この少しはましな地獄で(中編-3)
労役に勤しむアシタカ「失礼しました」
話を終え、ジュリとともにご主人様の執務室を辞す。久しぶりの会話だったが、心労が溜まっていることがこの短時間でもよく分かった。だからと言って、私たちに当たることがないので気楽ではあったが。
しばらく廊下を歩いて、周りに誰もいないことを確認すると、
「「はぁ~~~~~~~~」」
2人で同時にため息をつく。正直、もう1ヶ月追加で輪姦されてこいと言われた方が楽な気がする。
「どうしようかね…」
「その、あの命令に失敗したら私たちも危ない、ですよね」
「きっとね。ご主人様の立場もかなり微妙みたいだし」
けれども、ここを乗り越えることができれば私とジュリ、それとハルナの3人でかなり安定した生活を送れそうではある。
大好きな料理を作りつつ、時折3人一緒に輪姦されて精液まみれのまま同じベッドで眠る日々、そんな淫らで素敵で最高な日常を手に入れる。
そのためには、ハルナの協力が不可欠だ。あまり時間はない以上、急いでハルナが待つ医務室へ向かう。
道中、あちらこちらにおいてある鏡が目に入る。普段は全く気にしないのに、そこに映る自分の姿を見ると今はなんだか恥ずかしく感じてしまう。
裸を見せるよりもはしたないことを何度もしてきたのに、昔の友人に会うとなると話は変わるのだろうか。
「…フウカ先輩、顔赤いですけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。うん」
どうも顔にまで出ているようだ。ジュリに指摘され再び鏡を見ると、顔を真っ赤にしていることがよくわかる。
羞恥心などどこかへ捨ててきたと思ったのに、まだそんな人間らしい感情が残ってるとは思ってもいなかった。
(ふー…いったん落ち着こう)
頬を軽く叩き、深く息を吸う。ただ会うだけでこんなになっていては、うまくいかない。落ち着かなければ。
「意外ですね、フウカ先輩がこうなっちゃうとは思いませんでした」
「いやー、やっぱり昔の私を知ってる知り合いに会うと恥ずかしいというか」
「…私と再会したときはこんな感じじゃなかったじゃないですか」
「あ、あれは…その、それどころじゃなかったというか…」
「…ふふ、冗談ですよ」
「も、もう。焦ったじゃない」
「あはは、ごめんなさい…緊張、ほぐれましたか?」
「…うん、ありがとう」
気付けば医務室の前へとたどり着いていた。もう一度深呼吸した後、ドアをノックする。
「ハルナ、入るわよ」
返事は聞こえない、けれどがさりとシーツがこすれる音がした。
「…どうぞ」
数秒の静寂の後、かすれるような、聞きなれたような、されど懐かしい声がした。
…ゆっくりと扉を開ける。
部屋には奴隷になる前に見た時と変わらない姿のハルナがベッドで起き上がっていた。見た感じけがは完治しているようで、傷一つ残っていなかった。
ちなみに、ここの病人用の服も着るものを辱めるべく、布地が透けているいわゆるシースルーの物となっている。おかげで胸の先端にあるピンク色の色素がよく見える。
「フウカさん、ですよね?」
「そうよ。よかった、ケガも治ってそう…うわ!」
ベッドに近づくと、突然彼女がとびかかってきた。
「フウカさん…!ごめんなさい…わ、私のせいで…私の代わりに、ひどい目に…うわあああああああ!」
ハルナの慟哭が部屋中に響き渡る。目当ての美食が目の前で吹き飛んでもこうはならなかった。少なくともここまで泣きじゃくる彼女を、そして自分のことを責める彼女を始めて見た。
背後で再び扉が開く音がする。たぶんジュリが部屋を出たのだろう。
私の小さな胸元で泣いているハルナを、そっとなでる。今は、二人っきりでこうしておこう。
どのくらいっただろうか。しばらくして、ようやくハルナが落ち着いてくれた。
「どう?落ち着いた?」
「ぐすん…はい。ご迷惑、おかけしました」
目には涙が残り、まだちょっと赤く腫れているが、感情の波は収まったようだ。
「大丈夫よ、このくらいならね」
ちょっとばかり胸元が涙でぐしゃぐしゃになったが、いつもザーメンで濡れているので気にはならない。ハルナが落ち着く方が大事だ。
「とりあえず私の部屋、行こっか。積もる話もあるしさ。たぶんジュリが準備してくれているはずよ」
「…わかりました。その、この部屋の片づけなどは大丈夫なのでしょうか」
「そっちも大丈夫。許可は取ってあるわ」
幸い彼女の持ち物はほとんどなかった。(取り上げられたとも言う)軽くベッドを整え部屋を出る。
