RABBIT Answer (中編)

RABBIT Answer (中編)


前編の続き

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「は?」


そこに映った映像は…

ビシャバシャバチャビチャ!

『ゴボッ!!ガボッ!!』

頭を無理矢理水の中に押さえつけられたミヤコと

『ほら!いい加減吐けよ!』

ミヤコの頭を押さえつけている『私』だった。

どうやら先輩達の手によって、音や映像が一部拡大されているようだった。

あの場所は…よく飲み物を冷やしている噴水だ。

私は以前、自分だけの映像は見たが、映像の中の『私』は苛立っているようで、その時以上に攻撃的だった。

何かを問い詰めているようだが、あれでは尋問ではなく拷問だ。

「ミヤコちゃん!?」

「サキこれ一体どういうこと!?」

「私に聞かれても困る!?」

突然映った映像にミユも驚いているようだ。

モエの方も驚いているようで、映像を見ている私を問い詰めた。

知らない…覚えてない…あれが私なんて信じられるはずがない…

『ガボボッ!!ボボッ!!』

『ん?何を言って…ってそうだったな』グイッ

『私』はミヤコの頭を髪が抜けるかのような勢いで、強く引っ張った。

『!?ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!…ハァ…ハァ…ハァ』

水の中から顔を出せたミヤコは、吸えるだけの空気を吸うかのように息をした。

『で?言う気になったか?』

『ハァ…ハァ…ですから…もう…ケホッ…ありません…と…何度…』

『はぁ!?』

ドボン!

『ガボボッ!?』

『嘘つくな嘘を!最初のケーキはモエが食べて、この前のはミユが私より食べたんだぞ!私の分があるに決まってるだろ!』

ケー…キ?…そんなもののためにこんな拷問紛いなことを?

そんなことを考えていると…

『ガボッ…ボッ………』

『おい!何とか言ったら…あ?』

『……』

『動かなくなったか…』

ミヤコが急に動かなくなった。

そのことに気付いた『私』は、ミヤコを引っ張り出した。

ミヤコは見る限り、気絶しているようだが…

『おい起きろ!』

ドゴッ

『私』はそんなことを意にも介さず、ミヤコを起こすために蹴りつけた。

『……』

ミヤコは起きる気配がない。

『さっきみたいに、気絶したフリじゃないのか!!おい、とっとと起きろ!』

ドガッバキッ

『私』は何度もミヤコに暴力行為を加え続けた。だがそれでも、ミヤコは起きなかった。

ミヤコが生きているのはわかってはいるが、あまりにも起きないため私は不安になった。

『…チッ』

『私』は反応が無くなったミヤコを置いて、どこかに去っていった。

私は映った映像に愕然とした。

ありえない…隊長である…仲間であるミヤコに対してあんな行為、到底許されることじゃない。

呆然としていると…

『』タッタッタッ

映像の中で、白い何かがミヤコに近づいてきた。あれは…ウサギ?

「ウグッ!?」

またあの頭痛だ…

ひょっとして…あのウサギがぴょんこか?

『』スリスリ

ぴょんこはミヤコの顔にすり寄っているようだ。

よっぽど、懐いているらしい。

『う…ん…』

ミヤコは声を発した。

良かった。わかっていたとはいえ、生きていることがわかると少しほっとした。

…そこで映像が途切れた。


呆然としてしまったが普通のケーキであんな凶行に及ぶなんてありえない…

きっと、ケーキに『薬』が入っていたのだろう。

そう思っていたら、また映像が映った。


次に映ったのは…

『んん!んんんんんんん!』

私たちと同じように縛られていたミヤコだった。

しかし…違うのは身体を横たわらせていたことと、

私たちと違って抵抗していることと、

口に布が巻かれて喋れないこと、そして…


身体の色んな場所に爆弾が巻かれているところだ。


よく見たらミヤコがいる場所は…みんなで焚火を囲む場所だった。

『くひひひっ!ミヤコが悪いんだよぉ。私たちにケーキの場所を教えないから…』

画面から声が聞こえた。あの声は…

「私?」

モエが自分の声に驚いていた。確かに、モエの声だった。

そして画面外から、『モエ』が何かを持ってきていた。あれは…ガソリン?

『んんん!?んんんんんんんんん!!』

『あぁもう!うるさいなぁ!』

ドゴッ!

