加筆まとめ③

加筆まとめ③

情報収集チャンス! 日番谷vsシャウロン

目次◀︎

空座町・井上宅


『――あれが破面の斬魄刀解放……』


 破面と死神の戦闘を見守っていたカワキの瞳孔がきゅっと狭まった。少しの変化も見逃すまいと好奇心に瞳が輝く。白い骨にも似た装甲を身に纏った破面の姿は、それだけカワキの関心を惹いた。


⦅見た限りでは卍解に近いような……破面の斬魄刀には始解が無い……? どの個体もそうなのか? いや、まだ変化を残している可能性だってある⦆


 カワキの頭の中ではいくつもの可能性、いくつもの疑問が嵐のように吹き荒れた。新しい絵本を与えられた子どもが活き活きとページをめくるように、戦闘が次の局面へと移る様子を待ち望む。


⦅破面の霊圧は虚のソレとは違った。でも今の彼の霊圧は完全に虚そのもの……斬魄刀に宿っているのは虚の力?⦆


――…虚としての力を、斬魄刀という形で封じ込めている?

 滅却師にとって虚は天敵だ。故に霊圧の変化にも容易に気がついた。加速する思考は僅かな手がかりから正解を導いて、考察を先へ進める。

 今、カワキの脳内にあるのは次の予定。いずれ起きる侵攻でメダリオンは破面にも有効か否か――カワキの予想では、それは否だ。あれは多分奪えない。


「…な…」

「…フム。…一応、本当の名を教えておこうか。破面No.11 シャウロン・クーファンだ。よろしく。小さな隊長さん」


 思案に暮れるカワキの目の前で、日番谷が鋭い爪に斬り裂かれて血を噴き出した。そばで共に見守っていた井上が息を飲む。両手で口を覆って駆け出そうとした井上の肩をカワキが掴んだ。松本の義骸も井上を制止する。


『まだだよ、井上さん。落ち着いて……静かに息をして。……ほら、まだ戦ってる』

「…あ……」


――そう。まだ観察の途中だ。今ちょうどいいところなのに邪魔をされては困る。

 限定状態とはいえ隊長格の卍解。初めて目にする破面の斬魄刀解放……。その戦いをこんなに間近で堂々と見ていられる機会なんてそうあるものじゃない。

 カワキがくいっと顎で指し示した夜空では、日番谷が血を流しながらも懸命に戦っている。井上が心配に眉を曇らせて胸の前で祈るように両手を握った。


⦅ここからじゃ会話は聴き取れないな…⦆


 何やら話しているらしい様子の二人に、カワキが眉を寄せる。


『何か話してるな……近くで様子を見てくるよ。井上さんはまだここに居て』

「…う…うん…!」


 井上が心配そうな顔で頷いた。カワキの不器用な気遣いに申し訳なさが募る。

――カワキちゃんはきっと……あたしが不安がるから、いつでも援護ができる位置で待機してくれるつもりなんだ……。

――あたしもしっかりしなきゃ……!


 カワキは井上を松本の義骸に任せると、会話が聴こえる距離まで近づいた。戦闘に巻き込まれない位置で聞き耳を立てる。二人の会話からは破面の番号に関する話を聴く事が出来た。


⦅“十刃”か。それが一人来ている……今、一護と戦っている個体がそうかな⦆


 霊圧から街の各地で戦闘が起こっている事は察知できている。その中でも一際強い霊圧の持ち主が、先程から一護と交戦しているようだった。おそらくは、それがあの男の言う十刃だろう。

――この前の破面……もしかしたら……。いや…それは後にしよう。今は――…。


「隊長! 恋次!! 限定解除下りたわよ!!」


 カワキの耳に松本の声が届いた。やっと限定解除の許可が下りたらしい。

――となれば、この戦いも終わりだな。

 破面の斬魄刀解放は確かに強力ではあるだろう。だけど、限定霊印が外れた隊長格に勝るほどじゃない。カワキは少し前に尸魂界で手酷い目に遭わせてくれた朽木白哉の姿や、双殛の丘での砕蜂の速度、路地で戦った東仙要のしぶとさを思い出す。


「…やっと来たか」

「…何だ…?」


 訝しげな顔をするシャウロンの前で、日番谷の胸元で隊章を模した刻印が光った。


「「限定解除!!!」」


 日番谷、松本の霊圧が急激に上昇する。遠くの方で恋次の霊圧も感じ取れた。


⦅――欲を言えばもう一人の破面の斬魄刀解放も見てみたかったな……⦆


 心做しか残念そうな顔で息を吐くカワキの前で、二人の破面は撃破された。


「隊長!!」


 戦いを終え、重傷を負った日番谷が血を噴いて倒れる様も、カワキはまるで興味が無かった。松本が慌てて井上を呼ぶ。


「織姫! 織姫ちょっと来てお願い!!」


 カワキはそれを見届けて、遠くへ視線を向ける。月明かりに照らされ、湖面のように光る瞳の見据える街並みの先――その方角では、未だ一護が交戦中のようだった。

――今なら急げば間に合いそうだ。破面についてもっと知りたい。


『一護がまだ戦ってる。私は向こうを見てくるね』


 日番谷達のいる屋上に来たカワキが何て事のない態度で告げた言葉に、傷だらけの日番谷が息も絶え絶えに食い下がる。松本も驚きに目を瞠った。


「…な…何、言ってる……? お前は…」

『――人間だから戦いには関わるなって? 一護だって人間だよ。あくまで代行なんだから』

「だからって無茶よ! こんな霊圧の相手が居る場所へ向かうなんて……」


 カワキの身を案じた言葉も、凪いだ心を揺らす事は無い。カワキが今しがた告げた「向こうを見てくる」という言葉……あれは相談ではなく宣言だった。意見など最初から求めてはいない。


『一護が死んでしまったら困るんだ。それに二人のおかげで私は無傷だよ。……今はこうしている時間も惜しい』


 カワキは話は済んだだろうとでも言うような態度で会話を切り上げた。なおも制止の言葉をかけようと口を開けかけた松本と日番谷。しかし、カワキの方が少しばかり早かった。


『井上さんによろしく。それじゃあ失礼』


 それだけ言い残すと、カワキは瞬きの間に姿を消した。


***

カワキ…隊長格の卍解。帰刃。十刃……。貴重な情報をたくさん聞けたのに「もっとだ…もっと情報が欲しい……!」と貪欲に求め続ける欲張りさん。


井上…カワキを強固な善良フィルター越しに見てる。「カワキちゃんはいつも冷静ですごいなぁ…」と思ってそう。あれを見習う必要はない。そのままの君でいて。


日番谷&松本…一護を心配してない訳じゃないが、カワキは死神代行ですらない人間だから巻き込むのはなぁ……と思ってた。激強滅却師とはいえ人間は守る。優しい。残念ながら、言葉は暗闇に立つ相手になら届いても、虚無に浮いてる女には届かないらしい。


***
オマケ


――限定霊印の事、誰が教えた?

「ルキアか?」

「恋次ではないのか?」

「松本さんが教えたんじゃねえの?」


『……「そうだ」とも「そうでない」とも言えるね』

(訳:ダーテンは死神の様子が情報源だから死神という括りで見れば、まあ……間違ってはいないね)


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