二初夜未満
二代目×処女与一の初夜未満〜乳首開発授乳&尻開発手マン〜よしよしフェラチオ二人で体温を分け合うだけの、いつもと変わらない静謐な夜のはずだった。同じ毛布に潜り込んで見つめ合い、眠りに落ちるまで、ぽつぽつと軒先の雨垂れのようなおしゃべりをする。
いつもと違うのは、互いを見つめる目に熱が点っていることだった。二人は相手の身体にじっとりと貯まっている熱が手に取るようにわかった。この熱の行く先になにがあるかなど考えるまでもなかった。
しかし男は与一に手を伸ばすことを躊躇った。細く頼りない身体で、懸命に一人闘った与ーにこれ以上の無体を強いるようなことはしたくはなかった。なにより、与一の冷えた身体を己の体温で温めてやりたくなる、俺はそんな真綿で包み込むような慈しみだけを向けていたはずだと、己の抱いた欲望に戸惑った。
男の葛藤を知ってか知らずか、与ーは二人の間の境界線などものともせず腕を伸ばして男の首に抱きついた。鼓動が速い。男の首筋の血管の脈動が与一にも聞こえてしまっただろう。男は己の熱い吐息がかからないよう、息を潜めて与一の言葉を待った。
「こういうとき……映画ではどんなことをするか、知ってる?」
「……俺たちは映画の中の虚構じゃない」
「じゃあ僕たちは、どうするべき……?ここに生きてる僕たちは……」
与一の瞳は熱を帯びて男を映し、それでも力強い意志を感じさせた。求められていると感じた男は、もはや与一の引力に抗わなかった。そして与ーも男に引き寄せられて、そのまま唇を重ね合わせた。
角度を変えて何度も啄み合うと、行き場を失った身体の熱がそこから相手に伝わって、また相手の熱で自分を熱くされていると感じた。
男の手がシャツ越しに背を撫で上げて、与一の背筋をゾワゾワとしたものが走り、下腹をじんわりと熱くした。与ーは思わず両腿を擦り合わせてから、男の脚に自らの脚を絡めた。
すると男が与一の口内へと舌を忍ばせてひと舐めしたので、与ーも男の真似をしてそれに答えた。男はより深く与ーを味わうため、天蓋のように与一の上に覆い被さった。
与ーは男の舌とその唾液にうっとりとしながら、男を支えている逞しい腕をひと撫でして、それから張り出した首筋をゆっくりとなぞった。男の背がヒクリと震える。二人を服で隔てられていることがもどかしくなった与ーは、そのまま手を腹まで伝わせてシャツを脱がせようとした。
「待て、最後までする気はないぞ」
「どうして?僕は君と一つになりたい……君は違う?」
「そうじゃない……お前に負担が大きすぎる。何をするのか本当にわかってるのか?」
「わかってるつもりだけど……君のおちんちんは大きいから、僕に挿れるのは大変そうだなって」
事もなさげにそう宣ったのち、与ーはチラリとボトムスを押し上げて膨らんだ男の股間に目をやった。服越しでも男の欲の高まりと陰茎の大きさは一目瞭然だった。
男は気恥ずかしさから渋い顔を作りつつ考えを巡らせた。
「だから……触るだけだ」
「今日のところは?」
「…………今日のところは」
それならと与一は笑みを浮かべた。
「じゃあ、君のおちんちんを受け入れる準備もしないとね」
と、与ーは手を伸ばして男の陰茎を服の上から愛おしげに撫でさすった。男は急な刺激にウッと呻き、恨めしそうな顔をした。
男は仕返しをするかのように与一の薄い唇に噛み付いて、与ーも男に応えるように口を開いた。
コツを掴んできた与ーは男の舌に自らの舌を絡め合わせ、ちゅうと吸って唾液をねだった。その幼気な様子に男の腰が甘く痺れ、思わず与一の下腹に腰を緩く押し付ける。
服越しでもわかる、男の欲望を象徴する陰茎の硬さにヒクリと反応した与ーは、その身体を男に添わせるために首に回した腕で男をさらに抱き寄せた。