『んん!?』

『モエ』がミヤコの腹を蹴って黙らせた。


『くひひひっ…静かになった。…覚えてる?子ウサギ駅で、私がプラスチック爆弾を全部使ってドアを開けたの』

ドバドバ…

『モエ』はガソリンをミヤコにかけながら、何かを話していた。

『くひひひひっ…どうなるんだろうねぇ…』


『人の身体でそれをしたらさぁ…』


…何を言っているんだ『モエ』は?

『まぁ、プラスチック爆弾が無かったから、こうやってガソリンをかけてやってるんだよねぇ…くひひひっ、空になった』

そして『モエ』は空になった容器を投げ捨てるとミヤコから離れて、

『いくよぉ!』

懐から、手榴弾を取り出して、セーフティとピンを外して…

『んん…』

『そーれっ!』

…それを何か喋ろうとしていたミヤコに向かって投げつけた。


ドガーン!!!


映像の中で凄まじい爆発が起きた。

爆風によって映像と音声が少し途切れたがそれでも映像は映った。

『くひひひっ、ヒヒヒャヒャヒャヒャ!』

普通なら絶対にしない笑い声をあげる『モエ』と…

『━━━━━━━━━!!!』

口の布が外れて、声にならない声を上げて、炎と爆発の痛みに苦しむミヤコの姿を…ただ映し続けた。

『モエ』はその後、満足したのかいなくなり、地面を転がって身体の火を消したミヤコは、しばらくそのまま横たわっていたが…

『』タッタッタッ

『ぴょ…ん…こ…』

『』スリスリ

ぴょんこがやってきて、地面に寝てるミヤコにすり寄ってきた。

『…フフフッ』

ミヤコが笑ってぴょんこを撫でた。

そこで、映像が一旦途切れた。


「…」

まただ…ぴょんこの姿を見ているとどういうわけか頭痛がする…

頭痛の方には多少慣れたが、ここまで見ていても頭痛の理由がわからない…

モエの声も先ほどから聞こえないが、放心状態なのだろうか…

そんな事を考えていたら、次の映像が映った。



次に映ったのは…訓練に使う森だった。

『……』キョロキョロ

そこでミヤコは息をひそめながら辺りを警戒しつつ、懐から何かを取り出した。

どうやら食事をしようとしていたらしい。手に握られているのは、缶詰のようだった。

カパッ

『……いただきます』

ミヤコは木を背にして食事を始めた。どことなく、動きがぎこちない。

おそらく、さっきの『モエ』の件からそんなに日にちがたってないのだろう…そこに…

『』タッタッタッ

ぴょんこがやってきた。

『はい、ぴょんこも』

ぴょんこ用のエサも持っていたようで、ポケットから取り出して、ぴょんこに食べさせた。

穏やかな時間が映像の中で流れていたが…

タ゚ァン!

ミヤコが一旦ぴょんこに食べさせるために置いていた自分の缶詰が撃たれた。

『!?…ぴょんこ!?』

ぴょんこは茂みに隠れたようだった。

『…良かったです』

『……なんで笑ってるの?』

ミヤコがそう言った後、遠くの方から『ミユ』が来た。

「わ、私…」

どうやらミユも驚いているようだ。

『また…私の狙撃が当たらないから……笑ってたの?ミヤコちゃん…』

『…違いますミユ、私はあなたの狙撃のことを…』

ミヤコは立ち上がって『ミユ』に説明しようとした。しかし…

ダァン!

『いっ!?』

立ち上がろうとしたミヤコの足を『ミユ』は撃った。

足を撃たれたミヤコは、ふらついたまま、後ろに倒れて、

座っていた時と同じような体勢になってしまった。

『別にいいよミヤコちゃん……実際にそうだから……』

『ミユ』はミヤコの目の前まで来て、銃口をミヤコの身体に合わせた。

しかし…その手は先ほどから震えており…

ダァン!

『ぐっ!?』

胸部に合わせていたものがズレて、腹部を撃った。

『今のも…本当は胸部に当てたかったのに…腹部になっちゃったし……足の方も手に当てるつもりだったんだ…』

『ミ…ユ…』

『最初も……缶詰に当たっちゃったし…私……もうダメなんだ……』

『……』

画面の『ミユ』とミヤコは悲しげな表情をしていた。

『…ケーキ』

その一言を皮切りに…

『ケーキ…ケーキケーキケーキ!お願いミヤコちゃん!私にケーキ!ケーキを頂戴!ケーキがないと私もうダメなの!隠すのをやめてケーキ頂戴!』

『ミユ』の様子がおかしくなった。

『……ありません』

その『ミユ』に対して、ミヤコは真実を告げた。だが…

『嘘、嘘嘘嘘…絶対にどこかに隠してる!嘘をつくのはやめてミヤコちゃん!』

グイッ!グググッ!

