シロコの夏休み 3日目・中
昼食を食べ終わり、午後も私たちはゲームや漫画、さらにカラオケを一通り楽しんだ。
そうして、夕方になってきてしまった。
ノノミがタブレットをいじりながら話す。
ノノミ「夕飯どうしますか〜?」
夕飯をどうしようか、考えなくては。
雨も止んだらしいし、外食というのも手だろう。
その時、私の頭に電流が走った。
去年の夏、リゾートでの思い出が、どんどん流れ込んでくる。
鮮やかな花火が、ハンモックに寝転ぶホシノ先輩の姿が、そして・・・先生のあの顔が。
シロコ「・・・・・バーベキュー・・・」
セリカ「え?」
アヤネ「バーベキュー・・・やるんですか?」
夏の風物詩の1つ、バーベキュー。
ミレニアムの生徒は毎週末やってるらしい、バーベキュー。
ノノミ「いいんじゃないですか〜?夏の風物詩ですし☆それに器具は借りられるらしいですよ〜」
ノノミもそれに同意する。
セリカ「・・・アヤネ、どう?」
アヤネ「私はいいですけど・・器具のレンタルってだいたい予約制じゃ・・・」
ん、気にしない。
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ハイネ「・・・あるにはあるけどぉ・・・」
彼女は目を泳がせる。
ハイネ「・・・その、なんというかぁ・・・。4人向けじゃないんだよね・・・。4人向けは今貸し出し中でさぁ・・・・」
シロコ「ん、大丈夫。問題ない」
ハイネ「ほんとぉ?」
そういうと、ハイネは奥に消えていった。
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セリカ「はぁぁぁぁぁぁぁ?????」
私が持ってきた「バーベキューセット」を持ってきて、彼女は飛び上がった。
アヤネ「し、シロコ先輩・・・いくらなんでも大きすぎませんか?」
ノノミ「4人用とは思えませんね〜☆」
シロコ「ん、10人前」
3人は顔を見合わせる。
ノノミ「じゅ、10人って流石に多いような・・・」
セリカ「多いも多い、2倍以上じゃない!どうすんのよ!私そんな食べないっての!!!」
セリカの抗議の声をよそに、私はモモトークにメッセージを打ち込んでゆく。
せっかくの夏休みだ。思い出作りにもちょうどいいだろう。
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アル「・・・ってことで私たちが呼ばれたのね・・・」
シロコ「ん、そういうこと」
アヤネ「本当にすいません・・・アルさん・・・」
ペコペコと謝るアヤネから、セリカ達の方に視線を移す。
10人前のバーベキューを焼き上げるための準備に追われるセリカが見える。
アル「・・・それにしても10人前って・・・」
肉の山を運ぶカヨコとノノミをチラッと見ながら、私に視線を戻す。
シロコ「ん。これしかなかった」
やらないという選択肢は存在しないから、10人前しかなかったら10人前を使う。
これは当然。
アル「・・・・あるものを使ってやりたいことをやる・・・。すっごくクールでハードボイルドじゃない!!」
ん?
・・・まあ置いておいて、とにかく私も手伝わなければ。
数分後、
イチカ「いやーお招き感謝っす。まさかこうしてバーベキューにご一緒できるなんて」
彼女はバーベキュー会場と化した砂浜を見渡す。
イチカ「それにしても、ゲヘナはいいっすねぇ。」
イチカは羨ましそうに呟く。
シロコ「そう?」
イチカ「だって、こうやって夜にバーベキューをやっていても許可さえ取れば何も言われないんすよ?トリニティではそもそもバーベキューをやるだけの空き地があるか怪しいし、他の自治区でも夜間の外出は厳禁っすからねぇ。どうしたらそんなに治安が保てるのか教えて欲しいくらいっす」
確かに、ゲヘナの治安・・・とりわけここ、アラバ海岸の治安はとてもいい。
ここは万魔殿が威信をかけて構築した一大リゾート。だからこそ、厳重な警備が行われており、この地域での犯罪件数はとても少ない。
でも、それをまさかライバル校であったはずののトリニティの治安維持機関にいた人が言ってしまうとは思わなかった。
イチカ「・・・いまだにどの自治区も、裏路地に行けば『砂糖』は売ってるし、砂糖窟も点在するっすよ。無いって断言できるのはゲヘナだけっす。何でないんすかねぇ・・・」
すると、セリカが私たちの皿を持ってきた。
山盛りの肉。
セリカ「・・・ほらっ!食べる食べる!!」
シロコ「ん」
イチカ「あっ、ありがとーっす」
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砂浜
皆で座り、海を見ながら食べる。
あつあつの肉に犬歯をつきたて、横に噛みちぎる。
すると肉汁が口の中に溢れ出て、塩コショウのフレーバーに上乗せされる。
シロコ「〜〜♪」
ワイルドハント料理のフルコースのメインディッシュで出たやつよりもなぜか美味しく感じた。
ん、やっぱり自分たちで作ったものは格別。
アル「美味しいわねこれ!こんなに柔らかいお肉初めてよ!」
アヤネ「ゲヘナ最高級の牧場で育てた牛を使ってるってハイネさんが言ってました」
カヨコ「・・・ハルカ。野菜ばっかり食べないで肉も食べときな。硬くなったら損だよ」
ハルカ「わ、わかりました・・・はむっ」
皆も満足そうでよかった。
あの『砂糖』の一件以降、なかなか皆で同じものを共有して食べると言う機会は無くなってしまったから。
すると、港の方からどかーんと言う音がした。花火の音。それも何発も。
イチカ「・・・何かイベントでもやってるんすかね?」
隣で黙々と食べ続けるツルギをよそに、顔を上げて花火の方を見つめるイチカ。
アヤネ「そういえば、今日は『プリンツ・オイゲン』の就役1年記念式典があるってニュースで言ってましたね。多分それの花火でしょう」
・・・つまりマコトがあそこにいるということだ。ああ、帰りに電話会談を仕掛けてお金を無心しとけばよかった。
すると、セリカが自分の分の皿をもってやってくる。
ムツキ「私達も花火やるよ?」
え?
