加筆まとめ①
転入生、平子真子教室
黒板に逆さ文字が書かれていく。
「平子真子でぇす。よろしくーゥ」
「うおーい。平子君平子君、逆逆!」
「上手いこと書けてるやろ? オレ得意やねんで、さかさま」
「あー、そうかい。じゃあ、もうあんた、コレ含めて自己紹介に入っちゃいな」
一護は転入生の自己紹介も碌に聞かず、考え込む。石田から滅却師の能力が完全に失われた事に気付いたからだった。尸魂界に行ったせいで能力を失ったのだと、思い悩む一護を井上が不安げに見遣る。
カワキは一護の様子を見つつも、転入生を訝しげに眺めていた。
⦅こんな時期に転入生…? 妙だな……⦆
近頃は事件が起こり続けていたせいか、カワキは環境の変化に敏感になっていた。突然の転入生、平子に胡乱な目を向ける。
「よーし! じゃあ席はそこの後ろな!」
「あいあーい」
⦅よりにもよって一護の隣か⦆
カワキにはあまり好ましくない事態に、少し眉を顰めて様子を見た。
「おとなりさんやなァ。仲良うしてや! 黒崎くん」
「ん? お…おう、よろし…」
平子の声に我に返った一護が挨拶を言い終わる前に、また虚の出現を知らせる警告が鳴った。
「うおおっ!? ゴメン、遠智サン!! ちょっと便所!!」
「何ィ!? またか黒さ…ちょっ…まてコラ!! 黒崎ィ!!!」
バタバタと慌しく教室を出ていく一護の席をきょとんとした顔の平子が見ていた。チャドが「…すまん」と謝る。
「何というか…ああいう奴なんだ」
「あァ、イヤ。構めへん構めへん。…思てたまんまや」
ニヤリと笑った平子を、真剣な眼差しでカワキとチャドが見ていた。
◇◇◇
その夜、異変が起こった。
『――! 何だ…この感じ……』
一護の霊圧が大きく揺らいだ。近くに誰か居る。同時に街中に虚の霊圧を感じた。それも一つではない。ぐっと眉を顰める。
一護の付近にいる謎の人物。別々の場所に同時に現れた虚…。一度にすべての異変を見て回る事はできない。カワキは口元に手を当てて考える。
⦅一護の方へ向かうか? …! この感じ――…一護の肉体の方に虚の霊圧が近付いてる? もう一つは…石田くんが近いな⦆
カワキは長い息を吐いて、静かに感覚を研ぎ澄ませる。いっそ、割り切って霊圧を探る方が得られる情報が多いだろうと判断しての事だった。
『一護と戦っているのは――……この霊圧…平子くん、か?』
波のように大きく揺らいだ一護の霊圧も今は安定を取り戻している。近くにいた者の霊圧は、今朝の転入生に似ているように感じた。カワキは続けて虚の霊圧を探る。
⦅――片方はグランドフィッシャーだな。あれだけやられてまた空座町にやって来るなんて……懲りないな。仕留めておくべきだったか…?⦆
カワキが一護の前に姿を現し、滅却師だと名乗ったあの日、一護と戦っていた虚がグランドフィッシャーだった。その時の事を思い出してカワキが瞳孔をきゅっと鋭くする。その直後、カワキは弾かれたようにばっと気配のする方角へ視線を向けた。
『――誰だ…この霊圧……』
一護の肉体――コンの方に隊長格クラスと思しき霊圧の持ち主が居る。だが、その霊圧はカワキには憶えが無かった。つまり尸魂界で会った隊長の誰でもない誰かだ。
束の間、グランドフィッシャーの霊圧が消えた。やったのはこの“誰か”だろう。
『コンに異常は無い……。…味方…と見ていいのかな……』
正体はわからないが、敵対勢力では無いらしい。ひとまずは、一護の肉体は無事に危機を脱したと思っていいだろう。
残りは――…。
『石田くんも無事だな。弓も作れない状態でよく生き残ったものだ』
カワキは意外そうに呟いた。地下牢の中で、石田から滅却師としての力が失われていく様を確認していただけに、カワキには少なからず驚きがあった。
『……あぁ成程、そういう事か』
石田の付近の霊圧を察知して、カワキは合点が入った。おそらくは石田竜弦が助けに入ったのだろう。裏切り者 石田宗弦の息子の存在はダーテンにも記述があった。
⦅強いと言うのは事実らしい。今後、接触する際は気を付けないと……⦆
カワキは一度目を閉じて、研ぎ澄ませていた感覚を常の状態に戻していく。今夜の異変から得られた情報を、瞼を閉じた暗闇の中で整理する。気になった点はいくつもあった。
明日以降、調べるべき事が山程できたと思いながら、瞼を上げたカワキ。これにて騒がしい夜は幕を下ろした。
***
カワキ…マジで洒落にならない状態だったコンと石田を見捨てて探知していた。竜弦の事はダーテンで知ってるし、あいつ宗弦に帝国の事を聞かされてるんじゃね? と思って警戒している。
竜弦…見えざる帝国の事を知っているだけあって、カワキをアホほど怪しんでいる。マジでめちゃくちゃに疑ってるが息子との折り合いが悪いので伝えられていない。