2スレ112触手姦経由の純愛ユママコ(序)2/2
まだ完成してません! 加筆修正するかもです。BL・純愛になる予定・純愛だけどリョナ凌辱前提・触手姦描写・その内セッッッするけどこの段階だと愛撫メインですhttps://telegra.ph/2スレ112触手姦経由の純愛ユママコ序12-10-24
これの続きです
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「それで、何故か離れた触手のお陰で事なきを得たんだ?」
大凡1時間後、白湯を啜りながらマコトは今までの経緯を総括した。
赤いソファにちょこんと腰掛けたマコトは毛布に包まっている。顔色は然程悪くない。
その眼前では、ユーマがしゅんとしながら項垂れている。
「特に何も出来なくてごめんなさい……」
「そもそも、不法侵入の段階でどうかと思うけど……」
マコトは視線を自分の身体に移した。あの後、触手から距離を取り、マコトの介抱をしたのはユーマである。
「身体を清めてくれたのはありがとう……掃除もね」
それに関しては素直に礼を言うべきだろうと判断したマコトに、ユーマは「それぐらいしか出来なかったし」と唸った。
家を見て回りシャワー室を発見したユーマは、マコトと、ついでに自分の身体を洗った。家の中から探し当てた衣服をマコトに着せ(自分も拝借し)、ドライヤーで髪を乾かした後は寝室に寝かせておいた。
そこからは自分の切り傷の処置もそこそこに、ユーマは部屋の掃除に勤しんでいた。ずぶ濡れで歩き回ったので部屋も相応に水浸しになったのだ。
あらかた拭き終わり風呂の水をどうしようか……このとろみはそのまま流しても大丈夫なのか? そんな事をユーマが悩んでいた所でマコトが起床。
毛布を引き摺りながら、浴槽の前で困惑するオリジナルを目にしたマコトはため息をついた。状況的に、自分の痴態が確実に晒された事が確定的になったからだ。頭痛を感じつつも「塩を入れると、サラサラになるから、入れて混ぜてそのまま放置してくれ」とユーマに指示を出せただけ、マコト冷静だと言えた。
すっかり冷めた湯船に塩を投下した後は、情報を擦り合わせを行いつつ今に至る。
話の合間合間に「体調は大丈夫か」「身体は冷えてないか」「冷蔵庫にコーヒーしかなかったからせめて白湯を飲んでほしい」などと世話を焼いてくるユーマを制しつつ、マコトは一先ずユーマ視点での事の成り行きを把握した。
「そもそもキミ、記憶は戻ったって聞いたけど?」
「……大体は。全部ではないし、ナンバー1であった自分と、今の自分はあまり結び付かないから、完全にナンバー1に戻ったとも言い難いけどね。——代わりに、大切な約束は覚えていられた。それだけでもう、十分なんだ」
「この約束は忘れたくないから。だから、ボクはユーマ=ココヘッドだよ」とはにかんだオリジナルに、マコトは「ふーん」と返した。引っかかりが無いとも言えないが、思ったよりはどうでもよかったのだ。
記憶の連続性を自己とするなら、マコトが直接目にする前に、ナンバー1は死んだという事になるのだろうか。その辺りの折り合いは、あの少女の神の件も含め、彼自身がもう決着を付けているだろう——仮に迷いがあったとしても、マコトの知る所では無い。
ただ、てっきり今生の別れをしたとばかり思っていた相手に自身が世話を焼かれているというのは、どこか奇妙である。
(まあ、ナンバー1だと言い切れる相手に施されるよりはいいか……)
複雑ではあるが、マコトはそう自身に言い聞かせて白湯を啜った。あの自慰用の奇怪なペットについては、カナイ区の娯楽用に考案されたプロトタイプで、持ち帰ったら襲われた云々で押し切ろう。人格の割合がユーマ寄りならいけるだろう……ある種現実逃避的な楽観を持って、マコトはユーマへの言い訳を考え始めた。死んだ目で白湯を啜って胃を温めるマコトを見やりながら、ユーマはユーマで覚悟を決めているとも知らずに。
「それで、あなたが統一政府の管轄下にあった時から嬲られていたあの触手だけど……」
