ヒーローデクの恋人・1

ヒーローデクの恋人・1

前スレ72(「エンデヴァーの恋」の続きです)


「聞いた?デク恋人いるって!」

「本当!?」

「ええ!?ショックー!!」

「前にチラッと噂になった彼女かな」

「新しい人らしいよ!今朝のニュースだったし」

「R国行ってて、今度A国だっけ?」

「インタビューの爆弾回答でもう大騒ぎだわ」

「最近のデクかっこいいうえに急に色気でたものねえ」



***


『あっそれも秘密です…ごめんなさい!』

『一言!一言ヒントください』

『年上…で強くて優しくて可愛い人です…あっ一言じゃなかったですね、ははは』



「A国到着早々インタビューなんて注目されてんなデク」

「すっかりマスコミ慣れしちゃってまあ。焦凍くんもそうだけどあっちでもアイドル並みの扱いだ」

「デクの奴、動揺してると見せてかなり落ちついてるぞ」

「ああ。三人称うまく避けたな。男だということもさりげなく伏せた」


『じゃあその恋人に向けて一言』

『電話ください!声が聞きたい!恋しいです!!…ってまた一言じゃなかったですね、ははっ』

『デクー!』

『可愛い!』

『こっち向いて~!』

『連絡しないなんて酷い!』

『私が代わりたい!』



「おおーA国でもファンにキャアキャア言われとる」

「あの子らまさかその可愛い恋人がうちの所長と知ったらひっくり返りそうだな」

「…で…その可愛い所長は?さっきまでここにいたよな」

「ふいっと執務室に入ってった」

「へえ…意外に冷静だな」



***




「わかりやすく頭抱えちゃってまあ…」

「ホークス…おれは何を…」

「目が覚めましたかエンデヴァーさん」

「俺は何をしてしまったんだ…」

「ようやく正気に戻りました?遅いですよお」

「………」

「完全に気持ち持っていかれてましたね。ヒーローじゃなくてただの恋する男になってましたよ」

「…恋…」

「面白いものが見れましたけどね。だってあのあなたが仕事も事務所も何もかも放り投げて出国する恋人を追うとかほんとびっくりですわ…」

「浮かれていた…」

「はい。緑谷くんと離れて冷静になったのは良かったですよ。切り替えられたみたいで」

「…いや…気持ちは…まだある」

「はあ??」

「しかしこれは…ダメなものだ…どう考えても俺がデクに釣り合うはずもない」

「まあ冷静に考えたらそうでしょうね。大人として人として」

「あと…俺はすでに会いたくなっている…これは真剣に仕事に支障が出る」

「ええー…そっち??」

「…すまん」

「…双方にアフターケアが必要な感じですね。…とりあえず緑谷くんのその待ち受け消しましょうか」

「なぜだ」

「気持ちをより整理できますよ。…やり方わからないなら俺が」

「いや…自分でやる」


「ま、離れていると別れるのも格段に楽なはずです。お互い」

「…どうしたらいい」

「おすすめはフェードアウトでしょうかね」

「一方的に音信不通にするってことか。そんなやり方は不誠実じゃないのか」

「いきなりじゃなく、徐々に、次第に忙しさに紛れる感じで。なかなか会えないうえにろくに連絡もないとさすがに熱も冷めますよ」

「俺は好かんが…」

「良くある話です」

「………」

「あとは…そのうち新しく恋人ができたらゴールですかね」

「デクに… か…それは…喜ぶべきなのだろうな…」

「そんなこの世の終わりみたいな顔しないでくださいよ」



「あのときすでにデクは別れを決意していた…引き留めたのは俺だ…俺が諦めれば…俺さえ諦めれば…デクの未来は明るいのだろうな」

「普通に考えてそうです」

「わかった…努力する」

「それでこそあなたです…でも緑谷くんのこと…ほんとに本気なんすね」

「………」

「エンデヴァーさん携帯!」

「しまった」

「少し力入っちゃいましたか。ああーこれ、修理かな」

「手が滑った」

