シロコの夏休み 2日目・上
私たちは朝食を食べるために夕飯を食べたところと同じレストランに足を運んでいた。
朝食はビュッフェ形式のようで、何でもかんでも取り放題らしい。
セリカ「ねぇ。そういえば、おーがにっくって何?入り口の看板に書いてあったんだけど。」
アヤネ「オーガニックっていうのは、家庭科の授業で習った有機農法と同じ意味で、農薬や化学肥料に頼らず、太陽・水・土地・そこに生物など自然の恵みを活用した農林水産業でできた作物のことを指すんですよ。確か6月に制定された農作物規定で、ゲヘナではすべての野菜がオーガニックのものと決まっているそうです。」
オーガニック作物というのは一部の富裕層・・・それこそティーパーティの幹部クラスしか食べないと最初は思っていたが、そういえば新肥料事業の交渉の時も、『ゲヘナでは自治区内で食糧生産が間に合っているからこの化学肥料は使用しない』と担当者に言われていた。
でもあの化学肥料でできた作物は生産性が良くて評判とも聞いた。ん、ゲヘナも使うべき。
さすればもっと金がアビドスに入る。
すると、ノノミがプレートいっぱいのスイーツを積んで戻ってきた。
ノノミ「じゃ〜ん☆取ってきちゃいました!」
プリン、ミニケーキ、ゼリー、ワッフル・・・
セリカ「ちょっとぉ!全部スイーツじゃない!もっとこう野菜とか・・・パンとかぁ!」
セリカの抗議などどこへやら、ノノミはスイーツの塊を口に頬張る。
シロコ「・・・セリカはもっと食べないの?」
セリカ「た、食べないわよ!フ、フトルシ・・」
ん、太っても痩せられる。私みたいに毎日運動するべき。
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一通り食べ終えた私たちは、ノノミが提案していた『アラバモール』に出かけるために財布などを持って外に出る。
その途中、レストランの入り口付近にあるものを見つけた。
シロコ「・・・何これ」
そこには、サイン色紙が整然と並べられていた。
アヤネ「あ、サイン色紙ですね。色々な有名人の方とか、ホテルに来た証としてサインを残していくとか」
私はそのサインを一つ一つ見てゆく。
万魔殿5人衆、連川チェリノ書記長、黒崎コユキ会長代行、竜華キサキ門主・・・
さらには元首長の桐藤ナギサや、復権したカイザーPMC理事までここを訪れていたらしい。
マコト議長が言っていた、エグゼクティブ向けホテルという構想は成し遂げられているのだ。
シロコ「・・・ん。私も書く」
セリカ「それって帰る時でいいと思うんだけど」
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アラバモール
アラバ海岸再開発計画の一環で作られたショッピングモールで、ゲヘナ・ホテル&リゾートアラバタワーに隣接している。
セリカ「・・・な、なんかすごい高級感あるわね・・・」
モールの吹き抜けの下に立ち、私たちは辺りを見渡す。
終戦後すぐとは思えないこの建物は、私たちには少し眩しい。
アヤネ「ど、どうしてここに・・・?」
アヤネはノノミの方を向き、そう質問する。
ノノミ「ふっふっふ〜。実はですね〜」
そう言うと、彼女はポケットからブラックエキスプレスカードを取り出した。
いつのまにゴールドから進化してる。
ノノミ「これがあればこのモールの商品が30%オフなんですよ〜☆ついでにシロコちゃん達も!」
セリカ(横転)
このブランドものの百鬼夜行がまとめて30%オフと聞いたら、誰でも横転するだろう。
気絶してしまったセリカを持ち上げながら、私はみんなの方を向く。
シロコ「それじゃ、行こっか」
旅行の名物、お買い物である。
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アクセサリー店
アヤネとセリカは骨董品店にいったので、特に買いたいものもなかった私は、とりあえずノノミについていくことにした。
ノノミがいろいろ見たり試着している間、私はテキトーにイヤリングコーナーをほっつき歩いていた。
すると、とあるイヤリングが目に止まった。
右は黄色、左は青のイヤリングだ。
この色を、私は知っている。
ホシノ先輩だ。
シロコ(・・・ここにいたんだ)
手に取るわけではなく、じっと見つめる。
私の思い出の中にいるホシノ先輩が再び浮かんでくる。
うへ〜とかおじさんとか、ホシノ先輩の口癖が群発的に頭を占める。
握り拳からは汗が噴き出る。
無限に近い時間が流れたような気分になる。
それから解放してくれたのは、ロボットの一声だった。
ロボット「・・・気になりますか?」
私はハッとしてロボットに目をやる。
ロボット「・・・このイヤリングは、トパーズとサファイアを加工して作られたものです。トパーズの石言葉は『友情/希望』、サファイアの石言葉は『誠実/慈愛』。またワイルドハント系では『後悔』という意味も含まれているそうです。」
単なるAIの話に過ぎない。
ただの情報の集まりを聞かされただけなのに、不思議と買いたくなってしまった。
シロコ「・・・これ、いくら?」
ロボット「・・・5万円です」
シロコ「・・・・・」
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シロコ「ん、買っちゃった」
少々高かったが、あまりにも気になり過ぎて、買わないでおくという選択肢はなかった。ノノミのおかげで30%オフも適用されて助かった。
みんなと合流した途端、遠くの方で複数の・・・聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「良かったねアルちゃん!これで二丁スナイパーができるよ!!」
「やらないわよ!!腕壊れちゃう!」
「・・・例の軽戦車も買えて、これから色んなところに動けるようになったね。社長」
「あ、アル様の二丁ライフル・・・見てみたいです」
ん・・・・
ん????????