『ミユ』はミヤコの足を思いっきり踏みつけ、そのまま体重をかけた。

『!?…やめてくださいミユ!』

ミヤコは『ミユ』を説得しようと声を上げた。

『……そうだ』

何かを思いついた『ミユ』は…

『正気に戻ってくだガッ!?』


ミヤコの口の中に銃を突っ込んだ。


「ひっ!?」

映像を見ているミユの悲鳴が聞こえた。

『そ、そうだ…こうすれば外れないよね……ミヤコちゃんも静かになって集中できるし…フフッ』

映像の中の『ミユ』は猟奇的な笑みを浮かべていた。そして…

ダァン!ダァン!

ミヤコの口の中を撃った。

『!!!???』

口の中を撃たれたミヤコは、今まで見たことがないような苦悶の表情を浮かべた。

無理もない。確かに私たちは銃弾や爆発にある程度態勢はあるが、ダメージはある。

衝撃は受けるし、火傷だってする。

それを口の中に、しかも2発、直接撃ち込まれたのだ。

『当たった……ケーキ…ケーキ…キャハ…キャハハハハハハハ!』

命中した興奮で、『ミユ』が一度もしたことがないような笑い声をあげた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

こっちのミユは相当参っているようで、先ほどから謝罪しか聞こえてこない。

『あ、もう弾が無い……せっかくいいアイデアだったのに……』

そう言って『ミユ』はミヤコの口から銃を離した。

『ゲホッ……ゲホッ……ゲホッ……ウグッ』

ミヤコは咳き込んだが、咳き込むたびに痛むのだろう。とても辛そうな表情だ。

咳き込むミヤコの口から、血とともに先ほど撃たれた弾丸がこぼれた。

ミヤコは銃に気を取られた『ミユ』を突き飛ばして、その場から逃げるように離れた。

そこで映像が途切れた。


「…よくわかったか?」

ユキノ先輩の声が聞こえた。

今までのが『薬』で狂った私たちがしていた事…

前にチンピラのようだと言ったが、アレはそんな生易しいものじゃない。

「…これがお前たちがミヤコにした行為の、ごく一部だ」

今までのが…ごく…一部?

正直に言えば、あまりにも現実離れしていて、受け入れられなかった。

規律ある正義(SRT)を目指していた私たちがあんな行為をすることが

どうしても考えられなかった。

「…次の三つで最後だ」

まだ終わってなかったのか…しかし、三つというのが気になった。

「……」


私が質問をする前に映像が始まった。


『最近ミヤコの奴、反応が薄いな…』

『さっきもボコボコにしたのに反応がなかったからねぇ…』

『ケーキの事…何も言わないし…ケーキ…ケーキ…』

『私』たちが話し合っていた。

今回はいつもよりもカメラが引き気味に映っており、

『私』たちとミヤコの様子が両方見えていた。

ミヤコの方は倒れたままボーっとしており、心ここにあらずという具合だった。

そして…あの場所は…

片付け作戦の時に、血を見つけた場所だった。

『ケーキのことも相変わらず何も話さないしな…』

『ど、どうしたら言うようになるのかな……ん?』

『どうしたのさミユ?』

『ミユ』が見つけたものは…

『』タッタッ

ぴょんこだった。

「いぎっ!?」

どういうわけか…頭痛がより激しくなった…

『あれは…ミヤコの傍にいるウサギか?確か名前は…ぴょん…ぴょん…』

『ぴょん……こ?』

『そうだったそうだった!アイツいつもミヤコの周りでうろちょろしてて鬱陶しいんだよな…』

『…くひひっ、いいことを思いついた』

映像の中の『モエ』が何かを思いついたらしい。

『何を思いついたんだ?』

『くひひっ…ミヤコにケーキの隠し場所を吐かせる方法だよ…』

『ケーキ!!ケーキが貰えるの!?』

『……どうやるんだ?』

まさか…最悪な考えが頭をよぎった。


『撃っちゃえばいいんだよ。ぴょんこの方を。ミユ、頼める?』


……やめろ


『…撃てばいいの?ぴょんこを…ぴょんこを撃ったらケーキ…貰えるの…』


……やめろ


『なるほど!その手があったか!確かにミヤコの奴、反応するかもな!』


……やめてくれ!

これ以上、私たちの正義を…ミヤコを貶めないでくれ!


