加筆まとめ①

加筆まとめ①

一護の隠し事を探れ

目次◀︎

教室


「――ちっ…」


 前日の出来事を思い出して、一護は憮然とした顔で舌打ちをした。カワキは一護の様子を盗み見る。


⦅これは――…やはり昨日何かあったな⦆


 カワキは一護の態度に昨日の異変が関係していると推測した。そこに、井上の明るい挨拶が響く。平子も続いて朝の挨拶をした。


「おっはよう黒崎くん!」

「おはようさん一護クン!!」


 平子と対峙した一護の様子がおかしい。

 元気良く挨拶した平子に、驚いた様な顔をした一護。平子と友人達の会話の途中で「ちょっと来い、平子」と割り込んだ。


「お? おお〜〜〜!?」

「い…一護…?」

「…ナニ…? どうしちゃったの、一護のヤツ…?」

『…………』


 平子の胸倉を掴んで教室を出て行く一護に友人達は困惑を隠せない様だ。カワキは虚空を眺め、しなやかな指を顎にかけた。手持ちの情報から考察する。


⦅十中八九、昨日の事が原因で間違いないだろうけど…――後をつけるか?⦆


 長い睫毛の下で、蒼い双眸が教室の扉へ向かって静かに動いた。一度、瞬きをして元の位置に戻る。

 一護だけなら誤魔化せるだろう。しかし平子は油断ならない。正体も目的も、何もわからないが、霊圧の隠し方からそう判断する。尾行に気付かれる可能性を考慮し、カワキは後から一護に訊ねる事に決めた。


◇◇◇


 人気の無い廊下で、カワキが一護に探りを入れる。


『一護、さっきは突然どうしたの? 平子くんと何かあった?』

「あ…ああ…いや……。なんでもねーよ」

『……昨日の事と何か関係が?』

「!」


 目を逸らしてもごもごと口籠もっていた一護が、見事に言い当てられて驚愕に言葉を失った。カワキがその動揺に、躊躇なく切り込んでいく。


『昨日、一護と戦っていた相手――あれは平子くんだろう? 大事なさそうだと見には行かなかったけど……』

「…気付いてたのか…!」


 一護が観念した様に呟いた。その反応にカワキは確信する。

 上手く霊圧を隠していた為、確証を持てずにいたが、昨夜の一護の交戦相手は平子で確定だ。


『”私には次も声をかけてね“って言ったのを覚えてる? 危ない事なら話してくれ』


 海の底の様に輝く碧眼が真摯に訴える。一護がじんとした様子で「…カワキ…」と呟き、目を伏せた。おずおずと口を開いて事情を話す。


「…それが…俺にもよくわかんねーんだ。平子は俺を何かに勧誘したいらしくて…。昨日も断ったんだが、まだ諦めてねーみたいでな……」


 一護はカワキの真剣な目に、全てを隠す事はできないと悟り、肝心な情報は伏せたものの昨晩の出来事のあらましを話した。


◇◇◇


 平子が斬魄刀を所持していた事。一護を仲間に引き入れたがっている事。一護自身は口をつぐんだが……どうも勧誘の理由に心当たりがあるらしい事も読み取れた。


『成程…そんなことが……』


 話の内容。一護の様子。近頃の異変…。余す事なく考察の材料にして思案する。


⦅一護はおそらく勧誘に心当たりがある。理由を隠したがるのは――…察するにあの虚に似た仮面や暴走状態に関する事…?⦆


 理由に大まかな当たりをつけて、カワキは話を切り上げる事に決めた。あまり深く問い詰めて話を隠すようになっては事だ。


「悪りィ…。心配かけちまったな…」

『心配はするよ。君には無事に生きていて欲しいから』


 真っ直ぐなカワキの言葉に、照れた様に「お前…たまにすごい事言うな…」と一護が頬を掻いた。


『思った事を言っただけだよ』


 カワキは当然の事だという態度で言うと口元に白い指をやった。一護の話を頭の中で整理して、知り得る情報から手がかりがないか検索する。


⦅斬魄刀を所持しているなら、平子くんは死神の筈――…。平子…平子……⦆


 ぱらぱらと脳内で膨大な量のダーテンをめくるカワキ。はっと該当する記述の存在を思い出して『そういえば…』と、言葉が口を衝いてこぼれた。


⦅確か…あの藍染の前任が”平子“という名だった筈……。失踪したとあったが、現世に潜伏していたのか――?⦆

「…カワキ…? …どうかしたのか?」


 一護の声にカワキの意識が廊下に戻る。『ああ…こっちの話だ。気にしないで』と告げたカワキに、一護が何かを言いかけるように口を動かした。音が言葉になる前に口を閉じて、気まずそうに目を逸らす。


『一護?』

「…あー…いや…。……なあ…カワキ…」


 視線を合わせず、一護がカワキをどこか気遣う様に慎重に言葉を選ぶ。


「なんつーか…うまく言えねえけどさ…。お前も…何かあるなら相談してくれよ。俺も…きっと他の連中も…力になるからよ」


 思いもよらない言葉にカワキがぱちぱちと瞬きをする。そして玲瓏な声で言った。


『死なないでいてくれたらそれでいいよ』


 その声色に言い知れぬ感情を覚え、一護が何か気にかかったような顔で、カワキに視線をやった。カワキはそれ以上の追及を避けるように話を終わらせる。


『一護の方こそ、悩みや困った事がある時は早めに相談して。大事になる前にね』

「うっ……! ……ああ…」


 明らかに後ろめたい事がある様子の一護に、カワキはため息を吐く。新しい情報があればすぐに伝える様に頼んで、カワキは一足早く教室に戻った。


***

カワキ…平子の手段が回りくどすぎるので差し迫った命の危機では無さそうと判断。この時の会話で「一護に私がスパイだと気付かれたかもな」と思っている。


一護…虚化の事は友達に知られたくない。カワキがスパイだなんて思ってないけど、何か大きな隠し事がある事は気付いてる。「隠し事は知らないけど力になりたい」と伝えたかった。チョコラテ。


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