角度を付けて深く噛み合うおとがいの中で、唾液を纏った舌は結ばれては解けていくようだった。舌のざりざりとした味蕾を合わせると互いの味は麻酔のようにびりびりと広がって、同じ感覚を共有しているのだと否応なく認識できた。
与ーは男の海を思わせるゆったりとして雄大な口付けに全身で揺蕩った。やがて互いの息が上がり始め、唇を解くと混ざり合った唾液が二人の舌をねっとりと繋いでいた。与ーがこくんと唾液を飲み干す。
「ん……キスってこんなに気持ちいいんだね……知らなかった……」
「初めてか」
「うん。キスも、えっちなことも、君が初めてだ。……君は?えっち、したことある?」
「……男同士では初めてだ」
与ーはあまり男性性を感じさせない男ではあったが、それでもその身体の硬い感触に、今までの女性経験とはわけが違うであろうことは察しがついていた。
性交の経験がない──つまり男と姦通したことがない──男に、どうすれば負担をかけずに交われるだろうか。与ーと交わることは、男にとって重要な使命であるかのように思われた。
そして己が与一の初めての相手であることに、与一にこの身を乞われたことに、男は身体の奥底から歓びが湧き上がるのを抑えきれなかった。
この気高い男を愛することを許されたのは己だけ、同時に愛を与えられたのも己だけなのだ。与一に選ばれた我が身が誇らしいものであるかのように思えてくるのは、いささか単純すぎるだろうか。
男の内心を知ってか知らずか、与ーが男を誘うように頬を撫ぜる。
「じゃあまずは君が教えて……?えっちの仕方……キスの後は、それから……?」
男は誘われるまま与一の口を啄み、パジャマ代わりのシャツのボタンを一つ一つ外していった。前をはだけさせて、骨が浮き出ている、それでも出会った頃よりは幾ばくか肉がついた胸から横腹を、その大きな手で優しく撫ぜた。
男の厚い唇が与一の唇から離れると、顎先から首筋へと口づけを落として行って、心臓の上に吸い付いた。
「ん……」
男の硬くカサついた指先が、熱い唇が身体に触れるたび、彼の優しさが骨身に染みていくようで、与ーは男の肩に手を滑らせてうっとりと目を細めた。
身体をゆったりと撫でる男の手が、与一の落ち窪んだ腹を内側から押し上げて、そこだけ出っ張っている骨盤の内側を親指でくりくりと指圧すると、下腹部がジンと熱くなるのが不思議だった。
与一が尻を浮かせると男の手はボトムスまで到達して服の隙間から忍び込み、与ーの脚からゆっくりと下着ごと抜き去った。
「君も、脱いで……」
シャツを引っかけただけ、ほとんど何も纏っていない与一は、この身体の熱を男に伝えたくて仕方がなかった。そして男の熱を感じさせて欲しかった。
物欲しげな与一の視線に晒された男は自らのシャツを脱ぎ捨て、勃起したペニスが引っ掛かるボトムスを鬱陶しげに取り払い、与一の身体に自らの身体を重ね合わせ、唇を求める。
男の身体は鍛え上げられた筋肉の鎧で覆われて、熱に変わる与ーへの想いで煮えたぎるように熱かった。
二人が脱いだ服がベッドの下に散乱して、いまや抱き合う二人を隔てるものはなにもなく、やっと与えられたお互いの体温を享受していた。
火照った身体と速い鼓動は未だ収まるところを知らず、与ーの下腹に当たる男のペニスは熱く脈打って、お互いの期待を加速させていた。
与一の指先が男の広い背中に散らばる傷跡をなぞる。一つ一つ確かめるようになぞる指先は、男の傷跡を愛撫するようでもあり、その分布図を覚えようとするかのようでもあった。
輪郭を確かめるように与一の頬を包んだ男の右手に、与ーは自分の手を重ねて頬を擦り付けた。男の手の分厚い皮膚は硬く強靭で、しかし与ーを傷付けたことは一度もなかった。
