Gebrochen Kaninchen:1

Gebrochen Kaninchen:1

兎小隊3人、砂糖と出会う

Gebrochen Kaninchen:2

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──私は、ずっと臆病でした

人々から忘れられて、気づかれなくて…“私が存在しようとしなかろうと、何にも変わらない”ってなるかもしれない事が、何よりも怖かったんです

だから、こんな私が誰かを危ない事から守って…それでみんなから覚えてもらえるような存在になれたら…なんて思い、SRT特殊学園に入学してミヤコちゃん達と出会いました

訓練は確かに辛くて厳しかったけれど…ミヤコちゃんとサキちゃんとモエちゃんと一緒に乗り越え、SRTのRABBIT小隊になれました




…でも

悩みであった影の薄さは全然変わらず、それが原因でみんなの足を引っ張る事もあって…やっぱり私は正義のために戦うなんて無理なんだと思い始めてました

勿論みんなは好きだし、今は逮捕されて勾留中のFOX小隊の先輩達にも少しだけでも認められたから、多少なりとも自信はつきました

けれど…エビを求めて行った夏の時も、カイザーに捕まった先生を助けに行った時も、赤い塔が降ってきた時も…

私は大きく貢献出来た訳でなく、何よりミヤコちゃん達小隊のみんながいないと何も出来ない役立たずなゴミだって突きつけられたという気持ちが、ずっと全く晴れなくて…

だからといって、こんな事を打ち明けてしまえば、またみんなを心配させちゃうかもと思うと言い出せなくて…ゴミ箱の中で気持ちを抱えて1人で泣いてる事しかできませんでした


ミヤコちゃんにも
サキちゃんにも
モエちゃんにも
先生にも

誰にも言い出せないまま…





そんなある日

小隊全員で12時間だけお休みを取ることになったこの日、私は適当に街の商店街を誰にも気づかれないままお散歩していました

その時偶然通りかかったお菓子屋さんに強盗が入る現場を見た私は、考えるより先に犯人達を狙撃してお菓子屋さんから撃退し、カウンターの奥で驚いてる店長さんらしき人に声をかけて…


店長「あ、あれ…?あいつら急にどっか行きやがった…」

ミユ「あ、あのぉ…大丈夫ですか…?」

「おわっ!?ビックリした…あ、もしやあんたがあいつらを追っ払ってくれたのかい?」

「あ、はい…すみません…さ、差し出がましいことしちゃいましたぁ…」

「いやいやいやとんでもない!感謝するよ本当に!危うく大事な砂糖を奪われるとこだったから…この店、ワンマン運営してるし助かったぜ」

「こ、こんな私でも、お役に立てたなら何よりですけど…お店の邪魔ですよね…じゃ、じゃあ私はこれで…」

「あーちょっと待って!お礼をさせちゃくれないか!?この辺意外と売れ行きが良くなくってさ、余っちまったお菓子が結構あんのよ。賞味期限には目を瞑って欲しいけど…でもすんごい美味いから!きっと気にいるはずだぜ!えっと、友達の分も必要なら揃えるけど?」

「ほ、ほんと…ですか…!?うぅ…悪い気もしますけど…私はともかく、小隊のみんなも食べれるなら…よ、4人分…」

「よし任せとけ!あぁただ持って帰る時気をつけろよ?もしかしたら今来た連中みたいに、奪おうとしやがる奴が襲ってくる可能性あっからな。少し待ってな!今持ってくるから!」

そう言った店員さんは、一度お店の奥に引っ込むと数十秒後に戻ってきて

「お待ちどうさん!持って帰ったら早めに食ってくれよ?あんま日持ちしないと思うから…お礼でこんなの渡しちゃって悪いね」

「い、いえ…!ありがとうございます…これならみんなも、喜びます…!」

「ああ、みんなきっとハマるはずだぜ。んじゃ気をつけてな!また来てくれるのを待ってるからよ!」

「は、はいっ…!」

手渡された大きめの紙袋を受け取った私は、店長さんに何度も頭を下げてお店を出ると公園に急いで帰投しました


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店長「…ふぃー、強盗来た時はヤベエと思ったけど、まさか1人で追っ払ってくれる子が来るなんてな…渡りに船ってやつか?」

