エピローグ:巣なき竜の思索
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マドカが去った方向は町の反対側。草原は疾うに過ぎ、今は森の中。
星の光さえ樹々に遮られる森にあって、珍しく林冠の開いた広場のような地点を見つけると、そこに腰を下ろした。
(……今回の件以降、開発に賛成する側も反対する側も、色々と変わらざるを得ないだろうね)
(里側は、否応なく"自分たちの居場所が奪われる"危険を認識した。今後は、その対策が要る)
(開発側も、今後は"同じように居場所を奪われることを危惧した集団"から警戒されるだろう)
思考しながらマドカは一人、月の無い夜空を仰ぐ。
樹々の間から覗く、森に棲む夜行性のポケモンたちの視線もお構いなしだ。
(同じ問題を抱える者たちが、より密な連携を試みるか)
(それとも、他者に依らずに自分たちの強みを伸ばすか)
(……或いは、ワタシの想像しないような手段に出るか)
("世間知らず"には、分からないことばかりだね。全く)
そこまで考えて、ふと視界の下端にちらつくものが映る。
何かと思って首を下げれば、
「うわっ、火!? ……って、キミか。驚かせないでよ、もう」
目の前にあったのは火、そしてそれを先端に灯した夕焼け色の尻尾。
それを辿った先、終点に待つのは、イタズラ好きな相棒のしたり顔。
「……何、心配かけちゃった? ふふふ! ゴメンね、みんな」
マドカが周りをくるりと見渡してみれば、相棒の他にも四つの影がある。
深い夜色の中に艶やかで毒々しい模様を宿す影は、心配そうに紫の眼を細め。
夜明け前の空のような紺色の影は、気にするなと言いたげに背びれを揺らし。
力強い朝焼け色の影は、己が出てきたいから外へ出たまでだと小さく吼えて。
深い青空と燃える太陽の色が華やかな影は、遠慮は無用と両腕をぐるり回し。
そのいずれもが一か所に集まって、マドカを囲むように寝そべっていた。
「そうだね……うん。それじゃ今夜はみんなで、一緒に寝ようか!」
その声に続けて、五つの小さな声が重なる。
そうして、一人と五匹……或いは六つの命たちの夜は、静かに更けていった。
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