加筆まとめ③

加筆まとめ③

グリムジョーと愉快な仲間達、襲来

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空座町


 月が浮かぶ夜空に割れた仮面の一団が立っていた。破面だ。皆一様に好戦的な表情を浮かべている。


「全員、補足は完了したか? いくぜ」


 リーダー格と思しき男が獰猛な笑みを浮かべて他の破面達に号令をかける。


「一匹足りとも逃がすんじゃねえぞ!!」


 その言葉を皮切りに、集まった破面達は一斉に街のあちこちに散らばった。


◇◇◇


 夜。カワキは現世にやってきた死神達の様子を確認する為に街を歩いていた。夜の闇と同じ色の髪が夜風に揺れる。月明かりに照らされて紫煙が一筋の糸のように流れた。


⦅朽木さんは一護の家。十番隊の両名は井上さんの家。……うん、申告通りだ⦆


 彼らは事前に聞いていた通りの場所を拠点とするようで間違いないらしい。霊圧を探知した限りだと、残りの数名はまだ街の中を彷徨いているようだ。カワキは二本目に火を灯しながら方向を変える。


⦅念の為、そっちも確認に行かなくちゃいけないな。配置の確認は疎かにできない⦆


 現在地は井上の自宅付近。十番隊の日番谷、松本両名の滞在を確認した帰りだ。夜の暗闇がカワキの足を止める事はない。人目が少ないのを良い事に、人間にはあり得ない動きでビルの隙間を跳んで移動する。


『――この霊圧――…!』


 覚えのある霊圧に夜空を仰ぎ見た。適当なビルの上に着地し、ふぅと紫煙を吹いて感覚を研ぎ澄ませる。探知範囲を広げるといくつも反応があった。


⦅――…4、5…6体か……多いな……⦆


 カワキの探知にかかった獲物の数は6。その大半は以前の二人組よりも弱いように思えたが、油断はできない。携帯灰皿に煙草を押し付けると詳細な霊圧を探る。


『……近い……』


――…一護の方には誰も向かわない……。今度の狙いは一護じゃないのか?

 破面達は街に散り散りになって動いているようだった。その中の2体が今カワキがいる方向へ近付いてくる。その動きは標的を定めた狩りではなく、無差別な殺戮を目的としたものに思えた。


『……よし』


 カワキはグッと霊圧を落として潜伏する事に決めた。こちらに接近してくる破面達が霊圧から位置を探って襲撃を決行しているなら、隊長格のいる井上宅を狙う筈だ。

――奇襲ができれば良し。そうでなくても出現ポイントは絞れる。


 気配を殺し、暗闇を駆ける影はさながら暗殺者のようだった。


◇◇◇


「……?」

「…どうしたシャウロン?」

「……このあたりにはもう一つ反応があった筈だが……数え間違いか?」


 二人組の破面が移動している。一人は長身の男。もう一人は太った男。

 長身の男が不審に眉を寄せた。もう一人が「気のせいだろう」と言うと、不審がりながら煮え切らない返事を返す。


「それより、標的はもうすぐそこだ」

「…ああ…。そうだな……」


◇◇◇


 カワキが井上宅付近に到着した時、日番谷が屋上で義骸から出て臨戦態勢をとる姿が見えた。すぐに下から松本が合流する。


「隊長!!」

「井上織姫は?」

「戦闘に参加しないよう下で義骸に見張らせています」

「そうか。…構えろ、松本。来たぜ」


 その言葉と同時に二人の破面が現れる。瞬きの間の出来事だった。


(!! 速い!!)

