つだ。


『無い』

「……現世でちょっとは変わったかも、と思ったけど殿下は殿下だよねェ……」


 短い言葉で答えたカワキに、呆れた顔のジジが肩を竦めた。カワキはジジが溜息と共に漏らした発言に首を傾げる。


『? どこに居ようと私は私だ。場所が変わったくらいで別人になんてならないよ』


「殿下は相変わらずらな」


 言葉を返したのはジジではなかった。

 独特の口調に文字通りの二枚舌、虚ろな瞳が特徴的な男――ニャンゾルが会話に口を挟んだ。

 会話を遮るような形で横入りされたジジが、表情を消してニャンゾルを睨む。


「ちょっと。今はボクが殿下と話してるんだけど? 横入りしないでくれる?」

「別にいいらろ? そう固い事言わじゅにオイにも殿下の話を聞かせてくれよ」


 カワキは黙ったまま間に挟まれていた。

 カワキとしては、どちらにも用など無いので部屋に戻りたいところだ。

 雑談も馬鹿にできないことは知ったが、カワキに自分から世間話をするような社交性は無かった。

 二人へ交互に視線をやると、おもむろに口を開く。


『……雑談がしたいなら他へ行くといい。私は部屋に戻る』


 付き合っていられないと、去っていこうとするカワキをニャンゾルが引き留めた。


「隊長と戦ったって聞いて、じゅっと気になってたんらよ。どうらった?」


 カワキが足を止めた。

 敵戦力について知りたい、と言う話なら会話に応じても良いと思ったからだ。

 しかし、カワキが瀞霊廷で戦った隊長格は一人ではない。全てを話していては朝日が昇ってしまう。


『……どの隊長の話?』

「一番強かったのはろいつら?」


 難しい質問だ。強さにも種類がある。

 何と答えるか迷ったカワキは口を閉じると、細い指先を口元にやって考え込んだ。

 痺れを切らしたジジがカワキの腕をグイと引っ張って提案する。


「もう行こうよー殿下。ボクらと遊ぼ?」

『遠慮する。今はこっちが優先だ』

「えーッ!」


 カワキはジジの誘いをすげなく断ると、記憶を辿ってニャンゾルの問いに答えた。


『私が交戦した中だと、藍染惣右介かな。とはいえ、彼はもう護廷十三隊を裏切って虚圏に潜伏中だけれど……』

「虚圏? 裏切っても死神らろ?」

『ああ。だけど、以前から虚と手を組んでいたようで、今は崩玉で手駒になる破面を増やしているらしい。本人も強かったけど配下の破面も強い者は隊長格に匹敵する』


 滅却師は虚への耐性を持たない。破面の増加とは即ち天敵の進化を意味する。

 加えて、破面は上位個体になると聖文字持ちであっても苦戦する程の強さだ。実際に交戦したカワキはそう感じた。


「殿下がそこまで言うなんて相当らな」

「さすがに盛り過ぎじゃなーい? 本気の殿下だったら、その藍染って奴との戦いもやりようは幾らでもあったでしょ?」

『……どうだろうね。打つ手が全くないとまでは言わないけど……』


 カワキは言葉を途中で止めると、藍染との戦闘を思い出して考えを巡らせる。

 血装を使えば防げた攻撃はあった。

 本来の力を取り戻したカワキなら、ああも一方的な結果にはならなかっただろう。

 しかし――


⦅隊長格が集まった戦闘でも、藍染が底を見せたとは思えない……万全の状態の私でも正面から戦えば、或いは――…⦆


 真剣な顔で黙り込んだカワキに、ジジとニャンゾルも心持ち真剣な表情をして次の言葉を待っている。

 静まり返った廊下に、別の声が響いた。


「僕モ……殿下ノ話を聞キタい」


***

カワキ…世間話のレパートリーが物騒な話しかない。頭の中は「煙草! 酒!! 暴力!!!」な思考が広がってる。

話しかけられた時とか多分

「クリア○サヒが部屋で冷えてる♪」

みたいなこと考えてそう。


ジジ…数少ないカワキと仲良し(当社比)な団員の一人。久しぶりに帰って来た殿下をバンビーズの集まりに誘おうとしたけど普通に塩対応された。


ニャンゾル…カワキのことは「嫌いとまでは言わないけろ殿下って不気味らよな」と思ってそう。物見遊山に来たけど出した話題が良かったのでそこそこちゃんとした対応をしてもらえた。


エス・ノト…カワキのことは「殿下ハ怖イケど……陛下ヨリは……」と思ってる。話は聞きたいけど殿下怖いし……と思って足踏みしてたら出遅れた。


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