68と69、時々123と3070 後編
※パロ的なオリキャラ市民が出ます。いわゆるニャオモト=サン的な。
それと珍妙超兵器が出ます。
前編はこちら↓
https://telegra.ph/68%E3%81%A869%E6%99%82%E3%80%85123%E3%81%A83070-12-23
ゲヘナ自治区のとある大通り。
人の流れがそれなりに見受けられるこの道を便利屋68の少女たちは黒焦げになりながら必死に走っていた。
「ハルカのバカ!!あそこにはアリス達もいたのよ!!係長になったんだから部下の安全は確保しなさいよ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!アリスちゃんたちもごめんなさい!」
「あ、荒事は慣れてますので……ちょっと焦げただけですので大丈夫です」
「うわーん!アリスの柔肌がー!」
先のハルカの暴走によりアリスモーターズを爆破した便利屋68、ギリギリビルが倒壊せずにいられたので
爆炎に乗じて一目散に逃げ出し、現状に至る。
「で、なんであんたたちもこっちに付いてきてるの?」
そんな便利屋68と競争するかのように補習授業部の子たちも黒焦げになりながら走っていた。
「69号の話は終わってないんだから!!このままお別れなんて嫌よ!!」
「あはは……コハルちゃん、69号ちゃんと仲良かったですもんね」
「ひとまず追手の姿はない、どこか隠れられそうな場所で改めて話そう、いいだろうか?」
正直このまま逃げ帰ってしまいたいが69号の処遇はちゃんとしておきたかったためか
アルはそのアズサの提案にうなずき、近くの立体駐車場の中に入っていった。
「で、結局、一体何があって69号はそこのハナコさんから離れることになったの?
それを話してくれなくちゃ話にならないけど」
薄暗い立体駐車場の中で便利屋68と補習授業部の少女たちは円の形になって会話を始める。
流石にまとめ役がいないと先程の二の舞のため、カヨコが話の主導を務めることとなった。
カヨコの視線を受けたハナコはようやくその口から言葉を紡ぎ出す。
「…私が悪いんです。私が……拒絶して……」
「……アリスは……怖くて……逃げ出しちゃって……」
「なんかトラブルがあって逃げ出したってことね、私達の前では言い出しづらい?」
ハナコと69号は互いに赤面してその問いに頷く。
これはなかなか難しそうだ、そうカヨコはため息を付いたが不意に妙な音が聞こえ意識をそちらに移す。
「ちょっと待って、なんか変な音が聞こえる、歌…?」
「いや、ローター音も聞こえる。ヘリが近くを飛んでいる……?」
一度話し合いを止めて便利屋68達は武器を構える。
次第にその音、そして歌が大きくなり、立体駐車場の隙間から突如巨大な物体が姿を現した。
『アーリスアリス♪アーリスアリス♪量産型アリスのことならアリスモーターズ!』
『アリスは未来のキヴォトスの友達!居場所のないアリスはアリス保護財団へ!』
『兵器、重機のことならニョムラ工業!強く、デカく、賢い!そして破壊力!』
立体駐車場の外に見えたもの、それは巨大なアリスの顔がついた巨大ヘリコプターであった。
珍妙な歌や宣伝を流し、巨大なアリスの瞳が少女たちを見据えている。
あまりにも奇天烈な存在にその場にいる誰もがアルのような白目をむかざるを得なかった。
「なによあれーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
その珍妙ヘリからグレネードが放たれ立体駐車場の中で爆発する。
直撃こそは免れたものの立体駐車場は崩壊、少女たちは大通りにへと投げ出される形になった。
『ニョムラ工業は解体工事も行っております。不必要な物件がありましたら是非ご相談を!電話番号は……』
「くっ!!これアリスモーターズの兵器!?こんなものを出してくるなんて!」
「そうだとも!便利屋68!!よくも僕の店をぶっ壊してくれたな!!」
コックピットハッチが開き、ニョムラ社長が威勢よく顔を出しアル達を怒鳴りつける。
元々威圧感はある方なのだがその真下の巨大なアリスの顔があまりにも気になって直視できない。
「せっかく皆のアリス達のための店が台無しだ!!損害賠償を払ってもらおう!」
「いや、それはまぁ悪かったけど……損害賠償って…」
「そうですね、こちらになります!!」
副座に乗っていたアリス3070号は勢いよく電卓を叩きアルたちに見せつける。
普通に電卓が小さすぎて見えなかったが、便利屋が払えなさそうな額なのは推測できた。
「払えないか!!ならば事務所の財産を差し押さえだ!!
