Gebrochen Kaninchen:2

Gebrochen Kaninchen:2

通り魔暴行犯ミユ爆誕

【Gebrochen Kaninchen:1】

Gebrochen Kaninchen:3

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“人を不意に殴る”なんて、今まで一度もやったことなかった

そもそもやろうとしたことさえなかった

訓練の一環でCQCを習いはしたけれど、実戦に生かせた経験はない


でも実は、RABBIT小隊の中で一番CQCの素質があると言われたのは私だった

その気になればFOX小隊の先輩にも届くかも…といった評価をされた記憶がある




だから私は思った

暴力を振るえば、自分自身の持つ強さをより分かりやすく周囲にアピール出来る


サキちゃんとモエちゃんを蹴っ飛ばしたあの時…ミヤコちゃんを殴ったあの時…私の心には、感じたことの無い“高揚感”があった



そしてさっき聞こえた私の声

『人を殴れば、脳裏に私の存在を焼き付けられる』



それで少しでも存在感を増すことが出来るなら、きっと今よりも活躍出来る…!もう馬鹿にされることも無くなる…!




だから私は、道行く人を無差別に殴ると決めた

だって皆の記憶に残って欲しいから

それに殴るだけなら銃で撃つよりも危険じゃない。確実な痛みを与えつつ、私の存在をアピール出来る

何より、“相手を攻撃できた”という実感が持てて、とても楽しそう…!


もしその相手がお菓子を持ってたいたのなら奪おう

お砂糖も同時に楽しめる、最高の作戦




どうせみんな

私を無視して馬鹿にする

だからその報いを受けさせる


今まで私の存在に気づかなかった人達に復讐したい

私に気付かない皆が悪い


私はもう、昨日までの泣き虫で影が薄い霞沢ミユじゃない


その事を思い知らせてやる







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ここは子ウサギタウン近くの街角

2人のスケバンが駄弁っていた


スケバンA「でさ、あいつってば『砂糖が食いたいからアビドス行くわ』つってほんとに行っちまったんだよ!」

B「マジか…道理で最近見ないわけだ」

A「だろ!?あんな砂ぐらいしかロクになさそうな場所へ、砂糖食うためだけに行くとか考えられるか?」

B「いやぁ…アタシには分からんわ」

A「だよなー。でもそんなに美味いもんなのかね?砂糖って?」

B「どうだろ?つかあいつ甘党ってわけでもなかったよな?」

A「そうなんだよ!そこが一番謎!本人曰く急に目覚めたらしいんだけど…」


(ドカッ!)

A「ぎゃっ!?」

B「…え?おいどうした?」

A「いってぇ゛…なんか、誰かに顔殴られたような…」

B「はぁ?誰もいねえじゃ…」

(ドゴッ!)

B「うぐぅっ!?」

A「な、なんなんだよぉ!?」

??「あの…ほんとうに気づいてないんですか…?」

B「ひぃっ!?どこかから声が…!?」

A「ゆ、幽霊!?殴る霊なんて聞いた事ねえぞ!?」

??「…もういいです」

(ドガッ!バキッ!ボゴォッ!)

A&B「「がはぁっ!?」」



ただ喋ってただけのスケバン2人は、突然不可視の暴力を受け、何が起きているか分からないまま暴力を受け続けた

数分間殴られ蹴られ続けた2人は気絶し、ヘイローがチカチカ点滅したかと思うとすぐに消えた


??「はぁ…まだ足りないの…?」

言葉の主は吐き捨てるように呟いた

そのままアザだらけの気絶した2人を捨て置き次の獲物を探しに向かう



その後2人は、偶然通りかかった通行人が介抱してくれたお陰で無事に病院へ搬送された

その後意識を取り戻した2人は「殴る霊に遭遇した」と怯えながら話したという

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市民A「ここ数日でスイーツ店が一気に増えましたねぇ」

市民B「そうみたいだな。私はもう甘味を多く食べられない体になってしまったから口はつけてないが…話に聞くところ中々絶品だとか?」

市民C「そういえば僕の知り合いの生徒さんが、新しいスイーツ店でアルバイトを始めたらしいんです。本当に美味しいから是非食べてみて下さいと言われて、これを受け取ったのですが…」


市民Cは、手に持ったビニール袋の中に2、3人前くらいありそうなお菓子の詰め合わせを見せる

A「ず、随分多いですな?」

B「私は体質上食べられないが、確かに香りだけ嗅ぐ限りは良い出来だと思う」

C「正直言って、まさかこんなに貰えるなど思っていなかったもので…はてさてどうしましょうか」

??「じゃ、じゃあ私が貰います…」

C「ああ、それはありがた…え?」

A「い、今の声は!?」

B「私じゃないぞ!?」

C「だだ、誰ですか!?」


3人の市民は慌てて周りを見渡す

だが人の気配はない

…少なくとも3人は気配を感じなかった


??「………もう、もういいですっ!」

(ゲシッ!)