『せっかくだし何か賭けるか!私はミユが3発で仕留めるのに賭けるぞ!』

『は?今のミユはノーコンだよ?5発に決まってるじゃん?』

『い、一発で当てるから…だからケーキ……ケーキ!』

ミヤコが意識を飛ばしている中で、狂った計画が進んでいた。

そして、ミヤコが身体を起こしたとき、

『来たぞ!!』

『……一発で…ケーキ…』

『…くひひっ』

ぴょんこがミヤコに近づいた。

『』タッタッタッ

ぴょんこがミヤコのそばに近寄ってきた。

『…ありがとう。ぴょんこ』

…逃げろ

『』ピコッ

…逃げてくれ

『今!』

だが、その願いもむなしく…

ダァン!


ぴょんこが撃たれた。


ミヤコは目の前で起こったことが理解できず、あっけにとられた顔をした。

『い、言われた通りに撃ったけど……あ、当たったから……ゲームは私の勝ち……だよね?』

『ミユ』の高揚する姿…

『くひひ…でも生きてるじゃん。当てても生きてたら意味ないでしょ?』

『モエ』の残念がる姿…

『プッ、ククク』

『私』の笑いをこらえる姿…

それらすべてがおぞましく思えた。そして…

『あ、あぁ、あぁあああああああああああああああ!?』

ミヤコが叫び声をあげた…

『プッ、アッハッハッハ!もうダメだ我慢できない!なんだよ今の顔!面白すぎるだろ!』

『私』が今までのみんなと同じような私じゃないような笑い声を上げた。

『ぴょんこ!?しっかりして、死なないでお願い!ぴょんこぉおおお!』

『アッハッハッハッハッハッハッハ!ヒヒヒ、『ぴょんこぉおおお』だって、アッハッハッハ!『おおお』ってなんだよ『おおお』って!アッハッハ!』

私は、ミヤコを笑う『私』に腹が立った。

そして、ミヤコがぴょんこに応急手当をしようとした際、

ダァン!

『!?』

『ミヤコちゃん!……邪魔だからどいて!』

『ミユ』がミヤコの邪魔を始めた。

『ハッハッハ…ヒィ…笑い死にしそうだ…』

『私』に死んでほしいと心の底から思った。

『どんだけツボってるのさ。でも…くひひ…ぴょんこを的にしたゲーム…面白いなぁ。言うなれば『ぴょんこゲーム』ってやつ?』

『モエ』の言う面白さが何一つわからなかった。

『どうして!どうしてぴょんこを撃ったんですか!?』

ミヤコが『私』たちを糾弾した。

『はぁ?そんなのミヤコがケーキをよこさないからに決まってるだろ!?』

『そんな…ことの…』

『そんなこととはなんだ!私たちはケーキが無くてイライラしてるんだ!』

ダァン!ダァン!

そんなことのためにぴょんこが撃たれたことが我慢ならなかった。

『イッ!?いい加減にしてください!それでもSRTですか!?こんなの正義でも何でもありません!みんな規律ある正義に憧れてたんじゃないですか!?』

『そんなことどうでもいいから隠しているケーキを出せぇ!』

ダァン!

『!!』

私たちの正義がそんなことで片づけられたことが許せなかった。

『おい!どうしたんだミユ!?』

『た、弾切れ…』

『あーあ、せっかくいいところだったのにさぁ』

弾切れに気を取られている間に、ミヤコはぴょんこを連れて公園から出た。


そこで映像が途切れ、次の映像へと移った。


日が沈む直前の時間帯、ミヤコが戻ってきた。

ミヤコの姿は、ぴょんこの血と頭から流れた自分の血で、赤く染まっていた。

『遅いぞ!何やってたんだ!』

『私』たちがカンカンになって怒ってミヤコを問い詰めた。

『…落ち着いてください。実はいい考えを思いついたんです…ケーキがいっぱい欲しいですか?』

そこにいたミヤコは…

『何?』


『あの店を襲うんです…』


既に私たちが知っているミヤコじゃなかった。

ミヤコは淡々と、襲撃計画を話した。

その様子はどう考えても『薬』で狂った『私』たちと同じだった。

ミヤコの襲撃計画を聞いた『私』たちは嬉々として協力を申し出た。

その様子を映して、二つ目の映像は終わった。


二つ目は短く、すぐに次の映像へと移った。


映像は先ほどと同じ場所で、ミヤコしか映っていなかった。


『ヒグッ…グスッ…』


ミヤコは何かを握りしめながら泣いていた。

監視カメラは、その様子を映し続けた。


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後編につづく(SSまとめ


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