その上貴様たちを風紀委員かヴァルキューレに引き渡し報奨金を頂き!
そして所有権の浮いたアリス達を保護するのだ!」
「一石二鳥どころか三鳥で商売上手です!転んでもただでは起きませんね!」
「やっぱりアリス達が目的じゃないの!!」
「てか、もう気になってしょうがないんだけど……本当なにそれそのヘリ」
珍妙すぎるヘリに対し誰もがそのカヨコの言葉に頷く。
それを聞いた3070号はコックピットから乗り出し意気揚々とマイクを持ってスピーカーを通してトークを始めた。
『では説明いたしましょう!!これこそ我が社が開発した決戦兵器”モーターアリス”です!
取り回しの良いガトリングガン!大型で射程を大幅に伸ばしたショットガン!!
対物用に搭載されたグレネードランチャー!全身に搭載されたミサイルランチャー!
まさに全身武器庫と言えるこの兵器ですがそれらを制御するのがこの私!アリスです!
カスタマイズを受けたこの私がヘリと接続することによって
演算能力を多大に高め、この多種多様な武器を同時に手足のように扱えます!
姿勢制御も自由自在でまるでドラゴンフライの如き機動性!
まさに全身がアリスと一体化したかのような感覚!それがこのヘリコプター式アリス外骨格機動兵器!
モーターアリスなのです!!どうでしょう!!アリスのみなさんも乗ってみませんか?』
意気揚々とアリス達に問いかける3070号だったが、当のアリス達はあまりにも嫌そうな顔していた。
「うわーん嫌です恥ずかしいです!!あまりもアレでオリジナルに対しても失礼です!」
「こ、こんな恥ずかしさはいらないです……あんな顔付いたもの町中で飛び回られたら社会的に死にます」
「ペロロ~~!!恥ずかしくて表を顔出して歩けないペロ!」
「あんたは最初から顔出してないでしょ」
姉妹に否定されたのが悔しいのか3070号は涙目になって地団駄を踏む。
そんな彼女を見かねてニョムラは3070号をコックピットの中に戻しハッチを閉めた。
「アウトローな彼女にはなかなかこのロマンは伝わらないものだ。
それに性能や凄さは直接見せつければいい!宣伝効果もあって経営もV字回復だ!」
「了解です、社長!!アリス!!モーターコネクト!!」
3070号はビジネススーツを剥ぎ取り、手や髪をヘリの専用端子に接続する。
それによりモーターアリスはより動きが機敏になり、巨大なアリスの顔もどこか表情が付いたように見えた。
「く、ただでやられるわけには行かないわ……!!便利屋68!戦闘態勢に入るわよ!」
その号令とともにムツキ、カヨコ、ハルナは戦闘陣営を取り自らの武器をモーターアリスに向ける。
そして号砲とばかりにアルがスナイパーライフルでコックピットを狙ったが、その途中で謎の光の壁に遮られた。
「っ!!シールド!?」
『トークはまだまだ続けられますよ!こちらモーターアリスはミレニアムの一部で使われてるシールドを搭載!
6方全てに展開することも可能で防御も万全なものにしております!』
「それも無限じゃないでしょ!みんな波状攻撃!攻撃の手を止めないで!」
モーターアリスは精密な動きで回避行動を取るが便利屋68の統制の取れた攻撃に
常にシールドが展開せざるを負えなくなる。その状況を見てアルは思わず不敵な笑みを浮かべる。
「流石にシールドを張ってる間は攻撃できないはずよ。このまま削り切ってやるわ!」
『その従来の常識を打ち破るのが新製品というものです!!』
シールドは未だ展開している、だがモーターアリスの武装はシールドの内側からすり抜けるように一気に放たれ
便利屋68の子たちの近くに着弾した。
「ぎゃっっ!!」
「な、なんでー!?シールド貼りながら攻撃ってどういう仕組なの!?」
『解説が必要な場合は△ボタンを押してください!なんちゃって!トークが必要ですか?』
またセールストークが始まりそうなのだが情報を得たいので渋々アルは首を振る。
こいつと話してるとこんなことばっかりだなとカヨコは普通に呆れた。
『いいでしょう!ではご説明します!
