68と69、時々123と3070 前編

68と69、時々123と3070 前編



※パロ的なオリキャラ市民が出ます。いわゆるニャオモト=サン的な。

それと若干オーバーテクノロジーなガジェット出たりします。





「そろそろアリス達にも専用の武器が必要じゃないかしら」


 一日一悪と決断的に書かれた掛け軸が掲げられたオフィス。

その一番奥の席に座った少女、陸八魔アルが目の前にいる少女たちをみて不意に呟いた。


「えっと、アリス達……のですか」


 自らをアリスと呼んだ少女は自らが持つ傷だらけの銃器をじっと見つめる。

彼女はアリス68号、量産型アリスの中の一人で紆余曲折あり便利屋68に居着いた個体である。


「アリスはも~~と黒くてたくましいのがいいですねぇ♡」


 同じく便利屋に居着いた量産型アリス69号は同じ顔でありながら妖艶な表情で自らの銃器に頬を擦り付ける。

その下品な反応に室長のムツキはくすくす笑い、課長のカヨコは呆れ、係長に昇進したハルカは赤面した。



「どしたのアルちゃん。やけに羽振りがいい話しちゃってさ」

「いや、68号も69号も社員としてだいぶ叩き上げられてきたじゃないの。

だからいつまでもお下がりや中古じゃ威厳が足りないと思うのよね!」

「えっと、アリス達はそんな……置いてもらえるだけですごく嬉しいのに……」

「なーに謙遜しているのよ!便利屋68の社員として自信を持ちなさい!」


 そう威厳たっぷりに胸を叩くアル。

また見栄っ張りかなとカヨコは少し呆れるが純粋にアリス達のことも考えてるんだろうと感心する。

善良で真面目、それでいて見栄っ張りなのが陸八魔アルだ。ここにいる皆はそれを理解して彼女についてきている。


「けど専用の武器ってどうするの。オーダーメイドとかになると経費かかるけど」

「う、でもいいもの与えたいし……アリス向けの銃器って何が一番いいのかしら」

「あ、それじゃここに行ってみない?」


 そう言ってムツキは一枚のチラシをアルに見せつける。

アリス専門店『アリスモーターズ』、そんな文字が大きくアリスの絵とともに描かれていた。






「ここがアリスモーターズ……」


 ゲヘナ自治区のとあるビル、そこの一階にその店舗は存在していた。

ど派手にアリスの絵が書かれた看板が飾られビカビカと照り輝く。

アリスの1/1マネキン、アリスのPV、アリスの顔ハメ看板etr…

前知識がなければオタク専門店として扱われそうなそんな光景であった。


「うわーん……自分自身ではないのに少し恥ずかしいです……」

「アリスのあんな姿が……見られちゃってる……♡」

「見てる方も恥ずかしいねこれ」


 人通りも多く周りの人の目がいやに気になり、アルはここに来たことを後悔し始めた。

アリス達のため、と思うも当のアリス達も相当恥ずかしがってるようで白目になりかけた。


「と、とっとと入りましょ!風紀委員会に見つからないうちに!」

「あ、はい!!」


 照れ隠しにアルはズカズカと歩を進めるが、少しして自分の発言を後悔した。

68号は元々風紀委員会の個体だ。その上一生消えない心の傷を負い、脱走した末に便利屋に拾われたのだ。

アルは68号の顔を見やる。元々うつむきがちの彼女の顔は分からなかった。




「専門店だけあって……流石だね」


 店内に入った便利屋の少女たちは内装に思わず感嘆の言葉が漏れ出す。

アリス向けのパーツ、衣服、武器、様々なものが所狭しと並べられている。

まるでミレニアムの正規電気店のようだ。さっきまで暗かった68号と69号も様々な品に目を輝かせている。


「いらっしゃいませ!アリスモーターズへようこそ!」

「わっアリスだ」


 アル達がどこへ回るか迷っているとサイバーグラスをかけてビジネススーツを来た量産型アリスが近寄ってくる。

非常に身なりが整ってる上に体のあちこちに端子がつけられるなど改造されており