「え」
マコトが白湯を溢さなかったのは奇跡である。
「なんのこと」
「あなたが何回もお腹を破られて、死と再生を繰り返しながらされた実験の補助兵装に似ているあの生物についての事だけど」
こめかみを抑えながら「なんで知ってるんだ」とマコトは尋ねた。
「ボクもさっき思い出したんだけど、カナイ区に訪れる前に、逃走したホムンクルスのデータとして研究施設のアーカイブを押収していて——」
あの実験以外の映像も目にしているという自白だった。
気不味くなりつつも、ユーマはマコトから視線を逸らさなかった。結果としてマコトが羞恥からじわじわと赤面していくのを見届けることになる。
マコトはキレていた。
「ころす」
いっそ憤死しそうなマコトを御すのには1時間かかった。
「話を続けるけど……あの触手はどういうことなの? 研究施設内の個体は処分された筈なんだけど」
ユーマは、二階から未だ降りて来ない触手に注意を配りながら尋ねた。
ナンバー1時の記憶が頼りであるなら、証拠隠滅を計ろうとした施設職員によって、件の触手は殺処分されていた筈だ。押収した証拠品の中には、その死骸もあった。
「アマテラス社が再現した別個体だ。最も劣化コピーだったようだけどな」
未だ自身を犯した怪物が自宅に存在するにも関わらず、マコトは肘枕で欠伸をしながらそう答えた。相変わらず毛布には包まっているので、より緊張味の薄い印象を見る者に与える。
自分が死なないにしても、ここまで平然とできるのは何か対処を知っているからだろうか。
「随分平気そうだけど、その劣化コピーが再度襲ってくるとは思わないの?」
「それはない。キミ、ボクを助けようとした時に、手を切っただろ」
ユーマの傷に指を差しながら、マコトは続ける。
「アレらは、ホムンクルスの運用の為にあんな粗野な機能で開発された。ここまではいいかい?」
青い顔でこくりと頷くユーマを尻目に、マコトも二階を見上げた。見慣れた触手を幻視し、少しだけ身体が疼く。
「万が一に人間に向かっていったら困るだろ? ホムンクルスの給餌と捕食が最優先される生態に加えて、人間の体液で死亡するようになっているのさ……キミも、身を持って体感したんじゃないか?」
あれだけ接近しても、ユーマに対して触手がほぼアクションを取らなかったのは設計意図に沿った行動であった訳だ。
「言っておくけど、あの程度では死なない。戦場にいるのは人間の方が多いわけだろ? あまり過敏だと使い難いだろうからね。少なくとも、正規の個体はキミのあの程度の流血で飛び退くような挙動は見せない筈だけど……」
「劣化コピーはその調整が不十分だった」
「その通り。そこにキミは救われたってことだな」
自分は勘定に入れてない物言いでケラケラ笑うマコトを前に、ユーマはひとり胸が痛くなった。知り尽くした生態。アマテラス社産の個体の詳細を知る言動。ユーマを拒む時に口にしていた「ボクが望んだ」という叫び。当たって欲しくないが、大筋は外れていないであろう推測を前に、ユーマは黙す。そんな中でもマコトによる解説は続く。
「仮に人間を襲って、そのまま続けるような個体に対しての致死量も設定されていたようだけど……触手の体内に直接体液を注入でもしなければ、死に至ることはまずないだろうね——アレは、キミの血液が怖くて逃げ出したってワケ。キミがここにいる以上、アレが降りてくることはない。安心していいよ」
「それってつまり、あなただけだったら、あの触手になす術なく犯されるってことじゃないか……」
悲痛な顔をするユーマに、マコトは鼻白らむ思いで「だったら?」と溢した。
「キミならもう、予測はついてる筈だ。ボクがわざと好きにされてたってこと——アレはボクが自慰用に処分しないでおいた個体でね。ボク、アレがないと性処理もできないんだ。施設内でそれはもう沢山、酷い目に遭ったからさ。……流石に『自慰を禁ずる』なんてプライベートの侵害を極めたような事をキミ言われたくはないんだけど? それでも何か言いたい事があるのかい?」
「……」
