シロコの夏休み 1日目・下
シロコ「ふぅ・・・・」
私はプールに浸かる。
あの頃より少し水着がキツくなったが、それでもまだ着ることができる。
シロコ「ん、悪くない」
浮き輪に体を預けてぷかぷか浮かぶ。
なんだか安心感を覚える。前もこうやって誰かに支えてもらってたっけ。
太陽が眩しい。私はサングラスをつけてまったりすることにした。
まったり・・・
???「あれ?あなたもしかして・・・」
そういえばホシノ先輩も
???「やっぱり!アビドスの会長さんじゃないっすか!」
こうやってまったりしてたなぁ・・・
多分もしここにいたら、今頃アロハシャツでも着てジュースを飲んでいただろう。
すると、サングラスを外される。
シロコ「ん」
私の顔を覗き込んでいたのは、糸目の少女。
朗らかな笑みを浮かべて、私に話しかけてくる。
???「初めましてっすね。アビドスの会長さん!」
そう言うと彼女も浮き輪と共にプールに入り、私と同じ姿勢になる。
イチカ「トリニティのイチカっす!よろしくっす!」
そう言って握手を求めてきたので、私は手を差し出してそれに応じた。
シロコ「・・・あなたも、泊まり?」
イチカ「そっすね。私とツルギ先輩の2人で、6泊7日っす!」
シロコ「えっ」
驚いてしまった。マコト議長から聞いた話だと、なかなか泊まれない、エグゼクティブ向けホテルのはず。それをトリニティの生徒が6泊もできると言う事実に驚いてしまった。
シロコ「・・・6泊?」
イチカ「そう、6泊っす。・・・他にもトリニティの生徒は来てるっすよ」
私は周りを見て見ると、背中から翼を生やした生徒がたくさんいた。
というか思い返してみると、ロビーでも廊下でも、すれ違った相手はトリニティ生。
ゲヘナ生などはあまりいない印象だった。
イチカ「・・・トリニティはお金持ちがやたら多いっす。だからまぁ・・・ティーパーティーとか正実とかにいる生徒ならここに泊まる金くらいはだせるんすよね。」
なんとも言えない表情で続けるイチカ。
イチカ「それにほら。あそこのタワーあるじゃないっすか。あれなら年中泊まれるっすよ。朝晩付きで」
つい先月オープンした『ゲヘナ・ホテル&リゾートタワーアラバ』を指差した。
もう自慢なのかなんなのかわからない。
ツルギ先輩とやらと共に行動していると言うことは、正義実現委員会と関わりがあるのだろうか。
シロコ「・・・・イチカは、正義実現委員会にいたの?」
イチカは首肯する。
イチカ「そっすね。でもツルギ先輩と辞めたっす。今は2人仲良く旅行中ってところっすね。」
彼女も私のようにくつろぐ姿勢を会得したのか、翼を濡らしすぎないようにして浮いている。
再び単純な質問が口から飛び出る
シロコ「・・・ゲヘナはどう?」
イチカ「・・・ん、まぁ思ったより悪くないっすね。特にこのホテルは朝晩も美味しいし清潔だし、街中のプロパガンダが多すぎるのは気になるっすけどまあ大方事実だし・・・」
一呼吸おいて、イチカは糸目を開眼する。
イチカ「少なくとも、スクエア以外瓦礫の山のトリニティよりはマシっす」
そう。たとえトリニティ生にとってアホバカマヌケの集まりで、混沌としたゲヘナであっても、今のトリニティよりはマシだ。
ミカの行方不明とそれに伴うパテル派の分裂。精神的ショックから内臓疾患を患いフィリウス派首長を降りたナギサ。しれっとゲヘナに亡命したセイア。さらに正義実現委員会の機能不全やその他多数の事象が組み合わさり、旧アビドス廃校戦争終結の3日後にはトリニティ全土で内戦が始まった。
1ヶ月後にゲヘナ・ミレニアムの介入で終結し、サンクトゥス派のセイアが復権する形で終わったが、その結果、アビドス戦争+内戦による行方不明はミレニアムの6倍にのぼり、さらに多くのトリニティ生がトリニティを去りゲヘナなどに旅行に出掛けてしまった。
内戦終結から5ヶ月が経った今も スクエアを除き瓦礫の山が広がっている。