相当手のかかった個体だと感じ取れた。


「便利屋68社長のアルよ。この子達に武器を見繕いたいのだけど」

「了解しました!ではこのアリス3070号がご案内させていただきます!」




「しかしゲヘナにいつの間にこんな店が出来たのかしらね」

「御社の成り立ちをご所望ですか?」


 アルの不意のつぶやきに対し待ってましたと言わんばかりに3070号は目を輝かせる。

そこまで興味のある話題ではなかったのだが、ものすごく語りたがってそうな空気を否定できず、アルは無言で首を下げた。


「我がアリスモーターズはニョムラ工業が新設した傘下企業となります。

ニョムラ工業はゲヘナにおける軍需産業の企業でしたが社長のニョーティマー・ニョムラ様が

量産型アリスに対し非常に感銘を受けたことが始まりです。

ミレニアムのエンジニア部が開発した最高の製品!

少女と見違うようなこの体!繊細なボディ!そして感情豊かな人工知能!

これからの世は量産型アリスが担うと考えた社長はエンジニア部と交渉!

量産型アリスの正規パーツの生産や流通を行う企業を設立したのです!」

「これら全部正規パーツなのね。でもそれ以外の製品も沢山あるようだけど…」

「量産型アリスはシンギュラリティを起こした一種の生命体とも言えます。

そんなアリスのために文化的な生活を送らせたい!そんな社長の強い思いを持って

娯楽品や武器、また様々なタスクに対応できるパーツやソフトの開発も行っております!」

「そこまでアリスに入れ込むってことは社長ロリコンじゃないの~?」


 不意にムツキはケラケラと茶々を入れるが3070号は特に表情も変えず営業スマイルを浮かべる。


「いやいや、いい年してロボットアニメが好きな人なのでそれはないですよ。子供っぽい人です」

「……」

「おっと、話が逸れましたね!では武器のコーナーに早く行きましょうか!」




「こちら腕を換装して使うバズーカ砲になります、取り回しもよく使い勝手がいいですよ」

「色々な依頼があるから現地で換装できるようにならないとねぇ…」


「こちらはオリジナルが用いてる光の剣レプリカ1/4サイズとなります。オリジナルに憧れてる子は結構多いですよ」

「自分のバッテリーに繋げるタイプか……あまり無理はさせられないわね……」


「こちらは関節部につける保護ジェルとなります、可動域そのままで塵芥などから関節を守ります」

(アビドスに行く機会があったら買ってみようかしら……)


「セクシーでボインボインなボディパーツとかありませんか♡?正実の副委員長みたいな…♡」

「こら!69号!!」




「はぁ……目まぐるしいわね……」


 他の社員たちが散策してる間アルは一人店の壁にもたれかかる。

様々な商品を紹介されたが予算や用途などでどうも納得できず

なおかつ3070号が異様にセールストークをまくしたてるので精神的疲労がドバッと出たのだ。

そんなアルを見かねたのか68号が申し訳無さそうな表情でアルに寄り添った。


「すみません。アリスのために社長にご足労かけさせてしまって…」

「いいのよ、好きでやってることだから。

でも少しくらい自己主張してもらったほうが助かるかしら」


 色々な案内の中69号は阿呆な注文をつけていたのだが68号は全く主張をしなかった。

再び表情を隠すようにうつむき、ぼそりと呟く。


「……怖がってるのかもしれませんね。新しい銃を持つと……またアリスを撃ちそうで」

「……」


 風紀委員会にいた頃、68号はテロリストが使役する同じ量産型アリスと戦うことが日常茶飯事だった。

量産型アリスは消耗品だった、市民や少女たちのような頑丈さは持ち合わせておらず、ドローンと同じく壊れやすいものだった。

それ故に、彼女は秩序の名のもとに姉妹を壊す日々を送った。人工知能に異常が生じるほどに。


(やっぱ盾みたいなものがいいかしら…)