「…そんなに嫌でした?待ち受け消すの」

「………」

「いっそ携帯壊れたことにしますか!」

「ならせめて携帯が壊れたと連絡したいのだが」

「早速意味なくなるでしょうよ…」

「そうか」

「…我慢してください。緑谷くんのためです」

「うう…わかった…そうだな…俺がデクの未来を……貴重な時間を奪っていいはずがない…俺はまた間違えてしまうところだった。…感謝するホークス」

「…いえ。お役に立てたなら何よりなんです」



「しかしデクに甘えられるとどうしてもいうことを聞いてやりたくなるのはなぜなのだろうか」

「…それ素で訊いてます?惚れた弱み…以外で?」

「ああ…」

「…これ違ったらごめんなさいですが…緑谷くんに燈矢くん重ねてたりしませんか」

「何…だと…そんなはずは…ない…はずだが…」

「…一緒にしたら悪いでしょう…燈矢くんにとってもね。…俺は荼毘しか知りませんが、のらりくらりしてるようでプライド高い男でしたよ」

「…そうだな…燈矢…デク…俺は本当にどうかしていた」




***



『エンデヴァー…変わりない?その後、連絡がなくってさ』

『親父は携帯壊れたって言ってたぞ』

『え…僕のところには何も』

『何でだろうな…連絡するように言うか?』

『いや、いいよ。待ってみる。ありがとう』



***





「…手を…顔を挙げてくれエンデヴァー。…君の気持ちは分かったよ。さっきは声を荒げて悪かった。私も大人げなかったね」

「…オールマイト…」

「…しかしどうして君らってばさあ!こう数日で二転三転するの???ほんの一昨日だよ?緑谷少年がウッキウキで出国前により戻した報告に来たの」

「俺は納得いきません。エンデヴァー。あなたなんで途中で投げ出してるんですか。言いましたよね。大人として責任取るって。なら最後まできっちり責任取りましょうよ」

「相澤くん?」

「やることやっといてポイですか?怒りますよ」

「そういうわけでは…」

「俺にはそうとしか聞こえない。だいたいそんなんで緑谷納得しないでしょう」

「分かっている」

「ほんとに分かってますか?好きなんですよ緑谷はあなたが!」

「………どんな責めも承知の上だ…俺には…こうするしか…」

「……エンデヴァー。私は恋愛に関してはまったく分からないよ。でも君がひどく苦しんでるのは分かる。わざわざ私たちにまで会いにきたのは君…自分でも何が正しいのかもうわからないからじゃないのかい?」

「緑谷のこと大事に思ってくれてんのはありがたいですよ。でもあなたの本音はどうなんですか」

「俺はデクに相応しくない。にもかかわらず軽率に付き合ったことを後悔している」

「エンデヴァー…そんな…」

「…本気で言ってます?それ」

「ああ。これからご母堂のところにも謝罪に行く」

「それはやめたほうがいいよ!」

「なぜだ」

「まあ、展開早すぎて理解が追い付かないでしょう。それよりもその時間があるならこれから一緒に飲みにいきませんか」

「相澤くん??」



***



「どうせ普段いい酒しか飲んでないでしょう?…安酒の恐ろしさを味わうのも、また一興。万一酔って暴走したら俺が止めます」

「イレイザー…心強い発言だが、ヒーロー活動以外で無闇に個性を使うのはどうかと思うぞ」

「真面目!!」



***



「焦凍とはそうか…デクも普段はそんな感じなのか…」

「はい、クラスの盛り上がりに欠かせないやつらなんですよ。爆豪もね。はい、どんどん‥そうそうウゾあたりも行ってみましょう」

「エンデヴァー…水みたいにちゃんぽんで飲んでるけど大丈夫なの?」

「オールマイト貴様こそ胃に負担かけるな。ちゃんと水分も取れ…」




***




「で、これ…卒業式のとき…俺が持ってる写真はこれが最後かな。あ、この前来た時に一緒にとったやつも…って食い入るように見てますが、エンデヴァーあなたも写真くらいあるでしょう」