私の部屋へと向かう道すがら、ハルナはちらちらと周りを見ていた。
ボロボロの体を引きずる奴隷の姿、輪姦されてザーメンまみれの奴隷の姿(ちょっとうらやましいと思ったのは秘密だ)、調教されて恐怖からおかしくなっている奴隷の姿。始めはそれらを気にしていたのかと思った。
だが、よくよく見ていると監視カメラや警備の位置、あるいは武器となりえるものを気にしているようだった。
そして、この店の中にいくつかある監視カメラが途切れる通路に入ると、小声でこう話しかけてきた。
「…フウカさん。もし、あなたが望むならここから逃げ出すお手伝いができると思います…たぶん、フウカさんひとりだけなら逃がせるかと。ジュリさんには申し訳ないですが」
やっぱり、私を逃がすことをあきらめていないようだ。もし、仮に私が首を縦に振ればたぶん躊躇なくやるだろう。なんだかんだでハルナはかなり強いし、いけるかもしれない。そして、今度こそ命を落とすことも分かったうえで。
(はあ…どうして私なんかをみんな助けようとするのかしらね。もう、闇にどっぷりつかった私なんかを)
でもそれがちょっとだけうれしい。だからこそ、この提案を聞き入れることはできない。
「そういってくれるのはうれしいけど、ごめんなさい。私もジュリも引き返せないところまで来ちゃってるのよ…詳しくはあとで話すわ」
「…わかりました」
そういって、彼女は引き下がった。
(それにしてもどうしようかしらね…)
さっきご主人様に命令されたことを思い出す…ハルナを、輪姦用の奴隷に堕とす命令を。
私たちの1ヶ月に渡る輪姦は、ハルナをひとまず治療する方の許可は出たそうだ。だが、このお店を…いや、この組織を襲撃した件についてはそれだけでは足らなかった。
ご主人様のさらに上、組織の上層部の方たちは襲撃してきた彼女を最底辺に近い奴隷である輪姦用の奴隷に堕とすことで、見せしめにしようというわけだ。
ちなみに、基本的には輪姦用の奴隷は最低限の改造しかされず、使い捨て前提だ。私とジュリも輪姦用の奴隷ではあるが、お客様にお出しできるような料理が作れるので、激しい凌辱に耐えられるように改造して頂いた。心の底から楽しんでいるのはたぶんあまりいないだろう。
期限は1週間後、それまでにハルナをお客様が満足できるような物にできなければ、ご主人様も処罰…最悪処刑され、私たちの奴隷の中ではマシな立場も危うくなるというわけだ。
この店の調教師曰く、2カ月ないと難しいと言ってはいたが、心を折るのに大部分を使うとのことなので、心を開いているはずの私たちなら何とかなるかもしれないとのことだ。
しかし、だ。ハルナを堕とさなければ私たちの身が危ない。そのことをわかってはいるが、まだ何もいじられていないハルナの体を表の世界で生きていけないようにすることに躊躇してしまう。ジュリの場合はもう手遅れであったから、堕とすことにあまりためらいはなかった。だが、まだ引き返せるハルナを堕とすことに良心の呵責を覚えてしまう…そして、自分の中に潜むどす黒い感情を否定したくなる。
(…今更何言ってるのよ、私は)
分かっている。ハルナを含めた私たちの身を守るには、彼女を壊すしかないことを。自分たちと同じ、おチンポに媚び、淫乱な雌であると罵られることに喜びを覚えて、ザーメンをいただくためにはなんだってする、性の奴隷へと。
だが、そのためには私がそんなあさましい雌であることを彼女に知らしめなければいけない。さらわれ、調教され、壊された被害者である愛清フウカという人間など存在せず、自分の意志で大好きな料理で人を傷つける下劣な人間であることを、よりにもよって美食を愛するハルナに伝えなければいけない。
彼女の中の私を壊したくないのだろうか、それとも命をかけてここまで来てくれたのに、私にそんな価値などないことを知られるのが怖いのだろうか。
あの時の関係を、今さら続けたいのだろうか。この人間未満の私が。
「……はぁ」
ハルナに聞こえないようにこっそりため息を吐く。
お互い言葉を発さぬまま、気づけば私の部屋にたどり着いていた。1ヶ月ぶりの我が家だが、何だが扉が重く見える。
けれども入らないわけには、そして話さないわけにはいかない。
ゆっくりと、扉を開ける。
「あ、おかえりなさーい、フウカ先輩、ハルナさん」
部屋の中では、先に帰っていたジュリがお茶の準備をしてくれていた。テーブルには3人分の湯呑みと椅子が用意され、ちょうどお湯を沸かし終えたようだ。(ちなみにいままでジュリにお茶を淹れさせたことはない。ゲヘナならともかく、ここでそれをやるにはあまりにリスクが高すぎる)