従来のシールドはシールドの内側から攻撃できず、シールド対策をした武器をシールドから出して発砲。
もしくは攻撃の瞬間シールドを切る必要性があります。
しかし前者も後者もその瞬間を狙って攻撃されるリスクが残ります。
弾丸を通す時だけ穴を開ける、みたいなことも建物一つくらいの演算能力が必要となります。
そ、こ、で!!なんか量産型アリスの持つ固有脳波?神秘?的なものを察知し
それを持った弾丸や弾薬を通す?みたいな、そんなシステムを搭載!
これぞAIT(アリス以外通さない)シールド!このモーターアリスの最大の特徴です!』
「肝心なところがあやふや!!てかふっつーにオーバーテクノロジーじゃない!?」
『開発経緯は企業秘密です!連邦生徒会に怒られそうなので!』
縦横無尽、かつ精密に動き、攻撃を放つ。その圧倒的なテクノロジーの兵器の前に
便利屋68の少女たちも次第に疲労と傷が積み重なっていった。
『いい加減に抵抗は無意味、現在なら投降を受け付けています!』
「あ、あのねぇ……アウトローは簡単に屈しないのよ!」
『4人程度なら軽くあしらえるほどモーターアリスは賢く強いです!今なら…』
そう言いかけた瞬間、別方向から弾丸が放たれてシールドが展開される。
3070号がセンサーを起動させるとそこには天使のような羽を持った少女たちが銃を向けていた。
「あ、アルさん!手伝います!私達も69号ちゃんを取られるわけには行きません!」
「あんた達……私達のトラブルなのに…」
「同じアリスちゃんを愛する者同士ですから!」
統制の取れたヒフミたちの攻撃にシールドもだんだん色素を失い始めている。
思わぬ援軍にコックピット内のニョムラは思わず激高した。
「倍に増えたくらいが何だ!モーターアリスは重装備重装甲大破壊力!!
会社の予算の2/3を注ぎ込んだ傑作だぞ!
お前らなんかに負ける道理はない!」
「こんなのにそんな大金注ぎ込んじゃったの!?」
「ロマンばっかり追ってそれでも社長ですか!」
「もっと現実に即した経営をしたらどう?」
「見栄ばっかり張って内実ともわない無能経営者ですね!」
「そうよ!このダメ社長ー!ってあれ、アルちゃん屈み込んでどうしたの?」
「あ、いや、何でもないわ……」
勝手に凹んだアルをよそに少女たちの波状攻撃は続けられついにはシールドにヒビが入り始めた。
それを察知してモーターアリスは回避行動に専念しだすが、少女たちの連携により完全に回避し切ることが出来ない。
「ハァーーッ!ハァーーッ!ウチの重役みたいなこと言いやがって!しかし!このままでは!」
「社長!シールド回復の手段があります!それを使いましょう!承認を!」
「おお!流石はうちのアリス!強くて賢くて気が利く!早く使うんだ!」
その承認とともに、ニョムラ社長の席の足元からフットペダルがせり上がってきた。
「………まだまだ衰えてないぞ!ウオオーーーッ!」
「シールドエネルギー充填!まだまだ戦えます!」
おっさんのいい感じのハッスルによりシールドは復元、更に強固になり、少女たちの攻撃を弾いていく。
持久戦になれば巨大兵器に勝つことは難しい。そんな絶望感が少女たちの脳裏によぎったが、
一つの跳弾音が、そんな空気を弾き飛ばした。
「え、シールドを通した?!今のは…」
「……わー本当にアリス特効なんですね」
69号の持つ中古のアサルトライフルから硝煙が溢れる。
続けて69号はモーターアリスに発砲し、その弾丸はシールドを通り抜けて装甲にへとたどり着いてた。
「え、アリス以外通さないって言ってたけど私達の方のアリスの攻撃を通してるの!?」
「でも効果が薄い!69号ちゃん!これ使って!」
ムツキは69号にバッグを投げ渡し69号はそれをモーターアリスに投げつける。
バッグは爆発、モーターアリスは爆炎に包まれるがシールドによってその装甲に傷をつけることが出来なかった。
『唯一で最大の弱点に気付いたようですね!ですが借り物の武器では通りませんよ!』
「いややっぱオーバーテクノロジー過ぎない!?68号!あなたも攻撃を…」
