BORN IN THE STARLIGHT

BORN IN THE STARLIGHT

千年血戦篇・訣別譚—アニメオリジナル—

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偽りの霊王宮


 特徴的な語り口の男——二枚屋王悦が、目の前に立つ三人の滅却師に刀の切っ先を向けて笑いかける。


「真っ先に逃げるなんて酷い王様だNeェ。それなら先に後継者を斬っちゃうYo」


 大袈裟な物言いの王悦は三人の滅却師に順番に切っ先を向けた。

 まずは左端に立つ眼鏡の少年、石田に。そして、右端に立つ金髪の青年、ハッシュヴァルトに。

 最後に——中央に立つ黒い外套の少女、カワキへと切っ先を突きつける。この場において、黒の外套を身に纏うのはカワキの他にただ一人——ユーハバッハだけだ。

 王悦の予想ではこの少女がユーハバッハの後継者だが——


「どの子が跡取りなんだっKe?」

「…………」

『…………』


 三人の滅却師は一様に口元を真一文字に引き結び、身じろぎ一つしなかった。王悦の問いかけに答える者は無い。

 緊迫した沈黙の中、刃元のぐらついた刀だけがカチカチと音を立てる。

 答えないならそれも良い。自分の目と体で確かめるまでのこと。


「構える時間位は、待ってやるYo。誰からでも変わりないけどNe」

「後悔するが良い。陛下と戦わずに済んだ幸運を」


 意味深な言葉。ハッシュヴァルトが剣を引き抜き構えると、周囲を囲む産褥がミシミシと軋む。

 ハッシュヴァルトは剣を構えただけで、王悦の目からは他に何かしたようには見えなかった。


「……? んん?」


 訝しげに空を見上げた王悦。

 黒い外套を翻して腰に下げた細身の剣をすらり、と引き抜いたカワキが微笑んだ。


『始めようか。零番隊』


 同時に、滅却師を閉じ込める樹木の檻が半ばで無惨にへし折れる。それが、開戦の合図だった。

 曳舟が作り上げた産褥があっけなく崩壊した事に驚くのも束の間——その場で軽く跳んだカワキが、着地と同時に地を蹴って王悦の懐に飛び込んだ。

 喉を掻き切らんとする一閃。大きく体を逸らして回避した王悦が、大袈裟に驚いて見せる。


「Wow! 速いNe、驚いTa! 天示郎と良い勝負だYo!」

『世辞は結構。避けられたという事は速度が足りない証拠だ』

「本心Sa! さっきの戦いを見て、ちゃんボクに突っ込んで来るなんて予想外だったからNe」


 軽快に話し続けながらも、王悦は身軽な動きで攻撃を避けて防御に動く。カワキの攻撃の手は止まない。

 左手で剣を扱う剣士は珍しい。おまけにカワキは王悦よりも速度で勝る。手の内を晒させるつもりだったがどうにもやり難い相手だ。

 王悦がカワキを引きつけている間に曳舟による産褥の修復は済んでいる。

 ここらで一度仕切り直そうと飛び退いた王悦に、細剣を手に鋭く踏み込み、真正面から斬りかかりながら、カワキは高らかに告げた。


大聖弓(ザンクト・ボーゲン)!


 王悦の背後——眩ゆい霊子の光が大砲を形作る。背中を照らす光に振り返った王悦がサングラスの下で驚きに目を見開いた。

 形状こそ異なるが見間違うはずもない。


(これはY・Hの——……!)


 次の瞬間——轟音が霊王宮を揺らして、吹き荒ぶ風が飛び散る木片を巻き上げた。

 産褥の遥か上空で、歓喜に震えるようにきつく瞼を閉じたユーハバッハが、俯いたままクツクツと笑う。


「思っていた以上だ。子の成長とは、時に親の予想を超えるもの……強くなったな、さすがは我が最愛の娘だ、カワキ」


 口元をニイ、と笑みの形に歪めて大きく両手を広げたユーハバッハは、心を満たす喜びのままに声を張り上げて叫んだ。


「どうだ、零番隊よ! これが我が娘の力だ!」


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