HOW BEAUTIFUL IT IS TO HAVE GOOD FRIENDS
千年血戦篇・訣別譚—アニメオリジナル—◀︎目次
偽りの霊王宮
瞬歩で階段を駆け、二枚屋王悦の援護に向かおうとする麒麟寺に照準を合わせる。
自分に匹敵する速さを持つ敵に、やっと出来た隙だ。この好機を見逃すカワキではない。
麒麟寺が援護に向かおうとするほど王悦を追い詰めたアスキンに感謝の念を抱いて引き金を引く。
『——背中がガラ空きだ』
空を切って飛翔する凶弾。急所を射抜く一撃。
振り向き様に金毘迦で叩き落とした麒麟寺が舌打ちしながら怒鳴り声をあげた。
「ちッ! 邪魔すんじゃねえよ! さっきから不意打ちばっかしやがって!」
『するよ。この時を待っていたんだから』
麒麟寺が急所狙いの一撃に気を取られ、カワキから意識を逸らしたほんの一瞬——麒麟寺の視界から黒の外套が消え失せる。
「消えた!? どこ行きやがった……!」
産褥の陰に隠れたかと咄嗟に上空に視線をやった麒麟寺。格子のように周囲を囲む太い幹の陰には人の姿は見えない。
何処からか、少女の声だけが麒麟寺の耳に届いた。
『私から目を離したね?』
神聖滅矢で仕留められないのは想定内。あれは麒麟寺の意識を割くための囮だ。
カワキの本命は別にあった。
麒麟寺の視線が上を向いた瞬間——獲物を狙う獣のように、姿勢を低く駆け出したカワキが麒麟寺の間近に迫る。
「な……!?」
走りながら、弾かれて参道に落ちた細剣を拾ったカワキは、風を切って一息で距離を詰め——
次の瞬間——麒麟寺の右足の甲に痛みが熱を持って走った。
「ぐ……ッ! てめえ、俺の足を……!」
『右足を貰うよ、麒麟寺天示郎』
「……ッ、舐めんじゃねえ!! ほらよ、王悦! 赤い湯だ!!」
右足を貫かれながら、麒麟寺が展開していた赤い湯で水流を起こし、自身の周囲を一気に囲った。
麒麟寺の足を貫いて階段に突き刺さった細剣を、カワキが容赦なく引き抜いて大量の湯から逃れる。
全てを押し流すような赤い奔流。金毘迦をクルクルと頭上で回して、麒麟寺が湯を階段の上に向かって送り込んだ。
『“仲間同士の助け合い”だね。それ、陛下もお好きだよ』
「黙ってろ! 見下ろしてんじゃねえよ、チクショウが!」
傷自体は大したことはない。だが、足という部位が悪い。これで歩法は潰された。
カワキは王悦の危機に気が急いた麒麟寺が援護に向かうことを見越して、隙を作るためにわざと自分を見逃したのだと、今になって理解した。
湯から逃げ、霊子の足場に立ってこちらを見下ろす黒い少女を憎々しげに睨む。
当のカワキはというと、自分が立つ空中より更に上——追いかけ合う石田と千手丸を眺めていた。
『………石田くん………』
ぼんやりと二人を見るカワキに、眼下の戦場からアスキンが声を張り上げる。
「おおい、殿下! 下! 下! そっちに攻撃行ってるぞ!」
『解ってるよ、アスキン。大丈夫』
飛んできた水球を避けて、またたきの間にカワキは地上に降り立った。
飛廉脚でアスキンの傍に着地したカワキは、距離を開けて向かい側に立つ零番隊の二人と、階段の下から追いついてこちらに加わったハッシュヴァルトを見る。
『……ハッシュヴァルトとアスキン、二枚屋王悦と麒麟寺天示郎、これで二対二か。ちょうど良いね』
「んん? 二対二? 俺らと殿下、んで、あっちのファンキー野郎ども二人で三対二じゃなくて?」
「何をするつもりだ、カワキ」
訝しげな表情をして自分を見るハッシュヴァルトとアスキンに、いつも通りの淡々とした口調でカワキは言った。
『檻を壊してくる。こっちは任せた』
返事は聞かない。聞く必要もない。
カワキがそうすると決めたのだ。文句を言われる筋合いも、文句を聞いてやる気もさらさら無かった。
言いたいことだけを言って上空に向かうカワキは、千手丸に撃ち落とされる石田を視界に捉えて、気まぐれな猫のような様子で呟いた。
『私もやろうかな……“助け合い”』
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