どーなつの輪・後
~帰還~
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「……あ、れ……? ここ、は」
「ゲームクリア。どうですか。しばらくぶりの現実の世界の光景は?」
「その、声……あの時の白装束? それに……」
“やあ。おはよう、▼▼▼”
「あら。ようやく目が覚めたのね」
「バイタル安定……ヘイローにも異常は見られません。……よく、頑張りましたね」
「先生!? それに葬長と、園長まで……」
「リトライ回数2880回。実時間にしておよそ十日間。……よくもまあ、ここまでぶっ通しでプレイできたものですねぇ。
ゲーム開発部が募集したテストプレイヤーのほとんどは最初の戦闘のあたりで断念したというのに……本当に、頑張ったものですよ。あなたも……あの子も」
「あれ、は……」
「……どーなつ、ちゃん?」
~舞台裏・1~
「なんで、あの子がここに……? しかも、どうしてあの子までダイブ装置に……」
「そりゃあもちろん、あの子も『洞木マドカ』として、あなたと同じゲームを一緒にプレイしていたからですよ。
二人協力でクリアを目指す『コンビプレイモード』でね」
「ずっと一緒にゲームをプレイしてた、って……待って! さっき十日間って言ってたけど……まさかこの十日間、ずっとこの場所で私と!?
それに……その間、マドカちゃん……ゲームの中のあの子が、いったい何回死んだと思って……」
「そうですね。このゲームのゲームオーバー=主人公かヒロインの死亡ですから、リトライ回数の半分くらいがそのまま彼女の死亡回数になるかと。
流石に現実世界で死ぬほどの苦痛はありませんが……それでも死亡シーンのテストプレイなんて、頼まれたってやりたくないですねぇ」
「な……!!?」
「どうして、そんな無茶なことを……! 先生もあなたも、誰も止めなかったの!?」
「……止めましたよ! 私や先生だって反対したんですけど、あの子がどうしても自分がやるって聞かなかったんです!
本当なら私や先生も一緒にゲームをプレイしてサポートしたかったのですが……残念ながら協力モードは技術的な制約で二人同時プレイまでが限界だったものですから」
“……流石に、命の危険があるようなら、すぐに止めるつもりだったけどね”
「……これは全部、先生の計画だったんですか? 私一人をどうにかするために、こんな大掛かりなことを……!」
“ううん。私は今回、ほとんど何もしてないよ。私には、何もできなかったから”
“私はただ、君のことを知っているみんなに、お願いしただけだよ”
“君のことを、助けてほしい──って”
~舞台裏・2~
「……あなたがこの場所に囚われていることを知ってから、このゲームを作るために、ずいぶんと色んな所に頭を下げる羽目になりましたよ。
制作にあたってエンジニア部やヴェリタスの方々には多少事情を説明しましたが、ゲーム開発部の子達には単純に私の趣味のゲーム、ということで無理を言って作ってもらいました。
あの『名もなき神々の王女』の人格にすら影響を与えたモモイちゃんのシナリオなら、あるいはあなたの心も動かせるのではないか、と。
……ああ、それと。ゲーム開発部の子達の名誉のために言っておきますけど、彼女達が制作を担当したのは異世界パートまでで、現実世界に戻ってきてからのシナリオは私が勝手に捻じ込んだものです。
半ばあの子たちを騙すような依頼をしてしまったのは本当に、ほんっとうに心苦しかったですけどね!」
「……どうしてあんな、悪趣味なシナリオを」
「私は、先生やどーなつちゃんほどあなたに同情的ではありませんでしたので。
少しは自分が犯しかけた罪の重さと言うものを身に沁みて知って欲しかったものですから。恨むならご勝手にどうぞ」
「…………」
「ただまあ、あなたが心から反省しているというなら、これ以上私から言うことはありませんよ。
ほんの少しは、あなたに対して無関心だった私の責任でもありますしね」
「……そう」
「はあぁぁ……大罪を犯そうとした『自分自身』を断罪することで罪を清算する、というのが、私が考えたトゥルーエンディングのはずだったんですけどねぇ。
『そんなの絶対ダメ!』って、どーなつちゃんにダメ出しを喰らってしまいまして。
だから、このゲームのクリア条件は彼女に委ねることにしたんです」
「……どういうこと?」
「まあぶっちゃけた話……このゲームのコンビプレイモードは、一人じゃ絶対にクリアできないようになってるんですよ」
~舞台裏・3~
「このゲームのクリア条件は、コンビプレイモードの協力者……つまりはどーなつちゃんが、『あなたが現実世界に戻っても大丈夫』だと判断すること。
つまり、あなたがこのゲームをクリアできるか否かは、結局のところあの子の一存だったってわけです。
疑似デスゲームモードでプレイしていたあなたと違って、どーなつちゃんはいつでも自分の意思でゲームを中断できる環境にありましたから。
……もっとも、協力者が途中でゲームをリタイアした場合、あなたは問答無用で永久ゲームオーバーになっていましたけどね」
「……」
「四六時中VRマシンに繋がれたまま、あの子がここまでゲームを続けるのは、並大抵の負担ではなかったはずです。
辛くて苦しくて、逃げ出したくなったことも一度や二度じゃなかったと思います。
それでもあの子は、最後の最後まで……あなたを救うために、逃げずにあなたと向き合い続けてくれたんです」
「……どうして」
「どうして私なんかのために、みんな、ここまでしてくれるんですか?」
「……自分でも分かってます! 私なんて最低最悪のクズで、一歩間違えれば大量殺人者で、こんなことしてもらう価値なんてない人間だってこと!
