加筆まとめ⑤

加筆まとめ⑤

総隊長からの情報

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井上宅


 バタバタと廊下を駆けて部屋に入る。扉を開けた先、部屋の中央に大きなモニターのようなものが設置されていた。


『――成程。確かに“ヘンなモノ”だね』

「…うわあ…かっこい……じゃないよ! 何これ冬獅郎くん!?」

「…ちっ、間の悪い時に帰ってきやがったな…」


 日番谷がばつが悪そうに額を抑えた。

 モニターは肉で包まれ、煙を吐いたり、脈動したり、ザーザーと音がして喧しい。


「十番隊隊長 日番谷冬獅郎だ」

《はい。お繋ぎ致します》

「そ…総隊長さん…?」

《…流石に仕事が早いのう日番谷隊長…》


 モニターに総隊長が映し出された。組織の長が直々に出てくる程の案件があった、と考えて間違いないだろう。ちょうど良いタイミングで居合わせることができたのは喜ばしい。


《…今回緊急に回線を用意してもろうたのは他でもない。藍染惣右介の真の目的が判明した》

「…藍染の…真の目的…!?」


 一同が驚愕に目を瞠った。

 これは予想外の収穫だ。まさか、ここでそんな情報を聞くことができるだなんて、思いもしなかった。

 如何にも、と肯定を返した総隊長に井上がハッとした顔をした。


「…あ…な…なんか重要そうなお話だから…あたし席外しとくね!」

『私はこのまま聞かせてもらいたい。重要な情報なら尚更だ。私も無関係じゃない』


 扉に向かっていた井上はカワキの発言にぎょっと目を丸くした。ドアノブに伸ばされた手が触れる直前、総隊長からも待ったがかかる。


《…待ちなさい。志島カワキの言う通り、おぬしら人間にも関係の有る話じゃ……。聞いていきなさい》

「――――……。…はい…」


 緊張に強張った顔で、井上がおずおずと答えた。総隊長による話はこうだ。

 藍染が閲覧した大霊書回廊の書物。その既読記録に崩玉と無関係な書物が一つだけあった。

 日番谷が険しい表情で訊ねる。


「――――………それは…?」

《“王鍵”》


 その一単語で充分だった。日番谷と松本が瞠目する。カワキも、表情にこそ表れなかったものの、思わぬ単語に一瞬 思考が止まった。


――藍染の目的は霊王宮か?

――いや待て……そもそも、王鍵に関する書物? あれは零番隊の骨――…在り処の情報なんて意味を成さない。

――書物には何が書かれていた……?


 カワキが黙り込んでいる間に、総隊長と松本が王鍵とは何か、王家とは何かという説明を付け加える。


「それじゃあ…藍染…さんは、その王様を…」

《殺す。それが奴の目的じゃろう…じゃが問題は其処では無い》

「…………。…藍染が見たのは“王鍵”の在り処を記した本じゃない…」


 日番谷の言葉を総隊長が肯定した。

 事と次第によっては、見えざる帝国にも大いに関係がある話だ。カワキも真剣な顔で続く言葉を待つ。


《奴が見たのは“王鍵”が創られた当時の様子を記した文献――奴が知ったのは“王鍵の創生法”じゃ》


 創生法。王鍵は霊王の力がなくとも創生できるものなのか? そんな方法があればとっくの昔に陛下がやっている筈だ。だがそれらしい話すら聞いたこともない。

 眉唾物の情報に、カワキは眉を寄せた。松本が総隊長に訊ねる。


「つまり…その創生法に問題があるということですか?」

《否。創生法ではない。問題なのはその“材料”じゃ。王鍵の創生に必要なのは十万の魂魄と半径一霊里に及ぶ重霊地》


 ますます疑問だ。部下の命すら己の糧とする陛下が、材料を理由に創生を躊躇するとは思えなかった。必要な魂魄が十万でも、百万でも……陛下は目的を達成する為であれば犠牲にする。そういう人だ。

 つまり、この方法じゃ王鍵は創れない。或いは、別のリスクがあるのか――…何にせよ、碌な結果にならないのだろう。


「十万の…魂魄…」

《そうじゃ。じゃがおぬしらに関わりがあるのは魂魄だけではない》


 呆然と復唱する井上とは対照的に、冷徹な表情でカワキが口を開いた。ここまで話をされれば、結論は見えている。


『――藍染の狙う重霊地は“空座町”。そうですね?』

「!」


 カワキの言葉に井上の表情が凍りつく。日番谷と松本は大方の予想がついていたのだろう。険しい表情でモニターを見る。

 感心した声を上げて、総隊長が頷いた。


《流石に理解が早いのう…その通りじゃ》

『――想定される被害規模は?』


 崩玉の力は大したものだが、それで王鍵が創生できるとは思えない。しかし、材料が材料だ。藍染が何をするかわからない。カワキは具体的な被害予想を訊ねた。


《……藍染がもし文献通りのやり方で“王鍵”を完成させた場合――空座町とそれに接する大地と人が全て世界から削り奪られて消え失せる》


 王鍵の創生。そんな勝算の定かではない賭けの為に巻き込まれるだなんて迷惑な話だ。心の中でぼやいてカワキは長い溜め息を吐き出した。

 その隣で、震える手をぎゅっと握りしめて井上が俯く。


「…そ……そんな…、…止める…それを止める手だては……あるんですか…?」

《――無くとも止める。その為の護廷十三隊じゃ》


 ぱっと顔を上げた井上に、松本が力強い笑みを返した。不安に揺れていた井上の顔が安堵の表情に変わる。

 こうして引き留めてまで話を聞かせたという事は、現世の人間も巻き込むつもりでいるのだろう。


――“敵を討つに利するものは全て利用し、人はもとより部下の命にすら灰ほどの重みも感じぬ男”、か……。

――現世の人間まで利用するとは……陛下の言っていた通りの人物のようだ。


『それで、貴方は私達に何を期待してこの話を? まさか……ただ情報を伝えて終わり、なんてことはないでしょう』

《――…本当に…察しの良い子じゃ……》


 絞り出すような声でどこか物憂げな顔をした総隊長が呟いた。


《おぬしの言う通り、藍染の狙うのは現世じゃ。我々だけでは対処できぬ場合もあろう…現世側の力添えも必要じゃ》


 だが、と総隊長が言葉を区切った。

 涅マユリからの報告によれば、魄内封印から解かれた崩玉は強い睡眠状態にあり、完全覚醒まで四ヶ月はかかる。藍染が動くのはそれからだと総隊長は言った。

 それは、つまり――。


《決戦は冬! それまでに力を磨き、各々戦の仕度を整えよ!》


 総隊長の指示に、十番隊の二人が了解を返す。


《――そして志島カワキ、井上織姫。先程も言うたように……我々が対処できぬ場合、現世側の力添えも必要じゃ……そう、黒崎一護に伝えてくれるかの》

「はい!」


 元気良く了承の返事をした井上。平坦な表情のままモニターを見据えるカワキは、何も言わない。

 これにて情報共有を終え、カワキは井上と共に部屋を後にした。


***

カワキ…王鍵の創生法については「陛下がソレ知らない訳ないしやらないって事は成功しないんだろ」くらいに思ってる。


山爺…特に言及はしないが「やはり現世の人間とは言え志島の子。冷静で賢い」と思ってカワキを見てる。


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