この手に触れて、触れられたい。
そう伝わるように男のてのひらに口付けた。
男は親指で与一のまなじりを撫でてから、右手を与一の身体の下へ下へと躍らせる。首筋をくすぐり、狭い胸郭に沿わせ、薄い腹を辿り、頼りない骨盤を撫で、それから皮膚の薄い内腿へと滑らせて、手のひらで包んでからその脚を優しく割り開こうとした。
「うっ」
が、柔軟性に欠ける与一の身体は想像より遥かに開きが悪かった。股関節はブリキのようにぎこちなく、男の腰を挟むのがやっとという体だった。
「……」
「……」
これは与一の細い身体──小さな尻に俺のペニスを挿入できるできない以前の問題かもしれない。正常位では無理ということか?後背位なら負担が少ないかもしれない。しかし初めてのセックスで与ーの顔が見れないのは俺も寂しい。
男の逡巡が与ーに伝わる。与ーは沈んだように見える──事実、ペニスは少し項垂れていた──男に対して、励ますように決意した。
「ストレッチ、しよう…!」
✴︎
結局熱い夜の予感が霧散してしまった二人は、一旦翌日に持ち越すことにして、欲望の行先がなくなって熱を持て余した男がトイレで処理をしてから裸のまま抱き合って寝るに留めた。
初夜としてはノーカウントである。
「あいたた……」
「勢いをつけるな、筋を痛める。ゆっくりでいい」
そして翌日の風呂上がり、インストラクター役を務める男に監督されながら、与ーは股関節の可動域を広げるためのストレッチを行なっていた。
まずは座って脚を左右に開き、前に上体を倒すことで股関節に負荷をかけていく。数十秒間の後、身体を脱力させる。これを男のカウントに合わせて繰り返す。
それから胡座をかくように足裏同士を合わせ、パタパタと上下に振って腿を地面に近づける。戦いのために柔軟性を備えている男とは違い、残念ながら与ーの腿は床にはつかなかった。今後に期待である。
それからも15分ほどかけてストレッチを施していった。
これも二人が交わるために必要なのである。関節は軟らかい方が日常でも怪我をしにくい。常日頃から虚弱体質の与一を心配している男にとっても大事なことであった。
「よし。最後にマッサージをしてやるから、横になってくれ」
「それで身体が軟かくなるのかい?」
「マッサージをしながら股関節をストレッチさせるんだ」
「服は脱いだ方が?」
「じゃあ下だけ脱いでくれ」
与ーは躊躇いなく下着まで脱ぎ去った。少し肌寒い。ベッドに仰向けになると、男が脚を跨いで陣取る。
男は与一の右腿の内側に手を差し込むと、鼠蹊部へ向けてリンパ腺を力強くぐっぐと指圧していく。男の手は温かく、指圧によって脚が温められていく。
「どうだ?痛くないか?」
「うん、ちょうどいいかんじだ……」
「じゃあこのまま続けるぞ」
何度か下から上へとリンパを流す動きを繰り返した後、反対の腿も同じように指圧する。
そうしてから開ける限りまで脚を開かせ、鼠蹊部へと手を添えて揉み込み、股関節につながる筋肉と筋とを解していく。じんわりとした温かさが身体に広がる。
与一の右膝の裏に手を差し込み、軽い右脚を掬い上げるように折り曲げさせる。そのまま膝を時計の針のようにゆっくり大きくぐるりと回し、股関節の可動域を広げていく。膝が胸元まで到達したとき、膝を胸に近づけるように負荷をかける。与一の反応を見ながら、少しの痛みも見逃さないように。
逆回しも何周か繰り返し、反対の脚も同じように回していく。ゆっくりと行われる行為によって負荷は心地よさに変換されるようで、与ーは少し眠たげだった。
「ん、終了だ」
「ありがとう……身体がぽかぽかしてきたよ」
「足の付け根は血管やリンパ腺が集中してるからな。これからはこのストレッチとマッサージを欠かさず行う」