 だがそうすると壊れやすい彼女たちを一番前に出すことになる。

それでは彼女らを危険に晒すだけだ。社員となった彼女らを失う訳にはいかない。

にっちもさっちもいかずアルは頭を抱えるが、68号がとあるショーケースを見つめていることに気がついた。


「どうしたの?気になるものでもある?」

「え、ええと、あれ……ちょっと見に行ってみます」

「私も行くわよ」



 68号に連れられるままにアルはショーケースの前に立つ。

そこにはコンピューター制御で動きそうなシステマチックなアサルトライフル型の武器が飾られていた。


「"AL.STAGGER"……ALのよろめき?」

「お客様!商品のご説明が必要ですか!?」


 横から流れるように割り込んできた3070号に面を喰らう二人。

正直セールストークは聞き飽きたが興味を持った68号のために聞かないわけにはいかないためアルは首を縦に振った。


「こちら、"AL.STAGGER"、アリスタッガーは特殊電装銃。簡単に言ってしまえばハッキング用の銃です。

昨今、アリス同士の戦闘がこのゲヘナで非常に多発しそのような事態に社長はお嘆きになりました。

せめて破壊されることがないように!そう考えた社長はアリスの動きを停止させる銃を構想したのです。

仕組みとしては銃身から特殊プログラムを弾丸にインストール。

その弾丸がアリスの体に当たると弾丸からアリスの強制停止システムを作動させる信号を発信。

それにより相手アリスを見事無力化させることができるのです!」

「へ、へぇ、やけにハイテクな銃なのね。68号にとって…」

「これを使えば、アリスを殺すことはありませんか」


 声に抑揚もなく、68号は3070号に一心に詰め寄る。

その威圧感に気圧されながらも3070号はメガネを直し先程と同じ調子で語りなおす。


「はい、この弾丸自体にはそれほど破壊力はなく、アリスの装甲を貫通させることはないため

人工知能や動力に直接当たるみたいなことでなければ殺害能力はありません」

「……社長!!」


 68号の強い呼びかけにアルは不敵に微笑む。

しかしそれと同時に思索する。対アリスのために特化した銃では普段遣いすることが出来ない。

しかし68号はそれと求めている。中古と併用するべきかもう一丁買ってあげるべきか。


「ちなみにお値段は…?」

「銃本体はこちらの金額に……」

「あら、思ったより安いじゃない!ハイテク武器だから高いかと思ってた!それじゃあ…」

「社長、契約はきちんと確認しないと」


 意気揚々とお財布を取り出そうとしたアルだが横からカヨコから制止される。

カヨコは3070号の電卓をじっと見て、そしてショーケースの中の銃弾に指を指した。


「さっきのトーク聞いたけど機能的に大事なのは弾丸の方でしょ。

そしてこの金額は銃本体って言ってた。ねぇ、弾丸の値段は?」


 カヨコの強面な顔つきかつ威圧的な詰め寄りに3070号は笑顔ではあるがすっかり縮こまってしまった。

そして震えながら電卓をたたき、それを3人の前に突き出した。


「んなーーーーーーーーっっ!!一分間撃つだけで銃と同じぐらいかかるじゃないの!!」

「しかもこれ見たことのない規格、この銃、この弾丸しか撃てないような仕組みなんじゃない?

大企業のくせにあくどいことするね」

「か、開発にお金がかかりまして……ええと一年契約プランですと20%OFFで……」

「そんなにアリス達と戦うことないわよ!便利屋68をナメないで頂戴!もっと…」


 意気揚々と詰め寄るアルであったが68号の表情を見て言葉に詰まる。

不利益な売買になる仕方ない。だから諦める。そんな自分に言い聞かせてるような悲しげな顔だった。

そんな68号の顔を見てられず、アルは歯噛みしながら3070号から電卓を取り上げて叫んだ。


「ちょっと考えるわ!!しばらく待ってて頂戴!」

「社長……」


 そう68号たちに背を向け、電卓を見ながらアルは歩いていく。

68号にとってその背中はあまりにも眩しく輝いて見えた。




(くううう……今用意してる予算じゃ弾丸を一戦闘分しか買うことが出来ない……

でも考えてみればそれほど量産型アリスと戦うことはないんだから

弾丸は買わなくていいのでは……?