イチカ「・・・ま、いつかはトリニティを復活させるために戻らなきゃならないってのは分かってるんすけどね。せっかく一年若返り薬でもう一年青春を味わえるなら、旅行とかしたり、やりたいこととか探したいっすからねぇ」
シロコ「・・・・ん。諦めなきゃいつか希望が見える。私も諦めないでアビドスを蘇らせた」
また糸目に戻る。
イチカ「・・・シロコ会長の手腕には感服っすよ。ほんとに」
内容はひたすらゲヘナに金を無心するといった恥も外聞もない策だが、おかげでアビドスの復活の道が見えているのだ。
イチカ「んじゃ、そろそろ行くっす。多分ツルギ先輩がお昼を所望する頃なんで」
そう言うと、彼女はプールから上がり、シャワー室のほうに去っていった。
─────────────────────────
海の家のホットドッグを食べ終え、海岸を歩く。
海岸で砂の城を作っていると、ふと先程のイチカとの会話を思い返す。
やろうと思えば年中ホテル生活もできるのはすごいと思うが、もう1人の私みたいに、自分の帰る家がないと言うのはとても辛いんじゃないかと思う。
シロコ(・・・トリニティも大変そう)
こんな時先生がいたら、真っ先にトリニティに行って、自ら率先して瓦礫の撤去をしただろう。
先生はすべての生徒の先生だから、どんな生徒にも平等に接する人だ。でも今のトリニティの惨状を見たら、多少不平等になったとしても瓦礫を撤去を優先させただろう。
シロコ(・・・先生、今頃どうしてるんだろう)
先生はあの戦争の直後、音沙汰もなくなった。
私たちと同じように地下牢に閉じ込められていたはずだが、気がついた時には扉は開いていて、先生の姿はなかった。先生のタブレットはイロハが持っているので、先生と連絡を取ろうとしても意味ない。
そんなことを考えているうちに、日は沈んでゆき、集合時間が近づいてきた。
夕飯
セリカ「・・・コースって初めてなのよね・・・」
少し震えながらメニューを捲るセリカ。
というか、ノノミ以外全員初めてだろう。
ノノミ「いろいろありますね〜☆ ・・・ワイルドハント料理にレッドウィンター料理・・百鬼夜行料理に山海経料理・・・」
うっとりとした視線でメニューを眺める。
すると、アヤネがあっと声を上げた。
アヤネ「アビドス料理?!初めて見ました!」
シロコ「ん。珍しいね」
アビドス料理を取り扱っているお店は初めてだ。
それほどまでにアビドスが知られざる自治区と化していたのだが。
セリカ「・・・アビドス料理・・・・。アリね!」
そう言うわけでアビドス料理に決まった。
料理が来るまでは、自由行動の間の出来事を共有する。
ノノミ「見てください〜♧アロハシャツですよ〜☆」
そう言いながら袋からアロハシャツを取り出す。
セリカ「・・・売店に売ってたの?いいわねそれ。私も買おうかなぁ・・・」
そういえば、昔はバイトでカツカツだったセリカが最近は色々と買う気になってくれた。
ん、先輩として成長を感じる。
アヤネ「そういえば、パンデモニウム・ミュージアムで風紀委員長の遺体を見たんですよ。まあ四肢とツノ1本しかなかったんですけど、しっかりとエンバーミングされてて・・・」
セリカ「食欲落ちるわ!!!」
この後、私たちはアビドスの伝統料理を堪能し、風呂に入った後すぐに寝ることにした。
明日は『アラバモール』とやらに行くことになっている。
─────────────────────────
用語集
タブレット:先生が持ってたタブレット。今はイロハのタブレット。
アラバモール:アラバ海岸にオープンしたショッピングモール。マコトの事業の一つ。ネフティスグループがサミュエラ・ショッピング社の株式の30%を保有しているため、シロコ一行は割引される。ブランド店が多数出店しているため、トリニティ生から大人気。
ヒナの四肢とツノ1本:広域ヘイロー破壊爆弾搭載型弾道ミサイルを打ち込んだ後、チアキが各地を調査し、北アビドス砂漠で発見した。これを状況証拠とし、マコトはヒナの死亡を発表。風紀委員会の名義で葬儀も執り行った。