卑屈で声の小さいスナイパーを見送った店員は、レジカウンターの裏にある一冊のマニュアルブックを取り出すとページを開く


【店舗が襲われた際の対応その⑦】

【襲撃者を撃退した者が[砂糖未摂取]と判断した場合、お礼と称して店にある砂糖濃度の高いスイーツを少額ないしは無料で提供するように】

【提供時[賞味期限切れ]と偽って質の良いスイーツを渡すこと。対象者に友人や家族がいる場合は、用意が可能な限り人数分渡すべし】

【もしもその者がアビドスにとって非常に有益な人材だった場合…店舗は増築を検討、従業員には特級腕章を進呈、店長は更に収益の約70%が自分の収入になるものとする】


「もしあの子がスゲー逸材だったなら…アタシは特級腕章を貰える!そうしたら“自分のお菓子屋を開く”っつー夢が今度こそ果たせるかもしれねぇ!…まあ最悪一般人であってもいいさ。多分アビドスの利益にはなるはずだしよ」

彼女はそう呟きながらマニュアルブックを仕舞い

「さっ!またあの子が来た時に備えて、お菓子作りの腕もっと磨くか!」

厨房へと戻り“砂漠の砂糖”が入った袋を開けてお菓子作りを再開したのだった…

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ミユ「え、えへへ…♪」

私らしくもなく、嬉しさで微笑みを溢しながら足を進める私

店員さんは強奪に気をつけてって言ってたけれど、そんな事は起きないまま無事公園へ戻れました


「ら、RABBIT4…帰投しました…」

サキ「…?ああ帰ってきたかRABBIT4!まだ2時間近く残ってるが大丈夫か?ちなみに私は半日も自由行動なんて性に合わなかったから6時間で帰投したが…」

モエ「サキってば規律の奴隷かっての!まあ言ってる私も言うほど外でやりたい事とか無かったから、8時間ちょっとで帰投したけどさ」

「えへへ…実は早めに食べた方がいい物を譲って貰えて…だからすぐに帰ってきちゃった」

「本当か!?…ってミヤコがまだ戻ってないんだが、早めに食べた方が良いものなんだよな…」

「ま、とは言っても2時間…いや1時間半くらいしたら戻ってくるでしょ。冷蔵庫こそ無いけど、涼しい場所に置いとけば後で食べれるんじゃない?」

「それもそうか…ミヤコには悪いがお先にいただくとしよう!それでミユ、何を貰えたんだ?」

「まだ中身は見てないけど…お菓子なのは間違いないはず…」


そう言って紙袋から取り出した紙の箱を開けると…中には普通のケーキやタルトの他にシュガークッキーやシュトレンが入ってました

「「「おお〜…!?」」」

「でかしたぞミユ!まさかこんな立派な菓子を調達するなんてな!」

「くひひっ!そういや最近お菓子屋さんが増えてて、あんなの食べたいな〜とか思ってたからサイコーだよ!やるじゃんミユ!」

「う、うん…!」

あれ?一応4人分ではあるけど、流石に量が多い気も…そんなに賞味期限切れが?