けれど銃だけ買え与えても68号の玩具にしかならないし、もし量産型アリスと戦う日が来たら

これだけじゃ全く物足りないし………)


 そんな68号の憧れとは裏腹にアルは電卓を見ながら必死に考え込んでいた。

真面目で善良で面倒見がいいからこそ、なかなか結論が出ない。

ついには考え過ぎで白目を向き始めたが、そのせいで目の前にいた人とぶつかってしまい反射的に頭を下げてしまった。


「あたっ!、あっごめんなさい!!」

「こちらこそ!!……あれ?アルさんじゃないですか?」

「え、あ、ヒフミさん?」


 珍妙なマスコットのバッグを背負った少女、阿慈谷ヒフミはうやうやしくアルにお辞儀をする。

アルもそれに返そうと思ったがアウトローらしくないと気付いて不敵に笑うためだけに留めた。


「久しぶりね、あのアイドル仕事以来だったかしら。あなたもアリスのための買い物を?」

「あはは、それもあるんですけれど実は探してるものがあって…」


 ヒフミはバッグの中から一枚のチラシを取り出しアルに見せつける。

そこにはアイドル姿をしたアリスが妙ちくりんなマスコットとともにライブを行うという通知案内が書かれていた。


「まさかのアイドル7号ちゃんとモモフレンズのコラボライブがこの間あったんです!