C「いだぁっ!?」

お菓子袋を持っていたCが吹っ飛んだ

その勢いのままBに倒れ込んでしまう

B「うわっ!?」

A「え!?ど、どうしたんですか!?」

C「誰かに、背中を蹴られ…」

(ドゴォッ!)

C「がふぅっ!?」

次の瞬間、Cの脇腹に強烈な痛みが襲いかかったと同時に、Cは近くの壁へ背中を打ち付ける

その衝撃で気を失ってしまった


A「ひっ!?なな、なんですか一体!?何が起きてるんですか!?」

B「と、とりあえず早く逃げ…」

??「逃がさない」

(ボガッ!)

A「ぐあっ…!?」

突然顔面を殴打されたAは倒れる

(ドズッ!)

B「おごっ…!?ぁ…」

吹き飛ばされたCと共に倒れ込み、そのCが蹴り飛ばされたので起き上がろうとしたBは、腹を思いっきり踏まれる

呼吸困難に陥り即座に気を失ったB

彼も自分達を襲った犯人の姿を最後まで視認することができなかった


A「う、うぁぁ…た、助けて…」

理不尽すぎる暴力を受け、恐怖のあまり腰が抜けてしまったA

??「…なんで、見えないんですか?」

A「へ…?」

耳に届いたのは、か細いながらも怒りを含んだ形容し難い声

しかしAの目には誰も映らない

A「だ、誰なんですか!?どうして私達を襲うんですか!?」

??「…あなたたちが気付いてくれないからです」

A「…え?」

??「ずっといるのに、全く気付かないから…だから、殴りました」

A「ま、まさか幽霊…!?」

??「………」

A「お願いします!もうここで騒いだりしません!だからどうか許しt」

(ドゴォッ!)

A「え゛げぅ゛っ!?」

最後まで言い切るより前に、Aの鼻っ柱に硬い何かがぶち当てられた

(バギィンッ!)

直後、横顔に強い衝撃が走りAの身体は宙に舞う

そのままコンクリートに墜落、Aの意識はそこで途絶えた



??「…イラつくイラつくイラつく…!もう、もうみんな許さない…!」

不可視の暴行犯は、Cのお菓子袋を奪い取り強い怒りを覚えながらその場を後にした



その後、哀れな3人の市民は近所の市民の通報により先のスケバン同様病院送りにされる

Aは鼻が折られ頭蓋骨にもヒビが入った

Bは軽傷だったが、Cは肋骨が折れた


そして彼らもまた「殴る霊に遭遇した」と証言、この通り魔暴行犯は『殴る霊』と呼ばれ、街の人々から恐れられる事になる




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ミユ「あぁ…もう無くなっちゃった…」

呆気なく空になったお菓子袋をその辺りにポイ捨てしたミユ


彼女はとにかく見かけた人に片っ端から話しかけ、存在に気付いてくれない場合必ず殴るようになっていた

しかし、話しかけた人々は誰一人としてミユの存在に気付かない

無差別かつ通り魔的な蛮行は、市民の心に恐怖を与えられはするものの…それによって自分の存在を教え込めた、という実感は全く湧かなかった

そのストレス、そして殴ってもなお自分の存在に気付いてくれない人々への怒りは溜まりに溜まる一方…

もう素手で殴るだけじゃ足りないのかもしれないとさえ考え始めていた



そんな彼女の目に留まったのは武装したヘルメット団

そのうちの1人はバットを所有している

「あ…あれだ…!」


見るからに危険そうなヘルメット団相手でも臆することなく近づいたミユ

まず行うのは、気付くかどうかの判定

「あの…ちょっと良いですか…?」

ヘルメット団A「…んぇ?ねえ、なんか言った?」

ヘルメット団B「いや何も。アンタじゃないの?」

ヘルメット団C「違う違う」

A「…じゃあ誰の?」

「あぁ、やっぱり、ですか…」

もし気付いたなら殴る必要は無い。だが気付かないなら殴れば良い

簡単な話だ




数分の内に、6人ほどいたヘルメット団のうち5人を暴力で気絶させたミユ

怯えながらバットを構える最後の1人へと近づけば、腹に膝蹴りをかましてダウンさせる

(ドボォッ!)

ヘルメット団F「ごぇ゛っ…!?」


カランカランと音を立ててFが愛用しているバットが手から落ちる

それを拾い上げたミユは、バットを相手の眼前に突きつけた

「…これだけ痛めつけられているのに、まだ見えないんですか?」

F「ぐぅ…っ、誰だか、しらねぇけど…あたしのバット、返せ…!」

「…いやです」

F「っざけんな…!さっきから、隠れてコソコソと、見えない場所から不意打ちばかりしやがって、卑怯者が…!」

「…チッ」

隠れているわけでもなく、更には卑怯者と罵られた事で遂に怒りが頂点に達したミユは、Fに対して何度もバットを振り下ろす


(バキッ!ドガッ!バゴッ!)

