この少しはましな地獄で(中編-4)

この少しはましな地獄で(中編-4)

労役に勤しむアシタカ

中編-3


それからしばらく、どういう状況なのかをハルナに説明した。私達の今の立場、彼女を調教しないと全員の命が危ないこと…そして、今まで私達がなにをされ、なにをしてきたかを。

その話をハルナは時折お茶をすすりつつもじっと聞いていた。


「なるほど。先程フウカさんが引き返せないといったのは、こちらで料理人として働いているということでしたか。そのために、不用意に逃げ出せば他の敵対組織にも狙われる、と」


「ええ、そんなところよ…料理人って言われる資格があるとは思えないけどね」


そう言って、最後まで口を閉ざしていた…私達の罪について話し始めた。


ご主人いわく、私が厨房に立ってからこの店の売上は跳ね上がったらしい。おかげでこの地獄のような世界では、だいぶマシな場所に居ることができる。

そして、私達に与えられたもう一つの役割は…人を壊す手伝い、だ。ジュリのおっぱいにクスリを注射し、原液よりも数倍強力となった媚毒ミルクを調理して囚人に出していた。

ひどい目にあっていた囚人は、久々の人間らしい食事を楽しんでしばらくした後、程度の差はあれ快楽で壊れていく。

もっとも強力なものだと、性器はもちろん、肌や内臓からくる暴力的な快楽、体に付いている僅かな液体が滴る感覚やそよ風さえも絶頂のトリガーとなり、料理を食べた囚人は暴れ狂う。

たちの悪いことに、数日経てば媚毒は抜けて正気に戻ってしまう。それまでに完全に廃人となってしまう物も居るが、そうでなくても体や記憶がその時のことを覚えてしまい、感度が極端に高くなったり、心が折れてしまう物もいる。

その光景を見るたびに私は大きな後悔と…心のどこかで確かな喜びを感じていた。自分の料理で人が壊れていくのが嬉しくなってしまったのだ。そして、そう感じる自分に嫌気がさす。


そんなクスリを投与されたジュリも、同じようにイキ狂う。だからその日の晩はいつもより激しくまぐわる…お互い、罪悪感と心に潜む暗い感情を押し流すために。


「だから、私はもう自分のことを料理人だなんて口が裂けても言えないわ。料理で人を傷つけて、あまつさえそれを喜んでいるんだから」


自嘲気味にそう言葉を締める。手元の湯呑みにはまだ半分くらいお茶が残っていたが、到底飲む気にはなれなかった。

私の告解を、ハルナは黙って聞いていた。なじるでもなく、侮蔑するでもなく、ただ私の顔をじっと見ていた。


…私は、彼女に何を望んでいたのだろうか。罰してほしかったのだろうか。彼女が気に入らない店を爆破する時に見せるあの目を、自分に向けてほしかったのだろうか。


再び重い沈黙が場を支配する。それを破ったのは、やはりハルナの方だった。


「ひとつ、フウカさんに聞きたいことがあります。その囚人の方たちにお出したミルクは、ちゃんと料理をしたうえでお出ししたのですか」


「…そこに関しては手を抜いてないわ。好みの違いはあるかもだけど味見をした感じ、おいしくできてた」


人に食べてもらうものである以上、お客様にお出しするものと遜色ないよう調理している。そして、食事を出したとき、どんなに強情な子でもその時だけはどこかホッとした様子を見せる。そして、そのことがとてつもなく辛い。

食べてるときは安心した様子なのに、しばらくするとイキ狂い、騙されたと絶望することが分かっているのに、それでも手を抜くことはできなかった。


傷つくことが分かっているのに、おいしい料理を作って、希望から絶望へと叩き落とすことをやめられない。


だから…ハルナの言葉に、私は虚を突かれた。


「やはり、あの頃のフウカさんから変わっていませんわね。安心しました」


「…それは、どういうこと?」


「フウカさんが、料理とそれを食べる方に真剣に向き合ってるという意味ですわ。でなければおいしいお食事なんて作れるはずありませんもの」


確かに、できた料理はおいしくはあった。だが…


「…私は、料理で人を…」


「ええ、それに関しては私も思うところが無いと言えば嘘になります。ですが…そうですね。常々、私が言っていたことですが、美食というのは料理の味だけではないというのを覚えていらっしゃいますか?」