だが言葉の途中でアルは気付いた。68号は震えている。
銃を構えてはいるもののガタガタと震えて狙いが定まってる様子がない。
あんな珍妙な兵器でも、アリスだ。中にアリスがいるというのもあるが、巨大なアリスの顔を撃つことも恐れているのだろう。
「くっ!!」
アルはモーターアリスの弾幕をくぐり抜けて68号の近くまで移動する。
叱責される、そう思って68号は縮こまったがアルは68号を庇うようにモーターアリスに立ちふさがった。
「しゃ、社長……」
「撃てないのはわかってる、だから下がりなさい!」
「でも……!」
「部下に出来ないことをさせるのは社長の仕事じゃないわ!」
そう叫んでアルはモーターアリスに発砲する。
もちろんその弾丸はシールドに塞がれるがその威圧感はモーターアリスを若干たじろがせた。
「うう、美しきアリスの絆です……ああいう人に拾われればアリス達は皆幸せなのに…」
「だがケジメはつけさせる必要がある……3070号!アレを使うぞ!楽にしてやれ!」
「了解です、ロックオン、目標、アリス以外の少女たち。警告開始」
『あーあー周辺住民の皆様。これから広範囲に攻撃を行います。
しかし我らの技術により敵対者以外には決して当たりません。
周辺住民に優しい企業、ニョムラ工業をよろしくお願いします』
「な、なんかやばいことするんじゃ……」
警告が終わると同時に、モーターアリスの全身に装着されたミサイルランチャーが一斉に稼働しだす。
そして針山のごとくミサイルが一斉に放たれ、少女たちにへと降り注いだ。
爆炎が通りを埋め尽くし、残った煙が風によって吹き飛ばされていく。
その場で倒れていなかったものはアリス68、69、123号、そして後方で支援していたハナコとコハルのみ。
それ以外の子は気絶してはいなかったものの道に倒れ伏せ、かすかなうめき声をあげることしか出来なかった。
「この精密な破壊力……流石はアリスの演算力だ。やはりアリスを鉄砲玉や単純労働者として使ってる奴らは駄目だな!
彼女らはハイテクの元に生まれた申し子!こうやってハイテク武器を扱わせるのが一番賢いやり方だ!」
「そ、そうですねー」
ビルに突き刺さった数本のミサイルを見なかったことにして3070号はモーターアリスを動かす。
そして一番近くにいた69号に対しゆっくりと威圧感たっぷりに近づいていていった。
「み、みんな……」
「あなたの身柄はこちらで引き受けます。安心してください。慰み者などにはいたしません」
モーターアリスの下部から無骨なクレーンが展開されていく。
69号はすぐさま逃げようとしたがクレーンハンドによって容赦なく挟み込まれ持ち上げられた。
『このようにモーターアリスはクレーンにより重機と同じような活動も行えます!
また、人や機械を壊さないような精密動作も可能!まさに万能機です!』
「あぁ……締め付けられて感じちゃう♡……うわーん!やっぱちょっと痛いです!」
「69号……!!」
「この!69号を離しなさいよ!」
コハルがスナイパーライフルでクレーンを撃とうとするも上手く狙いが定まらない。
今69号はシールドの外にいるからクレーンを破壊することはできるのだが
69号が掴まれて射線上にいるため迂闊に撃つことが出来ないのだ。
「こ、コハルちゃん……」
「ハナコ!このままお別れするのやでしょ!何があったのかは知らないけど話し合わないと始まらないったら!」
だがハナコは逡巡する。かつて、69号はサクラコから自らに託された子であった。
色んなことを教えた。補習授業部で楽しい時間を過ごした。
だが、あまりにも素直すぎる69号は自らが被った淫靡な仮面、ペルソナから情緒を育ててしまった。
【いやっ!やめてっ!】
夜這いをかけられ思わず飛び出した拒絶の言葉。
普段の淫靡さとは別人のような反応で、69号を無理やり引き剥がして突き放してしまった。
その時の69号の表情は忘れられない。そして彼女はハナコの前から姿を消した。
(酷いことをしたのに、私は………私は……!!)
