加筆まとめ⑤
夜の女子会2目次◀︎
空座町
拐われた井上を追って廃工場に着いた。
『素晴らしい術だ。これは鬼道だね』
「…ああ、恐らくは……しかし、一体誰がこれほどの結界を……」
結界を前に足を止める。強引に破ることも出来なくはないが得策ではないだろう。カワキの目から見ても賞賛に値する術だ。
状況証拠からして術者は鬼道衆副鬼道長・有昭田鉢玄――件の失踪事件で消えた死神の一人だと予想できた。中には同時に失踪した死神達も居る可能性が高い。
『仕方ない。井上さんと誘拐犯はどうやら面識があったようだし、ここで待とう』
「…うむ…そうだな」
カワキとルキアは、どちらともなく中の霊圧を探り始めた。井上の他に一護の霊圧も感じる。平子も居るようだ。
――成程、彼らから虚の力の使い方を学ぶつもりでいるのか。
平子達が一護にとって安全な修行相手かという懸念はもちろん、虚化による魂魄の限界突破にも興味がある。一人で居たなら徐々に広げている“影”を介して、中の様子を伺うところだが……。
カワキの目がちらりとルキアに向いた。ちょうど、ルキアもカワキに視線を向けたところだったようだ。視線が交わった。
「一護はここに居たようだな。まったく、あ奴め……心配をかけおって……」
『……そうだね。井上さんも、随分と心配していたよ』
ルキアも一護の霊圧を感じて、カワキに話しかけたらしい。バレたかと思った。
『朽木さん。質問をいいかな』
「? なんだ?」
『君は井上さんが決戦に向けてできることを一緒に探す、と言っていたけど、具体的なプランは?』
「…ああ、その話か! 無論だ! …まだ許可が降りるかはわからんが……十三番隊の隊舎裏修行場を開けて頂けるよう、浮竹隊長に頼んでみる」
隊舎裏修行場……瀞霊廷か。どこで鍛錬するか決めかねていたが、霊子濃度の濃い尸魂界なら鍛錬にちょうどいい。カワキも同行を願い出ることにした。
『それ……私も一緒に行ってもいいかな? 私も力が欲しい。強くなりたいんだ』
カワキの申し出に、ルキアがきょとんと目を丸くした。驚いたように口を開ける。
「当然ではないか! 何を言い出すのだ! 私は最初から、カワキも共に修行するものだとばかり……」
『? そうだったのか。ありがとう』
ルキアが不満げに唇を尖らせる。ルキアはカワキも誘ったつもりだったのに、当の本人からそのような申し出をされたことが不服だった。
「もっと私を信用しろ! ……その……私たちは……友人、だろう……?」
耳が熱い。目が泳いで後半の言葉は小声になってしまった。目が合わせられない。
ルキアは赤面しながらカワキに言った。カワキは一度、二度と瞬きをして、ふっと微笑んだ。
『……そうか、嬉しい』
そこまでルキアの信頼を得られているだなんて思わなかった。隠し事が苦手な己がこんなに上手く懐に入り込めるだなんて。滅却師であるカワキを瀞霊廷に招き入れる程の信頼は、予想外で本当に嬉しかった。
「う…うむ! わかればいいのだ! 明日にでも、浮竹隊長にお願いしてみよう」
『ああ、楽しみにしてる』
「…ああ」
瀞霊廷内を堂々と見て回る機会は以前の滞在時にもあったが、今回はあの時よりも信頼を得られた分、動き易いだろう。前回には見られなかった場所も見ておきたい。本当に楽しみだ。
カワキとルキアが二人で話している間に井上の用事が済んだらしい。廃工場の結界から井上が出て来た。
「…カワキちゃん…! 朽木さん…!」
驚いたように目を見開いたのは束の間、すぐに何かを隠すように言い募った。
「あ…あのね、二人とも! この中は実は…」
「…構わん。何も言うな。ここに来て一護の霊圧をわずかに感じた。奴が何も言わぬなら考えあってのことだろう。充分だ。無事ならそれでな…」
ルキアは腕を組んで笑った。内部のことは気になったが、カワキもおおむね同意見だったので、隣で頷いておく。
『用事は済んだんだろう?』
「行こう、井上」
「…うん、行こう…!」
三人は廃工場に背を向けて立ち去った。
***
カワキ…隠し事が下手な自覚があるので、度々「もうバレてんじゃね?」と思う事がある。まだ友情は任務中だけのもの。
ルキア…この段階で既にカワキへの好感度147なので、もはやズッ友状態。完全にカワキを光の滅却師だと信じ切っている。