▷鳥のオモチャ
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ドレスローザにあるコリーダコロシアムは、本日の試合が終了したというのに、変わらず熱気に包まれていた。
今日の試合を熱弁する者達、はしゃぐ子供、スターに駆け寄るファンなどが、夕焼けに染まるコロシアムを包んでいた。
その様子を遠目に見ながら、1人の女が歩いていた。
女は、買い物帰りにわざわざ遠回りをしてこの光景を眺めているのだが、誰かの出待ちをしているわけではなかった。いつの間にか身についていたこの癖は、そう簡単には治らず、健康の為には歩くことも悪くないと思っていた。
そして、遠くから見ているからこそ、コロシアムの隅で落ち込んでいるオモチャに気が付いた。
「そこの小鳥さん、大丈夫かしら? 」
女はそっと近づき声を掛けながら観察した。それは鳥のオモチャで、背中のゼンマイを回せば素敵な声で鳴くのだろうと予測できた。
声を掛けられたオモチャは真ん丸の瞳で女を見つめれば、バサバサと何かを訴えるように口を開けて暴れるが何も聞こえず、女は首を傾げるだけであった。
「喋れないタイプのオモチャなのかしら」
「……ッ、いや! 喋れる、喋れるんだが……! 」
「あら、喋れたの。ふふ、素敵な声ね」
「ありがとう、きみにまた褒めてもらえて嬉しいよ」
「”また”……? 」
「……やっぱり、忘れてしまったのか……!! 」
女は、鳥のオモチャの言葉に疑問符を浮かべたまま、どこか出会ったことがあるだろうかと記憶を探るも思い当たらず、代わりにあることに気付いた。
「ねえ、小鳥さん
もしかして、翼を怪我しているんじゃないかしら」
「……わかるのかい? 」
「ええ。だって、ぎこちないですもの」
「よくわかったね
実は、なおしたくても自分じゃどうにもできなくて」
「あら、それは大変
応急処置で良ければ、やってあげましょうか? 」
「いいのかい? 」
「もちろん」
女は嬉しそうな声色のオモチャに微笑みを返し、共に家に向かった。
『怪我をしているのは手で、足じゃない! 歩ける! 』と訴えるオモチャを無視して女は鳥のオモチャを抱き抱えれば、鳥のオモチャは嬉しような恥ずかしいような表情をしてから、大人しく運ばれていった。
家に着けば玄関に置きっぱにしたままの救急箱から包帯を取り出し、曲がってしまっている翼を真っ直ぐに固定していく。
「これは応急処置だから
あとでちゃんとした人に見てもらうのよ」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして」
お礼を言われ、女は少し上機嫌になりながら広げた救急箱の中身をしまっていく。女ひとりにしては大きめの救急箱に包帯や絆創膏、塗り薬を綺麗にしまっていく。
綺麗に整った中身を見て、更に上機嫌になった女は、最近踊る回数の増えた流行歌のステップを踏む。コツ、コツと軽やかにヒールを鳴らし、目に見えて上機嫌を表す。
すると、ゼンマイを回していないのに、鳥のオモチャが合わせて歌を口ずさんだ。呆気にとられている女を一瞥すれば、表情豊かに鳥は誘う。
「きみのステップは素敵だ、まるで恋のリズムさ
……一曲、踊っていただけないか? 」
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▽▽あとがき
オモチャにされるのって男性だけじゃね? って思って、急いでこっちのルートを書きました。
貧乏性なので、両方残します。好きな方で楽しんでね:)♡
▶ テディベア