「とりあえずミヤコの分は残すとして…早速食べようか!ケーキやタルトなんて冷蔵庫に入れないとすぐ痛むからな!」

「賛成さんせ〜い!ミヤコがビックリするとこ後で楽しむとしよっかな?」

「そ、そうだね…!じゃあ早速…」

「「「いただきまーすっ!」」」

一緒に入っていた小さいプラスチックのフォークを手に取ると、まずはケーキを一口食べました


今思えば、この瞬間が私達の関係が崩壊する序曲だったのかも…


脳内に届いたのは、他の感情を塗り潰すほどの甘さ

「…こ、これ…は…!?」

今まで食べてきたスイーツの中で…いや食べ物全ての中で

一番おいしかった

フォークを即座に動かしてどんどん口に入れる

あっという間にケーキを平らげました

間髪入れずタルトへフォークを刺します

けれども乱雑に使ったせいか…小さい上にプラスチック製のフォークはボキッと折れてしまいました

…焦ったい

フォークを茂みに投げ捨てると、手掴みでタルトを食べる

美味しい

おいしい


クッキーとシュトレンを鷲掴む

口へ一個ずつ放り込むように食べる

おいしい

オイシイ

アマイ


「…あ」

もうなくなっちゃった

………いや、まだある

あっちに残ってる

「「………」」

サキちゃんとモエちゃんが私と同じ紙箱を見てた


渡すもんか



瞬発力を活かして紙箱を手に入れると、残った分を確保する

サキちゃんとモエちゃんも私に負けじと飛びかかってきた

「おいミユッ!勝手に食うなっ!私にも寄越せっ!」

「サキにもミユにも渡さないっつーの!さっさと退きなよっ!」

「い…いやだっ!これは私の…!」

取られまいと紙箱に手を突っ込んで中のお菓子を乱雑に掴み取る

「あっ!この…勝手に取るなっ!私にも食べさせろっ!」

「ちょっと!んな適当に取ったら形崩れるじゃん!何考えてんの!?」

「わ、渡さない…!私が先に取ったから私のもの…なんだっ!はむっ!」

「こいつ…!独り占めすんなっ!こんな時だけ強欲になりやがって!」

(バキッ!)

「あぅ゛っ!?」

サキちゃんが私の左頬を殴った

思わず手を離して倒れる

いつもならこんな事された私は泣いてると思うけど…

今は違う



紙箱を奪い取って自分も手を突っ込んだサキちゃん

それを更に奪って、もうぐちゃぐちゃになった色んなスイーツの塊を掴んで口に入れるモエちゃん

私は痛む左頬を手で押さえることもせずに睨んで

「わた、しの…だぁ゛っ!」

サキちゃんとモエちゃんに襲いかかった

不意を突かれた2人は芝生に倒れ込む


まずは起きあがろうとしたサキちゃんの顎に蹴りを入れる

(ドガッ!)

「ぐぅっ!?」

そのまま左腕を踏みつける

(ゴキッ!)

「がぁ゛ぁぁっ…!」

骨までいってないけど、これでしばらく腕を動かせないはず


次にモエちゃんの脇腹を蹴っ飛ばす

(ドゴォッ!)

「ぐぇ゛ぇっ!?」

堪らず紙箱から手を離したモエちゃんの背中を踏みながら、瞬時に回収して近くの噴水まで走る


「はぁはぁ…やった…残りは全部、私のもの…!あは、あははははっ!」

あんまり残ってないけど甘さに飢えた心を満たす分には十分な量

紙箱に手を突っ込んで、もう何が何やら分からないものの確実にお菓子である物を手掴みで食べる

ああ…とっても幸せ…♡


「「おぃ゛っ!!!」」

…邪魔な2人が来ちゃった

「さっきはよくも、やってくれたな…」

「流石に今度は許さないよ…ミユ!」

でもお菓子はもう無いよ

私を殴った罰が当たったんだ

「えへへ…残念でした〜…もうオイシイお菓子は残ってないよ?あはっ!」

「貴様…独り占めするなんてSRTとして恥ずかしくないのかっ!制裁だっ!」

「今ここに爆弾があったら、アンタを即爆破してやりたい気分だよっ!」

「お菓子を持ってきたのは私だよっ!?おこぼれを貰うサキちゃんとモエちゃんより私の方が多くてもいいでしょっ!!私は悪くないっ!悪いのは2人…」

「何をやっているんですかっ!!!」


──あ

「ミヤコ…ちゃん…」

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今日は、小隊みんなで12時間ほど各々の休日を楽しむ日にすると決めました

時刻1930までに子ウサギ公園へ帰投する約束で解散し、1913に連絡を入れましたが…何故か誰も応答しません

まさかみんなまだ戻ってないのかと思い急いで駆けつけると…


3つの紙皿が散乱したベンチ

噴水に座りひしゃげた紙箱を持つミユ

ミユへ銃口を向けているサキとモエ

口元や手元が汚れたまま、普段見せない程の怒りを見せて言い争う3人


一触即発と瞬時に理解した私は、考えるより先に大声を出していました

「何をやっているんですかっ!!!」

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サキ「ミヤコ…!?ちょうど良かった!こいつ私のお菓子を独り占めして食べたんだ!SRTとして外れたこいつには制裁を与えるべきだろ!?お前も手伝え!」

モエ「だからー!アンタのもんでもミユのもんでもなくて、私のもんだっつってんでしょうが!アンタ達2人とも口ん中にミサイル詰め込んでやろうかァ!?」

ミユ「違うよっ!これは私が貰ってきたお菓子なのに、2人が勝手に自分のものにしたがるから取り返しただけっ!信じないでミヤコちゃん!」

「はぁ〜!?みんなに分けるつっといていの一番に奪ったのはミユでしょうが!自分の事棚に上げてんじゃねぇよ!このゴミクズ強欲芋スナイパーが!」

「しかもこいつは私とモエに飛びかかって顎蹴ったり腕踏んだりしたんだ!左腕痛くて上がんないのどうしてくれるんだよお前は!?」

「だ、だって2人とも、ミヤコちゃんの分を残すって言ったのに食べようとしてたからっ…!」

「「アンタ(お前)がその分を真っ先に食ってたでしょうが(だろ)っ!!」」


ミヤコ「黙りなさいっ!!!」

「「「っ…!?」」」

そう怒鳴ったミヤコちゃんは

(バシッ!)