けれど私はその日外せないテストでどうしても行けなくて……

その時の限定物販で発売されたアリスちゃんのコスプレしたペロロ様、通称ペロアリス様のぬいぐるみを探してるんです。

アリス専門店のここならあると思ってたんですが…」

「へー……このマスコットをね……」

「ペロペロ~~ヒフミちゃんどうしたペロ~?」


 微妙に不細工なマスコットに引いていたところ、その当のマスコットが現れてアルは面を食らう。

そんな驚いたアルに対し苦笑いを浮かべてヒフミはそのマスコットの頭を撫でた。


「あはは……びっくりしましたよね、あ、この子うちのアリス123号ちゃんです。

すっかりきぐるみの中を気に入っちゃいまして…」

「変わった子なのね、本当に中にいるのかしら…」

「中を覗くのはやめて欲しいペロ~!中の人などいないペロ!」

「いや、アリスが着込んでるんでしょう!?」


 アルのツッコミでヒフミは思わずほほえみ、アルも自然と笑みがこぼれていた。

さっきまで緊張が吹き飛び気が少し落ち着いた。手にいつまでも持っていた電卓をそのまま仕舞う。



「そういえばアルさんはどうしてこちらに?アルさんもアリスと一緒なんですか?」

「ええ、2人ほどね、ちょっと武器を見繕いに来たのよ。あの子達今どこに…」

「攻撃チャンス♡」


 ちょっと意識をそらした瞬間だった、アルの後ろから少女の腕が飛び出しアルの肉体を鷲掴みにする。

そして異様に艶めかしく少女の腕はアルの体をひたすらに撫で回した。


「アルちゃん社長~?隙だらけです♡」

「ちょっ!やめっ!人と話してるのよ!!」


 アルは顔を赤らめながら少女の腕、アリス69号の腕を無理やり剥がし襟を掴んで居直させる。

しかし時すでに遅く、苦笑いをしているヒフミたちを見てアルは顔どころか全身真っ赤になった。


「ち、違うのよ、こんな風に育てたわけじゃなくて拾ったときからこんなんで…」

「あはは……まぁ色んなアリスちゃんがいますよね……ってあれ?この子……」


 アルに掴まれている69号を見てヒフミは何かが引っかかるような感覚を覚える。

それに対し69号も何かに気づいたように顔をそらし、その横顔を見てヒフミははっきりと思い出した。


「もしかして69号ちゃん!?69号ちゃんだよね!」

「え?なに?この子のこと知ってるの?」

「はい!私の友達のところにいた子なんです。でもある日いなくなってどうしていなくなったのかも分からなくて…」


 ヒフミは69号の手を取るも69号は目をそらし何も話そうとしない。

いつもの妖艶さが嘘のように静まっており、まるで落ち込んだ時の68号のようなしょげっぷりである。


「この子前のところのとこ全く語らなかったのよね。捨てられたわけじゃないの?」

「ハナコちゃんはそんなことしません!一体どうしたんですか?