無言でコクリと頷く。味だけではなく、食べる人の心情や周囲の状況も大事であるという彼女の理屈は、私にとっても同意できるものだ…それはそれとして、店を吹き飛ばすのはどうかと思うが。


「私も経験したのでよくわかりますが、ここで受ける拷問というのは、人間扱いされない本当に過酷でしかも孤独なものでした。そこに丁寧に作られた料理が届けられたら、それは一生忘れることのできないお味になると思いませんか?それこそ、名店でいただく最高級の美食のように」


「そう、なのかな…」


本当に、彼女たちの希望になっていたのだろうか、私の料理は。その後に来る、破滅へのレールを敷いたのは私だというのに。

私の悩み素振りを見たからか、ハルナはこう言葉を継いだ。


「それと、快楽に溺れることも、ある意味では慈悲となる…そう考えることもできませんかしら」


「慈悲…?」


「ええ。お二人は、慣れていらっしゃるから分かりづらいかもしれませんが、本来望まぬ性行為というのは苦痛しか感じないものです…私も、数日間犯され続けたときは快楽を微塵も感じることはありませんでした」


「…」


「はっきり申し上げますと、ここに囚われた方はそのほとんどがもう日の目を見ることはないでしょう…でしたら、苦痛を感じながら生きるよりも、性に乱れてしまう方が幾分かマシなのではないでしょうか」


確かに、私とジュリは何をされても気持ちよくなってしまう体にしていただいたが、もしそうでなかったら…犯されることに耐えられなかったかもしれない。


(だったら、私のしてることって間違ってないの…かな)


苦痛にあえぐよりも、快楽でその身を焼いたほうがまだましなのかもしれない。希望も絶望も忘れ、ただただ本能に従う獣に堕ちた方が良いのかもしれない。


それでも、


「…一度壊れたら、もう元の生活に戻ることはできないわ。あの快感を忘れるなんてできないし、体が勝手に反応しちゃうの。私のせいで、この地獄にいなきゃ生きられない体にしちゃうの」


「私が…とどめを刺してるのよ」


どんなに取り繕っても、どんな言葉を並べても、それだけは揺るがしようのない事実だ。

そして、そのことが、私に重くのしかかる…気づけば私は顔を俯かせていた。


「そのことを、フウカさんが重荷に思うのなら、私もその罪を共に背負いましょう」


ほんのりと冷たいハルナの手が私の頬に当てられる…ああ、私は、私は…彼女にそんなことをさせるわけにはいかなったのに。

この罪は、私が背負うと決めたのに。


「…駄目よ。あなたは巻き込まれ「私が自分で巻き込まれに来たのです」」


私の否定の言葉を、ハルナは遮る。


「もう、自分が元の世界に戻れないことは覚悟しております。ならば、私が最も信頼する愛清フウカという料理人を支えることができるなら、この身を捧げることにためらう気は到底ありませんわ」


「…私は、そんなにしてもらえる程、価値のある…料理人、なのかな」


「ええ。美食研究会会長の私が言うのですから間違いありませんわ」


「…こんな私でも、もう一度作れるかな。ハルナが認める美食を」


「…ええ。それに、表の世界に居ては味わうことのかなわない美食を求めるのも、また一興ではないでしょうか」


「…ふふ、ハルナは相変わらずね」


ふーと息を吐き、天井を仰ぐ。こうまで私に期待してくれるなら、応えないわけにはいかない。

認めよう。私が、もう戻れない、闇の世界の住人であることを。そして告げよう。ハルナにこれから先待ち受ける未来を。


「ハルナ。私は、あなたを娼婦に、性奴隷に堕とすわ。目の前に男の人の性器が、おチンポが差し出されたら疑問もなく口で気持ちよくして、前と後ろの穴に入れられたら腰を振って、精液を、ザーメンをぶっかけられてもそれで興奮してイッちゃう、そんな雌に」

