加筆まとめ⑤

加筆まとめ⑤

連絡役への報告

目次◀︎

現世・某所


 井上を家まで送ってルキアと別れた後、カワキは空座町を出た。

 カワキが店の個室に入ると、先に着いていた男がすぐに立ち上がる。


「――お疲れ様です、殿下」


 男が滅却十字を手に敬礼した。畏まった態度の男のことをカワキはよく知らない。

 以前の連絡時はハッシュヴァルトが現世に来ていたが、現在の空座町は死神による厳戒態勢が敷かれている。陛下の側近であるハッシュヴァルトや星十字騎士団を現世に寄越すわけにはいかなかったのだろう。


『それで、今回の用件は?』


 カワキが椅子に腰掛け、取り出した煙草に火を点ける。

 酒がメニューに無いことが些か残念ではあるがどうせすぐに用事は済む。長居するつもりはないので特に何も頼まなかった。


「はっ、陛下からのご伝言をお預かりしております」


 新しい命令だろうか。ここ最近は状況が劇的に変化している。追加の命令があってもおかしくはない。


『陛下は何と?』


 細い煙と共に、テーブルを挟んだ向かいにいる男に続きを促した。緊張した面持ちの男が口を開く。


――“近いうちに見えざる帝国に帰還せよ。お前の口から直接 話が聞きたい。”


「――と、仰せです」


 直接、任務の進捗を報告せよ……というわけか。


『……わかった。“近いうち”という話なら時期が決まり次第、こちらから連絡する』

「かしこまりました、殿下。陛下にもそのようにお伝えしておきます」


 カワキはこれまで、補給以外で帰還していなかった。陛下への報告は端末か書類で上げていたが、正直、書類仕事は苦手だ。報告書だけでは伝えきれていない部分も、多々あるだろう。


⦅そろそろ、キチンとした報告をしないとまずいか。何から話そう……⦆


 紫煙をくゆらせて、陛下に伝える内容を考える。


『――…あぁ、そうだ』

「? 殿下、何かご不明な点でもございましたか?」

『いや……』


 ふと先程の出来事を思い出した。これは今、伝えておくべきだろう。煙草を灰皿に押し付けて、カワキが口を開く。


『一つ、新しい報告があるんだ』

「! ……あ…新しい報告、ですか?」

『ああ』


 カワキの言葉に、男は何やら顔色を悪くした。恐る恐る、カワキの言葉を復唱して続きを待っている。

 二本目の煙草を取り出しながら、カワキは先程のルキアとの話を伝えた。


『今度、尸魂界に行くから、その旨を陛下にお伝えしてくれ。朽木ルキア、井上織姫と十三番隊の隊舎裏修行場で鍛錬する』

「で…殿下が、死神と共に瀞霊廷内で鍛錬ですか!? いっ、一体どういう……」

『朽木さんに誘われてね。都合が良かったから受けた』


 ぎょっと目を剥いた男が聞き返す。

 滅却師が瀞霊廷で鍛錬をしようと言うのだから、驚くのも無理はない。経緯は……まあ、省略していいだろう。井上の悩みは見えざる帝国には何ら関わりがない事だ。

 何てことのない態度で「尸魂界に行く」と言ったカワキに男は言葉を失っていた。あまりにも驚いた様子で、口を開けたまま固まる男に、カワキが首を捻る。


『……あぁ、勿論血装は使わない。ただの基礎訓練だけだ』


 滅却師の鍛錬と言えば、まず真っ先に頭に浮かぶのは血装の強化だろう。だが今のカワキは陛下から血装の使用を禁じられている。それで驚いているのだと思った。


『陛下の命は絶対だ。鍛錬だろうと、実戦だろうと、背く気はないよ』


 得られるものがあるうちは。最後の言葉だけは胸の内に留めて、カワキがトンと灰を灰皿に落とした。

 何故か男の顔色が余計に悪化している気がする。


(殿下が血装を封じたままで隊長格と交戦したという話は本当だったのか……)


 正気とは思えない所業が真実であることを悟って、男は戦慄した。得体の知れないものを見る目でカワキを見る。

 カワキは己に向けられた視線を気にした様子もなく、ふぅと煙を吹かした。三本目を取り出しながら言う。


『他に訊きたいことは?』

「…え…あ…は、はい! あの、殿下……日程はいつ頃のご予定でしょうか?」

『明日だ』


 新しい煙草を咥えて、いけしゃあしゃあと言い放ったカワキ。男が目を白黒させて聞き返した。


「はっ……!? あ、明日ですか!?」


 狼狽える男を視界の端に入れ、カワキは煙草に火を点けながら、しみじみと思う。


⦅やっぱり今日来たのがハッシュヴァルトじゃなくて良かった。危うくまた、「連絡が遅い」だとか説教されるところだった⦆


 今回ばかりは仕方がない、という言い訳もハッシュヴァルトには通用しない可能性が高い。カワキにはわかる。


『ああ。急遽そういう話になったんだ』


 決まったのは今さっきだ。多少、伝えるのが遅くなっても仕方がない。煙草を指に挟んでカワキは開き直った。


(聞き間違いではなかった――!)


 男は額に汗をかいて二の句を継げないでいる。

 カワキには、目の前で真っ青になった男の尋常ならざる様子も知った事ではない。用件は済んだ。四本目を取り出す事になる前に、店を立ち去るとしよう。


『私からの報告は以上だ』


 一人残される男の苦悶など知らず、カワキは店を後にした。


***

カワキ…ギリギリで大事な予定を報告してくることに定評があるヘビースモーカー。説教されるのはそういうところが原因なのでは? スレ主は訝しんだ。


モブ…陛下からの伝言を伝えるだけだと己を奮い立たせて殿下に立ち向かうも、地獄の伝言ゲーム・第二ラウンドが開始した。

「マジで血装縛りしてるの!?」と殿下にドン引き。これに関しては騎士団の半分はこいつと同意見。


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