F「ぎあっ!?がはっ…!ぅぐ…」

ヘルメット越しだというのに頭から流血してしまうほどの強い衝撃

堪らずFは気絶してしまった




「はぁ…はぁ…」

この暴行は存在感のなさを克服するための作戦だったはず

なのに何故どいつもこいつも存在を知覚してくれないんだろう

痛いのが嫌なら私に気づけば良いのに

知覚出来たら痛い目に遭わないのに





最早ミユは、どうすれば良いのか分からなくなっていた


「…一回、帰ろう」

気を失ったヘルメット団達に対して目もくれず、今日のところは子ウサギ公園へ帰ることに決めた

この作戦は一朝一夕で成り立つことじゃないのかもしれない…などと自分に言い聞かせ、バットを引き摺りながら帰路を歩み始める



しかしこの時すでに

ミユの加虐心は、もう誰も止められない領域にまで行き着いてしまっていた

バットという武器を手にしたことにより“イラついたら暴力を振るう”という性格に歪んでしまったのだ


イラついたなら人でもモノでも殴る

強盗したくなったら殴って脅す

自分の意思に従わないなら殴る


というあまりにも恐ろしい思考を有してしまう…何よりタチが悪いのは、バットを失ったとしても素手での暴力に訴える事が出来るという点

バットが折れたとしても、“RABBIT小隊の中で一番CQCの才能がある”と言われた彼女が本気で振るう拳や蹴りを御せる者などそうはいないだろう

弱気な性格から凶暴な性格へと変貌したミユは、最早完全に制御不能な暴力装置になっていた…


そしてその矛先は、罪のない一般人達に対してだけでなく仲間にも向けられ…


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サキ「なんだミユ、随分遅かったな」

公園に帰ってきたミユが見たのは、大量のお菓子と上機嫌そうにしているサキとモエの姿

だが今朝殴られて気絶したはずのミヤコの姿はそこになかった


モエ「くひひ…あの後サキと合流して、一緒にスイーツ店強盗したんだ〜」

ミユ「…そう、なんだ」

「ていうかお前は収穫ナシか?…いや、その手のバットはなんだ?」

サキはバットを指差す

「…」

ミユは非常に苛立っていた

さっきの暴行作戦が失敗した事で虚しさを抱えたまま帰ってくれば、サキとモエは幸せそうにお菓子を貪っている

理不尽にもその姿に酷く苛立った


「おいなんだよその目は…!なんか言えよ!」

ガラの悪いミユの視線を向けられたサキは、声を荒げて立ち上がる

次の瞬間

(ガキンッ!)

「うぐっ…!?」

サキの鉄帽にフルスイングされたバットがぶち当たる

思わず倒れ込み頭を抑えたサキ

「っ…お、おまえ…やったな!?」

激痛に耐えながらミユを睨みつけるが


「黙ってよサキちゃん」

「ひっ…!?」

あのミユから発せられたとは思えない、あまりに冷たいトーンの声を向けられたサキは珍しく萎縮してしまう

バット片手に見下ろすその姿は、怖い物知らずな性格のサキでさえ恐れるほどの威圧感だった


「これから私のことイライラさせたら、その度に殴るよ?痛いの、嫌だよね?」

そう言いながらバットを再び振り上げる

「っ…わ、わかった!一旦落ち着け!私が悪かったから!」

思わず慌てて説得を試みたサキ

「モエちゃんもだよ」

「い゛っ…!?う、うん…わかった…」

突然自分にも怒気を向けられてビクッと反応するモエ


「ミヤコちゃんも…っていないや…あ、お菓子、私にも分けてね?独り占めとかしたら…許さないよ」

ミユは怯えている2人を他所に、強盗して確保したというお菓子に手をつける

片手でバットを握りながら乱雑にお菓子を貪り始める姿は、正義を重んじるSRTとは到底言えない“凶悪”そのものだった

サキとモエは、あのミユが一切容赦なく暴力を振るうようになった今の姿に恐怖を隠せず、折角手に入れた獲物(お菓子)にそれ以上手をつけず各々のテントへと逃げるように潜り込んだ



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その日の夜中

自分のテントで眠っていたミヤコは何者かがテントに入ってくる音を聞く

目を開けるとそこには──


ミユ「ミヤコちゃん、いいかな…?」

バット片手のミユがいた

ミヤコ「ミ、ミユ…!?」

「あの時殴った後どうしてたか、教えて欲しいなって」

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