「そして、人を壊して、堕としてそれを喜んじゃう下劣な人間に、被害者ではなく加害者になってもらうわ…覚悟はいい?」


じっとハルナの目を見つめる。激しい拷問を受けても、私たちのことをしゃべらなかった、芯のある目。きっと彼女はこの目を保ったまま、壊れて堕ちてくれるのだろう。


「無論です。私を奴隷に調教…いえ、フウカさんの手でこの黒舘ハルナという女を、ご自由に調理してください。フウカさんになら、私はどのようなことをされても喜んで受け入れます。あなたの思う、理想の女になって見せますわ」


楽しみだ。彼女が色欲を孕んだ目をしてくれることを。


「…最後に一つ、お願いしてもいいですか?」


「ん、何?」


「口づけを、交わしていただいてもよろしいでしょうか。その…殿方のモノを咥えさせられたことはあるのですが、お口同士での触れ合いは今までなくて…。私の最後に残った”初めて”を、フウカさんに奪っていただきたいのです」


「ええ、もちろんよ…ん」


「へっ?…んんん!」


そういうやいなや、身を乗り出し、ハルナの唇を奪う。もちろん、唇同士を触れ合わせるバードキスなんかではなく、舌を入れるディープキスだ。驚くハルナをしり目に彼女の口内を蹂躙していく。

まだまだ、開発も改造もされていない初々しい彼女の口。それをすっかり上達してしまった私の舌技で乱れさせる。


(不思議ね…なんの味もしない、媚薬でもない唾液なのに、すごくおいしく感じちゃう♡)


けれどまだまだ足りない。彼女はもっとおいしくできる。食材を見る目はあるのだから間違いない。

そして、そんな極上の素材を、私の好きにできてしまうことに興奮してくる。


「ん?!…んんん♡…んんんんんん♡♡♡」


あっという間にハルナの顔は赤くなり、体温が高くなっていることを感じる。耐性のない彼女なら、私の媚薬と化した唾液ですぐに達してしまうだろう。


(ああ、でも私も♪)


一方的に攻め立ててるはずの私も、絶頂へと近づいているのを感じる。体が快楽を感じるというよりも、心が彼女と一緒にイキたいと訴えている。


「「ん、ん、ん、んんんんんんんん♡♡♡♡」」


不思議な絶頂だった。ジュリとするときに似た感じだろうか。ただの口同士の触れ合いだけでイッてしまうなんて、私の体も単純だなと思う。

お互い体ががくがくと震え、それでも口は離さない。この熱をもう少し味わいたい。


しばらくすると、ハルナが落ち着いてきたのか私の舌に彼女の舌が触れ合ってきた。


…本当はずっとこうしていたいが、まだまだ説明しなければいけないこともある。名残惜しそうに唇を離す。透明な橋がつーっと伸びたかと思うと、重力に従い落ちていき、やがて切れた。


「はぁ…はぁ…はぁ…こ、これがイクという感覚、なのでしょうか」


「そうよ。これからハルナが何度も味わって、コレを味わうためならなんでもできちゃう素敵なものよ…どうだった?」


「…いけませんわね。これを知ってしまったら、もう逃げられませんわ。でも…悪い気はしないですわ。体の奥から歓びを感じたというか…おいしいものを味わった気持ちとよく似ていますわね」


「そっか。うん。これなら多分大丈夫。ハルナもきっと楽しめるはずよ」


(この、最低で素敵な地獄をね♪)


「…私も、フウカさんのような顔をするようになってしまうのでしょうか。性に乱れた顔を…すごく、ドキドキします」


そういう上気した彼女の顔は、本当の意味で性を知ってしまったハルナの顔は、とてもきれいだった。まぐわいを何百も繰り返した私ですらも、ドキリと思うほどに。


「ふふ、もう同じ顔をしてるわよ♪」


もう、自分の気持ちに…奥底に隠したかった黒い感情を裏切ることはできない。

彼女を壊したい。堕としたい。ザーメンに塗れて、喜んでおチンポに媚びて、どんな尊厳を否定するような命令でも快楽のためなら従ってしまう、淫乱な雌に。

そして、それは命令されたからではない。本心から、彼女を堕としたい。自分と同じところまで堕ちてほしい。そしてともにより深みへと。

自分が被害者なんて言う気は毛頭ない。3人で一緒に加害者に堕ちていきたい。


だから…私も真剣に彼女のことに向き合おう。理想の性奴隷にするために。


(楽しみね、ハルナ。あなたはどんな雌に料理できるのかしら♪)


中編-5

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