「助けて、助けて!!”ハナコ先輩”!!」
その言葉が彼女の心に駆け巡った。
浦和ハナコの迷いが消えた。
「コハルちゃん!手榴弾借りますね!」
「え、ちょ、ハナコ!?」
ハナコはコハルのバッグから手榴弾を取り出し(その際雑誌もこぼれ出た)、アサルトライフルを構え走り出す。
突然の突貫に皆驚くしか無かった。迷いのない瞳がその場の空気を確実に支配する。
「な、なんなんですか!あなた!さっきは言い争いに参加してなかったのに!」
「そうですね、でも止まる理由にはなりません」
マシンガンやショットガンを遮蔽物を利用しながらかわし、グレネードも的確に弾道を見て回避していく。
威圧感に当てられてモーターアリスは高度を上げて距離を取ろうとする。
このままでは逃げられる。そう思った時、珍妙なきぐるみがハナコの前に立って構えた。
「ペロロ~!!!ハナコちゃん!123号の翼に乗るペロ!」
「ありがとうございます!!」
123号に持ち上げられる形でハナコは高く跳躍し、クレーンにへとしがみついた。
そしてそのままクレーンをアサルトライフルで撃ち、鉄筋を歪ませていく。
「ハナコ先輩…」
「69号ちゃん!頭をかばって体を丸めて!!」
そして歪んだクレーンに迷いなくハナコは手榴弾を叩きつける。
爆煙がクレーンを包み、ヘリは姿勢を崩し、破片が辺りに散らばっていく。
誰しもがその行動に目を離せなかった。そして煙が晴れた時、ハナコは69号を抱いて地面に転がっていた。
「ハナコ先輩……あの、あむっ!!」
そして浦和ハナコは、69号の唇を自らの唇に触れ合わせた。
あまりの突然の光景に、時間が一瞬止まったように感じた。
補習授業部は誰もが赤面した、便利屋68はひたすらに唖然とした、周辺住民も目を奪われた。モーターアリスの2人も同様だった。
ハナコと69号は互いに淫靡な表情を浮かべ、唇を、舌を絡ませ合う。
一分ぐらい経ち、2人の唇がようやく離れ、口からは唾液の糸が2人を結ぶように繋がれていた。
「ごめんなさい69号、あなたに教え込んだのは私なのに。これがあなたの愛情表現って知ってたのに。
それを受け止められなくって……ごめんなさい……」
「アリスも……逃げてしまってごめんなさい、エッチなことは駄目だってコハルちゃんも言ってて分かってたのに…」
「いいの、もう拒絶したりしない。だから……帰ってきて……」
そう言って2人は再び唇を交える。
もう二人の間を割って入ることは誰も出来なかった。
「……69号があんなになったわけだ」
「なんか……本格的なのは凄いね~」
「ア、ア、ア、ア、アル様!わ、私もあれ、必要ですか…?」
「い、いや!?ああいうのは……その、アウトローじゃないから!いや、ハルカのことが嫌いだからからとかじゃないわよ!」
時間が経ったお陰で少女たちもなんとか動けるようになり、次第に立ちあがっていく。
それと対称的にモーターアリスは固まったかのように空中で静止したままであった。
「ぐああああっ!!駄目だ!あそこまでされたら!もう引き離せない!!エダシ!エダシ!」
「……社長!私達もやりましょう!こちらも大人の絆を見せてやるんです!」
「なにぃぃぃ!?その!駄目だ!おっさんが少女とキスしたら!青少年のなにかが危ない!
僕は君たちに欲情してるわけじゃないんだ!少女だから好きってわけじゃないんだ!」
「それでいいんです!例えばハードボイルド物で銃持ちの人が自分の銃にキスしたりしますよね!
