【閲覧注意】助けてくれたフローゼルとボクなら負けない・後編

【閲覧注意】助けてくれたフローゼルとボクなら負けない・後編

オーガポンの面影を宿せ


 前編の続きです






「ボクは……こんなやつに負けたくないっ!
 だから、力を貸して……フローゼル!」

「フルルッ、フルゥゥゥ!」


 ボクは、フローゼルをくりだした!


「フローゼルちゅあん……出てきやがったかぁ
 まずは上下関係をわからせてやるねぇ」


 ガキだいしょうは汚い目線でフローゼルを見る。
 まずは、きれいにしてやろうか!

「フローゼル、“ハイドロポンプ”っ!」
「フルッ」

 フローゼルはエレキブルにしっぽを向けて、くるくる回転させる。
 回転する尾の中心で、大きな水の弾ができていく。

「はぁっ!? “ハイドロポンプ”!?」
「そんなの使うなんてきいてな―――」

「撃てぇー!!」
「フルッフゥゥゥー!!」

 高圧力の水撃がエレキブルに命中する。
 エレキブルは少し仰け反るが、あまり効いていなさそうだ。


「……ッ! おい、お前もいいかげん出せっ!」
「はっ、はいっす! ブーバーンさーん!」
「ブゥーバァーンッ!」

 取り巻きがブーバーンを出してきたっ!?
 しまった、相性有利とはいえ2対1では……。


「これはポケモンバトルじゃねぇんだ……!
 そう、これは『いじめ』……!
 最初っからこれで良かったんだよなぁ!!」
「ブーバーンさん、“がんせきふうじ”っす!」
「ブゥ……バァァァ……!」

 ブーバーンの腕先に、巨大な石の塊が生成される。

「フローゼルっ! “アクアジェット”で避けてっ!」
「フルルゥ!」

 フローゼルは水流のレールをつくり、縦横無尽に泳ぎ回る。
 この動きなら簡単には当たらないはず……。

「こうきてこうきて……ブーバーンさん、左にドーンっす!」
「バァーンッ!」

 ブーバーンの砲撃は放物線を描き……フローゼルの眼前に大岩が落ちる。
 立ち止まったフローゼルに対し、間髪入れず落ちてきた大岩が退路を塞ぐ。

「フルッ!?」
「今っすよ!」
「おう……ぶっ放せ、“でんじほう”!」
「エェェェレェェェ……」

 “でんじほう”!? 覚えさせるのが大変な、SSR級の技じゃないかっ!
 当たったら勝敗が決まる、でも、避けられない……。




 そのとき、ボクの隣を何かが横切った。




「ブルゥゥゥゥゥゥ!」

「ピカチュウっ! 受けなさい!」
「チューアッ!」




 エレキブルの放った電気の弾を、ピカチュウが尾の先で受ける。
 電気の弾はピカチュウに吸収され、かき消された。


 その主は、見るもの目を引くミニスカートだった。


「……アンタさぁ、コイツのこと『赤ちゃん』って呼ぶわよね?」
「お前が呼び始めたからな、乗っかってやったんだ」


 ガキだいしょうがそう返すと、一瞥して。


「アンタ、赤ちゃんをいじめるのが趣味なんだ
 とんだクズよね」
「……っ!?」

 ふと、どこからともなく、おぼっちゃまとサーナイトが現れる。
 おそらく“テレポート”だろう。

「すまん、遅れた」
「みんなっ……!」
「さぁ、3対2よ これでも降参しない?」

 ミニスカートは、拳で手のひらを撃つ。


「いや、オレは戦わない」

「えっ?」

 そういって、おぼっちゃまは歩いていき……審判席の前に立つ。

「オレはこの試合を『ポケモンバトル』として公平に審判する
 だから……勝てよ」
「ちょっと、なに言って」
「……ありがとう、そこで見てて」


 ボクは、おぼっちゃまにお礼を言う。

 ボクは、ボクの正義を証明したい。
 アイツの言う『現実』よりも、ボク達の『絆』のほうが強いと。
 そのためには、いじめでもケンカでもなく、『バトル』であるべきだ。