「いや…全部消してしまった。心残りになるから………デク…この頃はほんとにほんの子供だな…」

「そうですね。2年でぐっと大人びましたね」




「デクは…本当に勇気もある…友達想いでいい男だ…最近はほんとうにいい青年…といった感じだ」

「私も『少年』て呼ぶのはもう悪い気がしてしまうくらいだよ。どこから見ても好青年になってきてるよね」

「あいつこそ…ゆくゆくは暖かい家庭を持ってまっとうに生きて欲しい。デクこそ…いい…父親に…なるだろう」

「エンデヴァー…?っと…大丈夫ですか?」

「ちょっと水を‥いや、横になったほうがいいかな?」

「…俺はこんな…こんな俺は…相応しくないのは分かってる…わかってるんだ…」

「エンデヴァー?」

「…なぜ…俺を置いて行ってしまった…」

「…え」

「……会いたい」

「エンデヴァー…」

「…出久………好きだ」

「エンデヴァー!…それ…俺の携帯‥‥俺の…ああー…」



「人の携帯抱えて寝ちゃうとか…」

「取れないねえ…これ」

「轟が回収に来るはずですから…それまでになんとか」

「エンデヴァー…ちょっと泣いてたね…まさかあそこまで思い詰めてるとはね…」

「…オールマイトさん。俺は交際には反対で今も正直戸惑いますが…少しくらい応援してもいいかなって思ってます」

「どう応援するかだよ。今のエンデヴァーの進もうとしてる道は…別離だよ」

「そこですよ。まだまともに付き合ってもいないんですよ!…おかしくないですか?せめてもう少し普通に付き合ってそこで破局する、くらいならわかります。例え幻滅したとしてもお互いある程度納得もいくでしょう。その課程なら多少傷ついてもいいじゃないですか。お互い様だ。まだその前に去ろうなんて逃げだと思いますよ俺は」

