加筆まとめ①

加筆まとめ①

夏休み明けの教室にて

教室


 夏休み明けの教室は各々、休暇中の思い出語りに騒がしい。そんな中でも、カワキはいつも通りの静けさで席に着いていた。すぐ近くでは一護やその友人達が、夏休みの間に仲を深めた面々の様子に、好奇心を隠せない態度だった。


「なになになんなのあの集団!? なんかおかしくない!? ねェ!? 夏休み前、あの4人とあんなに仲良かったっけ!?」


 一護が死神の力を目覚めさせる前まで、カワキは一護との接触を避けていた。護衛である事を悟られない様に――という理由もあるが、単にわざわざ交流する必要性が見出せなかったからだ。


「一体この夏の間にどんないかがわしいアレが!?」

「別になんもねーよ」


 そう言って席に着いた一護の姿を横目で見遣るカワキ。その脳裏に尸魂界での戦いが過ぎる。一護が戦う力に目覚めてから、正体を明かさずに護衛を続ける事が困難になったと思いながら。


⦅今後は大人しくしていてくれたら仕事がやりやすいんだけど……⦆


 何も語らず物憂げな態度でため息をつくカワキは億劫だった。席に着いてから頬杖をつく。ぼんやりと喧騒を眺めていると、代行証に言及するたつきと一護の会話が耳に入った。カワキは少しだけ目を丸くしてそちらに視線を動かす。


⦅――…代行証が見えてる…井上さん達と同じで後天的に力が発現する予兆か…?⦆


 代行証に気付いて訊ねるたつきに、言葉を濁して誤魔化そうとしていた一護も疑問が湧いたらしい。


「たつきオマエ…これが見えるのか?」


 意味がわからない問いかけに、怪訝そうに訊き返そうとするたつき。言い終わる前にガラガラと教室の扉が開いた。教師の声で生徒達は席に戻っていく。


「今日はみんなにステキなお知らせだ! 転入生を紹介するぞ!」


 カワキは教師の言葉より新しい力に気を取られ、一護も代行証の故障を疑っていて話を聞き流していた。

 一護が代行証を手許で遊ばせていると、突然けたたましい虚出現の警報が鳴る。


「ぅおおおい!?」

「……どうしたの一護?」

「…あ…あーイヤ…ちょっと…ハラが…」

⦅仕事だ。切り替えていこう⦆


 普通の人間に警報の音は聞こえない事を失念していた一護が、慌てて誤魔化した。井上、石田、チャドが一護を見る。カワキは見向きもせずに虚の霊圧を探っていた。


「…虚か」

「あー」


 小声で会話するチャドと一護。いつまでも入ってこない転入生を探し、教師が扉を開けた横を潜り抜けて一護が廊下に出た。カワキも一護を追いかけて廊下を走る。


「…ってコラァ!!! 黒崎!! 志島!!」

「便所っス!!」

「便所ってあんたね…」

『すぐ済ませて戻ります』


 後ろから井上とチャドがこちらにダッと駆け出してくる足音がした。


「うおおい!! 茶渡!! 井上まで!!」

「「便所っス!!」」

「ウソつけえ!!!」


 教師が廊下で騒ぐ声が遠ざかっていく。石田が追ってくる気配は無かった。


◇◇◇


 虚退治は一護だけでもすぐに終わった。「オマエらまで学校抜けなくてもよ」と、気遣う様な一護の言葉に、一度やってみたかったと返す井上の顔は朗らかだった。


「そういや石田はどうした?」

『来てないよ』

「来てなきゃ来てないで気になるんだ。そういう奴だ」


 石田の不在を気にする一護を指差して、チャドがカワキと井上に言う。迷った様に口を開いた井上は少し気まずそうだった。


「石田くんは…ずっと調子悪いみたいだよ」

「え!? そうなのか?」

「うん。尸魂界(むこう)から戻るよりも随分前から…」


 全く気付いていなかったらしい一護が、驚いた顔でチャドとカワキに訊ねる。


「…気付いてたか?」

「…いや…」

『私は知ってたよ。地下牢で治療した時に確認した』


 カワキには石田の状態を隠してやる義理も、隠蔽を頼まれた憶えも無かった。正直に聞かれた事に答える。


「…そうだったのか…?」

「なんでその時に言わねーんだよ!」


 チャドはポカンと口を開けた。チャドの方を見ていた一護が目を大きくしてカワキを振り返る。

 どうして伝える必要があるんだろう? カワキにはわからなかった。


『石田くんの選択は彼自身の責任だよ。私や君達が口を出す事じゃない』

「それは……そうかもしれねえけどよ…」


 言葉に詰まった一護に寂しげな顔をした井上が語る。


「…黒崎くん達には気付いて欲しくないんじゃないかな…。石田くんはきっと…そういうとこ人に知られるの好きじゃないから…」

『自分が弱っている事を知られたくないと思うのは不思議じゃない。……石田くんのような人間なら特にそうだろうね』


 死神を憎み、復讐の念に燃える石田の事だ。死神に弱っていると知られたくないのだろう。カワキは現世に帰った日も、石田が一護を「死神」と呼称していた事を思い出した。


「…井上…。…だったらそれ、俺らに言わない方がいいんじゃねえか…?」

「え!? あ、そうか!! そうだよね!! ど…どうしようどうしよう!!」

「わーかったわかった!! まだ気付いてないフリしとくから!」

「ホ…ホント!?」


 わいわいと賑やかに、学校へ戻っていく4人の姿を頭上から眺める人影があった。逆さまに空に立ったまま、ペットボトルで水を飲む。重力に逆らって、水も、髪も、服も、地上に落ちる事はない。

 その異様な人物に、カワキも気付く事は無かった。


「黒崎……一護ね」


***

カワキ…正直者だから便所ではないので、「便所っス」とは言わない。石田が霊力を失った事に我関せずな態度。石田に対しては死神への復讐に命懸けのアヴェンジャーだと誤解中。ツンデレを理解出来てない。


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