ユーマは押し黙った。おまえにこれを否定する権限はない。放っておけ。そういう事を言いたいのだろうと頭を働かせるまでもなく理解できたからだ。
(それでも)
ヘラヘラと、しかし挑発的に笑うマコトを見下ろすユーマの脳裏に、記録された死の数々が蘇る。
頭を潰される。四肢を捥がれる。上半身と下半身が分つことも、右半身と左半身が分つこともあった。どの段階で再生するか確認する為に、謂れなき凌遅刑に課される——そういう長々と続く死刑の先にあったものの一つが、あの凌辱だった。
別に、あれだけではない。
例えば、ホムンクルスに生殖機能はあるのか。例えば、慰安用を兼ねる事は可能なのか。例えば、完成された個体への調教は死を超過して持ち越せるのか。例えば、例えば、例えば。
記録されたものであるならまだ確認できるだけマシで、記録に残すほどでもないと判断された惨劇だってあっただろう。
それらを全て含めた時、彼の死は、尊厳の破壊は、どれほどの数に膨らむのだろう。
その延長で、彼は自分を処刑している。あの触手が劣化コピーだとしても、マコトは現に死にかけていた。それを平然と受け止めている——恐らく、いや確実に何度も繰り返している。
(だってこれを、こんなものを、彼は自慰と呼んだ)
健全に生きていくのであれば、睡眠や食事に並ばずとも、大凡必要であると言えるものに分類した。
「……ボクがカナイ区にいる時も同じような事を?」
「渦中で最中自慰に耽るほどボクは淫猥じゃないな。もしかして、キミの想像上のボクは、こんなこと毎日やってることになってるのかい。ボクも人の事をとやかく言えないが、キミも大概変態だったりする?」
小馬鹿にしたような目で挑発するマコトを、ユーマは真剣に見つめ続けた。観念したのはマコトの方で、目を逸らしながら「死ぬ可能性もあるからね……精々二日休めるようなタイミングで、引き継ぎまでしっかりしてやってるよ」と続けた。
「ボクのプライベートの話を聞けて満足?」
自虐の込められた投げやりな言葉は威嚇だ。眼前のもうひとりの自分とも言える相手は、これ以上の踏み込みを拒もうとしている。
(それではだめだ。このままだと、あなたは何度でも死に続けてしまう)
どうすれば、彼に自殺紛いの自慰を辞めさせられるか。別に自慰自体を辞めさせたい訳ではない。性欲は人体の基本的な欲求の一つだ。それを禁ずることはできない。
せめて、あの触手を使わせないようにできれば……代替になるようなものはないのか?
顎に手をやり考えはじめたユーマを、マコトは苛立ちながら眺めていた。どうせ綺麗事を考えているのだ。
マコトは少し身を起こして、下からユーマを覗き込むと、彼とカチリと目が合った。
それにユーマは少しびっくりしたように後退する。短い間とは言え考え込んでいたところを接近したから、単に驚いたのだろうとあたりをつけたマコトは、特に気にすることなく早々に帰してしまおうと捲し立てた。
「そろそろ帰ってくれないか? 介抱自体は感謝してる。服はそのまま貸すし、キミの濡れた服はちゃんとクリーニングして——」
「マコトさん」
目が合った時、マコトには知る由もないが、ユーマは奇策を思い付いていた。マコトと目があった……というより、マコトの目に映った自分を発見して思い付いた奇策。
後退りしてしまったのは、思い付いてしまった自分に動揺したからだ。倫理的にはかなり危ういと言える。それでも、マコトが死に続けるよりは俄然マシではある。名前を呼んだ時、覚悟は決めた。
怪訝そうな顔のもう一人の自分へ、ユーマは口を開く。
「……マコトさんは、性処理の為に触手を利用してるんだよね。それって、他に手段があればその必要はない……そうだよね?」
身も蓋もない言い方になるが、彼の発言としてはそのようになる。代わりがないから仕方なく使っていると。「まぁ……そうだな」と眉間に皺を寄せているマコトに「だったら」とユーマは畳みかける。
「ボクが代わりになれないかな?」
「は?」