「ふふ……えっちのために、ね」
「……日常で怪我もしにくくなるだろ」
微笑んだ与ーは、寝転んだまま男に両腕を伸ばす。その伸ばし方に意図を察した男は、与ーを抱きしめ毛布をかけて一緒に横になってやる。
素足のままの脚が男の脚に絡む。男は与一が半裸なことが気になってきた。
与ーは男の耳に口を寄せ、吐息混じりにささやく。
「ねえ……えっちの準備って、それだけじゃ足りないよね……?」
「…………」
与一の欲を孕んだ声が男の腰に響いてぐっと身体の熱が上がる。その様子を感じ取った与ーは甘えるように男の首筋に擦り寄り、手で胸元をまさぐる。
男は与一のおとがいに手を添えて顔を誘うと、応えるように口付けた。何度か啄んだのち、舌を差し込んで絡め合う。
男も同じ気持ちになってくれたことに満たされてゆく心地の与ーは、男の舌をあむあむと甘く噛んでその熱をさらに煽った。
与一の悪戯な手は、男の官能を引き出そうと服越しに胸筋から腹筋にかけてを指先で押し込んだり擽ったりする。こそばゆさに男は身を捩り、お返しとばかりに裾から手を差し込んで与一の背筋をなぞった。
与一の口から漏れた熱い吐息を吸った男は、横を向いていた与一を転がして男の身体で覆い隠した。与一のシャツのボタンを外して脱がせる。
一糸纏わぬ与一の熱い視線に促された男はひとまずシャツのみを脱ぎ捨てた。与ーは嬉しそうに男の背に腕を回し、男の熱を歓迎した。
二人は自然と顔を傾けお互いの唇を啄み合う。その間も与一の手は男の背の形を確かめ、男の手は与一の官能を引き出すためにカサついた指先を滑らせる。
男が与一の小ぶりなペニスに手を伸ばした。
「あ、僕のおちんちんは大丈夫だよ。あんまり感じないからね」
「そうなのか」
「うん、それに勃たなくて。EDってやつなんだ」
先日の睦合いから真性包茎であることはなんとなく察してはいたが、男の快感を得る器官として最たるものがその役割を正常に果たさないとなると、男の中で与ーとのセックスの難易度がさらに上がったような気がした。
それにきっと、原因は監禁生活のストレスによるものだろう。与一は聴く側への配慮からか自身の経験の詳細や心境を語らなかったが、受けた仕打ちを考えると胸が痛まずにはいられない。
──いつか与一の口から全てを聴いて、受け止めてやりたい。もし与一が自分でも気づかず苦しんでいるのなら、その苦しみを和らげてやりたい。この男を誰よりも慈しんでやりたい。
与ーを想うが故に表情の険しさを隠すことができなかった男に──いいや、隠そうとしても与一にはわかってしまうのだが──、与ーは安心させるように笑いかける。
「ねえ、大丈夫だよ。昨日君に触られて僕はとっても気持ちよかった。それとも君にはそうは見えなかったかい?」
「いいや……」
「だろ?だからその先もきっと大丈夫。二人で一緒になろう……?」
与ーは男を目の前にして、男のことだけを考え、男と一つになりたがっている。今、与一に求められているのは己なのだ。そう思うと、男の無聊は慰められていった。
──また与一の手に掬われてしまった。男はどうあがいても与一には敵わないことを何度となく思い知る。しかし、それは心地いい枷だった。
与一の幸せが男の幸せであり、与一の望みが男の望みだ。男は二人で愛し合う合図として、与一に口付けた。
男は再び与一の身体を愛で、性器以外での与一の官能を見出そうとした。男の硬い指先は与一の薄い肌をするするとくすぐるので、与ーはどこを撫でてもくすぐったそうに笑った。
男はふと、薄い胸越しに胸郭を包んだ男の手のひらに、ぽつんと固い感触を覚えた。思い至った男はその尖りを転がすように撫でた。
男の身体が快楽を得る場所といえば陰茎、ということで存在を気に留めていなかったが、そうだ、男でも乳頭はあるじゃないか。