新車買ったり洗車した後自分の車にキスしたりしますよね!いわゆるそれです!」
「そう言われるとそうかも知れない……しかしその体勢ではちょっと無理……」
そうゴタゴタしてるうちに少女たちの攻撃が再開し、ヘリは思わず姿勢を崩す。
相手に嫉妬してる場合ではない、そう感じてモーターアリスは再び攻撃を始めた。
「69号の子はもう諦める!その代わり!あの便利屋68の子をいただくぞ!」
「もう大分手間取ってしまいました!ちょっと乱暴になりますが覚悟してください!」
破壊されたクレーンの近くから半分ぐらいの細さのアームが展開され、モーターアリスは一心に68号にへと向かう。
トラウマもあるが高速で向かってくる巨大アリスの顔に面食らい、68号は思わず尻餅をついてしまい無防備になってしまった。
『メインクレーンアームが破損してもサブアームを搭載!
こちらもメインほどではありませんが精密な動作が可能です。
高所での作業に是非!モーターアリスをよろしくお願いします!』
「あ、あ、あああ!!」
少女たちが止めようと発砲するもシールドは未だ健在で全て弾き飛ばされる。
そしてサブアームが68号を掴もうとした時、あらぬ方角から弾丸が放たれサブアームを破壊した。
「………え?」
「あわ、あわわわ!!」
スピードを付けすぎた上に空回ししたモーターアリスはぐわんぐわんと姿勢を崩し、体勢を立て直そうと必死に制動する。
その間68号は弾丸が飛んできた方向を見やる。
はるか遠方、一人の量産型アリス、そして薄い紫の髪の少女が路地裏の方から体を出しているのが見えた。
「……委員長?」
立ち上がってよく見ようと目を凝らした瞬間、68号の足元になにか大きな物体が転がってきた。
それはコンピューター制御で動きそうで、見た目システマチックで、かつ見覚えのあるアサルトライフルであった。
「こ、これ……!」
それはあの店で見かけ欲しがった、あの対アリス用ハッキング銃、AL.STAGGERだった。
思わず68号はそれを拾い上げ、銃口をモーターアリスに向ける。
不思議と震えはなかった。今まで培った経験が、68号の集中を更に高めていく。
「ナニィーーッ!なんであの銃がここに!!」
「おそらく発進の時に吹き飛ばされた銃が機体に引っかかってたのかと……
マズイです、この機体はアリスの体でもあるので停止信号が……うぎゃん!!」
68号から弾丸が放たれ、シールドをすり抜けモーターアリスにへと直撃する。
あらゆる機器が動きを止め、ふらついて姿勢を崩して落ちかける。だがすぐに立て直し68号から距離を取った。
「な、これでも駄目なの!?」
『よくもやってくれましたね!流石は我が社の製品と言いたいところですが
信号が装甲に阻まれてコアの私まで届きませんでしたね!
装甲が剥げて内部に当たってたら危ないところでした!このように特定の武器に対しても防御力持つモーターアリスをどうぞよろしく!』
「3070号……今の言ってよかったのか……?」
『…………うわーん!いつもの癖でやってしまいました!』
装甲が剥げれば、と判断して少女たちは攻撃を加えるもシールドは未だ砕けずダメージを与えられない。
そんなにっちもさっちも行かない状態で、一人の少女が決意した。
「……ヒフミちゃん、ちょっとだけ目をつぶって欲しいペロ。耳も塞いで欲しいペロ」
「え、どうしたの123号ちゃん……分かった、なんだか分からないけどそうするね」
123号が何をするかは分からないが信じてあげる、ヒフミは目を閉じ耳を塞ぎ外界の情報をシャットアウトする。
それを確認した123号はペロロの口からきぐるみを脱ぎ、中にあったバズーカ砲を背負って一気に撃ち放った。
「えええええええええっっっっっ!!!」
「ヒフミちゃんにペロロ様のこんな姿、見せられませんから!!」
バズーカ弾はシールドに防がれることなくモーターアリスに着弾して爆発する。
それで完全に破壊するには至らなかったが、装甲を剥ぐには十分な威力であった。
「い、今よっ!68号!」
「了解です!社長!!」
68号の放った弾丸は正確に損傷部に入り込み、内部フレームに信号を与える。
それと同時にモーターアリスの全ての機能が停止し、ぐるぐる周りながら落下を始めた。
「ギリギリ接続を切ってなければ危なかったです!うわーん!でももう制御不能!!おしまいです!!」
「こんな奴らにモーターアリスがやられるとはーーっ!」
ついにモーターアリスは地面に衝突、それと同時に全身の火器が衝撃で引火し、大爆発を起こした。
「………3070号は……」
道全体を焼き尽くすほどの大爆発で68号は呆然と炎を見つめる。
しかし空に2つの人影が飛んでいくのを見て、68号は気が抜けてその場にへたり込んだのであった。
「ウグゥーーッ!強く巨大で賢いモーターアリスがこんなことでーーっ!世間に威力を見せつけてV字回復の予定だったのに…」
「まぁ肖像権の問題で本格生産は無理でしたし次回に活かしましょう!
