一護vsグリムジョー④ 破面の撤退

一護vsグリムジョー④ 破面の撤退


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空座町


 盲目の目がグリムジョーを捉える。どうも加勢に来たという雰囲気ではなかった。東仙の変貌ぶりに興味が尽きないが、あの様子では訊いても話してくれないだろう。

 カワキも今度こそは黙って成り行きを見守る。


「……あァ? そもそも、なんでてめえがここに居んだよ!?」

「“何故か”…だと? 解らないか、本当に?」


 静かに訊き返す東仙に、グリムジョーは苦々しい顔を返した。規則的な歩調で空中を歩みながら、東仙が一つ一つ、その理由を告げていく。


「独断での現世への侵攻…五体もの破面の無断動員…及びその敗死――全て命令違反だ。わかるだろう」


 へえ、と胸の内で呟いた。カワキは脳内で開いた白紙のページに、いくつも記述を加えていく。

――“独断”、“無断動員”……これは藍染の指示じゃないのか。

――つまり、藍染は麾下の破面を完璧に統率できている訳じゃない。


「藍染様はお怒りだ、グリムジョー」


 決定的な一言。告げられたその言葉に、グリムジョーが眉間に深いシワを刻んだ。東仙は振り返る事もなく、グリムジョーの背後へ歩みを進めた。

 ゴーグルで隠された盲目の瞳がカワキに向けられる。何も言わずに見えぬ目で睨みつけると、グリムジョーに帰還を促した。


「行くぞ。お前への処罰は虚圏で下される」

「…ちっ…わかったよ」


 グリムジョーは渋々ながら東仙の言葉に従って、一護とカワキに背を向けた。地上から一護が遠ざかる背中に叫んだ。


「…ま…待て! どこ行くんだよ!!」

「ウルセーな。帰んだよ、虚圏へな」


 不機嫌を隠しもしないで告げるグリムジョーの前方で黒腔がその口を開いていく。カワキは撤退すると言うなら、引き留めるつもりはなかった。

――情報はもう十分だ。おおむね見るべきものは見たし、知るべき事は知った。


『それは助かる。今度からは、現世以外の場所で戦ってくれるともっと助かるんだけど……一番良いのは“今度”が無い事かな』


 カワキの別れの挨拶に、グリムジョーは舌打ちを返した。一護はなおもグリムジョーに噛みつくように怒声を上げる。


「ふざけんな! 勝手に攻めて来といて勝手に帰るだ!? 冗談じゃねえぞ!! 下りてこいよ!! まだ勝負はついてねえだろ!!」

「…まだ勝負は…ついてねえだと…?」


 その言葉が癇に障ったようで、唸るようにグリムジョーが呟く。足を止めたグリムジョーにカワキが銃を持ち上げた。苛立ちを露わにした顔が一護を振り返る。


「ふざけんな。勝負がつかなくて命拾ったのはてめえの方だぜ、死神」


 続いた言葉は、一護の図星を突くものだった。


「さっきの技はテメーの体にもダメージを与えるってこと今のてめえを見りゃわかる。撃ててあと2、3発ってとこだろう」


 白より黒の部分が多くなった目。侵食が進んだ一護の顔を冷や汗がつたう。


「だが仮にあの技をてめえが無限に撃ち続けられたとしても…てめえに解放状態の俺は倒せねえ」

「…解放…状態だと…?」

「…俺の名を忘れんじゃねえぞ。そして二度と聞かねえことを祈れ」


 閉じていく空間の向こうでグリムジョーが一護に名乗りと宣戦布告を告げた。


「グリムジョー・ジャガージャック。この名を次に聞く時がてめえの最後だ、死神」


 その言葉を最後に、破面による現世への侵攻は幕を下ろした。


⦅一護は完全に目をつけられたな。厄介な相手ばかり寄せ付けて……困ったものだ。それにしても――…解放状態、か⦆


――侵攻までに対策が出来なければ、虚圏の制圧難易度は桁違いに上がってしまう。

――陛下に進言が必要かもしれないな…。


 数年後に予定された侵攻の事でカワキが考え込む。一服しようとして懐に仕舞った煙草へ手を伸ばしかけ、「一護が居たんだった」と手を止めた。

 カワキとて学生として潜入している自覚がない訳ではない。人前ではなるべく喫煙を控えるくらいには気を付けていた。……酒は飲み物だからやめないが。


『破面の霊圧は消えた。ひとまず一件落着だ。良かったね、一護』


 カワキは呆然と立ち尽くす一護に言葉をかける。新しい情報が手に入り、脅威は去った。困り事もあるけど今日はいい夜だ。秘蔵のボトルを開けてもいい。


『私はほとんど観てる事しかできなかったけど――…一護? どこか痛む?』


 空を見上げたまま動かない一護に、首を傾げた。そこまで傷が深いのだろうか。


⦅そういえば、さっき派手に落とされてたな……頭の打ち所が良くなかったのか?⦆


 そこまで考えたところで、一護の背後にボロボロの恋次がやって来て声をかけた。


「…破面どもは…虚圏に帰ったのか…」


 一護は応えない。カワキは人形のような顔の下で疑問符を浮かべるばかりだ。


「…勝ったのか」


 やや間があって、一護が一言告げた。


「敗けた」

「…馬鹿野郎。生きてりゃそれで勝ちじゃねえか」


 カワキは口には出さないものの、恋次の言葉に頷いた。一護はどうして「敗けた」と思うのだろう。


「嘘、吐くなよ。お前が俺ならそうは言わねえ筈だぜ。…俺は誰も護れちゃいねえ。傷つけた奴を倒せてもいねえ」


 怒りとも悲しみともつかない顔で一護は眉間にシワを寄せてぎりりと歯噛みした。その様子にぱちぱちと瞬きをして、カワキはまた一つ、一護への理解を深める。


⦅成程――…怪我人が出た上で敵を仕留められない事が、一護の「敗け」なのか⦆


 一護が去っていった男の名を呟いた。


「…グリムジョー…――俺は敗けたんだ」


***

カワキ…チョコラテ理解度が少し進んだ。情報の答え合わせまで出来てホクホク。人の心は順調に学べている、筈……。


一護…「何も護れなかった……」と激しく落ち込んでいる。多分洪水警報が出てる。心情をきっちり言葉に出す為、カワキからの理解度が上がりやすい。


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