マコトでも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするんだなというユーマの所感を前に、次にやってきたのは蛇蝎でも見たかのような視線だ。
「キミのナルシズムに付き合わされる身にもなってくれ。そもそも、ナンバー1に、特殊性癖の類がある記憶はないんだが。新しく目覚めでもしたのか? お笑い草だな」
腕を広げた大袈裟な身振りと嘲笑は、予期していた反応。だからユーマは努めて冷静に「非効率的だと思わないか」と呟いた。
「いちいち死を前提とする性処理。あなたはアマテラス社の最高責任者にして、カナイ区のリーダーになったんだろ。非常事態に動けない現状の対応は、本当にあなたの望むところなのか?」
「……」
痛い所を突かれた。この問題はマコトだって気付いている。その上でどうにもならなかったから続けているのだ。正直、この行為は性欲だけで成立した訳ではないが、マコトは口を噤んだ。
自傷行為と刑罰も兼ねてます……なんてユーマに言っても火に油を注ぐだけだからだ。
「ボクだって代替になる手段があるならそっちを選んださ」
「だったら」
「そもそも、ボクはあの怪物に犯され尽くしてるんだぞ。今更人間に愛撫されても感じるとは思えないな」
今度はユーマが口を噤む番だ。ユーマは桃色遊戯を制する色遊びの真髄を極めた人間という訳ではない。はなから人外に挑める土台はないと言えた。
「なら、こんな条件はどう? あなたはいつでも見限っていい。あの触手をどうするかはあなたの自由だ。ただ、ボクで満足できている間は、ボクを選び続けて欲しい」
ソファから見上げていたマコトに屈んで目線を合わせながら、ユーマは提案した。
「しばらくはカナイ区周辺に滞在しながら依頼を熟すから、月に数度、あなたの時間が欲しい」
ダメかな、なんて眉を下げるオリジナルが、マコトには理解できなかった。
死神の書と契約する前から自分の痴態を把握していたクズ。上から憐んでくる傲慢。現実に対して甘いアホ。テロリスト容疑者(概ね実行犯)になった時はもう笑うしかなかった。例えカナイ区を託されたとしても、マコトはこんな奴嫌いだと処理する。
そんな嫌いな奴が、部屋を踏み入って、どうにか自分を助けようとした。
混濁した意識の中で、手を握られた感触を知っている——これは夢かもしれないけれど。
どうせ、失敗することはわかっている。
「いいよ」
戯れにマコトがそう答えたのは、終わりを見届ける程度の情が芽生えていたからだ。どうせ無駄になる徒労に指を指して嗤う為に。今更消費しても何も感じない自分を使うことにしたのだ。
「そんなに自信があるなら、受けてみようじゃないか」
まさか承諾するとは思ってもみなかった——というような顔をしているオリジナルの腕を、マコトは思いっきり引っ張った。
伴って毛布がソファに広がり、反動で倒れ込んだマコトを受け止める。引き込まれたユーマはソファに乗り込む形になった。丁度、マコトを組み敷く形で。
「マコトさん……?」
「ほら、今実践してみせてくれよ。やれるならね——多少時間は経ったけど、まだ柔らかいと思うよ? お腹の中、いっぱい解されたからさ。一回ぐらいはイかせてボクの信頼を勝ち取ってみせろよ」
「……」
「だけど……対峙した時は呼び捨てだったのに、いつの間にか呼び方が戻ってるようなお人好しに、触手みたいにボクを虐めることなんて出来るのかな?」
照明の逆光でマコトからユーマの表情は窺い辛くなる。翻ってユーマからは、自分を引き込んだ少年がよく見えた。
「出来るのかな? キミなんかに?」
変声機を隔てない声音と、剥き出しの素顔で再生されるいつか聞いた挑発は、あの時ほど脅威に感じない。
それはきっと、ユーマが今しがた組み敷く形になった彼が、人の枠を超えた快楽と暴力の前にどうなるか既に知っているからだ。
(それに、マコトさんは隠しているつもりだけど……)
不敵であれかしとマコトが形作った笑顔は、一見すれば挑発的に見えただろう。眉間に寄った皺は、機嫌の悪さに起因するものでも、好戦的な態度によるものでもない。
