黒腔を抜けて

黒腔を抜けて


これまでのお話

前にあたるお話:黒腔にて



「——そろそろや! アタシが鬼道で拘束する! だから一護は全力で行け! ——雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此これを六に別つ——」

「ああ——!」


 黒腔から抜けた先、現世の偽りの空座町。——藍染惣右介。


 ——後ろや!!

「『六杖光牢』ッ!!」

 撫子による六杖光牢が展開されると同時に、一護は斬魄刀を振り抜いた。だが。

「!」

 防がれている。しかし好機。撫子は即座に藍染の頭上へと移動する。

「——久し振りだね……旅禍の少年。そして——」

 藍染の頭をかち割らんと撫子が振り下ろした刃は、藍染の鬼道の盾に阻まれ届かない。

「撫子」

「ッくそ!」

「……良い斬撃だが場所が良くない。首の後ろは生物の最大の死角だよ。そんな場所に何の防御も施さず戦いに臨むと思うかい? 撫子は防がれた一撃を直ぐ様目眩ましにして攻勢に移る機転は良いが、少し足りなかったね」

「勝手に品評しなや、ボケ」

 藍染を一時拘束していた六杖光牢はバキリと音を立てて崩れた。

「……何を考えているか当ててみせようか。初撃の判断を誤った、今の一撃は虚化して撃つべきだった、虚化して撃てば一撃で決められた——撃ってご覧。その考えが、思い上がりだと教えよう」

 一護が虚化し、月牙天衝が放たれる。

「どうした、届いていないぞ」

 一護が距離を取る隙に撫子が放った鬼道は容易く避けられる。

「……何故そう間合いを取る? 確実に当てたいならば近付いて撃つべきだ。それとも、近付くことで私の一部でも視界から外れることが怖ろしいか?」

「随分とお喋りや、なッ!!」

 撫子が斬り掛かるも斬魄刀で容易く受け止められ、地面に向けて弾き飛ばされる。

「撫子!」

「余所見とは余裕なことだ」

 落ちるスピードは緩むことなく、撫子は瓦礫に激突した。




**




「っげほ、けほっ」

 墜落した先で起き上がり、辺りを見回すと、見慣れた家族の姿があった。その背中に向かって駆けたその先に。

「ひよ里姉……!」

 瀕死の姉貴分が倒れていた。まだ息があるのが不思議なほどだった。


「撫子サン、無事でよかったデス」

「ハッチ……」

 よく見れば鬼道を得意とする家族も片手が消えていた。

 泣き言が出そうになったのを堪える。冷静にならなければ。

「……ハッチ、今、こっちに卯ノ花さんも向かっとる。やから——」

 それまでひよ里姉のこと、よろしく。

 それだけ伝えて撫子は地を蹴った。一護と、その前に立つ者たちのもとへ。




**



 一護と合流した撫子は家族たちと再会することになる。

「オカン……リサ姉……ラブ……ローズ……」

 ——いっぱい、心配かけてもた。


「なあ、アタシ、」

「なんや撫子。ボロボロやないの」

 エロいな。と言うリサに思わず反射的に反論する。

「リサ姉! これそういうのちゃうから! 瞬閧のアレやから!」

「どうしたんだよその服」

「元々着とったのはダメになってしもたんや」

「趣味が良いとは言えないね」

「せやろ、アタシもそう思うわ」

 家族がいつも通りに接してくれている。それだけで撫子は胸が温かくなる。

「っわ」

 くしゃくしゃと髪をかき混ぜられる。母の手だ。その手の暖かさに涙が出そうになる。自分は家族のもとに戻ってこれたのだ。

「……よう戻ってきた!」

「……うん!」

「説教は後にしたるからオマエは一護に付いとき。リサ、ローズ、ラブ、行くで」

 撫子は遠ざかる家族たちの背中を見送る。平子に言われた通り、一護の近くで警戒を始めた。



次にあたるお話:


Report Page