「…初めまして」


 そう言うや否や破面の姿が消える。次の瞬間、斬りかかられた日番谷が辛うじて迫る刃を受け止めた。


「破面No.11、シャウロンと申します」

「…十番隊隊長 日番谷冬獅郎だ」


 カワキは鍔迫り合いを遠目に眺めながら以前に戦った破面達を思い浮かべる。霊圧での予測と同じく、やはり以前に交戦した個体の方が強い気がする。


⦅先日の破面達はもっと強かった。やはりあれが上位の個体? それとも今回の連中が他より弱いから群れている……?⦆


――なんにせよ貴重なサンプルだ。もっと近くでよく観察したい。

 カワキはギリギリまで距離を詰めようと動いた。しかしそれが仇になったのか、鋒を弾いたシャウロンが声を上げる。


「…十番隊隊長…それはそれは素晴らしい…。…ならば私は当たりという訳だ…! ――…その前に。潜伏している事はわかっていますよ」

『――…残念だ。功を焦り過ぎたかな』


 接近に気付かれたカワキは、あっさりとその姿を現した。残念だ、という口振りに似つかわしくない作り物のような無表情。シャウロンがおや、と眉を上げた。


「貴女は……ヤミーを痛めつけた少女…」

『…ヤミー…というと……。あぁ、あの時の……』


 シャウロンの言葉にカワキが記憶を手繰り寄せる。たしか大柄な男がヤミー、細身の男がウルキオラと呼ばれていたような気がする。

――この男の言葉からして私が瀕死にした方が「ヤミー」。やっぱり彼らの仲間か。


「素晴らしい。これは大当たりだ…!」

「志島カワキか…」


 高揚したような表情を見せるシャウロンとは対照的に、厳しい表情をした日番谷がカワキに声をかけた。


「お前は人間だ。戦いには加わるな」

『お気遣いどうも。……私は助かるけど、ここは現世だ。調子は平気かな?』


 カワキが言外に限定霊印による制限の影響を訊ねる。問いには松本が答えた。


「平気よ。直に良くなるから。織姫が下であたしの義骸と一緒にいるわ。カワキはそっちについててあげて」

『そうか。じゃあ、お言葉に甘えてここはお任せするよ』


 限定解除の申請は既に済んでいると言外に返した松本に、カワキが頷いて退がる。カワキとしても、戦闘を丸投げすれば観察に集中できてありがたい。自分達が戦うと言う日番谷と松本に大人しく従った。


「…フム。……せっかくの大当たりを引いたというのに、残念だ」


 井上の保護に向かったカワキに、黙って会話を聞いていたシャウロンが興醒めしたというような態度をとる。その正面で斬魄刀を構えた日番谷が強い気迫を放った。


「…いいや。多分てめえが一番のハズレだぜ」

「…ほう」


◇◇◇


 井上と合流したカワキはビルの下で銃を構え、いつでも戦える態勢で待機しながら戦いを観察する。


「…二人とも、大丈夫かな……」

『どうだろうね。だけど、まあ…あの二人が敗けたら奴等は私を狙うだろうから、井上さんは安心して良いよ』

「…そんなっ…!」


 その言葉に井上が眉を下げてカワキを振り返った。カワキの碧眼が戦場から逸らされる事はない。


『そうなったら私が戦うから、敗けた後も二人が生きていたなら君が治してあげて』

「――…! …そっか…そうだよね…!」


 血の気が引いていた井上の顔に希望が戻った。不器用な励ましに笑顔が溢れる。獲物を狙う獣のように爛々と輝くカワキの瞳が、不安に呑まれそうだった井上には頼もしく思えた。


***

カワキ…励ましたつもりは全くない。井上にかけた言葉も「あいつら絶対私を狙うから戦っている間に戦力復活させてね」という意味。本当に言葉のまま。


井上…不安だったけどカワキが凛として隣に居てくれるからもう大丈夫。怖くない。カワキの言葉を「カワキは戦闘。井上は治療。自分に出来る事で一緒に戦おう」という意味の励ましだと思った。誤解。


日番谷&松本…いくら強くても、カワキは人間で自分達は死神だから破面との戦闘になるべく巻き込まないようにと気遣った。


シャウロン…大当たりだと思った? マジで大ハズレだよ。ハチの巣にされる危機を間一髪で回避した事を彼だけが知らない。日番谷と交戦中。カワキを舐めている。


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