本当なら、今まで受けてきた罰だって生温い……とっくに殺されてたって文句言えないくらいの立場なのに、どうして!」
“でも、君はまだ、誰も傷つけてはいないから”
“自分の行いの、何がいけなかったのかにさえ気付ければ、きっとやり直せるから”
「でも! それでも私は、自分を止められない……どれだけ理屈で自分を納得させたって、また同じことをしないって自信が持てないんです。
その時こそ、今度は誰かを……みんなのことを、傷つけてしまうかも……」
~舞台裏・4~
“その時は、私達が止めるよ”
「……先、生」
“もう二度と、君に誰かを、自分自身だって殺させない”
“いつでも君から目を逸らさずに、君が間違いそうになったら、絶対に止める。何度だってやり直せるように”
“それが私の──『先生』の役目で、責任だから”
「そうね。先生の言う通り……私達はいつだって、あなたのことを見守っているから」
「……っ、園長!?」
「あなたが過ちを犯しそうになったら、あなたの周りにいる私達が、何度でも止めるわ。たとえぶん殴ってでもね。
……できればもういい加減、私にそういうことさせるのやめてほしいんだけど。本当の本当に、勘弁してほしいんだけど」
「あ、あの、園長……?」
「……ごめん、なさい」
「!?」
「私は、あなたたちを切り捨てようとした。
全てを救うだなんて絵空事を謳っておきながら、自分の掌の上のちっぽけな楽園のために、あなたたちの悩みや苦しみから目を背け続けていた。
生と死から目を逸らさない、なんて偉そうに言っておきながら、聞いて呆れるわ。
……本当は、私達が一番、あなたたちに向き合ってあげなきゃいけなかったのに」
「園長が、謝る必要なんて、ないです。私なんかのために……」
「……そうかもね。あなたのしようとしたことは、決して許されることじゃない。だけど、許されないのは私だって同じ。……だから」ギュッ!
「っ……?」
「私達はいつだって、あなたのことを見ているから。誰にも注目されてない、なんて言わないで。
私なんかが言ったって、どの口がって思うだろうけど。
あなたは、誰からも見向きもされない存在なんかじゃない。
あなたをちゃんと気に掛けてくれてる人がいるんだってこと、そろそろ気付いてあげて。
……お願い」
「…………」
~甘いお菓子のような・1~
「だいじょうぶだよ、▼▼▼ちゃん」
「……! どーなつ、ちゃん。目が覚めて……」
「私達がこれからやろうとしてることは、ミレニアムで……ううん、このキヴォトスで誰もやったことのないことだよ。
それが実現したら、きっとみんながびっくりするよ! キヴォトスの歴史にだって残るし、▼▼▼ちゃんのことを知らない人なんて誰もいなくなる!
みんなに注目されたいって▼▼▼ちゃんの夢だって、絶対叶えられるから!」
「……それが、どれだけ途方もない夢か分かってるの?
私には、あなたのような才能もセンスもない。私みたいな凡人に、そんな夢、叶えられるわけが……」
「できるかどうかじゃない、やるの!」
「!」
「私達の目標は、きっと才能とかセンスなんかじゃどうにもならないことだから。
たとえ地味でも、誰からも見向きもされなくたって……意地でもやり遂げてやる!って気持ちがなきゃ、きっと成功しないよ。
私だけでも、▼▼▼ちゃんだけでも無理だから……だから、みんなでいっしょに夢を叶えるの!