手を離すと与一の薄く色づいた小さな乳頭は刺激によってその身を硬くしており、男に愛されやすくなっていた。迷わず指先でつまみ上げ、そっと捏ね回す。
「ん……」
脇や腹をなぞるときとは違う反応に男が期待を寄せる。まだ柔らかい右の乳首も左手を使って同時に固く尖らせていく。
与一の足がもじもじと動いて腿で男の股間を擦る。男は眼前にある与一の乳頭をそっと舐め上げ、そのまま吸い付いた。
「あっ……ふふ、お乳なんて出ないよ」
「……当たり前だ」
「ふあ!ん……」
揶揄われた男はじろりと与ーを見やり、見せつけるようにその歯で乳頭を甘く噛んだ。その後労るように何度も舐め上げ、反対の胸にも同じように愛撫を施していく。
たしかに男の乳首は女のそれとは違い、子を育む上でなんの役にも立たないものである。
ではなぜ男には必要のないものが退化せずそのままついているのか。それは快感を得る器官だからに他ならないのではないか。それ以外で男の乳首など役には立たないだろう。だから与一の胸も愛撫されるためにあるのだ。
熱に浮かされた頭で男は考える。おそらく翌朝には馬鹿なことを考えたと後悔するだろう。与一が乳首から快感を得るようになることに集中するあまり、その理論でいけば当然男自身の乳首も同様だということが、今は頭から抜け落ちている。
その頭を少し呼吸が早まっている与一によしよしと撫でられる。仕上げに乳頭をキツく吸い上げると、その手が頭を押さえつける。
「──んっ」
「あっ!」
吸い込んでいた口をぱっと離すと与一の背が震えた。少し汗ばみ、体全体がほんのり火照っている。乳頭は男の唾液を纏って、その刺激の余韻を味わっているようだった。
「……どうだった?」
「うん……気持ちよかった……」
「そうか……」
高まった熱に浮かされているような目で見つめる与一に、男はたまらず顔を寄せて顔中にキスを落とす。その手は与一の腰を撫で、その続きを示唆するようだった。
それから男は与一の身体を横向きにさせ、投げ出されている両足を掬い上げて体育座りをさせるように足を折り曲げさせた。
「力は抜いていて良いからな」
「うん、君に任せるよ」
来るべきセックスのため、サイドチェストの引き出しに用意した潤滑油を取り出す。右手に適量を取り出し、高い体温で温めながら、与一の尻に目を向ける。
与一の肉付きの悪い尻の間にある穴は慎ましく、直腸の直径を考えれば不可能でないことは頭では理解していても、ここに己のペニスが入る想像が男には出来なかった。
「……そういえば勃起不全の治療には、前立腺を刺激することがあるな」
「へえ、じゃあ僕も勃つようになるのかな」
与ーは自分の陰茎が勃起するかどうかはあまり重視していないようで、どこか他人事だった。
それよりも、与一にとっては男と繋がることの方が重要だった。与一が自分の手で尻たぶを左右に広げる。慎ましやかな尻の穴が期待に口を窄ませる。
「さあ……僕に教えてくれ、君と愛し合う方法を……」
✴︎
男は横たわる与一のかたわらに肘をつき、与一の顔を眺めながら彼の尻に手を差し込み、固く口をつぐんでいた尻穴を解していた。
男の顔つきは外科手術でもしているのかというくらい真剣だった。額の汗を拭う暇もないほど集中している。与一の反応の変化を一つも逃すまいとしているのだ。
一本だけ差し込まれた人差し指の感触に慣らした後、穴を広げるようにゆっくりとかき混ぜる。与一の顔は最初に「不思議な感じだ」と答えた表情から変化はなかった。痛くもないが、気持ちよくもないと言ったところだ。
男は指は指を一度抜き、中指も添えて口をふにふにと揉んだ後、ぬかるんだ胎に慎重に差し込んでいく。与一は相変わらず「変だなあ」といった顔をしている。身体は弛緩しきっているので、問題ないだろう。
