ユメの狂奏曲
無益なセッションはやめなされトリオ過去編の方が書いたSS
「ノンシュガー・サマー」
をベースにしています
【ナツ以外が砂糖堕ち済み+4人全員でアビドスイーツ団を結成しアビドス入りした√】という別の世界線です
シュガーラッシュも再結成済みですが、ナツだけ素面ながらドラムやってます
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ヒナ「…セッションをしたい?」
アイリ「は、はいっ!ヒナ委員長さんはピアノがとても上手だと聞きまして!」
「まあ弾けないわけではないけれども…セッションってことは、貴方達のバンドと一緒に弾くってことよね?」
ヨシミ「そういうこと!…です。アイリが『どうしてもヒナ委員長と一緒に演奏したい!』と言って聞かなくて」
「ふふっ、そこまで遠慮しなくてもいいのよ?正直アビドスでの風紀委員長生活は割と暇な時間が作れるし、少しくらい付き合えるわ」
カズサ「意外と言ってみるもんだね…」
ある日アビドスイーツ団は、ヒナと共にセッションをしたいとお願いした
というのもヒナの弾くピアノは上手だという話を耳にしたアイリが、一緒に演奏したいと思ったのが始まりだった
半分ダメ元なお願いだったものの、ヒナは快く引き受けてくれた
アイリは嬉しそうにし、ヨシミとカズサはすんなりOKしてくれた事に驚くものの同じく喜びながら拳を合わせた
しかし一方で、顔色の悪い者が1人いた
未だ砂糖摂取をしておらず素面のままでいるアビドスイーツ団、柚鳥ナツ
アビドスの頂点に君臨する3人の内の1人が、自分達の演奏に参加する…
それはナツにとって強いプレッシャーを覚えるのに十分すぎる展開だった
ナツ(なんということだ…小鳥遊ホシノや浦和ハナコも非常に恐ろしい相手だが、空崎ヒナ…彼女が私達と演奏を…?
このままでは最悪の場合、私が素面だとバレかねない…だからといってアイリ達が直談判した上で了承を得た以上、私が反対意見を述べるのはもっと危険だ…)
喜びに舞い上がっている3人とその様子を見て微笑みを浮かべているヒナに対し、ナツは内心とても焦っていた
同調せざるを得なかったとはいえ、もう後戻りが出来なくなる所まで行き着いてしまったのだ
ナツ(こうなっては致し方ない。ロックというベールで動揺を隠し、セッションを無事成功させようではないか)
そう決心し、ナツはスティックを持ってヒナに近寄る
「我ら“シュガーラッシュ”との共演に、心からの感謝を伝える。素晴らしき演奏を叶えよう、ヒナ委員長」
いつもの誇張したような語りをしながら手を差し出す
少し震えているが、協力的という姿勢を相手に見せなければいけない
「えぇ、よろしくお願いね」
手を握り返される
軽く握っているように見えるが、まるで万力のような握力
加減は当然しているのだろう、けれども握られた手がこんな窮屈になるほどとは思わなかった
ナツの焦燥や恐怖は増す一方だったが、それでも表には極力出さず笑顔を見せて事なきを得た
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アビドスイーツ団ことシュガーラッシュがヒナのピアノと共演する、というユメのようなコラボが実現…
この話はアビドス中に広まり、生徒達は演奏を心待ちにする
当然ホシノとハナコも楽しみなようで、時々5人の練習現場に訪れては差し入れや激励の言葉をかけてくれた
しかしその時も、ナツだけは焦りや恐怖を含んだ冷や汗ばかり流す一方…
いつ自分が素面だと気付かれるか
もし気付かれたら砂糖を食べさせられるのではないか
そんな不安や焦燥で精神を擦り減らし、砂糖によって安定を手に入れていた他のメンバーよりも上達が遅れてしまう…
だがそんな時も、みんなは不気味なほど前と同じノリで優しく接するのだ
“自分は恐れ過ぎているだけなのかもしれない”と考えることも可能だろう
でも今のナツにそんな余裕は無かった
ナツ「はぁ…はぁ…!」
夜、専用に用意された練習用の防音室で一人自主練に励むナツ
すると防音室の扉が開かれた
「っ!?な、なんだミヤコさんか…」
ミヤコ「お疲れ様です。ささやかながら差し入れを持ってきました」
「あ、ありがたい…」
「ちゃんとノンシュガーです。なんなら毒味でもしましょうか?」
「いや、貴女の事は信じている。そんな事をする必要はないよ」
そんなナツにとって唯一の支えはミヤコだった
彼女は自分と同じくアビドスでは素面側の人間…現に砂漠の砂糖や塩を含まない食事を用意してくれている
ミヤコの応援はナツにとってメンバーや首脳陣からの激励よりありがたいもの…
助かると思う一方で、仲間やホシノ達の激励を受け付けられない自分自身に嫌悪する事も多々あった
最早、意識がある時は常に精神を削っているのも同然の状態
だがこのような多くの苦心と戦いつつもなんとか上達していくメンバーに食らいつき、なんとか本番直前までに違和感が無い息の合った演奏へ整ったのだった…
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そして演奏開催予定日
【シュガーラッシュfeat.空崎ヒナ】