「うっ…!?」

(バシッ!)

「いたっ!?」

(バシッ!)

「ひぅっ…!」

私達を順番に引っ叩きました


「私達はSRTのチームです!些細な理由であろうと、冷静さを無くして醜い争いをすべきではありません!」

「「「………」」」

「各々の言い分は後回しにして、まず何が起きたのか冷静に話してください」




私達は今起きた事をミヤコちゃんに伝えました


私がお菓子屋さんを助けた事

その店主さんからお菓子を貰った事

持って帰ってミヤコちゃんの分だけ残すことにした事

その美味しさのあまり3人で暴力を振るうほどの争奪戦をしちゃった事…


「…分かりました。そんな子供みたいなきっかけなのかと思う所もありますが、それほどまで美味しかったのでしょう」

「うん………」

「あぁ、正直今まで食べてきたものの中で一番美味かった」

「それは同感。じゃなかったらこんだけ奪い合わないし…」

「とりあえず小隊長として3人平等に罰を与えます。とりあえずお風呂(ドラム缶)に入って頭を落ち着かせるように。罰の内容は明日伝えますので」

「「「了解…」」」



その後ミヤコちゃんは1人でお風呂の準備をしてくれて、私達はそれぞれ入る事になりました

「「「………」」」

気まずさのあまり沈黙が流れる中

「その、私も悪かった。いくらなんでもミユを殴るなんて…」

「わ、私も…イライラしちゃったから、ついムキになって…さっきとか酷いこと言っちゃったし…」

「うぅん、悪いのは全部私だから…私が取ろうとしなければ…」

「いいや、多分あの時ミユが出てなくても私が奪っていた」

「私も。2人が狙ってるの分かってたから真っ先に取ろうとしてた」

「………悪かった」

「こっちこそ、ほんとごめん」

「ううん…私の方こそ…ごめんね…」


(お風呂に入ってるけど)頭を冷やした事で、落ち着いてサキちゃんとモエちゃんに謝って仲直り出来ました

改めて喧嘩を収めてくれたミヤコちゃんに感謝する私だったけれども


私達が本当の悪事を働くのはこの後だという事実は、この時は知る由もなかったのです…





夜中

寝ている私に突然感情が湧き上がる

苛立ちと怒り…そして加虐心

「っ゛…!はっ!はぁっ…!」

呼吸が荒くなり、絶え間ない負の感情で塗り潰される感覚を抑えられなくなってきました

…サキちゃんに殴られた時と2人を蹴った時を思い出して拳を握り締めると

「あ゛ぁぁぁっ!」

それを地面に振り下ろすというやり場のない暴力衝動に苦しむ夜が過ぎ…


運命の分かれ道である朝が訪れた

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3人の喧嘩を仲裁し、お風呂に入らせた事でなんとか仲直りが出来たのを見た私は少しホッとしました

最近ストレスが溜まっていないかどうか心配で自由時間を設けましたが、12時間は長すぎたのかもしれません

事実、サキもモエも結構早めに帰投していたらしいので失敗だったのかも…などと考えていたのですが…それにしても、ここまで激しい喧嘩は殆どなかったはずです。なのに随分ヒートアップしていたようで驚きました