「た、ただいま」
「おじゃましますわ…なかなかいいお部屋ですね」
家具こそ少ないが、キッチンと冷蔵庫、それとダブルベッドが用意されたこの部屋。若干手狭だが、奴隷に与えられる部屋としては最上級と言っていいだろう。
「後はやっておくから、2人は座ってて」
「分かりました、先輩」
「ありがとうございます、フウカさん」
とはいっても、急須に茶葉を淹れてお湯を注ぐだけだが。
(はぁー、憂鬱ね…あ、やっちゃた)
考え事をしながらやってたせいか、茶葉を入れすぎてしまった…お客様に出すものなら変えざるを得ないが、身内だけだしもったいないのでこのままだそう。
お湯を入れ、湯呑みに注いでテーブルに持っていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、フウカ先輩」
「ありがとうございます…いい香りですね。いただきます」
私も席に着き、お茶をすする…ものすごく苦い。ジュリもちょっと渋い顔をしている。もともとの茶葉がそんなに良くないのもあるが、1ヶ月キッチンに立っていないのも大きいか。
ともかく、ようやく一息つくことができた。久しぶりに穏やかな空気が流れる。ただ、会話は始まらない。お互い微妙に目を伏せ、始めるきっかけを作れずにいる。
しばらくして、ハルナが意を決して言葉を紡ぎ始める。
「フウカさん、ジュリさん。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。そして、助けていただきありがとうございます」
そういって彼女は頭を深々と下げた。
「頭を上げて、ハルナ。その、まあちょっと大変ではあったけど、そんなに頭を下げられるようなことはしてないわよ」
「ですが、私が…私が余計なことをしなければ、お二人を危険な目に合わせることにはならなかったはずです」
まだ、彼女は頭を上げない。ちらりとジュリの方を見ると、あいまいな笑みを浮かべている…ハルナのことは全面的に私に任せるようだ。
「余計なことじゃないわ。あなたが助けに来てくれたってことを知ったとき、うれしかった。自分の身を顧みずにこんな危ない目に遭って…それにハルナが拷問を受けたとき、私たちを助けに来たって言わなかったんでしょ?そうじゃなきゃ、私たちももしかしたら危なかったかもしれないし、そこまで覚悟を持ってきてくれたんだから、ハルナを助けないわけにはいかないわ」
「だから自分のことを責めないで。元はと言えば私たちが捕まったのが原因なんだから、迷惑をかけたのはお互い様よ」
そこまで言って、ようやくハルナは顔を上げた。憂いを帯びた顔は相変わらずだか、幾分か穏やかになったような気がする。
「それより…今後のことを話さないといけないわ」
今度はこっちが重い話をする番だ。胃がキリキリする…彼女にひどいことをすると伝えなければいけない。
けれども、先にハルナが切り出した。
「私を、フウカさんたちと同じような奴隷にすることでしょうか」
「…気づいてたの」
安っぽいお茶の香りが鼻をくすぐる。さっきまではこれで落ち着けたが、今となっては邪魔に感じる。
「ええ。まず、お二人がここで囚われている方たちの中でも、かなり上の立場に居るのはすぐわかりました。この部屋もそうですし、そもそも私を助けられたのもある程度の地位にいなければ、提案すら聞き入れられないことはわかっています」
「それに、私が言うのも変ですが、顔がいい自覚はありますわ。胸の方もジュリさんほどではありませんが、殿方に好まれそうな大きさをしていますしね。このまま手を出さないのも道理に反するかと」
そこまで言って、彼女は一口お茶を飲んだ…やっぱり、ハルナは察しが良い。何も言わずともここまで読み取れるのはさすがとしか言いようがない。
「おそらく、囚人をしつける…ここでは調教と言うのでしょうね、そういったことを任されるのはこのお店の中でも立場の上の方なのでしょう。私の考えでは、拷問や凌辱では罰としては不十分。奴隷として調教されてようやく許される、そしてその調教師役としてお二人に白羽の矢が立った、ということでしょうか」
「…はぁー。正解よ、ハルナ」
まさかここまで言い当てられるとは。伊達に風紀委員会から逃げまくったわけではないということか。
「わかった、全部話すわ。私達の現状と…ハルナに何を強いるかを」