エピローグ「或る日のゲヘナ支部」
Index: 「危うしMTR部!~万魔殿狂騒曲~」
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~或る日のゲヘナ支部・1~
「ほんっとうに、すみませんでしたっ!!!」
「ちょ……ちょっと、謝らないでったら! 警備ちゃんっ! 鉄砲玉ちゃんまで!?」
「だって自分は……私は、風紀委員会で……
肝心な時に、MTR部のみんなの味方になれなくって……
それなのに、今さら……」
「……私だって同じです。
MTR部と万魔殿を天秤に掛けて、万魔殿を選んだ私が、この場にいる資格なんて」
「ま、待って待って! 二人ともとりあえず顔を上げよう?
あたしは別に気にしてないからホントにっ!
ああもう、こういう湿っぽい雰囲気苦手なんだってば!」
「支部長……そんなに泣き腫らした顔で言われても、説得力ないっす」
「ちょっ!? そ、そりゃ結構ショックだったけどさぁ……!
あとこれ半分くらい嬉し涙だから……ああ、もうっ!」
「……そりゃあね! あたしだってびっくりしたよ!
いきなり何も説明されずに二人が敵に回って銃向けられて、動揺するなって方が無理じゃん!
……でもさ、べつにそれで、警備ちゃんや鉄砲玉ちゃんのこと恨んだりなんかしてないって。
家族なんだから、当たり前でしょう?」
「だけど……っす」
「……まったく、何を騒いでいるのかと思ったら。
あなた達は、それぞれの職務とMTRに従っただけでしょう?
何を恥じ入る必要があるのですか。胸を張りなさい、二人とも」
「でも、部長……私達は」
「仮に、私達の行く道が分かたれたとしても、私はあなた達を責めはしませんよ。
そもそも……所属する部活や団体の方針とMTR部の方針が合致しなかった場合は、基本的に部活の方を優先させるよう、部内規則にも定めていますし。
もし仮に……あくまで本当に仮にですよ?
私がキヴォトスの敵となり、戦乱の源となったとしても……あなた達は私の命令より、あなた達自身の意思を優先させるべきです。
MTR部とはあくまで各々の理想とするMTRを……即ち理想の人生を追求するための部活であって、誰かに命令されるがままに死地に赴くような死にたがりの集団ではないのですから」
「ですから、あなた達の意思はいつだって、あなた達のものです。
あなた達が己の意思を貫く限り、私はそれを尊重します。
だって私は、あなた達の……MTR部の部長ですから」
「部長……」
「ううっ、うわーん! 部長おぉぉーーーー!!!」
「あ、おさわりはNGですよ」(サッ)
「ふべぇっ!? ひ、ひどいっすー……!」
~或る日のゲヘナ支部・2~
「ううっ……とにかく色々あったけど、今日はみんなで先生と部長、ヒナ委員長も交えての交流会なんだから!
これ以降は湿っぽい話題は一切禁止! ぱーっと楽しんで……」
「やっほーおねえちゃん! それにゲヘナ支部のみんなー!
ひさしぶりにあっそびにきたよー!!」
「……って、まっ……ど、どどどどどーなつちゃんっ!? なんでここに!?」
「あれっ!? どーなつちゃんじゃないっすか!
ゲヘナ支部に来るなんて珍しいっすね」
「えへへー久しぶりー警備ちゃん!
あのね、部長から今日、ゲヘナ支部でパーティーやるって聞いて、久しぶりにみんなに会いたいなって思って、急いで来たの!
それにね、ミレニアムから来たのは私だけじゃなくって……」
「えっと……失礼します……?
あ、いえ。そういう言い方はよくないのでした。
その……ただいま、です」
「アロスちゃん!?」
「その……アロスがミレニアムに転入してから、ご挨拶できていなかったので……
久しぶりに、皆さんにお会いしたいな、って。
……えっと。ご迷惑でしたら、すぐにミレニアムに戻りますが……」
「そんなことないって! またアロスちゃんに会えてとっても嬉しいよ! むしろ大歓迎!