怖いのだ。
恐怖を押し留める為の武装が、結果的に不敵な笑みのように見えている——見せている。
(それをわかっていて、ボクは今からあなたの傷に触れ、塩を塗りたくり……その未来を手繰る)
ユーマはその虚勢を理解した上で、しっかりとマコトを見据えた。この行為が人道に沿ったものではなく、推奨されないことは知っている。どちらかといえば、悪辣な新興宗教団体の手口だ。
それでもあんな死を黙認するよりはずっといい。
「わかった——はじめるよ」
そんな一言と共に、ユーマはマコトの服に手をかけた。マコトの微かな震えを無視して。
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結果的にどうなったかといえば。
「なんでなんでなんで……」
「えっと……ほら、その前に触手にぐちゃぐちゃにされてたし」
マコトは惨敗した。
経緯としては以下の通りだ。
「いきなりセックスはな……」と判断したユーマはストレートにマコトのペニスを扱いた。以上。
正確には部屋着を寛げてマコトの腹を撫でたりもしたが、そこはホムンクルス。ユーマの肉体と相違ないどころか同一と言っても差し支えない。毎日シャワーで見ているな……という情緒もへったくれもない感想を抱いた。
取り敢えず下手に小細工せず、一旦は普通に性器を責めるかと、自分のものとほぼ変わらないものを握るに至る。
ほぼほぼ最短でペニスに手を出したユーマに、マコトは嘆息した。
(アナルに手を出す勇気はないんだ)
ボク、こんなに切ないのにな〜〜これだから素人はな〜〜と、ユーマを馬鹿にしていた。
最初は。
何故かマコトのペニスが勃起し始めたのである。当たり前だがカウパーも滲む。
自分ではいくら試しても至れなかった絶頂に、早足で追いやられようとしている現実に、マコトは困惑した。
「イッちゃ……、なんで……?」
「……? 普通に気持ちよさそうだね。もうちょっとちゃんと扱いてみようか」
目を白黒させているマコトに「試されてるのかなぁ」と思ったユーマは自分にやるより若干早めに扱く扱く。ここで満足させられないようではセフレの話は水の泡だ。
勃起し射精寸前まで行く頃には、マコトは毛布で顔を覆って喘ぎを殺すのに必死になっていた。ここで漸くユーマは「あれ、普通に感じてるぞ……?」と気付く。マコトの自認と実態が異なるのかもしれない。そんな淡い希望を抱いた。
しかし、そこからの粘りは長く、張り詰めたまま中々絶頂しない。
(やっぱり、ボクは触手でしか絶頂できないんだ……)
マコトもちょっとは期待したのだ。他に手段があるのかもしれないと。しかし既に何度か通過した絶望は、奇妙な納得と安心があった。
よかった。ユーマはもう踏み込めない。ボクの勝ちだ。そんな諦観の中でも、マコトは与えられる快感自体は悪く思わなかった。
(つめたくない)
自分の身体を行ったり来たりしている手のひらは、当然ながら人間が持ち得る体温を有している。刺胞動物にはない温かみは、どうにも微睡みを誘発した。
仄暗い絶望と柔らかい微睡みの間に、絶頂間際の快感が与えられ続けている状況。声はどうにか殺せているが、それもいつまで続くかわからない。
涎をなんとか飲み下しながら、マコトは毛布の隙間からユーマを覗いた。
真剣な顔でマグロの相手に愛撫しているのは、何処かコミカルだ。手だって怪我したと言うのにご苦労な事である。
(ばかなやつ)
嘲笑うというにはふわふわとした笑みはすぐに毛布の中に隠れてしまう。
阻まれた視線の先では、マコトが既知の絶望を味わっている事を知らずに、ユーマが試行錯誤を開始していた。
(普通に感じていると思うけど……あと一歩足りないのか?)
扱く速さを変えてみる。玉責め。亀頭責め——ひんひん鳴くが絶頂には至らない。
中断していた小細工を再開する。臍を舐めてみる。蹴られそうになった。乳首を弄ってみる。物足りなそうだった。身体中を優しく摩ってみる。指の包帯をくすぐったそうにしていた。
口付けてみる?