 おぼっちゃまは、ボクの意思を汲んでくれたんだ。


「……もとより、勝手に付き合うつもりよ」
「お礼は勝ってからするよ」

「チューピッ!」
「フルルッ!」

 大岩を砕き、フローゼルとピカチュウは相手に立ち向かう。
 エレキブルとブーバーンも、こちらを睨みつけている。


「エレキブルっ! “10まんボルト”!」
「ブーバーンさん! “がんせきふうじ”で塞ぐっす!」

 エレキブルが放つ電撃がフローゼルへ目掛けて走る。ピカチュウが受けようと目を向けたが、ブーバーンの射線はピカチュウの進路に向いている。

「フローゼルっ! “アクアジェット”で避けて!」
「ピカチュウ! ブーバーンへ“でんこうせっか”! ラン!」

 フローゼルとピカチュウは別れ、その間に大岩が落とされる。
 戦況は「フローゼル対エレキブル」「ピカチュウ対ブーバーン」という構造になった。

「当たりゃあ勝つんだよなァ……! “10まんボルト”!」
「エレェェェブルゥゥゥ!」

「ブーバーンさん、“かえんほうしゃ”で焼くっすよ!」
「ブゥゥゥバァーン!」

 ガキだいしょうは、エレキブルに電撃を放たせ、容易に近づけさせない。
 取り巻きは、ブーバーンに火炎を放たせピカチュウを追い立てる。

 一見すると雑な戦略だが、その実、ブーバーンが戦況をつくっている。

 ピカチュウがエレキブルに近づけば、その隙にフローゼルでブーバーンを倒しに行ける。だからこそ、ブーバーンはピカチュウの進路を断ち、エレキブルへ行かせないようにしているのだ。
 逆に、フローゼルをブーバーンの方へ行かせて先に倒したいけど……その隙にエレキブルがフローゼルを撃てば、本末転倒になる。

「ッ……アンタさぁ、取り巻きするにしても
 もっと良い男いたんじゃあない!?」
「へへへっ、でも真理だと思うんすよねぇ
 『強いポケモンを使うほうが強い』
 だったら、強いポケモンが集まるほうにつくっす!」


 この戦況を変えられるのは、ピカチュウだけだ。

 だけど、ピカチュウを助ける方法がボクには思いつかない。
 “ウェーブタックル”“アクアジェット”“ハイドロポンプ”……この3つじゃ……。

 3つ……あと、1つ……。

 考えろ、あと1つの技を。

 フローゼルは、ボクに教えてくれているはずだ。信じるんだ。


 ―――ほら! 出てる出てる! “みずでっぽう”!―――

 ―――ションベンのほうが威力あるだろ―――


 ―――あばばばばば! ゼルルー!―――

 ―――ふぅ、制服びちゃびちゃだよぉー―――


 ―――へぇ、夜の“みずでっぽう”は上手なんだぁ―――

 ―――あれれー、それってもしかして―――


「―――ッ! フローゼルっ!」

「ッ! ……フルッ!」

 ボクの目をみて、フローゼルは頷いた。
 ボクは、勝機につながる最後の切り札をめくった。


「フローゼル……! “みずびたし”っ!」
「フゥルルルゥゥゥ!」

「はぁ? なんだその技ァ……?」
「えっ、あ……あっ、あぁぁぁー!」


 放物線を描いて放たれた水は、エレキブルの頭上に命中する。
 決して威力を持った攻撃技ではない、だが……エレキブルは水浸しになった。

 “みずびたし”。相手に大量の水をかけ、その本来の調子を奪う技だ。

(「ほら! 出てる出てる! “みずでっぽう”!」)
(「ションベンのほうが威力あるだろ」)

 ゼルルは……この技を使おうとしていたんだ。
 それを、ボクの先入観で『水タイプのポケモンだから“みずでっぽう”』と思い込み、その特訓をさせてしまった。だから、“みずでっぽう”を普通より早く習得してしまったんだ。

(「それってもしかして“みずびたし”じゃないの?」)
(「ブゥイッ!」)

 あのときゼルルが反応したのは、“みずびたし”という言葉を知っていたからだ。
 それは、母親から最初に教わった、“遺伝”した技だから。

 それはつまり……フローゼルが今も覚えている技だという意味だ。


「そんな事して何の意味があるってんだ!」
「あの~……それがですね、親分……」


「あらあら、ずいぶん電気が一貫するフィールドになったわね……」


 水浸しにされたポケモンは、電気の技が弱点となるっ!


「ピカチュウっ! ターゲットチェンジ、エレキブルっ!」
「あっ、ブーバーン追うっす!」

「フローゼルっ、ブーバーンに“アクアジェット”、ダッシュ!」
「させるかァ! エレキブル、撃てっ!」


「ブゥゥゥ……」
「フルルゥ!」

 ピカチュウを追おうとするブーバーンの視線に、水流のレースを突っ走るフローゼルの姿が見え、ブーバーンはたじろいだ。

「エェーレェーブゥル!」
「チュチュチュチュッ、チュッチュア!」

 フローゼルの背を狙った“でんじほう”は、またしてもピカチュウの電力に吸われていく。


「ピカチュウ、“エレキボール”!シュート!」
「フローゼル、“ウェーブタックル”、ゴォォォー!」


「チュチュチュチュ、ピッカァ!」
「フルルルッ、フルゥ!」


 フローゼルの水流を纏った突進がブーバーンに激突する。
 ブーバーンは波に飲まれ、意識を失った。

 ピカチュウの電気の弾は高速で放たれ、水浸しエレキブルは感電する。
 そして電撃が納まったところで……。


「エレッキッ……!」

「まだ立つの……!?」
「エレキブルっ!いいから殴れっ! 殴り倒せっ!」

 エレキブルは、全身にオーラを纏い、身構える。


「フローゼル、“アクアジェット”!」
「フルルッ!」


 それは、別に勝ち筋として必要ではなかった。

 だけど、どうしても自分の手で決着をつけたかった。


 だって、ボクはトレーナーで……。




 フローゼルの、夫だから!