えへへ! おかえりなさい、アロスちゃんっ!」
「……ありがとうございます。支部長も、お変わりないようで何よりです」
「あら、久しぶりねアロス。……私としては、あなたがまたゲヘナに戻ってきてくれると助かるんだけど」
「……ヒナ委員長!? なんでゲヘナ支部に……
あ、アロスは断固拒否します! もうデスマは絶対に嫌です!」
「あぁー、ゲヘナでは苦労してたんだなーアロスちゃん……(とおいめー)」
「うおおお、アロスちゃんがゲヘナ支部に戻って来てくれるだなんて感激っすー!」
「はい。私も……またアロスさんとお話できて嬉しいです」
「あーもう! こうなったら予定変更! 今日はアロスちゃんが帰ってきてくれた同窓会だー!!!」
「おっ! いいねいいねー! あと、こないだの追試でアロスちゃんだけ赤点取っちゃったから、その残念会も兼ねてー!」
「ちょっ……!? それ今言う必要のある情報ですかっ!? 理解不能です!」
“……青春だなぁ”
~先生と部長・1~
ワーワー、キャーキャー、ヤイノヤイノ……
デネー、ヤッパリソウノミトラレッテサ……リカイフノウデス!
~~~
「ん……あ、れ……? わたし……」
“ああ。おはよう、部長”
「……ああ、先生。おはようございま……っ!!!?」
「……え、待って!? わたし……寝てたんですか私!?
どうして? いつから? いったいどれくらい!?」
“えっと、30分くらいかな。少しうとうとしてるみたいだったから、私がここに連れて来たんだ”
“今日は色々大変だったから、ちょっとだけ休んだ方がいいかなって”
「あ、ありえない……? MTR部の長たる私が、先生や部員達の前でこんな無防備な姿を晒すなんて……
っ、そうだ、変装! く、崩れてないですよね……?」
“あ、変なところには触ってないから、たぶん大丈夫だと思う。いつもの部長だよ”
「……っうううぅぅ~~!」
“……部長?”
「……醜態です。いかなる時もMTR部の部長で在らなければいけないはずの私が、こんな体たらく。これでは部員達に示しがつきません……」
“えっと、そんなに落ち込む必要ないんじゃないかな。リラックスできる時間は、誰にだって必要だって思うし”
「駄目なんです! だって、私は……!」
“……部長?”
「……申し訳ありません。少し、取り乱してしまいました」
~先生と部長・2~
“……ごめんね。部長”
「……先生?」
“今回……私は君達を試すような真似をしてしまった”
“そのせいで……部長にも、必要以上に辛い思いをさせてしまった”
“本当に、ごめん”
「……そうですね。今回ばかりは、私もほんの少しだけ怒っていますよ。簡単には許しませんからね」
“……うん。ごめんね……”
「あ、あの……そんな本気でしょげられても反応に困るのですが……
……もう、ほんのちょっとした仕返しのつもりだったのに。
先生が私達のためを思ってくれていたというのは、もちろん分かっていますから。
この程度のことで揺らぐほど、私と先生の仲は浅くはないって思っていましたけど?」
“……ありがとう”
「……先生にはもう大分バレてると思いますけど。
私だって、いつも見かけほど余裕があるわけじゃないんです」
“…………”
「今日のマコト議長との問答だって、内心どうしようって思ってて……冷や汗が出そうになるのを必死で堪えて……
本当に、一歩間違えたらMTR部が終わりになるんじゃないかって、気が気じゃなかったんですから。
なので……とりあえずは何のお咎めもなく、無事に終わって良かったって、ホッとしてます。……まあ、その代わりにいろんな問題を抱え込む羽目になってしまいましたけど。
……ああ。きっと、その油断がいけなかったんでしょうね。
安心できる場所に帰ってきて、ちょっと気を抜いたら……この有様ですから」
「……それでも、私はMTR部連合の部長です。
部のため、部員のために、みんなにとって頼れる部長で在り続けなければいけませんから。
常に余裕を持って、底を悟らせず……誰かに弱みを見せてはいけない。
それが……部長としての、私の責任ですから」
~先生と部長・3~
「……先生。私が何よりも尊重するべきなのはMTR部であり、そこに居場所を求める部員達の願いです。
先生が生徒の夢を叶えたいと願うように……私も部長として、部員達の夢を叶えたいと願っています。
何もかもが秘密だらけの私ですけど……その気持ちだけは本当のことです。
そして、私達の願いは……もしかしたら先生が願う生徒達の未来とは、相容れないこともあるのでしょう」
「……先生にも明かしていないMTR部の秘密は、まだまだたくさんあります。
MTR部の地下図書館に収められた写本の本当の役割。
MTR部のルーツとなったメメント・モリの真実。
NTR部との確執の理由。
それに……『墓守』のこと。
その全てを知ってしまったら……今度こそ、先生は私達のことを見捨ててしまうかもしれない」
「それでも……」(ギュッ)
“……部長?”