与一の胎はあたたかく男の指を包み込んでいた。今度は二本の指をゆっくり抜き差ししながら胎内の壁を撫でていく。指先でなぞり上げて、引き抜く時に指の腹で擦る。
「あ……」
「痛いか?」
「いいや……でもなんだかムズムズするような気がする」
腹側を指先で指圧されると、与一が初めて身体を捩らせる。そこがちょうど陰茎の裏側に位置する前立腺だった。
男は心得たように重点的にそこを擦り上げた。差し込んだままの指を折り曲げて何度も指先で撫であげる。やがてもぞもぞと与一の膝が擦り合わされ、尻の穴が男の指をきゅうと締め付ける。
「そこ……くりくりされるとお腹ジンジンする……」
次第に艶を帯びていく与一の声に、男はさらに薬指も共に差し込んだ。胎を隔てる前立腺の存在を確かめるように指を押し当てて揉み込む。
与一の尻穴は男の三本の指も難なく食み、胎内にもたらされる刺激にヒクヒクと指を食い締め始めた。
「あ……はあ、んっ……」
「大丈夫か?」
「うん、気持ちいいよ……んん」
男は与一の顔に鼻面を擦り寄せる。頬を紅潮させた与一の潤んだ瞳に見つめられると、男は口付けを落とさずにはいられなかった。
男の血管が浮き出ている手は休むことなく与一の胎をあやし続けた。小刻みな調子をつけて指圧するように押し込むと、それに合わせて与一の口から思わずといった声が漏れ出る。
「あ、あ、なんか来ちゃう……!あっ……はあ……ッ!」
胎の中でなにかが暴れているかのように、与ーは腰をくねらせた。
男は指を止めず、与一の反応をじっと見つめながら与一が最も悦んだやり方で前立腺を刺激し続けた。
腕はそれぞれ上へ横へと投げ出されて、胎で暴れ回る快感から逃れようともがいた。ちゅくちゅくと水音が漏れ出している。足先まで快感が行き渡ったようにピンと張り詰めた。与一の背筋が弓なりに反る。
「はっ、あっ、ん、来る、ーッ!アアッ──」
一瞬の硬直、それから全身が蕩けたように弛緩した。
その間もぎゅっぎゅと指は与一の尻穴に締め付けられる。まるで絶頂に導いたお礼のハグだ。立ち上がりもしなかった与一のペニスからトロリと精液が溢れた。
──この中に入るんだ。与ーの中に、俺のペニスを。
男はこくりと唾を飲み込んだ。与ーとのセックスが急に現実味を帯びてきて、男は自分の体温がグッとあがり、腰が重たくなったのを自覚した。
「指でも気持ちよかったのに……君のおちんちんを挿れられたら……どうなってしまうんだろうね……?」
官能への期待を隠そうともしない与ーは、絶頂の余韻を残す瞳で男をうっとりと見つめた。その先を想像して舌なめずりしているような目線に煽られて、男も思わず背筋が震える。
男の身体を視線でなぞっていた与ーは、この夜の間一度も触れらないにも関わらず、服越しにもそうとわかるほど健気にそそり立つ男のペニスに目を止める。
「僕ばっかり気持ちよくなってしまったね。君も気持ちよくならないと……」
「いや、俺は……」
「またトイレ?僕にも君を気持ちよくさせてよ」
「俺は自分でするから……」
「じゃあせめてここでしてくれよ。なんだか寂しいじゃないか……」
「……………………」
その日、男は生まれて初めて人前で公開オナニーをさせられた。あぐらとマスをかく男の股間をまじまじと見つめる与一に「ビクビクしてるね」「そこが気持ちいいんだ?」「ああ、たくさん出たね……」と囁かれながら射精することに興奮していつもより早かったことは、墓場まで持っていこうと思う。
✴︎
その日もまた、風呂上がりに股関節を広げるストレッチを終えて、二人のより良いセックスに向けて愛し合おうという夜だった。