ハナコちゃんとなにかあったんですか?」

「……ハナコさんとは……」

「補習授業部のみんなも来てるんです、せめて話だけでも…」


 それを聞いて69号は一目散に逃げようとしたがアルに襟を掴まれたままだったので逃げれず、

アルを巻き込む形で思いっきりコケた。


「ふぎゃん!!」

「ああっ!大丈夫ですか!?ふたりとも!」

「ちょっとヒフミ?そっちで何してるの?」



 そんな騒ぎを聞きつけたのかコハル達補習授業部が駆けつけ、便利屋68のメンツも集まってくる。

そして朗らかに笑っていたハナコはその場に倒れている69号を見て、表情を失った。


「69号……?」

「ううう……」

「え?なに?この子69号?なんでゲヘナっぽい人達といるの?」

「もしかして誘拐したのか……許さない」

「ああ、アズサちゃん!違うんです!」

「アルちゃんなんか大変なことになってるみたいだね」


 ムツキたちに手を貸されアルはなんとか立ち上がる。

そのさなかも69号は逃げようとしていたがアルがちゃんと襟を掴んでいたためかどうしようもなく、ついに抵抗を諦めた。


「アルちゃん社長……優しくしてくださいね…」

「そういうのはいいから、事情があるなら話しなさい」


 しかしそれでも69号は言葉を紡ぐ。

ハナコもそれに合わせるように口数が全くなくなりにっちもいかない状態となってしまった。



「やっぱりあれ!?ハナコがエッチなことしすぎたから嫌気が差したとか!?」

「それはないでしょ~、アルちゃんにセクハラばっかりしてるし」

「さっきみたいなこといつもやってるんですか?」

「そういえば69号はゲヘナから和平として送られたと聞いてる、元鞘に戻った形になるのか?」

「え、そんな大層な立場の子だったの?」

「それマズイんじゃない?和平の子を預かってるって……万魔殿にケチつけられてもおかしくないよ?」

「嘘でしょ!?ただでさえ風紀委員会に目をつけられてるのに万魔殿まで敵に回すことになるのっ!?」

「とにかくその子をこっちに返してよ!元々は私達の子よ!」

「あ、アリス69号は私達の仲間です……」



 69号とハナコが話さない分、便利屋68と補習授業部が互いにまくしたてるせいで

相当場が騒々しくなり収まりがつかなくなりそうな事態に陥る。

だがそんな時、無骨で重量感のある足音が店内に響き、少女たちは一斉に言葉を失う。


「え、な、なに今の!」

「お客様、お静かに。あなた達のトラブルに我が社長に思うところがあるようです」


 3070号がうやうやしく伸ばした腕の方を見ると一人の男が憮然として仁王立ちしていた。

身の丈2m近くはあるロボット市民だ。その上平時であるのに宇宙服のようなパワードスーツを着ており

よりシルエットを巨大なものとしていた。



「お客様、互いにアリスのことを思うのはいいがあまり騒ぎになるのは困るなぁ」

「え、ええと、あなたが社長……?」

「そうです、この方がニョムラ工業現社長ニョーティマー・ニョムラ様です!」


 ドシンドシンと威風堂々とした佇まいで少女たちに近づくニョムラ。

そしてアリスの前まで来ると立膝をついて2人のアリスをまじまじと見つめる。


「ふむ、これが3070号君から報告のあった68号と69号か…」

「あ、あの、アリス達になにか…?」

「そんな見つめられると……火照っちゃいます♡」


 まじまじとアリスを見つめるニョムラに対し少女たちはどう対応していいか分からずまごつくばかり。

そして1分位舐めるように見つめたあとニョムラは立ち上がり、歓喜の表情を浮かべた。


「やはり、アリスは素晴らしいな!

キヴォトスでは見られなかった少女型アンドロイド、華奢に見合わないパワー!

そして強くそしてなめらかな皮膚素材!そして繊細な表情システム!

極めつけは心を再現したと思われる電子頭脳!まさにミレニアムの最高傑作だ!」

「は、はぁ……」

「そして早期ナンバーはエンジニア部のハンドメイドという……やはり作りが繊細でよりきめ細やかだ!

パーツのばらつきも小さく無駄のない稼働をしている……ああ!内部パーツも気になる!

バッテリーにサインとか書かれていたら僕もうたまらないぞ!」

「流石100以内ナンバー、私のような工場産とは違いますよねー」

「おっと嫉妬したかい3070号!君ら工場生産アリスも工業的芸術に溢れている素敵なアリスだ!」


鼻息?荒く興奮するニョムラにようやく頭が追いついたのか少女たちは嫌悪丸出しの表情を浮かべる。

傍から見れば少女に興奮するいかついおっさんだ、絵面的にかなりきつい。


「なにこのおっさん……本当にロリコン?」

「失敬な!僕はアリスの純粋な技術力に興奮している!

そこらのヘンタイと一緒にしないでくれ!」

「そうです!先程も言いましたが社長は純粋にメカが大好きな大人子どもです!」


 3070号のフォローになってないフォローで少女たちはもう呆れるしかなかった。

そんな少女たちの冷たい目も意に介さず、ニョムラは威圧感を放って毅然とする。



「おっと失礼したね。話を聞く限りこのアリスをどちらが引き取るかというトラブルが起きているようだね」

「まー、そうっちゃそうだけど…」

「アリス達は捨てられたり脱走したり、そしてそれを拾われたりなどして所有権が曖昧になりがちだ。

更には彼女らの意思もあって余計にこじらせた案件も見たことがある」


 一応この人はアリスの意思を認めてくれるんだな、と少女たちは感心する。

さっきまでの行動で評価はまだマイナスよりだが。


「そうして人間同士言い争ってはアリス達にとっても悲劇だ。

そこでだ、我らアリスモーターズがトラブルの仲介をさせてもらえないか?」

「仲介って、企業が出張るほどのことでは……」

「なに、優秀な弁護人を交えてお互いに納得できる結論を出そうじゃないか。

その間所有権の浮いたアリス達は僕が預かって…」

「やっぱそれが目的か!」


 一見良さげな提案もさっきまでの行為を見てれば警戒するしかない。

アル達はアリス達を自分たちの後ろに隠してニョムラをにらみつける。


「そうやってアリス達を囲っていやらしいことするつもりでしょ!やっぱり悪徳企業ね!」

「だから!そういう青少年の危ないことはしないといってるだろう!!

