Please give up on me 2
でも時系列は1の前https://telegra.ph/Please-give-up-on-me-04-12
と同じ
天竜人事件回避if・ギャグ・キャラ崩壊あり シリアス書くと死ぬ病です
夢を打ち明けたのはおれが十三、アニキが十七歳になった頃だ。
どうせすぐに居なくなると考えていた兄はずっと傍にいたからつい、思わず、そんな気は無かったのに口を滑らせてしまった。
次の島に向かう客船の甲板から朝日が昇るのをぼんやり見ていたアニキはおれがこぼした言葉をしっかり聞いてしまい目を丸くして。それから。
「私、海賊王の服を仕立てるのかあ」
その言葉には呆れも嘲笑も、ちっとも困ってる様子もなくただただ嬉しそうだった。
責任重大だなあ、と笑うアニキにおれは
◆
注文されていた服の仕上げも終わってお茶の準備を始めようとしたところで入り口に付けたベルの音が響く。
今は予約で埋まっていて一旦新規の注文は止めているし打ち合わせもなく生地も昨日届いている。
急いで一階へ降りるとやっぱり受付にはクロが立っていて私は笑顔で出迎えた。
「久しぶりだねクロ。元気そうで良かった! 怪我もなさそうだね」
弟がインペルダウンから脱獄して戦争に参加していたことは新聞で初めて知ったが特に驚くことはない。
クロは海賊なのだからちょっと脱獄したり暴れるのは当然だし友人の為に戦争にだって参加する事もあるだろう。
海賊とはそういう自由なものだと幼い頃から知っている。
「これから新世界へ行く」
その言葉を聞いた瞬間、昔の事を思い出して私の心が浮き立つのを感じた。
「本当? 行ってらっしゃい! じゃあその前に服作る?! 大丈夫二週間あればできるから!」
善は急げと今まで溜めていた構想ノートを持ってこようとした瞬間腕を掴まれる。
「アニキも来い」
──ああ~~⋯⋯
一瞬で思考が切り替わる。つまりその、いつものだ。
「私は仕事があるから」
「仕事ならおれの船でもできる。部屋もある」
「新しいのにもあるんだ⋯⋯」
昔一度見たことがあるが確かにあの作業部屋にある道具の数々や使いやすさ重視の家具は一度使ってみたくなるものだ。乗らないけれど。
「アニキが気に入りそうな部下もいる」
「新生地入荷みたいに言わない」
でもちょっと気になる。能力者? 覇気使える? 種族は?
「いやちがうちがう。ほら、依頼人は皆楽園側だから配達が難しくなるし」
「アニキなら向こうでも客は取れる」
最初は仕事を止めろと言っていたのが途中から譲歩してくれたのか海賊やりながら仕立て屋やれと言ってくる様になったのは成長が見えて嬉しいけれども。
「私は集団で行動するのに向いてないから。悪いけど」
「好きに動けば良い。自分勝手なのは昔からで慣れてる」
このやり取りをすると毎回同じ流れになってしまう。
「⋯⋯ごめんね」
不機嫌そうに眉をひそめるクロを喜ばせようとお茶に誘おうとした次の瞬間店の外で発生した砂塵はいつも過ぎる光景だった。
□
港で待っていたダズは街から上がる砂嵐にギョッとする。遠目から見てもあれはボスの能力だ。破壊音と共に近付く声に身構えているとアニキを迎えに行くと出ていったボスとおそらく兄だろうと思われる男が斬り結んでいた。
「いいから来い! 毎回下らねェ言い訳並べるな飽き飽きなんだよクソアニキ!」
「何処にいたってクロの味方なんだから良いでしょ毎回勝ったら言うこと聞くルール止めなさい! 壊れた町の修理費にまた海賊狩りしなきゃいけないんだからね!?」
「着いてきたらもう弁償しなくてすむから来い」
ダズは手を貸そうかとほんの一瞬迷ったが身内の争いほど面倒なものはないだろうという結論を出して船を守れる位置に行くと周囲の漁師から聞こえる「またやってるよ」「ワシキャメルに二万」「おれ弟さんに三千」という会話を耳にしながらのんびり待つことにしたのだった。