ムツキ「えっへへ〜。私普段から花火たっくさーん持ち歩いてるから、ここらで在庫処分ってことで!」
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セリカ「・・・綺麗ねぇ・・・」
ノノミ「そうですねぇ〜☆」
手持ち花火を眺めながら談笑するセリカ達。
私も何本か取って、そのうち1本を手ぶらなイチカに渡す。
イチカ「ありがとーっす」
そう言うと手持ちのライターで火をつける。
私の分もつけてもらって、また2人で談笑する。
イチカ「・・・そういえば、あの陸八魔アル?でしたっけ。あの娘すごいっすね。」
シロコ「・・・度胸が?」
私の視線の先にいるアルは、ムツキにおだてられて打ち上げ花火をもたさせられている。まるで今からバズーカでも撃つかのように。
本来の運用法を大きく逸脱している。
だがそれをやってこその便利屋68だ。
イチカ「それはそうなんすけど、地上でミサイル攻撃を喰らって生きてたのは彼女だけって聞いたっすよ。」
彼女はそう言うと、少し下を向いた。
何か思うことがあるのだろうか。
ツルギ「イチカ・・・・」
すると、今まで何も喋ってなかったツルギがいつの間にかイチカの背中を撫でていた。
すると、向こうから叫び声が聞こえてきた。
あの打ち上げ花火が発射されたが、どうも火の粉が掛かったのか、のたうち回っているアル。
カヨコ「ほら・・・・」
ハルカ「あっ、アル様!今水を!」
そう言いながらバケツいっぱいの海水をぶっかけるハルカ。
これまたコントみたいな一面だ。
イチカ「・・・ふふっ」
笑った。
イチカ「あははっ、あはははははっ!!!あーおかし。とってもくだらないのに、笑うしかないっすよこんなの〜」
こんなに屈託のない笑顔を浮かべるイチカは初めてだ。
イチカ「・・・ふぅ。シロコ会長。・・・・誘ってくれて、本当にありがとうっす。」
改めてこちらを向いて、真剣な表情で頭を下げてくるイチカ。
シロコ「・・・ん、機会があったらアビドスにおいで。私たちと泊まればいいから宿泊費は0円だし、治安はとってもいいよ」
提案する。
この2、3日で深めた彼女との友情は、多分これからも続けたいと思える友情だった。
イチカはツルギの方を見て、そして私に向き直る
イチカ「もちろんっすよ!」
この後も、私たちは雑談をしたり、マシュマロを焼いたり、花火で遊んだりと、一夜を満喫した。
ああ、この時間が永遠に続けばいいのに。
そして願わくば、ここに・・・・
私はイヤリングに触れながら、ホシノ先輩のことを思った。
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用語集
ゲヘナの治安:ゲヘナの治安は相変わらずだが、アラバ海岸の方はとても良く、また砂糖犯罪は一切起こっていない。
これは風紀委員会や万魔殿が各地で物流を監視しており、密輸なども未然に防いでいるから。
プリンツ・オイゲン:ゲヘナ学園の所有する重巡洋艦。アビドス廃校戦争ではアビドス近海に展開し、アビドスに向かう輸送船を片っ端から沈めて回っていた。
つまり「いろいろ」なものがたくさん水底に・・・
元ネタはドイツの重巡洋艦。
でもこんなの出す余裕ないよ