…平等に罰をと言いましたけど、腕立て辺りで済ませて良いかもしれませんね

そんな事を思いながら、私は一番最後に就寝しました

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翌朝


ミヤコちゃんから呼び出された私達は、昨日の喧嘩の罰について告げられる事になった

…今とってもイライラしてるのにそんな話聞きたくないよ

結局あまり眠れなくて、私でもビックリするほど機嫌が悪い状態

そしてそれはサキちゃんとモエちゃんも同じみたいだった

サキちゃんは苛立ったため息や舌打ちを繰り返してる

モエちゃんは元々以上の目つきの悪さでミヤコちゃんを睨みながら飴を噛み砕いてる


ミヤコ「みんないいですか?昨日友情を忘れ大喧嘩を繰り広げた時の罰ですが、小隊長として考えた結果、ちょっとした追加訓練を」

「「「は?」」」

「なっ…なんですかその反応は!?」

ミユ「あの、ミヤコちゃんっていっつも小隊長として〜…とか、小隊長だから〜とか言ってるけど…何様なの?」

サキ「ああ、それは私も思った。ミヤコお前さ、いつになれば上から目線で命令すんのをやめるんだ?」

モエ「この際だからハッキリ言うけど、マジでウザいよね」

「えっ…ちょ、ちょっと待って下さい!なんでそうなるのですか!?昨日お風呂の時仲直りしていたじゃないですか!」

「は?何?お前風呂覗いてたのかよ」

「うわきっしょ…先生と同じじゃん」

「…思えば先生も最低な人…だったね。ミヤコちゃんって確か先生に“貴方みたいな大人が一番嫌い”って言ってたけれど…今じゃ大好きなの丸分かりだし、きっとあの気持ち悪い先生に影響されてミヤコちゃんも気持ち悪くなっちゃったんだ」

「み、皆さん…なんでそんな事を言うのですか…私のみならず先生まで…」

「そういやあの時の私は“地獄に堕ちろ”と言っていた覚えがあるけれど…この際だから本当に地獄へ送ってやろうか?」

「それいいかも!ミヤコの覗き癖も直るし、私達の力を見たみんながSRTの強さを知るきっかけになるんじゃない!?」

「い…いい加減にしてくださいっ!これ以上暴言を吐くようなら…」

(ゴッ!)

「ぅ゛ぶっ…!?」

私は怒鳴るミヤコちゃんの声が煩わしくなって、不意に左拳で殴った

「…ぇ…な、ぁ…?」

ミヤコちゃんは右頬を押さえると、この状況が信じられないといった様子で私を見る



…なんだろう

楽しい

殴られて痛がって

呆然としながら私を見る人を見るの


すごくたのしい



「お〜!ミユやったねぇ?それじゃ私も一発…おらっ!」

(ガッ!)

「うぐぅっ゛…!?」

「2人ばかりズルいぞ!私にも殴らせろ!いつもリーダー面しやがってこのっ!」

(ドスッ!)

「かはっ…!」

「た、たの、しい…は、あはは、あははははははっ!!!」


その後、私とサキちゃんとモエちゃんは暫く3人でミヤコちゃんを殴った




ただ何度か殴ってる内に、モエちゃんは『飽きた』と言うと公園から立ち去り、サキちゃんも『少し出かける』と言ってどこかへ行っちゃった

こんなに楽しいのに行っちゃうんだ


残された私は、今まで全然振るったことが無かった暴力の楽しさに目覚めて何度もミヤコちゃんを殴った

「げほっ゛…ミ…ユ゛…もぅ゛、やめてくだ…」

(ドガッ!)

「がふぅ゛っ…!ぁ゛…」

ミヤコちゃんのヘイローが点滅したかと思うと、気を失ったと同時に消えた

「…あ。ミヤコちゃん気絶しちゃった…つまんない…」

私は未だに残る苛立ちをどこへぶつけるといいのかを考えたけれど…上手く思いつかなくて悩んでたその時


『人を殴れば、私の存在は人々の記憶に確実に残る』


「………えっ?」

何かが聞こえた


『私を忘れる人々に、存在を記憶させるのならば…危害を加えて絶対に忘れられなくすれば良い。そもそも忘れる連中が悪いのだから、私がこの世界に存在すると人々に知らしめるべきなんだ』


…人を殴れば記憶に残る?


『それに殴るだけなら撃つよりダメージが弱い。SRTで鍛えた力と技を試すにも絶好の機会のはず』


そう考えると、そうかもしれない

つまり異常な存在感のなさを…

纏わりついて離れない長年の悩みを…

解決できる?



「そっか、簡単な事だった…!」

気絶したミヤコちゃんには目もくれずに向こうの街を見据える



私の存在を人々の記憶に焼き付けるため

そしてあの甘味をもう一度味わうため…


ミヤコちゃんの返り血がついたままの拳を握ると、私は市街地へ走り出した

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