獲物に飛びかかる直前の猫のような好奇心に満ち溢れた目をしている与一に、なにかろくでもないことを言い出そうとしているのがわかった。
「ねえ、君のおちんちん舐めてみてもいいかな?」
「だめだ」
「どうして?味見するだけだよ?」
「なんだ味見って……!」
与一の思考回路はたまに突飛な方向に向かうことを男は知っていたので、NOを突きつける準備はしていたが、フェラチオを味見と表現するその感性は理解できそうにない。
「だっていつも僕が気持ちよくしてもらって不公平だろう?僕だって君を気持ちよくしてみたい」
一体どこが不公平なのかはわからないが、与一が好奇心ではなく不平不満を訴えるのであれば跳ね除けるのも憚られた。
男はなんとか妥協案を絞り出す。
「手じゃダメなのか」
「手でもいいけど、口の方が気持ちよくないかい?それとも舐められるのは嫌……?」
男は嫌ではないことについて嫌かと問われて嫌だと答えられる性格をしていなかったため、首を傾げられながら寂しさを隠すような顔をしてこの聞き方をされるともはや誤魔化す術がなかった。
「嫌、というわけではない、が……その……おまえが大変だろう」
「それでも僕はやってみたい」
結局、男が与一に勝つ術はないのであった。全面降伏をした男は、与一が途中で諦めることを願って己の股間を明け渡した。
与ーは嬉しそうにいそいそと男の股間に陣取って、無遠慮に男のボトムスを脱がせる。
まだ柔らかいペニスはくったりとしていて、力強く隆起する姿とのギャップがなんだかおかしくてかわいいと思った与一は、挨拶代わりにペニスに口付けた。
「うっ!」
男の呻きとともにペニスが跳ね、与一の顔をぺちんと叩いた。興奮からすでに硬度を取り戻しつつあるペニスは徐々に鎌首をもたげていった。
「ふふ、元気だね……よしよし……」
愛おしげに陰茎全体にしっとりしたキスを降らしながら反応を探る。下までたどり着くと、柔らかな皮に包まれたどっぷりとした重たい睾丸をひと舐めして吸い付いた。この強靭で逞しく、けれども優しくて繊細な男の精子がこの中に詰まっているのだと思うと愛さずにはいられなかった。
皮はふにふにとしているのに中に硬い確かな感触がある不思議な食感を与一が楽しんでいる間に、ペニスはすっかり立ち上がって、触られるのを今か今かと待っているようだった。
健気な姿でビクビクと脈打っている血管を舌先でツツとなぞり、幹にはむと食みついてちゅっちゅと吸い付く。
れろれろと幹を舐め上げながら到達したツヤツヤとした亀頭は、飴のようにしゃぶりついて舌で弄んだ。
そのまま陰茎を口に迎え入れようとしたが、男の陰茎は思ったよりも太く、半分も咥えることができなかった。
口から一旦離し、眼前のペニスをまじまじと眺めると、その太さは与一の手首より太く、長さは与一の顔ほどもあって、なるほどと与ーは一人合点した。
「だからいいと言ったんだ」
その様子を見ていた男は耳を赤らめながらも顔を顰めて不本意そうなポーズをとった。与ーは男の様子を見て少々落胆した様子だ。
「舐めるのは気持ちよくなかった?」
「……そういうわけじゃない……」
気持ちよかったことについて気持ちよくなかったかと問われて気持ちよくなかったと答えられる性格をしていない男は、せめて明確には答えまいと意地を張った。
「じゃあ気持ちよかったんだね?」
「………………ああ」
「よかった、おちんちんビクビクしてるもんね。もっとぺろぺろしてあげるね……ん……」
しかし与一の前で一切の虚栄は無駄なのであった。
結局与一の口で愛されて射精直前まで高められた男は、その後の与ーとの睦み合いでいつもよりしつこく与ーを責めて嬌声をあげさせて、快感にひくつく白い腹の上に射精した。