「こんな、自分の本当の名前さえも先生に明かせないような、秘密だらけの生徒でも……先生は、最後まで見捨てないでいてくれますか?
ずっと、私の……私達のそばに、いてくれますか?」
“もちろん”
“……部長が話したくないことなら、私から無理に聞くことはしないよ”
“だけど、もしも部長が何かに悩んでいるのなら、手遅れになる前に相談してほしい”
“……私には、君達の全てを受け入れることはできないのかもしれない”
“もしも危ないことをしようとした時は、きっと君達を止めると思う”
“それでも、ちゃんと最後まで向き合って、話し合って、一緒に歩いていきたい”
“私は、君達の先生だから”
「……ありがとう、ございます」
~先生と部長・4~
「……はあ。今日の私、本当にらしくないですね。こんな弱ったところを先生に見られるなんて……」
“いいって思うよ。それで部長の気持ちが楽になるのなら、せめて私の前でくらい弱音を吐いたって”
“生徒の力になれるなら、先生としても嬉しいしね”
「……あら。そんなに私を信頼してよろしいのですか?
ひょっとしたらこの振る舞いだって、先生を篭絡するための演技かもしれませんよ?」
“まあ、その時はその時で”
「……はあ。先生って本当に先生なんですね。
まったくもう、やりにくいったらありゃしない、です」
“あ、そうだ。部長。……せっかくだから、一つだけ質問してもいいかな”
「はい。……私に、答えられることなら」
“結局、MTR部に共鳴する生徒って、ゲヘナ全校生徒の何割くらいいるの?”
「……そうですねえ。ゲヘナは生徒数が多いですから……
たぶん、3パーセントもいないんじゃないでしょうか?」
~とある前日譚のエピローグ・上~
ヤッパリワタシハマコトサマノハドウノロボウノイシニ……パンデモニウムマジユルセネエッス……
キカンゲンテイデモイイカラ、マタフウキイインニ……リカイフノウデス!フノウデス!
~~~
「……楽しそうだなあ、みんな。アロスちゃんも、警備ちゃんや鉄砲玉ちゃん、ゲヘナ支部のみんなも」
「こんな幸せな時間が、いつまでも続いたらいいのにな」
「……でも」
「本当に、あたしなんかが……こんな風に笑ってて、いいのかな」
「……おねえちゃーんっ!」
「ひゃあっ!?」
「まどっ……どーなつちゃん。び、びっくりさせないでってば……」
「むー、なんかおねえちゃん、少し元気なくない? なにか嫌なことでもあった?
……あ、もしかして糖分が足りてない? だったらどーなつあるよ!
たくさん持ってきたから、おねえちゃんもどーなつ食べようっ!」
「え、えっと、あたしは……」
「いいから食べるの! ほらっ!」
「もぎゅっ!?」(モグモグ……)
「えへへ! 今日のどーなつは私の手作りなんだ! どうどう? おいしい?」
「ん、んぐうう……お、美味しいけどさ! どーなつちゃん、人の口にいきなりどーなっつ突っ込むのは止めてったら!」
「……ご、ごめんなさい。というか、おねえちゃんまでどーなつちゃん呼びじゃなくたってよくない?
今は二人きりなんだし……普通に本名で呼んでくれてもいいのになー、のになー?(じー!)」
「それは、その……」
「…………」
~とある前日譚のエピローグ・下~
「ねえ、おねえちゃん」
「……何? どーなつちゃん」
「えへへっ、呼んでみただけー」
「……………………」
「……どーなつ、ちゃん。その……」
「あのね、おねえちゃん」
「私は今、幸せだよ」
「え……」
「大切なのは、今が幸せなのかどうかだから。
だからね……おねえちゃんも、笑ってていいんだって思うよ?」
「…………」
「……うん」
「ありがと」
「……ねえ、おねえちゃん」
「……なに?」
「今日はね。アロスちゃんと一緒に……ここにお泊りしていっても、いいかな」
「……うん。もちろん」
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