「ウェーブ、タックルっ!」
「フルルゥ、ルゥッ!」

「ブルルゥッ!」


 フローゼルの“ウェーブタックル”と、エレキブルの“ギガインパクト”が激突する。
 あまりの衝撃に土埃が舞い、様子を伺うことができない。


 やがて土埃が晴れたとき……。


 両者、共に立っていた。


「……はっ、ははは……はははははは!
 エレキブル! “10まんボルト”だァ! ねじ伏せろ!」




「エレキブル、戦闘不能」




「はっ? なに言ってんだぁ、よく見ろ!」

「オマエがよく見ろ……立ったまま気絶してんだよ」


 ガキだいしょうが間違えるのもわかる。

 その姿は、まだボク達に闘志を放っていて……。


 どこか、悲しげだった。


「はっ……俺の……負け……?」
「そうなるな」

「なんっ、でっ……俺のポケモンのほうが、強かった……!」
「そうだな 9分9厘、オマエが勝つ闘いだった」

「じゃあなんでっ!?」


 おぼっちゃまは、ガキだいしょうに向き睨む。

「『強いポケモンを使うほうが強い』
 そんな単純な世界なら、オレ達はもっと単純な存在だった
 だが現実は違う 強さにも方向性や多様性がある」

「っ……!」

「そのポケモンの『強さ』を知り、それを引き出す事
 それがトレーナーの仕事で、使命
 オマエには、それができなかった」

 ボクは、それが証明したかった。

 ポケモンともっと話し合えば、いや人とも話し合えば、ガキだいしょうが勝ってるほうが普通の戦いだった。
 だけど、その話し合いを否定した彼を、ボクは許せなかったんだ。

「そして、オレはもうひとつ言いたい」

 そう言っておぼっちゃまは、今度はボクの方に向き直り。




「ごめんなさい」


 ボクに、謝った。




「えっ……」

「オレは、オマエがバカにされているのを見て……
 『当然の評価だ』と思っていた
 オマエは弱いやつだと決めつけていた……!」
「いやっ、それは……」
「オレはオマエから『強くなる方法』を学んだ
 オレはもう決めつけない……
 強くなりたいやつを、応援したいっ!」


 その様子を見てか、ミニスカートもこちらを向いて。


「……私もっ、あなたを『赤ちゃん』と呼ぶことで
 強くなった気がした……強くなれる気がした……
 実際は逆だった あなたが強くなって、私は弱いまま」
「っ……」
「私はあなたの成長を……認めようとしなかった
 だから……ごめんなさいっ!」


 そんな……2人から謝られるなんて……。


「なんだよっ! 急になんだってんだよっ!」

 ガキだいしょうが狼狽する。

「皆でいじめてたじゃん! 皆でバカにしてたじゃん!
 なんで急にハシゴを外すんだよっ!
 俺は、俺も、俺だって……うわぁぁぁあああ!!」


 ガキだいしょうは、ボールを落として逃げていった……。


「……代表面する権利もないが、アイツも成長できると思うんだ
 だから、その……」

 そういうおぼっちゃまに、ボクは返す。


「いいよ、だって……ボク怒ってないもん」

「「は???」」


「……ボクが弱かったのは本当だもん
 ポケモンに指示も出せない『赤ちゃん』だって言われたら
 その通りだったし」

「いやっ、そう思う事と、言っていい事はだなっ?」

「それに、ボクが強くなれたのは、2人に認めてもらいたかったから
 そして2人の協力があったから
 皆には、感謝しかしてないよ」

 ボクがそう返すと、おぼっちゃまもミニスカートも照れ臭そうにする。

 ふと、フローゼルやピカチュウ、サーナイトもボクへ歩み寄る。

「ふふっ、忘れてないよ
 なによりいっしょに戦ってくれた……ポケモン達
 キミ達も含めて、皆、大好きだよ」

 ピカチュウは、照れ臭そうに頬を押さえる。

 サーナイトはスカートの裾を掴んでカーテシーする。

 そしてフローゼルは……。


「フルッ!」
「わわっ!……ふふっ」


 ボクを抱きしめてくれたのだった。




「……へへっ、あのー……」

 あっ。取り残された取り巻きだ。

「オマエらもさぁ、強いやつにすがるのも社会の生き方だと思うが
 最後にモノをいうのは自分の強さなんだぞ」
「へぇい……」
「アンタ、作戦立てるのは強いんだから
 そのアタマ真っ当に使いなさいよねっ!」
「申し訳ありません……」


 ……まぁ、ボク自身、フローゼルを奪われるって思ってカッとなった部分はあれど。

 今日という日は、ボクの成長を象徴する日でもある気がした。

 ガキだいしょうがもしまた突っかかって来ても、また正々堂々戦う。

 そして、ボク達の『絆』を見せつけてやる。


「……なんか、長い1日になったね」
「まったくよ 今日はもうお開きにしましょー」
「うむ 後始末は明日でいいだろ」

 そう言って、ボク等は各々の家へ帰った。




 だけど……。




 ボクの1日は、もう少しだけ続くのだった。




 つづく?





Report Page