▼▼▼ちゃんといっしょにならできるって、私は信じてるから!」
「どうしてあなたは、そこまで……」
「だって、死ぬことより生きてることのほうがいいに決まってるもん!
誰かを死なせるために頑張るより、誰かの命を助けるために頑張った方がみんな嬉しいし、たくさん褒めてくれるよ!」
「あ、あなたって人は……どこまで」
「……言っておくけど。私、たぶん▼▼▼ちゃんが思ってるほど能天気でも、前向きな人間でもないんだよ?
世の中には、楽しいことより辛いことの方が、もしかしたらたくさんあるかもってことも、ちゃんと分かってるつもり。
でも……暗いことばっかり考えるより、明るいことを考えてた方が楽しいもん。
だから、私の目の前で、誰も悲しそうな顔をしてほしくない。みんなに笑顔でいてほしい。
それが私の夢で、私の発明は、そのためにあるから。だから……」
「私はまず、あなたに笑顔になってほしいんだ」
~甘いお菓子のような・2~
「……あ、そうだ! ねえねえ先生、お願いしてたもの、ちゃんと持ってきてくれた?」
“うん。ちゃんとここに持ってきてるよ”
「よかった! ……▼▼▼ちゃん」
「なん、ですか」
「……はい! どーなつあげる!」
「!?」
「ここに来てから、ずっとまともなもの食べてなかったって聞いたよ。だから、どーなつ!
おいしいもの食べたら、きっと▼▼▼ちゃんも元気が出てきて、前向きになれるよ!」
“今日は特別だって、副園長も許してくれたから”
「だからね、このどーなつ食べて、それから……」ぐぎゅるるるる……
「………………」
「………………」
「……え、えーっと……は、半分こにしない? ……だ、ダメ、かな?」
「ぷっ……あははははははは!」
「あぁ!? わ、笑うなんてひどいよっ!」
「まったく、マドカちゃんは本当に、いつだって能天気なんだから……」
「……うん。でも……本当においしい。このドーナツ……」
「……! ふふっ、よかった!」
~あなたの名前は~
「……あのね、マドカちゃん……ううん、どーなつちゃん」
「どっちでもいいよ? どっちの名前で呼ばれるのも私、好きだから」
「……うん」
「私は、弱い人間だから。きっとまた、何度も間違えるし、何度もみんなに迷惑をかけると思う。
でも、こんな私にも、未来を夢見る資格があるのなら……私は、この世界の歴史に残るような『何か』を作ってみたい。
今度こそ、誰かを傷つけるんじゃなくて……誰かを笑顔にできるものを。
それがきっと……私の新しい『MTR』だから」
「だから……あなたといっしょに、もう一度だけ、夢を見させてください。
よろしくおねがいします、マドカちゃん」
「うん! いっしょに頑張ろう! ミレモブちゃん!」
「………………」
「………………」
「……あっ」
「ご、ごめん! ついゲームの中での癖で……」
「……現実でまで! その呼び方は止めてよおおおおおお!!!!」
「うわーん、ごめんなさいぃぃ!」
~私達の楽園・1~
“おつかれさま、園長”
「……はあ。本当に、今回ばかりは疲れたわ。
司祭ちゃんがあの子を助けるために『看取られ系恋愛シミュレーションゲーム』をプレイさせるだなんて言い出した時はふざけてるのかって思ったけど。
どーなつちゃんまで『何度失敗してもいい世界で、とことんまであの子と向き合いたい』なんて言って聞かないし……
あんなことがあった後だったから、断るに断れなかったし……」
“でも、終わり良ければ全て良し、じゃない?”