「しかしなんでそんな急に…あっ」

「…俺も同じことを思いつきました」



***



『緑谷…今いいか』

『少しなら大丈夫!』

『昨日親父が相澤先生たちと飲んで酔い潰れた。俺は迎えに行ったが…緑谷の名前…呼んでたぞ…出久って』

『…ありがとう…轟くん!』

『…なんで連絡しねえのか分からねえ…』

『僕はなんとなく推測ついたよ。本当にありがとう。轟くん』



***



『おっ…デクじゃないか。どうした事務所に電話なんて。所長はあいにく今外だ』

『いえ、むしろオニマーさんたちに色々伝えようと思ったんですが、なかなかセーフな回線を探すの難しくって』

『今、外からか?』

『ええ。僕の部屋も僕のデバイスも盗聴されてるんで」

『えっ…』

『あ、R国だと日常だったんで慣れてます。こっちは監視も少しありますね。…あの恋人騒ぎ…すみませんでした。あれもリークされる前にこちらがバラして予防線張りました』

『そうだったのか』

『日々情報戦ですよ。そちら変わったことはありませんか?』

『変わったこと…そうだな、もともと立ち寄ることが多いんだけど最近はホークスが毎日のように来てる』

『やっぱり』

『やっぱり?』

『何を試されているか分かりませんが、僕負けません。ただ、ちょっと‥‥あの人の声が聴けないのがさみしいくらいで』

『えっ所長と話してないの?』

『はい。僕の電話にも出ないしメッセージの返信も一度だけです』

『そうなの?なんで…』

『とりあえず、僕たちのこと極力バレないほうがいいのならばしばらく安全策を取りたいです。となると僕もそうそう連絡できなくなります』

『おお、わかった。…俺たちにできることはあるかい?』

『…エンデヴァーを支えてあげてください…元気なんですよね?』

『ああ。仕事はちゃんとやってるよ。でも正直、元気じゃあないな』

『………』

『電話出なくっても…連絡はしてあげてくれ。着信があることは分かるはずだから』

『分かりました。オニマーさん、ありがとうございます』

『…この電話、留守電機能ありますよね』

『ああ』

『一言吹き込んでも?』

『いいよ』


***


「おい、受付の留守電…誰も確認してないのか。珍しいな」

「はいはい、今再生しますね」

『用件は一件です…ピッ…』

『こんにちは。皆さん、エンデヴァー元気ですか。緑谷出久です!こちらA国で忙しくしてます。皆さんも忙しいだろうけど体には気を付けてください。デクより!』

「デク…」

『ピッ…メッセージを消去、しました』

「ホークス…!」

「ホークスあんた…」

「…なんか俺が意地悪してると思われるのも心外なんで…話しておきますか。オニマーさんもついでなんで聞いといてください」


「A国勤務の後、緑谷くんをP-3に推薦したいと思ってます」

「P-3?俺ですらP-4だ」

「そうです。限られた事務所かつ国際業務のできる事務所の所長レベルでP-4。国連の軍法会議に出られるランクですよね。P-3 はヒーロー学修士以上と同じ知見を持ち実務経験を積んだレベル、なおかつ異文化間での案件処理も経験済という形で特別補佐として同席させます。これは確定路線なんです。あの世代の雄英生にはキャリアをどんどん積んでもらってヒーローとして世界平和の第一翼を担ってほしい。…それで初めて真にヒーローが暇になる世の中…が来ると。俺はそこまで期待しています」

「ホークス…」

「先の戦いではまあ、敵も敵でしたが、各国の政治窓口が枷になって日本が孤立した。二度とこのようなことがないように今後多国間でのヒーローの連携は急務です。そしてもちろん一般社会からの厚い支持も欲しい…そこでまず実力はもとより人気急上昇中の緑谷くんですよ」

「アイドルじゃああるまいし…」

「分かってないなあ」

「なんだと」

「知ってるでしょう。緑谷くんは老若男女に人気がありましたが、とくに最近は若い女性に凄い人気、これを利用しない手はないんです」

「利用…か」

「あなたとのこと、…できれば恋人の有無のことも極力伏せていただきたかったのはそこです。A国は早速緑谷くんの身辺を調査するでしょうしね」

「俺は…文字通り邪魔か…」

「言いにくいことですが。そもそもナンバーワンヒーローの醜聞はあなたにとっても…ひいては日本のヒーローにとってもプラスじゃない。それは分かりますよね」

「…分かっている」

「所長…」

「何よりエンデヴァーさんのためなんですよ。協力、してほしいなあ」

「ホークス…」

「オニマーさん、さっきのわざとでしたよね」

「う‥それは」

「…必死で忘れようとしてるエンデヴァーさんの心をかき乱すようなことせんといて欲しいんですわ」




***



「そんなことがあったんかい!」

「俺…気押されちゃってさあ…何も言えなかった」

「私はいいと思うけどな~。男同士の結婚だって合法の国結構あるし」

「まだまだお偉方と同性愛禁止の各派宗教系トップのパイプは太いんだよ。裏で大量の寄付金が動いてるからね」

「…ホークスってさあ…」

「なんだいキドウ」

「恋愛経験ないんかな…本気のやつ」

「ええ?」

「なんか、策略には長けてるけどそんなイメージがふっと沸いた。だってさあ、恋心にも色々あって、燃料なくて消沈するのもあれば封じたら大きくなる系もある。もしそっちだったらどうすんだろ」

「所長の場合は強い意志で…頑張って抑えてる感じだね」

「どうなんだろ…」

「想像つかないね。多分本人も分かってないよ」

「…それよかあの後、気になって調べたんだが…公安の要監視対象ってさ‥…監視されてるだけじゃないんだな。問題行動があったらすぐ処分される…っぽい」

「処分て」

「ナンバーワンヒーローを倒せる人なんていないでしょうよお!」

「正面からならね。ひょっとして毒殺かもしれない」

「ええー」

「そうならさ…ホークスがあんなに必死になるのも分かるなって」

「…嫌なこと考えついた」

「エンデヴァーの監視役がホークスならもしかして…」

「うわー…やだなあ…そんな…エグいこと…」

「ないだろう…って言えないところがなあ…」














続き

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しょんぼりしたり落ち込んだりメソメソしたりする炎司が書きたいばっかりになんか厄介なことにしてしまった…続き何とか考えました。正直なところ個人的には片想いの関係性が大好きなんでこのくらいの距離感と懊悩する炎司が一番ソソりますごめんなさい。気持ちをひた隠して淡々と滅私に徹するホークスも好き。エンデヴァーはヒロイン。


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