加筆まとめ①
放課後の教室 井上達の誘い教室
授業が終わり、チャイムが鳴った。帰り支度を整える生徒達の喧騒が満ちる教室に陽気な声が響く。
「イッチッグォーイ! 帰りちょっと市内の方に寄ってかねー!?」
「…悪りィ。…一人で帰りてーんだ」
誘いをすげなく断った一護は他者を拒絶するような空気を纏っていた。静かに鞄を背負うと、声をかけた浅野を振り返る事もなく、教室を去っていく。一護の様子が変だと友人達が騒ぐ中、石田も何も言わずに帰っていった。
教室に残った井上とチャドが真剣な様子で顔を見合わせて頷き合う。
「カワキちゃん! 黒崎くんの事で相談があるんだけど……」
『平子くんとの事?』
「…やっぱりカワキも気付いてたんだな」
帰り支度をしていたカワキは声をかけてきた二人に視線を向けると、端的な言葉で結論から切り出した。話が早いと、井上がカワキに誘いをかける。
「私達で平子くんに直接話を訊きに行こうと思うの。…黒崎くんに訊いても、きっと黒崎くんは“何でもない”って答えると思うから…」
成程、言う通りだ。カワキが実際に一護に訊ねた時も、はじめはそう言っていた。つい数時間前に交わした会話を思い出してカワキが感心したように頷く。
『確かに。私が訊ねた時にも、一護はそう言っていたよ』
「…やっぱり…」
カワキの言葉を聞いて予想が的中した、と言うように井上は眉を八の字に下げて、どこか悲しげな顔をした。憂いを帯びた顔を前にして、カワキは慰めるでもなく断りの言葉を告げる。
『話はわかった。だけど…私はやめておくよ。平子くんに直接訊くより、自力で調査した方が得られる情報は多いと思うから』
「…“自力で”って…当てはあるのか…?」
『一応ね。どの程度情報があるかについては、一度きちんと調べないと明言できないけど……。何もない事は無い筈だよ』
何やら確信があるらしい。カワキの目を見たチャドがしっかりと頷きを返した。
「そういう事なら、こちらは俺達に任せてくれ。何かわかったらお互い連絡しよう」
「それじゃあ、カワキちゃん。また明日」
二人の顔は一護の助けになりたいという決意の色に満ちていた。カワキは否定も、肯定もせず、ひらひらと手を振って教室を後にした。
◇◇◇
自宅に戻ったカワキは紫煙をくゆらせて資料を漁っていた。物が少ないせいだろうか。一人で住むには広すぎるその部屋は、がらんとして生活感がなかった。白い指が咥えていた煙草を挟む。形の良い唇から、細く白い煙がたなびいた。
『確か…事件は100年程前だったかな』
そう呟いて煙草を咥え直す。棚から関連する書類を手当たり次第に取り出すと、髪のクリップを引き抜いて留めた。ほどけた黒髪が背中で揺れる。
灰皿と酒の入ったグラスが置かれた机に書類を投げたカワキは、ふぅと煙を吹いて煙草を灰皿に押し付けた。何枚かの書類を引き抜いて手に取るとソファに腰掛ける。
『失踪事件に関するダーテンは――…』
煙草の煙が微かな霧のように漂う部屋で本格的に調査を開始しようとしたその時。凪いだ水面のようだった瞳に波紋が立つ。
『――! ……この霊圧……』
ずしりと重い霊圧を感じたカワキの視線が窓の外、森の方角へ向けられた。直後、高く土煙が舞い上がるのが見えた。大きな落下音が街に響く。
⦅――強いな。それに派手な動きだ。放置できる相手じゃない⦆
カワキは手に持っていた書類をソファに放り投げて立ち上がり、机に置かれた酒をぐいっと一気に飲み干した。手早く装備を整える。書類から外したクリップで長い髪を留め直すと、現場へ駆け出した。
***
カワキ…一護からある程度の情報がゲットできたので、井上達について行っても新規情報は無さそうだと誘いを断る。冷たい。破面に気付いて速攻で野次馬しに行った。お酒が大好き。煙草も吸う。
井上&チャド…カワキは何やら独自の調査をするらしいと信頼して任せる。カワキが一護から聞き出した内容は共有してもらえなかった。その事にも気付いてない。普段は酒をガブガブ呑むカワキを止めている。
前ページ◀︎