「まあ、そうなのかしら。……そうね。そういうことにしておいても、いいかも」
「それにしても……ゲーム、か。今まであんまり興味はなかったけど、ここまで効果が見込めるのなら、一種のセラピーとして違反者たちの更生プログラムに取り入れてもいいかもしれないわね。
……流石に今回みたいなやり方は過激すぎるから、もう少しマイルドな方法を考えなくちゃだけど。
ああ、そういえば葬長は『せっかくVRマシンがあるのですから、ゲームばかりではなくサメ映画もラインナップに加えましょう』なんて冗談も言ってたっけね」
“あはは……”
~私達の楽園・2~
「……意外かしら? あの子たちを『ホール』に落とした私が、あの子のことを気に掛けていたことが」
“ううん。……園長があの場所を作ったのは、周りの人達だけじゃなくて、あの子達自身にも自らの命を絶ってほしくなかったからだよね”
“やり方は過激だったけど……本当は園長が一番、あの子たちがやり直せる機会が来ることを望んでいたんだって”
「……買いかぶりすぎよ。私は結局……あの子達に、何もしてあげられなかったから」
“そんなことないよ”
“園長が今日まであの子を生かし続けてくれたから、あの子はやり直すチャンスを得ることができた”
“葬長があの子と話してくれたから、あの子はほんの少しだけ、自分以外の誰かに目を向けることができた”
“司祭ちゃんがあの子を救う方法をずっと考えていてくれたから、みんなはそれに応えてくれた”
“どーなつちゃんがあの子を心の底から助けたいと願っていたから、あの子はどーなつちゃんに心を開くことができた”
“何よりも、あの子自身が……自分で変わることを選ばなきゃ、あの暗闇からは抜け出せなかったから”
“あの子を救うためには、みんなの力が必要で”
“それでも結局、最後にあの子のことを救ってあげられるのは、あの子自身だけで”
“私達にできることは、その手助けをすることだけだったから”
「……そう、ね。そして、それはきっと、先生だって同じよ」
「ありがとう、先生。ずっとあの子と……私達と、向き合ってくれて」
“うん。どういたしまして”
“これでも私は、みんなの先生だからね”
~私達の楽園・3~
「お疲れ様です、園長」
「あら。あなたもご苦労様。副園長。……本当に。今まで苦労をかけて、ごめんね」
「園長は……どーなつぐみを、MTR部を離れるつもりですか?」
「……そうね。確かにそんな風に考えていたわ」
「それは、贖罪のためですか」
「…………」
「……責を負う者が必要だというなら、私がその任を負います」
「副園長?」
「ドーナツホール……いえ、あの場所の管理責任者は私です。ゆえに、あの場所で起こった全ての罪の咎は、私にあります。
園長。あなたはこのどーなつぐみになくてはならない人です。……消えるのは、嫌われ者の私一人でいい。だから……」
「……はぁ」
~私達の楽園・4~
デコピンッ!
「ひゃっ!? ……え、園長? いきなり何を!?」
「ダーメ。あなただってどーなつぐみの一員で、この場所になくてはならない人なんだから。
あなたの読み聞かせを楽しみにしてる子、結構多いのよ。だから、勝手にいなくなるなんて許さないわ。
それに……辞めるってのはやっぱり無し。少なくとも、当分の間はね」
「え……」
「あの子の問題は解決したけど、どーなつぐみやMTR部が抱える問題の全てが無くなったわけじゃない。
それを全部放り出して、一人だけ肩の荷を下ろそうだなんて……責任を取った、なんてとても言えないから。
何より……どーなつちゃんや、どーなつぐみの子供達の悲しむ顔は見たくない。自分の勝手な都合で育児放棄だなんて、それこそ無責任じゃない?」
「……園長」
「ほら、私って案外、人望あるみたいだし? だったらそれを有効活用してみるのも一つの手かなって。
今度は……あなたや先生、部長や葬長、他のMTR部のみんなや、それ以外の人達とも、ちゃんと話し合って協力して……みんなで、よりよい未来を考えていきたい」
「……まったく。そんなこと、今さら気付いたんですか」
「ふふっ、もちろん、あなただって道連れなんだから。最後まで付き合ってくれるって約束だったでしょ?」
「……ええ。確かにそうでしたね。あなたがここにいる限り、私もあなたと共にあります。頼まれたって、離れてなんかやりませんから」
「だから……これからもよろしくね、◆◆◆ちゃん」
「……うん。よろしく。●●●ちゃん」
~わたしたちのMTR部・1~
「──は、はあ!? 私が……MTRミレニアム支部の支部長!? どうしてそんなことに……」
「そうですねぇ。どーなつちゃんや先生の推薦もありましたが、最終的には園長の決定ですかねぇ」
「ま、待ってください司祭先輩! 私、いまさらMTR部やミレニアムに戻れるだけでもおこがましいのに、どうしてそんな大役まで……」
「驕らないで下さい。……勘違いしないよう先に申し上げておきますが、これもまた、あなたへの『罰』の一環なのですよ。