私達は思わずそちらの方を向いてしまった。
そこには、いかにもバカンスな服装をした4人の少女達が立っていた。
ボストンバックを持った少女、顔の怖い少女、ショットガンを肌身離さず抱えている少女、そして、本来行方不明だったはずの社長。
残りの3人もサークルごと指名手配されているはずの。
便利屋68だ。
私は思わずそちらに向かった。
そして陸八魔アルを指差す。
シロコ「ん、生き取ったんかワレ」
アル「生きてるわよ!!!」
セリカ達も私を追いかけてアル達の目の前に来た。
セリカ「べ、便利屋68?!」
ノノミ「無事だったんですか〜♤」
ゾロゾロ来る私たちに慌てるハルカ
ハルカ「あっ、アル様!撃ちますか撃ちますか?!」
アル「う、撃たないでいいわよ!!味方だから!!」
少し混乱している様子の2人を尻目に、ムツキが私たちに挨拶する。
ムツキ「おっひさ〜。スナオオカミ会長!それにメガネちゃんに、バイトちゃんに、お嬢ちゃん!」
いつのまにそんなあだ名つけられていた。
ん、私にももっといいあだ名をつけるべき。
アヤネ「あ、でもアルさん達・・指名手配されてたはずでは??」
そう、本当ならすぐに風紀委員会が飛んできてもおかしくない彼女達。
すると、アルが余裕のありそうな雰囲気に戻った。
アル「ふふふっ。恩赦されたのよ」
大犯罪人()の4人が恩赦されるとはこれいかに。
すると、カヨコがスマホを操作し、私たちに見せてきた。
内容は以下の通り。
『通達 鬼方カヨコ
貴官は戦時中、学園突撃隊第17中隊を率いて獅子奮迅の活躍を見せ、戦争の勝利に大きく貢献した。これを評し、貴官および、貴官が指名した3名を特別恩赦とする。
『至尊なる尊厳者、神により戴冠されし、偉大にして平和的な、ゲヘナ学園を統治する議長』
羽沼マコト』
どうやら先の戦争で大きな活躍を残したようだ。
そしてそれを評価されて恩赦になった。
すると、アルが話を進める。
アル「そういえば、あなた達も泊まり?」
ノノミ「そうです〜☆あっちのラグジュアリーの方に、3泊4日で」
・・・。
数秒の沈黙の後。
アル「なななな、なっ、何ですってー?!」
例の顔になるアル。客室が24室しかない、1人あたり1泊50万するあのホテルに、しかも3泊4日である。一人当たり150万。アル達が泊まっているタワーの方ならば最安値の部屋で150日過ごせるのだ。
そのまま横転、気絶するアル。
ハルカ「アル様ぁ!」
カヨコ「・・・随分、すごいとこ泊まったね・・・」
セリカ「・・・マコト議長が友好の証で招待券をくれたの。流石に自腹じゃ無理よ。」
トリニティのお嬢様達でもあるまいし。
・・・そう考えると、あのホテルに平然と6泊する予定のイチカ・ツルギコンビは本当にすごい。
いつのまにダウン状態から回復したアル。
アル「そ、そうだ!ここでの出会いも何かの縁よ!せっかくだしご飯でも食べないかしら?ここら辺結構いいお店いっぱいあるらしいのよ!」
シロコ「ん、どうする?」
セリカ「まぁいいでしょ。私たちもお腹空いてきたし」
アヤネ「そうですね・・・いろいろ買っちゃって疲れましたし、羽休めでも・・・」
こうして、私たちは8人でお昼ご飯を食べにいくことになった。
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用語集
農作物規定:ゲヘナにて6月に制定された、全作物を有機栽培で作るという規定。ちなみにちょび髭伍長さんもオーガニック好きだったそうで、ナ◼️ス政権もそのような政策をやっていたそうです。
アラバモール:サミュエラ・ショッピング社が運営するショッピングモール。株式のネフティスグループ保有している。対外向けのショッピングモールなので、マコトお得意のプロパガンダは控えめになっている。
ノノミ30%オフ:ネフティスグループが株の30%を保有しているおかげ。
例の軽戦車:RU251M。万魔殿・風紀委員会の制式軽戦車・RU251のモンキーモデル。誰でも買えるので便利屋68も買った。
アル:ミサイルの爆心地周辺にいて、『新世界』時点では行方不明だったが、何故か生きていた。その後イロハ達の捜索で発見され、便利屋に返却された。
学園突撃隊:戦争後期、ゲヘナ自治区の防衛と人員不足の解消のために一般のゲヘナ生やそもそもゲヘナ生ですらない在ゲヘナキヴォトス人を動員したもの。元ネタは国民突撃隊。