「……」
ユーマが無言で毛布を捲ってみると、特に抵抗なく“自分”の顔が現れる。辛うじて泣いていないだけの、涙をいっぱいに溜めた目がぼんやりと見返してきた。耳まで色付いているのは、少なからずこの行為の影響を受けているからだろう。
「……やめろ」
近付いた顔に、ユーマが許可を取る前に気付いたのだろう。覚束ない指で、マコトはユーマの顔を拒んだ。
「キミが築こうとしてる関係はセフレなんだろ……こういうのは恋人としてくれないか」
「それはそうかも」
唇をむにむにされながら、ユーマは引き下がった。現状、キスしたからと言ってマコトが確実に絶頂する訳ではない。
大人しく身を引いていくユーマに「もう十分かな」と諦めたマコトが持ち掛ける。
「ねえ、もう諦める気はないか? いい加減理解しただろ……ボクの性感は壊れてるって」
「でも、感じてはいるよね。だったら、絶頂の可能性はゼロじゃないと思うんだけど」
マコトに半目で睨まれながら、ユーマは推理をはじめる。触手にあって自分にはない……尚且つ自分が再現出来そうなアクション。
(そうは言っても、粗方やり尽くしてるよな……)
正確にはアナルへの接触はまだなのだが、ユーマに詳細な知識はない。無計画に触れるべきではないだろうと除外している。スキンの手持ちもないし。ローションはもっとない。
そうなると比較的ソフト寄りな愛撫がメインとなってくるが——結果は出ている。
「ん゛ん……いいかげん、やめて……よ。も……いい……いいだ、ろ」
諦めを促す声は、途切れ途切れでどうにも甘い。掠れた声で喘ぐマコトの性感は、常人よりやや感じやすいのではないかという所感すら与える。
しかし、絶頂には至れない。
「やだよ、もうくるし……から。とめ」
ついには涙声になってきてしまった。反射的に「ごめん」とユーマは手を離してしまう。弱々しい蹴りがユーマの腹に食らわされるが、そもそも腰が抜けているので、効果は薄い。
蹴りの姿勢から転がりうつ伏せに転じたマコトは、もそもそとユーマの下から離脱を計った。涙目で一言「きらい」と呟く。
そして万策尽きたユーマを退けて、ソファから降りようと片腕を伸ばし、足を床につけようとしたところで——失敗した。
「あ」
それはどちらの声だったのか。声帯が同じだからわからない。
ごん、といったような派手な音はしない。失敗したと言っても腕は床につけていたし、そもそもカーペットの敷いてある場所だ。やや強めに片膝を床にぶつけた程度。それでも重傷どころか軽症にもならないダメージ。
だから、ユーマが安否を尋ねようとしたのは、心からの心配というより確認作業のようなものだった。その認識は外れ、ユーマが安否を尋ねるより先に、マコトの異変が起こる。
「あ゛、い゛……ひ」
ソファにもたれるように突っ伏し、小刻みに震えだす。縮こまるような動作に合わせて、ぎゅうっと毛布がたわみ……脱力する。
「マコトさん」
何か感じ取ったユーマは、力の抜けたマコトを引き上げ抱き抱えた。ちょうど横抱きするような形でユーマが見下ろしたマコトは「なんで」と譫言を溢している。
(射精してる)
萎えた性器と、先端に絡む白濁は言い逃れのしようがない。
「どうして今頃になって……」
「しら、ないよ゛!」
半ギレのマコトを観察しながら、ユーマはある事実に行き着いた。ユーマが行った愛撫ではなく、先程の落下にあった要素。
(痛み……なんじゃないか?)
「マコトさん。ちょっとわかったかもしれない」
「なにが……い゛」
胡乱げな顔をしていたマコトの肩口に噛み付きながら、ユーマは再度彼のペニスを扱きだした。
「なんで?!!? なんで噛……いった! ……ひっ」
混乱しながらも、快感自体は拾えていそうなマコトの反応を受けて、少しユーマは安心した。
「これは憶測なんだけど……マコトさんの絶頂って、痛みと結びついてるのかなって。ごめんね、ちょっと試してみるね」
噛みついた跡を舐めながら、ユーマはそんな死刑宣告をした。マコトからすればたまったものではない。
「はぁ? も、ムリだ……! もうでない!」
絶叫に近い抗議は事実に基づくものだった。既にマコトは触手に襲われているのだ。残弾はもうない。そんなことはユーマも察している。
「……マコトさん、空イキできるよね」
「知ってるよボク」と続けられた言葉にマコトは絶望した。
完全に腰が抜けるまで、マコトは2回空イキした。