まぁ、一度オーバーホールしてメンテナンスくらいはするが……」

「オーバーホールって……エッチなのはダメ!死刑!」


 コハルは顔を真赤にして69号を守るように抱きつく。

それを嬉しく思ったのか69号はコハルの体をあちこち撫で回して更に赤面した。



「……あんたがどういうつもりか知らないけどあまり企業に借りは作りたくないのよね。

残念だけどこの提案は受けられないわ」

「まぁまぁそう言わずに……社員が働けないその分の損害も補填しますよ?」


 そう言って3070号は電卓を叩いてアルにこっそり見せつける。

その額をみてアルは思わず固唾をのみこんだが、頭を振るって3070号に向かい合う。


「そういう問題じゃないの。私達は便利屋68。独立した会社なの。

変に借りを作ったら私達の独立性が…」

「あちゃー、商売がうまいですね。ではこちらで」


 再び3070号は電卓をたたきアルに見せつける。

今度は目が飛び出た、白目になった、空いた口が塞がらなかった、コミカルなBGMが流れた。


(さ、さっきと桁が違うじゃないの!?!!?こ、これだけあれば数年は家賃気にしなくて済む!

で、でも社員を売り渡すわけには、いやでも預かるだけって言ってるし……

本格的なメンテナンスもそろそろ頼んでおかないとと思ってるし…)


 冷や汗ダラダラ顔青ざめ全身ブルブル。

かつてない取引にアルは表情を変えられず、そのまま68号と69号に向かい合う。


「しゃ、しゃ、しゃ、社員の意思をきかかかないとねねね。

あ、あ、あ、あなた達はどどどどどうするるる?」

「んー、オジサンにめちゃくちゃにされるのもいいけどアルちゃん社長のそばが一番興奮しますし……♡」

「68号はニョムラ社長の提案に乗ります」



 その発言に便利屋68の皆が信じられないことを聞いたという表情を浮かべる。

アルも同様だ。顔芸じみた反応も一気に収まって68号の方を見る。


「68号は……便利屋68のみんなに拾われて沢山お世話になりました。

でも、近くに風紀委員がいれば姿を隠すし、敵に同じアリスがいれば震えて戦えない。

アリスのせいでアル社長にどれだけ気苦労かけたかわかりません。

だからこれ以上迷惑かけるならせめて会社のために……」


 そう言いかけたところでアルに口をふさがれる。

今までの見栄っ張りで貧乏くじを引きまくってるアルとは思えないくらいに、その時の表情は毅然なものであった。



「あんたが心の底からここが嫌だとかだったら特に止めないわ。

だけど迷惑をかけたからなんて馬鹿な理由だったら絶対に許さないわよ」

「で、でも、68号は」

「社長は社員の行動に責任を持つ!迷惑かけたりかけられたりは当たり前!

それが私達便利屋68よ!そうでしょ!!みんな!!」


 そのアルの問いかけにムツキもカヨコもハルカも力強く頷く。

68号は思わず顔を上げ、その瞳から洗浄液がポロポロとこぼれ落ちていた。



「という訳でこの話はなかったことに。これからもいい取引していきましょう?」

「ぐぬぅーーっ!!なんたるアリスとの絆!でも諦めたくないーーっ!暴力的手段に出たいーーーっ!」

「社長!!今手持ちの戦力では手厳しいかと!あの兵器を出さないと…」

「ていうかなんでそっちの便利屋?とだけで話してるのよ!69号は私達のとこの子よ!!」


 結局大騒ぎになり三つ巴になったからかさらに店内が混沌とする。

もうどうしようもないかな、と呆れるしかなかったカヨコではあったが、ふとハルカの姿が見えないことに気がついた。


「……まさか」

「アリスちゃんと私達を引き裂こうとするなんて……許せない」




 ゲヘナ自治区の人通りの多い通り沿いにあるビル。

妙な看板がたくさん置いてあるその店舗は、突如として爆発と光が溢れ吹き飛んだのであった。




「…委員長、便利屋68がゲヘナ自治区でテロを起こしたようです」

「……そう、数は?」

「ええと、目撃情報によると量産型アリスを含めた6人全員のようです」

「わかった、私自身が行く、72号も付いてきなさい」

「え、あ、は、はい!!」



【後半に続く】

https://telegra.ph/68%E3%81%A869%E6%99%82%E3%80%85123%E3%81%A83070-%E5%BE%8C%E7%B7%A8-12-24

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