による協奏曲が幕を開けた
警備室や放送室によって、自治区内全域の住民は生で見れずとも中継した映像を見れるようになっている
ヨシミ「あーあー、みんな準備はいい?私達シュガーラッシュとヒナ様コラボの演奏、始めるよーっ!」
「「「「「おおーっ!!!」」」」」
カズサ「とりあえず…ヒナ様から演奏を披露するにあたって一言どうぞ」
ヒナ「こういうのは正直慣れていないのだけれど…いいわ。前口上してみる
私はピアノとボーカルを担当、アイリはキーボード担当、ヨシミはギター担当、カズサはベースとボーカル担当、そしてナツはドラム担当よ
私自身も夢のように思えるこのコラボ、よかったらみんな楽しんでいってくれると嬉しい」
「「「「「キャーッ!!!」」」」」
カズサ「以上、ヒナ様の前口上でした。ありがとうございます。次にドラム担当のナツから…なんかある?」
ナツ「なっ!?えっとその…とにかく、選ばれし者として、最善を尽くそう…」
カズサ「…それだけ?まあいっか。ではキーボード担当アイリ、最後に一言」
アイリ「えぇっ私!?そ、それじゃあ…こほん。みんな!私達アビドスイーツ団ことシュガーラッシュと、風紀委員長のヒナ様による新曲…
【スウィーティー・ドリーム】
を、どうか最後まで聴いてください!」
「「「「「わあーっ!!!」」」」」
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ナツ「はぁ…はぁ…あ゛ぁ…」
演奏中、緊張や不安に押し潰されそうになったものの、ナツは最後まで問題なくドラムを奏でる事が出来た
だがその分、肉体的にも精神的にも酷く疲労が溜まり演奏終了後にはもう控室で汗だくのまま一人で腰掛けている始末
「なんとか…使命を、成し遂げた…」
お得意の哲学じみた台詞さえ中々浮かばないほどのくたびれ具合
何度(純正の)水を飲んでも渇きが癒えぬ状態で息を切らせていると…
ヒナ「お疲れ様」
「ぅおっ…!?ヒ、ヒナ…様…!?」
全く欠点のない素晴らしい演奏を奏でたというのに、疲労の様子をこれっぽっちも見せていないヒナが現れる
「大変だったでしょう?メンバーの中で貴女が一番疲れている様子だし」
「い、いや…そんなことは…」
「ナツ」
ヒナは食い気味に語り掛けながら近寄る
「ヒ、ヒナ様…!?今の私は、汗の権化も同然だ…!そんなにちかづ」
間髪入れず耳元に顔を近づけ…
「砂糖を使わずあそこまでやりきれた事、よくやったと褒めてあげる」
「………は…?」
「本当なら楽にしてあげたいけれども…ミヤコと同じで、無理強いはいけないとホシノやハナコにも言われているから」
「な、な…」
「そうそう、ハレやハスミ達もあの演奏を楽しんでくれていたわよ。特に貴女は“砂糖を使っていないのに、あんなドラム捌きが出来るなんて凄い”…なんて大絶賛だったわ」
「え…そ、それ、じゃあ…」
体温が急低下する感覚に襲われるナツ
あまりの動揺で座った姿勢が崩れパイプ椅子を倒しながら床にへたり込む
「仮の話だけれど、貴女が砂糖を欲する時が来たら…少しばかりサービスすると約束するわ。ホシノもハナコも認可してくれたから。貴女のドラム捌きに対するカルテルからの“報酬”よ」
そう告げるヒナの顔はあまりに優しく、慈愛さえ含んでいるような綺麗な微笑みを浮かべていた
だがナツから見たその微笑みは、あまりにも恐ろしいものだったのだ
怯えて震えた顔と、演奏疲れの汗よりも多い冷や汗を流すナツから離れたヒナは
「改めてお疲れ様。もしまた叶うなら、今度も一緒にセッションしましょう」
そう背中を向けながら呟き立ち去った
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ナツ「わ、私…は…」
全部バレていた
砂糖未摂取だと
全部全部全部全部
ヒナ様どころかホシノ様もハナコ様も
それどころかハレやハスミ…
いや
首脳陣は全員知っている?
それどころか
スイーツ部のみんなも?
演奏を見てくれた者達も?
まさか…
アビドスの全員が?
「うわあ゛あ゛ああああああああああああああアアアアアアア──ッ!!!」
控室から絶叫が轟く
驚いたアイリ達が駆けつけると…
部屋の隅で頭を抑え泣き続けているナツの姿があった
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この日から、ナツは饒舌さを失い過度に怯えた態度を取るようになる
それはアビドスイーツ団の仲間からただ普通に話しかけられただけでビクビクと震えてしまうほど
ミヤコに対しては未だ信頼を寄せているようだが、前よりも疑り深くなった…
ナツが精神に異常を来し疑心暗鬼と恐怖に取り憑かれてしばらく経ったある日のこと
哀れな哲学少女が一番の恐怖に震える時は唐突にやって来た
ヨシミ「あ!ヒナ様!」
アイリ「今日はどんな用ですか?」
ヒナ「ふふっ、今日は…
次のセッションの予定を決めたくて」
カズサ「へぇ…!だってさナツ!」
ナツ「ひっ…ぁ…あぁぁぁ…!?」
新たなユメの狂奏曲が幕を開けた
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