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「触手とか関係なくキミが悪いんだけど?! ボクやめてって言ったよね!!」
「ちょっと確認したいことがあって……」
「一回で済ませろなんのための頭脳なんだ」
腕の中でブチギレるマコトを御しながら、ユーマはわかった事を反芻していた。
マコトを2回空イキさせてわかった絶頂の条件はふたつ。愛撫の直後に痛みを与えるか——愛撫の直前に痛みを与えるか。
「マコトさん。あなたの絶頂の条件なんだけどね」
そこから情報共有すれば、先程までのキレ具合は鳴りを潜め、マコトの顔が紅潮していく。よく見ると少しピンクっぽい彩色なのは、巡る血の色が由来なのだろうか。
「な……え、は……?」
「あなたは『痛い』と『気持ちいい』の両方の要素がないと、イけないってことだね」
わなわなと震えて唖然とするマコトはどことなく可愛げがある。今日だけでも、彼の正体がわからなかった時には到底見ることができなかった表情をいっぱいユーマは見た気がした。
(色々終わって気が抜けてるのもあるかもしれないけど……ボクをおちょくってた時も案外仮面の下で表情を変えてたりして)
見えなかっただけなのかもしれない。あの時のユーマはとめどなく泣いて、訳もわからず翻弄されていた。
でもそれは、彼だって大差がなかったのかもしれない。能力と立ち回りで弱音を見せなかっただけで、人知れず仮面の内側では……仮に表情として出力されなくても、内心がぐちゃぐちゃだったであろうことは最期の謎迷宮で対峙した時に知っている。
そう思い至ってしまえば、途端に腕の中の生き物に愛おしさのようなものを覚える。
(もうひとりのボク……である筈なんだけどな)
「やめろ。憐れむような目で見るな」
ユーマはマコトの頭でも撫でたくなったが、マコトからすればそんなユーマの視線は不快だったらしい。赤面しつつもむすくれた顔でユーマを睨み付ける。
最も、行為の最中を思えば怖くもなんともない。
1回目に肩に噛み付いた後にイかせた時も。2回目に散々手コキしてから乳輪に噛み付いてイかせた時にも。本気と言うには甘やかな「やだ」という声も。縋る先を探していたから、自分の服に誘導すれば戸惑いがちに握っていた指も。ユーマは全部知っている。
「こんなの何かの間違いだ……ボクがキミにそんな簡単にイかされるなんて……」
(2回目の時、乳首を口に含もうとしたらあなたから押し付けてきたの、知ってるんだよ)
わざわざ指摘しないが、知ってることは色々ある。最後の方は普通に喘いでたよね、とか。
「そもそもキミ、セックスしてないじゃないか! 勃ってすらいない! ボクが無茶苦茶になっただけ!」
「愛撫だって性交渉ひとつだろ。それにいきなり自分に勃起するのはムリかな」
「理屈はわかるが腹立つな……!」
マコトも自身の勃起に関しては、直接性器に愛撫されたのが最大要因だと思っている。自分と同じ顔に欲情するのは難しいだろう。だから何かの間違いで勃ったら笑ってやるぐらいの動機も込みで持ち掛けたが、それ以前の問題だった。挿入されたらボクの方が勝てるし。経験豊富だし。相手はろくでもないけど。
「日を改めて証明してみせるからな……! ボクは負けない……」
ユーマの方を指差しながら宣言するマコトに「じゃあ、セフレの話は受けてくれるんだね?」とユーマは笑いかける。
不本意そうに頷くマコトをくつくつと笑いながら、ユーマはもうひとつお願いをした。
「次にする時は、不定期にちょっと痛い事をするから『痛いから助けて』って言って欲しいんだ」
「なんでわざわざそんな事しなきゃいけないの。変な趣味でもあるの」
ユーマに頬を軽くつねられ若干引き気味にマコトは尋ねた。
「それを基準にいっぱい気持ちよくできるよう頑張ってみるから。イける要因を少しでも多くするね。あとは……」
「あとは?」
「あなたが『助けて』って、ちゃんと言えるようになったらいいなって」
今し方つねった頬を撫でながら、そんな事を言うオリジナルの傲慢さに、マコトのボルテージが上昇する。
「いでっ」
「余計なお世話なんだよ」
裏拳をまともに腹に食らってくの字に折れるオリジナルの旋毛を指で押しながら、馬鹿な奴と毒付いた。
(こんな事されてもボクを抱えて落とさないし)
本当に馬鹿な奴。
密着するのは悪く感じなかったから、マコトはそのまま暫くユーマの髪で遊んだ。
そんなことが半年前にあったのだ。
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