それに今回の戦いでアリスは色んなものを学びました!あれがアリスの愛なのですね!
マーケティング的に強く巨大で重くて破壊力がある!最高です!」
「おおっ!3070号の後頭部がなんか輝いて見えるぞ!よし!これを踏まえて次も頑張るぞー!」
なにかに取り憑かれていた社長と少女はそのまま空を弧を描いて飛んでいくのであった。
「はー、散々だったわね……ひっどい戦いだった…」
「でも、みんなと離れ離れにならなくてよかったです」
アリスタッガーを抱え68号は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
そんな68号をアルは優しく撫で、便利屋68の少女たちは朗らかに笑った。
「よかったですね、皆さん!お手伝いしたかいがありました!」
「ほんっとひっどいことに巻き込まれたわよ!でもまぁハナコが69号と和解できてよかったけどさ!」
そのコハルの言葉を聞いて、アルはハナコにしがみついている69号の方を見る。
わだかまりが溶けたならもう便利屋にいる必要はない。
しかし、69号の目はアル達の別れを拒否しているようにも見えた。
「アルちゃん社長……」
「…アウトローは、別れを引っ張らないものよ!」
そう言ってアル達は補習授業部の皆に背中を向ける。
69号はハナコから手を離そうとしたが、アルは背中を向けながら69号に叫んだ。
「…でも席は残してあげるわ!要請があったら働きに来ること、あなたは便利屋68の一員でもあるんだから!」
「……はい!!」
そうして便利屋68の5人の少女は炎を背に歩き出す。
まさにその姿はアウトロー、自分に酔って感動するアルであったが、顔の真横に弾丸がかすめた。
「……ん?」
「風紀委員だ!便利屋68!!またこんな事件を起こして!」
「げっ!!風紀委員!?今の状態じゃ無理よ!逃げるわよーーっ!」
さっきまでのカッコつけはどこ行ったのか、アル達は一心不乱に逃げ走っていく。
不意に68号は後ろを向く。炎越しに同じ量産型アリスが手を振っているように見えた。
自分も手を振る。そうして銃を抱いて自分の仲間たちと走り出していった。
数日後
「な、な、な、なんですってーーーーーーーーーっっ!!」
「アルちゃん、突然白目向いても状況がわかんないんだけど」
便利屋68のオフィスでアルはいつものように白目をむいて叫んでいた。
何があったのかとムツキがアルの持っていた書類を覗き見る。
「えっと、アリスモーターズ事業縮小のお知らせ…?
交換パーツの販売は行いますが本社オリジナル製品の開発、販売は中止します……」
「あー、散々暴れたからね。倒産してないだけマシってもんだけど」
「弾丸の残りもないし結局68号に使えない銃を渡したことになっちゃった……また新しい銃を買いに行かないと…」
「……でも別にいいんじゃない?」
カヨコはソファーで横になっている68号を覗き見る。
もうおもちゃとなったアリスタッガーを抱え、すやすやと眠っていた。
「そうですね……こんな安らかに眠っているの…初めてかも」
「それならいいか、どうせ買ったわけじゃないし」
「むにゃ……68号……頑張ります……部下アリスのみんなもがんばろ……」
アリスを殺さない武器を持って、68号は夢を見る。
それが一夜のものかもしれなくても、彼女の心は安寧を得ていた。