それと、あなたに拒否権は与えられていません。どーなつの穴から出て来られたとはいえ、あなたは未だに保護観察中の身なんですから。そう易々と自分の意思を持てるとは思わないことです」
「……!」
「言っておきますが、支部長業務はあなたが想像している千倍は大変ですよ。
ただでさえ風当たりが強いMTR部が公式な部活となり、しかもミレニアムに存在しなかった全く新しい研究を始めることになるんですから。
その活動の矢面に立つ苦労は計り知れないでしょうし、生半可な覚悟でやり遂げられるものではありません。
……まったく、『支部長補佐』としてあなたのお守りを押しつけられた私の身にもなってほしいというものですよ。これじゃまたゲーム部の子達と遊ぶ時間が……前途多難ですねぇ」
~わたしたちのMTR部・2~
「で、でも……元々この部活を立ち上げたのはどーなつちゃんで、だったらどーなつちゃんが部長をやるべきなんじゃ……」
「ああ。あの子は技術者としてはともかく、人を率いるような立場には向いてませんよ。良くも悪くも甘ちゃんですし、感覚派で詰めが甘いのが玉に瑕ですから。
能力的にはむしろあなたの方が適任だとは私も思っています。……まあ、体のいいお飾りのスケープゴートとして、ですけどね」
「とはいえ……まあ、仮にも支部の代表ですから。他の誰よりも『注目を浴びる』立場には違いないでしょうけど」
「……!」
「さて。先ほど拒否権が無いとは言いましたが。私としては別にあなたが逃げ出したって構いませんよ。
狼煙組やどーなつぐみに追われることにはなるでしょうが、どうしてもやりたくないというのであれば無理強いはしません。
その上で、あえてあなたの意志を訊ねます。この役……引き受けますか? 引き受けませんか?」
「…………」
「……やります。こんな私にだって、果たせる役があるのなら。部長だって何だって、こなしてみせますから」
「そうですか。……まあ、あなたが前向きなのであれば、今は良しとしておきましょうかね」
~わたしたちのMTR部・3~
ガチャッ
「やっほー二人とも! ハカセちゃん連れて来たよー!!!」
「う、うぐう……まさかウタハ部長から直々にお願いされるなんて……で、でも! あくまでMTR部が軌道に乗るまでの間だけだから!
もしも次の査定で正式な部として認められなかったら、すぐにエンジニア部に戻らせて貰うからね!」
「えへへ。これからよろしくね、ハカセちゃんっ!」
「ああもうこの能天気娘め! ……言っておくけど、僕の才能は安くはないよ!
僕が協力するからには絶対に成功させる。なんたって僕は、ミレニアム始まって以来の天・才!エンジニアなんだから! そこんところよろしくね!」
「……ハカセちゃん」
「って、▼▼▼ちゃん!? 今までいったいどこに……みんな心配してたんだよ!?」
「それは、その……」
「はいはいそこまで。細かい話は後でどうぞ。面子も集まったことですし、さっそくMTRミレニアム支部の発足会を始めますよー!
それじゃあまずは開会の挨拶から。……よろしくお願いしますね、MTRミレニアム支部長の『ミレモブ』ちゃん?」
「!?」
「支部長!? ……っていうか、ミレモブちゃん? ぷくくっ、なにそのあだ名!」
「えへへ。ミレモブちゃんもよろしくねー!」
「ほらほら、さっさと始めちゃってくださいよミレモブちゃん」
「だからぁ! その呼び方は止めてってばああああ!!!!!!」
おしまい
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ということで、私なりのどーなつぐみ完結編でした。長すぎですね。
以下は読んでも読まなくてもいいあとがきみたいなものです。
ぶっちゃけた話、この一連の話の中で一番どうにかしたかったのって、園長でもどーなつぐみでもなくてミレモブちゃんだったりします。
やらかしたことを考えれば安易に改心とかもさせられないけど、それでも彼女も生徒である以上何かしらの救いはほしいなあ、ってずっと思っていたもので……
元はと言えばどーなつちゃんもドーナツホールもMTRミレニアム支部も、そのためにここまで描写を重ねてきたみたいな背景があったり。
ダイブ装置とかク〇ゲーセラピーとか、地味に2スレ目あたりから張ってた伏線も回収できたので、とりあえずやりたいことはできたかなと。
あと、最後なのでちょっとだけどーなつちゃんたちの脳内設定を語ってみたり。
どーなつちゃんの本名は洞木(うつろぎ)マドカ、司祭ちゃんの本名は神宮司(じんぐうじ)マツリ、みたいに妄想してました。
あくまで妄想なので公式設定かは神(スレ主)のみぞ知るというところです。
最後に、どーなつぐみ提唱者の方、いろいろと勝手に剣呑な設定を生やしてしまい申し訳ありませんでした。
願わくば、園長や副園長、どーなつちゃん、どーなつぐみの皆が、これから先もほのぼのした日常を送れますように。